「ヤナギ」の版間の差分

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葉は互生、まれに対生。托葉を持ち、葉柄は短い。葉身は単葉で線形、披針形、卵形など変化が多い。
 
葉は互生、まれに対生。托葉を持ち、葉柄は短い。葉身は単葉で線形、披針形、卵形など変化が多い。
  
雌雄異株で、花は尾状[[花序]]、つまり、小さい花が集まった穂になり、枯れるときには花序全体がぽろりと落ちる。ただし、外見的には雄花の花序も雌花の花序もさほど変わらない。雄花は雄しべが数本、雌花は雌しべがあるだけで、花弁はない。代わりに小さい苞や腺体というものがあり、これらに綿毛を生じて、穂全体が綿毛に包まれたように見えるものが多い。すべて[[虫媒花]](ただし[[ケショウヤナギ]]属をヤナギ属に含める場合はこの限りではない)。
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雌雄異株で、花は尾状花序、つまり、小さい花が集まった穂になり、枯れるときには花序全体がぽろりと落ちる。ただし、外見的には雄花の花序も雌花の花序もさほど変わらない。雄花は雄しべが数本、雌花は雌しべがあるだけで、花弁はない。代わりに小さい苞や腺体というものがあり、これらに綿毛を生じて、穂全体が綿毛に包まれたように見えるものが多い。すべて虫媒花(ただしケショウヤナギ属をヤナギ属に含める場合はこの限りではない)。
  
 
冬芽は1枚のカバーのような鱗片に包まれ、これがすっぽりと取れたり、片方に割れ目を生じてはずれたりする特徴がある。これは、本来は2枚の鱗片であったものが融合したものと考えられる。
 
冬芽は1枚のカバーのような鱗片に包まれ、これがすっぽりと取れたり、片方に割れ目を生じてはずれたりする特徴がある。これは、本来は2枚の鱗片であったものが融合したものと考えられる。
  
[[果実]]は蒴果で、種子は小さく柳絮(りゅうじょ)と呼ばれ、綿毛を持っており風に乗って散布される。なお、中国において5月頃の風物詩となっており、古くから漢詩等によく詠み込まれる[[柳絮]]だが、日本には目立つほど綿毛を形成しない種が多い。しかし、日本においても意図的に移入された大陸品種の柳があり、柳絮を飛ばす様子を見ることができる。特に北海道において移入種のヤナギが多く、柳絮の舞う様が見られる。
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果実は蒴果で、種子は小さく柳絮(りゅうじょ)と呼ばれ、綿毛を持っており風に乗って散布される。なお、中国において'''5月頃の風物詩'''となっており、古くから漢詩等によく詠み込まれる柳絮だが、日本には目立つほど綿毛を形成しない種が多い。しかし、日本においても意図的に移入された大陸品種の柳があり、柳絮を飛ばす様子を見ることができる。特に北海道において移入種のヤナギが多く、柳絮の舞う様が見られる。
  
主に[[温帯]]に生育し、寒帯にもある。高山や[[ツンドラ]]では、ごく背の低い、地を這うような樹木となる。日本では水辺に生育する種が多いが、山地に生育するものも少なくない。
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主に温帯に生育し、寒帯にもある。高山やツンドラでは、ごく背の低い、地を這うような樹木となる。日本では水辺に生育する種が多いが、山地に生育するものも少なくない。
  
