「コルンムーメ」の版間の差分
(同じ利用者による、間の10版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
− | '''コルンムーメ''' | + | '''コルンムーメ'''(Kornmöhme)は、ドイツに伝わる穀物の精霊である。 |
− | ==概要== | + | == 概要 == |
− | + | オオムギやコムギ、ライムギが成長し、穂が出るころになると、風が吹くようになる。農民は、この風をコルンムーメ(麦ばあさん)と呼び、麦が育つのを見守り、受粉を助けるべく風を送っていると考え、みだりに畑に入るのを控えた。コルンムーメはコルンムッター(麦の母親)とも、またホレばあさん(ホレおばさん)とも呼ばれる。ゲルマンの民間信仰では、ホレばあさんがベッドを直すため、羽布団を叩いた時の、こぼれた羽が雪になるのだといわれる。ムギが育って熟れるころになると、大人たちは子供に、畑には、'''灰色の髪に赤い目'''のコルンムーメがいて<ref group="私注">「赤い目」とは太陽を連想させる。</ref>、子供たちをさらって食べてしまうと警告する。子供たちが勝手に畑に入って、麦を荒らすのを防ぐためである。また、畑にコルンムーメの子のコルンキントがいることもある。'''コルンキントもまた人間の子供をさらって行く'''。しかし、コルンムーメは、元々は穀物を守る精霊である。一説にはウォーダン(オーディン)の妻フレイア<!-- [[フレイヤ]]? [[フリッグ]]? -->であるとも考えられている。地域によっては、風がムギ畑を渡る様はヒツジの群れに例えられたり、「風の天使」と呼ばれたりもする。 | |
− | + | また、ドイツとポーランドにまたがるポメラニア地方の、ドイツ側のポンメルン州では、'''6本の足'''を持つライ麦オオカミがいるため<ref group="私注">6とは当然「雪」と関連する数字と思われる。</ref>、子供は畑に入ることを戒められる。穀物の精霊は動物になるともいわれ、オオカミは特にそう考えられた。真夏の暑い時期、農作業をしている農民が暑さにやられて倒れたりすると、「ライ麦オオカミに噛みつかれる」と表現される。 | |
<ref name=ab>植田重雄 『ヨーロッパの祭と伝承』 講談社学術文庫、1999年、256-262頁。</ref><ref>[http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Desert/2213/books.html#holle 魔女街道の本]</ref><ref>[http://www.din.or.jp/~a_ohno/Pommern/150_information.htm information]</ref> | <ref name=ab>植田重雄 『ヨーロッパの祭と伝承』 講談社学術文庫、1999年、256-262頁。</ref><ref>[http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Desert/2213/books.html#holle 魔女街道の本]</ref><ref>[http://www.din.or.jp/~a_ohno/Pommern/150_information.htm information]</ref> | ||
− | |||
− | ==豊穣祈願のコルンムーメ== | + | == 豊穣祈願のコルンムーメ == |
− | + | ムギの刈り入れの際には、まず穀物の精霊に捧げるために、'''3束もしくは穂を3つ刈り取る'''<ref group="私注">[[三足烏]]との関連は?</ref>。それを大地の上に十字に置く。17世紀頃までは、ウォーダンにこの初穂を捧げたといわれる。また、麦刈りの作業中に、地主や管理人がやって来ると、その人の腕にワラの束を結び付けて、首に花輪を掛け、その日のご馳走をねだる。刈り入れが終わると、豊穣を願って、残してあった麦束でコルンムーメを作り、服を着せて立たせておく。最後にこれも刈り取って、収穫祭に同席させ、解体する。地域によっては、オオカミや[[ネコ]]、[[ヤギ]]の形にする。また、麦じいさんという、ヒゲをはやした老人の形にすることもある。これは、ウォーダンを模したものである<ref name=ab/>。 | |
− | == | + | == 私的考察 == |