 
== 表記 ==
 
== 表記 ==
ヤナギの漢字表記には「柳」と「楊」があるが、枝が垂れ下がる種類(シダレヤナギやウンリュウヤナギなど)には「柳」、枝が立ち上がる種類(ネコヤナギやイヌコリヤナギなど)には「楊」の字を当てる<ref name="ken0229">{{Cite web
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ヤナギの漢字表記には「'''柳'''」と「'''楊'''」があるが、枝が垂れ下がる種類(シダレヤナギやウンリュウヤナギなど)には「柳」、枝が立ち上がる種類(ネコヤナギやイヌコリヤナギなど)には「楊」の字を当てる<ref name="ken0229">http://miyakanken.co.jp/modules/p04/index.php?content_id=9, https://web.archive.org/web/20160308020608/miyakanken.co.jp/modules/p04/index.php?content_id=9, ネコヤナギ(猫柳), 株式会社宮城環境保全研究所, 2016-2-29, archivedate:2016-3-8, deadlinkdat:2020年1月28日</ref>。これらは万葉集でも区別されている<ref>ken0229</ref>。
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== 神話等 ==
| title = ネコヤナギ(猫柳)
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* メソポタミア神話:世界樹の一種である「フルップの木」は柳であろう、と言われている。イナンナ女神がこの木を自分の庭園に植えて育て、木から自らのベッドと玉座を作った。ギルガメシュ(あるいはシャマシュ)がこの木に宿る大蛇を倒した、とされる。
| publisher = 株式会社宮城環境保全研究所
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* 中国神話:[[相柳]]。中国神話の祟り神的龍女神。頭が9つある。共工の部下的存在。啓に倒される。
| accessdate = 2016-2-29
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* 朝鮮神話:[[朱蒙]]の母の名を柳花夫人という。
| archivedate = 2016-3-8
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* 日本神話:[[伊邪那岐命]]の語源はヤナグ(柳の古語)ではないか、と管理人は個人的に思う。
| deadlinkdate = 2020年1月28日
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}}</ref>。これらは[[万葉集]]でも区別されている{{R|ken0229}}
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=== 文化 ===
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* 空海が中国を訪れていた時代には、長安では旅立つ人に柳の枝を折って手渡し送る習慣があった。この文化は、漢詩などにも広く詠まれ、王維の有名な送別詩「元二の安西に使するを送る」においても背景になっている。「客舎青青 柳色新たなり」の句について、勝部孝三は、「柳」と「留」(どちらも音はリウ)が通じることから、柳の枝を環にしたものを渡すことが、当時中国において、旅人への餞の慣習であったと解説している。「還」と「環」(どちらも音はホワン)が通じて、また帰ってくることを願う意味が込められているわけである<ref>勝部孝三『桃源詩話』国文社, 1987年11月25日初版, pp.21‐22</ref>。
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* 歯磨き用の歯木として用いられた。多くの種が歯木として使用されたが、中国や日本では楊柳(カワヤナギ)の枝から作ったことから、楊枝(ようじ)と呼ばれた。そこから歯を掃除するための爪楊枝や、歯ブラシとしての房楊枝となった。
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* 柳は解熱鎮痛薬として古くから用いられてきた歴史がある。シュメール時代の粘土板には疼痛の薬として記述され、エジプト人はヤナギの葉から作られたポーションを痛み止めとして使用した<ref>http://www.nobelprizes.com/nobel/medicine/aspirin.html|title=An aspirin a day keeps the doctor at bay: The world's first blockbuster drug is a hundred years old this week, ノーベル財団, 2021-11-19</ref>。日本でも「柳で作った楊枝を使うと歯がうずかない」と言われ沈痛作用について伝承されていた。19世紀には生理活性物質のサリシンが柳から分離され、より薬効が高いサリチル酸を得る方法が発見されている。その後アスピリンも合成された。現在では、サリシンは体内でサリチル酸に代謝される<ref>Biosynthesis and metabolism of β-d-salicin: A novel molecule that exerts biological function in humans and plants, Biotechnology Reports, volume4, 2014, pmid:28626665, doi:10.1016/j.btre.2014.08.005|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5466123/</ref>ことがわかっている。また、葉には多量のビタミンCが含まれている。
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* 植栽木として、川や池の周りに植えられた実績があり、先人が考えた水害防止対策といえる。これは柳が湿潤を好み、強靭なしかもよく張った根を持つこと、また倒れて埋没しても再び発芽してくる逞しい生命力に注目したことによる。時代劇に出てくるお堀端の「しだれ柳」の楚々とした風情は、怪談ばなしに、つきものとなった。
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* 古く奈良時代以前から'''奈伎良'''(ナギラ)とも呼ばれた。
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* 柳の枝を生糸で編んで作った箱を柳筥(やないばこ)と言い神道では'''重要な神具'''である。柳筥に神鏡を納めたり、また柳筥に短冊を乗せたりもするもので、奈良時代から皇室や神社で使用され続けている<ref>神社本庁『神社有職故実』1951年7月15日発行全129頁中24頁</ref>。
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* 花札では1月の絵柄として、「柳に小野道風」、「'''柳に燕'''<ref>これは本来は「初夏」のイメージの図である。</ref>」、「柳に短冊」、カス(鬼札)が描かれる。
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=== 柳女 ===
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'''柳女'''(やなぎおんな)は、江戸時代の奇談集『絵本百物語』にあるヤナギの怪異。
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画図ではヤナギの木の下に、子供を抱いた女の姿が描かれている。解説文によれば風の激しい日に、子供を抱いた女がヤナギの木の下を通ったところ、女の首にヤナギの枝が巻きついて死んでしまい、その女の一念がヤナギの木に留まり、夜な夜な現れ「口おしや、恨めしの柳や」と泣くという<ref name="多田編1997_42">多田編1997年、42頁。</ref><ref group="私注">これはヤナギと[[人身御供]]の関連が示唆される伝承であると思う。ヤナギを治水工事で使用していれば、それは治水に関する[[人身御供]]でもあったのかもしれない、と思う。ヤナギに対する人身御供は「吊すもの」と考えられていたかもしえない、と管理人は思う。</ref>。
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『絵本百物語』以外にも、ヤナギと女にまつわる話として、宝暦時代の『祇園女御九重錦』や文政時代の『三十三間堂棟木由来』などの浄瑠璃に、ヤナギの精が人間の女性に化けて人と契る話があり、民間信仰にもヤナギにまつわる俗信は多い<ref name="多田編1997">多田編1997年、133-134頁。</ref>。『絵本百物語』本文においては、'''ヤナギが女に例えられる'''ことや、ヤナギが女に化ける話は、'''宋の士捷(ししょう)という者がヤナギに食われて死んだ'''ことが由来とされており、勇猛なイメージを持つマツに対して、ヤナギは優しい姿のために女の姿をとるのだという<ref name="多田編1997_42" />。
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また、ヤナギそのものが霊の宿る木と考えられ、ヤナギの枝が風になびく様子が幽霊の手の動作と同じように見え、風に揺れるヤナギの古木の枝に頬を撫でられたり傘を取られたりすることがヤナギの精の仕業と恐れられたことを「柳女」の由来とする説もあり、同様にヤナギのイメージから生まれたと考えられている『絵本百物語』の妖怪に「[[柳婆]]」がある。また怪談や民間伝承において「柳女」と同じく死んだ女の霊が子供を抱いて現れる妖怪に「[[産女]]」がある<ref>岩井宏實, 暮しの中の妖怪たち, 2000, 河出書房新社, 河出文庫, isbn:978-4309473963, pages118-119</ref>
  
 
== ヤナギの種類 ==
 
== ヤナギの種類 ==
日本では、ヤナギといえば、[[街路樹]]、[[公園樹]]の[[シダレヤナギ]]が代表的であるが、[[生け花]]では幹がくねったウンリュウヤナギや冬芽から顔を出す花穂が銀白色の毛で目立つ[[ネコヤナギ]]がよく知られている。柳の葉といえば一般的にシダレヤナギの細長いものが連想されるが、円形ないし卵円形の葉を持つ種もある。[[マルバヤナギ]](アカメヤナギ)がその代表で、野生で普通に[[里山]]にあり、都市部の[[公園]]にも紛れ込んでいる。
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日本では、ヤナギといえば、街路樹、公園樹のシダレヤナギが代表的であるが、生け花では幹がくねったウンリュウヤナギや冬芽から顔を出す花穂が銀白色の毛で目立つネコヤナギがよく知られている。柳の葉といえば一般的にシダレヤナギの細長いものが連想されるが、円形ないし卵円形の葉を持つ種もある。マルバヤナギ(アカメヤナギ)がその代表で、野生で普通に里山にあり、都市部の公園にも紛れ込んでいる。
  
 
実際には、一般の人々が考えるよりヤナギの種類は多く、しかも身近に分布しているものである。やや自然の残った河原であれば、必ず何等かのヤナギが生育し、山地や高原にも生育する種がある。それらはネコヤナギやシダレヤナギとは一見とても異なった姿をしており、結構な大木になるものもある。さらには高山やツンドラでは、地を這うような草より小さいヤナギも存在するが、綿毛状の花穂や綿毛をもつ種子などの特徴は共通している。
 
実際には、一般の人々が考えるよりヤナギの種類は多く、しかも身近に分布しているものである。やや自然の残った河原であれば、必ず何等かのヤナギが生育し、山地や高原にも生育する種がある。それらはネコヤナギやシダレヤナギとは一見とても異なった姿をしており、結構な大木になるものもある。さらには高山やツンドラでは、地を這うような草より小さいヤナギも存在するが、綿毛状の花穂や綿毛をもつ種子などの特徴は共通している。
  
ただし、その[[同定]]は極めて困難である。日本には30種を軽く越えるヤナギ属の種がある。これらは全て雌雄異株である。花が春に咲き、その後で葉が伸びて来るもの、葉と花が同時に生じるもの、展葉後に開花するものがある。同定のためには雄花の特徴、雌花の特徴、葉の特徴を知る必要がある。しかも、自然界でも雑種が簡単にできるらしいのである。
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ただし、その同定は極めて困難である。日本には30種を軽く越えるヤナギ属の種がある。これらは全て雌雄異株である。花が春に咲き、その後で葉が伸びて来るもの、葉と花が同時に生じるもの、展葉後に開花するものがある。同定のためには雄花の特徴、雌花の特徴、葉の特徴を知る必要がある。しかも、自然界でも雑種が簡単にできるらしいのである。
  