− | + | コルンムーメは名前の子音構成がギリシア神話のペルセポネーに似るように思う。ゲルマン神話のヘラは、ペルセポネーと同様「冥界女神」であるので、同一視されたのであろうか。 | |
==関連項目== | ==関連項目== | ||
− | *[[ホレのおばさん]] | + | * [[ホレのおばさん]] |
+ | * [[サラマー]]:インド神話の犬神の母神。名前の子音構成がコルンムーメに似る。 | ||
+ | * [[マーナガルム]]:北欧神話の日月を食べる狼神の母狼、あるいは月を食べる狼神。おそらくコルンムーメと同起源の女神であろう。 | ||
+ | |||
+ | == 私的注釈 == | ||
+ | <references group="私注" /> | ||
+ | |||
+ | == 参照 == | ||
{{デフォルトソート:こるんむうめ}} | {{デフォルトソート:こるんむうめ}} | ||
− | [[Category: | + | [[Category:ゲルマン神話]] |
− | [[Category: | + | [[Category:天候神]] |
[[Category:農耕神]] | [[Category:農耕神]] | ||
− | [[Category: | + | [[Category:風神]] |
+ | [[Category:犬]] | ||
+ | [[Category:狼]] | ||
+ | [[Category:猫]] | ||
+ | [[Category:山羊]] | ||
+ | [[Category:ウルシェム]] | ||
+ | [[Category:取り替え子]] |
2023年1月16日 (月) 07:54時点における最新版
コルンムーメ(Kornmöhme)は、ドイツに伝わる穀物の精霊である。
概要[編集]
オオムギやコムギ、ライムギが成長し、穂が出るころになると、風が吹くようになる。農民は、この風をコルンムーメ(麦ばあさん)と呼び、麦が育つのを見守り、受粉を助けるべく風を送っていると考え、みだりに畑に入るのを控えた。コルンムーメはコルンムッター(麦の母親)とも、またホレばあさん(ホレおばさん)とも呼ばれる。ゲルマンの民間信仰では、ホレばあさんがベッドを直すため、羽布団を叩いた時の、こぼれた羽が雪になるのだといわれる。ムギが育って熟れるころになると、大人たちは子供に、畑には、灰色の髪に赤い目のコルンムーメがいて[私注 1]、子供たちをさらって食べてしまうと警告する。子供たちが勝手に畑に入って、麦を荒らすのを防ぐためである。また、畑にコルンムーメの子のコルンキントがいることもある。コルンキントもまた人間の子供をさらって行く。しかし、コルンムーメは、元々は穀物を守る精霊である。一説にはウォーダン(オーディン)の妻フレイアであるとも考えられている。地域によっては、風がムギ畑を渡る様はヒツジの群れに例えられたり、「風の天使」と呼ばれたりもする。
また、ドイツとポーランドにまたがるポメラニア地方の、ドイツ側のポンメルン州では、6本の足を持つライ麦オオカミがいるため[私注 2]、子供は畑に入ることを戒められる。穀物の精霊は動物になるともいわれ、オオカミは特にそう考えられた。真夏の暑い時期、農作業をしている農民が暑さにやられて倒れたりすると、「ライ麦オオカミに噛みつかれる」と表現される。 [1][2][3]
豊穣祈願のコルンムーメ[編集]
ムギの刈り入れの際には、まず穀物の精霊に捧げるために、3束もしくは穂を3つ刈り取る[私注 3]。それを大地の上に十字に置く。17世紀頃までは、ウォーダンにこの初穂を捧げたといわれる。また、麦刈りの作業中に、地主や管理人がやって来ると、その人の腕にワラの束を結び付けて、首に花輪を掛け、その日のご馳走をねだる。刈り入れが終わると、豊穣を願って、残してあった麦束でコルンムーメを作り、服を着せて立たせておく。最後にこれも刈り取って、収穫祭に同席させ、解体する。地域によっては、オオカミやネコ、ヤギの形にする。また、麦じいさんという、ヒゲをはやした老人の形にすることもある。これは、ウォーダンを模したものである[1]。
私的考察[編集]
コルンムーメは名前の子音構成がギリシア神話のペルセポネーに似るように思う。ゲルマン神話のヘラは、ペルセポネーと同様「冥界女神」であるので、同一視されたのであろうか。
関連項目[編集]
- ホレのおばさん
- サラマー:インド神話の犬神の母神。名前の子音構成がコルンムーメに似る。
- マーナガルム:北欧神話の日月を食べる狼神の母狼、あるいは月を食べる狼神。おそらくコルンムーメと同起源の女神であろう。