 
== 植生 ==
 
== 植生 ==
ヤナギは水分の多い土壌を好み、よく川岸や湿地などに、生えている。自然状態の[[河川敷]]では、[[河畔林]]として大規模に生育していることがある。これは出水時に上流の河川敷から[[流木]]化したものが下流で堆積し、自然の[[茎伏せ]]の状態で一斉に生育するためである。 
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ヤナギは水分の多い土壌を好み、よく'''川岸や湿地などに、生えている'''。自然状態の河川敷では、河畔林として大規模に生育していることがある。これは出水時に上流の河川敷から流木化したものが下流で堆積し、自然の茎伏せの状態で一斉に生育するためである。 
  
川の[[侵食]]を防ぐため川岸に植林される。オーストラリア南部でも入植時に護岸目的で植林されたが、侵略的[[外来種]]({{ill2|国家的に深刻な雑草|en|Weeds of National Significance}})として認定され、在来の樹木への置き換えが進んでいる<ref>[https://pir.sa.gov.au/biosecurity/weeds_and_pest_animals/weeds_in_sa/weeds_of_national_significance_wons Weeds of National Significance (WoNS)] 南オーストラリア政府</ref>。繁殖力もさることながら、川の流れを阻害したり、秋には葉を大量に落とし、葉が分解されることで水質を悪化させ環境を激変させることが、オーストラリア政府の関心をひいている。
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'''川の侵食を防ぐため川岸に植林される'''。オーストラリア南部でも入植時に護岸目的で植林されたが、侵略的外来種(国家的に深刻な雑草(Weeds of National Significance))として認定され、在来の樹木への置き換えが進んでいる<ref>[https://pir.sa.gov.au/biosecurity/weeds_and_pest_animals/weeds_in_sa/weeds_of_national_significance_wons Weeds of National Significance (WoNS)] 南オーストラリア政府</ref>。繁殖力もさることながら、川の流れを阻害したり、秋には葉を大量に落とし、葉が分解されることで水質を悪化させ環境を激変させることが、オーストラリア政府の関心をひいている。
  
 
== 人の利用 ==
 
== 人の利用 ==
=== 文化 ===
 
* [[空海]]が中国を訪れていた時代には、[[長安]]では旅立つ人に柳の枝を折って手渡し送る習慣があった。この文化は、漢詩などにも広く詠まれ、[[王維]]の有名な送別詩「元二の安西に使するを送る」においても背景になっている。「客舎青青 柳色新たなり」の句について、勝部孝三は、「柳」と「留」(どちらも音はリウ)が通じることから、柳の枝を環にしたものを渡すことが、当時中国において、旅人への餞の慣習であったと解説している。「還」と「環」(どちらも音はホワン)が通じて、また帰ってくることを願う意味が込められているわけである<ref>勝部孝三『桃源詩話』国文社, 1987年11月25日初版, pp.21‐22</ref>。
 
* [[歯磨き]]用の[[歯木]]として用いられた。多くの種が歯木として使用されたが、中国や日本では楊柳([[カワヤナギ]])の枝から作ったことから、楊枝(ようじ)と呼ばれた。そこから歯を掃除するための爪楊枝や、[[歯ブラシ]]としての房楊枝となった。
 
* 柳は[[非ステロイド性抗炎症薬|解熱鎮痛薬]]として古くから用いられてきた歴史がある。[[シュメール]]時代の粘土板には[[疼痛]]の薬として記述され、エジプト人はヤナギの葉から作られたポーションを痛み止めとして使用した<ref>{{cite web|url=http://www.nobelprizes.com/nobel/medicine/aspirin.html|title=An aspirin a day keeps the doctor at bay: The world's first blockbuster drug is a hundred years old this week|publisher=[[ノーベル財団]] |access-date=2021-11-19}}</ref>。日本でも「柳で作った楊枝を使うと歯がうずかない」と言われ沈痛作用について伝承されていた。19世紀には[[生理活性物質]]の[[サリシン]]が柳から分離され、より薬効が高い[[サリチル酸]]を得る方法が発見されている。その後[[アスピリン]]も合成された。現在では、サリシンは体内でサリチル酸に[[代謝]]される<ref>{{cite journal|title=Biosynthesis and metabolism of β-d-salicin: A novel molecule that exerts biological function in humans and plants|journal=Biotechnology Reports|volume=4|year=2014|pmid=28626665|doi=10.1016/j.btre.2014.08.005|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5466123/}}</ref>ことがわかっている。また、葉には多量の[[ビタミンC]]が含まれている。
 
* 植栽木として、川や池の周りに植えられた実績があり、先人が考えた[[水害]]防止対策といえる。これは柳が湿潤を好み、強靭なしかもよく張った根を持つこと、また倒れて埋没しても再び発芽してくる逞しい生命力に注目したことによる。[[時代劇]]に出てくるお堀端の「しだれ柳」の楚々とした風情は、[[怪談]]ばなしに、つきものとなった。
 
* 古く奈良時代以前から奈伎良(ナギラ)とも呼ばれた。
 
* 柳の枝を生糸で編んで作った箱を柳筥(やないばこ)と言い[[神道]]では重要な[[神具]]である。柳筥に[[神鏡]]を納めたり、また柳筥に[[短冊]]を乗せたりもするもので、奈良時代から皇室や神社で使用され続けている<ref>神社本庁『神社有職故実』1951年7月15日発行全129頁中24頁</ref>。
 
* [[花札]]では[[旧暦11月|11月]]の絵柄として、「柳に[[小野道風]]」、「柳に[[ツバメ|燕]]」、「柳に[[短冊]]」、[[かす|カス]](鬼札)が描かれる。
 
 
 
=== 土木工事への利用 ===
 
=== 土木工事への利用 ===
[[挿し木]]で容易に増えることから、[[治山]]などの[[土留]]工、伏工ではヤナギの木杭や止め釘を用い、緑化を進める基礎とすることがある。
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挿し木で容易に増えることから、治山などの土留工、伏工ではヤナギの木杭や止め釘を用い、緑化を進める基礎とすることがある。
 
 
=== 柳女 ===
 
'''柳女'''(やなぎおんな)は、[[江戸時代]]の奇談集『[[絵本百物語]]』にある[[ヤナギ]]の怪異。
 
 
 
画図ではヤナギの木の下に、子供を抱いた女の姿が描かれている。解説文によれば風の激しい日に、子供を抱いた女がヤナギの木の下を通ったところ、女の首にヤナギの枝が巻きついて死んでしまい、その女の一念がヤナギの木に留まり、夜な夜な現れ「口おしや、恨めしの柳や」と泣くという<ref name="多田編1997_42">[[#多田編1997|多田編1997年]]、42頁。</ref>。
 
 
 
『絵本百物語』以外にも、ヤナギと女にまつわる話として、[[宝暦]]時代の『祇園女御九重錦』や[[文政]]時代の『三十三間堂棟木由来』などの[[浄瑠璃]]に、ヤナギの[[精霊|精]]が人間の女性に化けて人と契る話があり、[[民間信仰]]にもヤナギにまつわる[[俗信]]は多い<ref name="多田編1997">多田編1997年、133-134頁。</ref>。『絵本百物語』本文においては、ヤナギが女に例えられることや、ヤナギが女に化ける話は、[[宋 (王朝)|宋]]の士捷(ししょう)という者がヤナギに食われて死んだことが由来とされており、勇猛なイメージを持つ[[マツ]]に対して、ヤナギは優しい姿のために女の姿をとるのだという<ref name="多田編1997_42" />。
 
 
 
また、ヤナギそのものが[[霊魂|霊]]の宿る木と考えられ、ヤナギの枝が風になびく様子が[[幽霊]]の手の動作と同じように見え、風に揺れるヤナギの古木の枝に頬を撫でられたり傘を取られたりすることがヤナギの精の仕業と恐れられたことを「柳女」の由来とする説もあり、同様にヤナギのイメージから生まれたと考えられている『絵本百物語』の妖怪に「[[柳婆]]」がある。また[[怪談]]や[[民間伝承]]において「柳女」と同じく死んだ女の霊が子供を抱いて現れる[[妖怪]]に「[[産女]]」がある<ref>{{Cite book|和書|author=岩井宏實|authorlink=岩井宏實|title=暮しの中の妖怪たち|edition=|year=2000|publisher=[[河出書房新社]]|series=[[河出文庫]]|isbn=978-4309473963|pages=118-119}}</ref>。
 
  
 
== 参考文献 ==
 
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|editor=多田克己|editor-link=多田克己|title=竹原春泉 絵本百物語 桃山人夜話|year=1997|publisher=[[国書刊行会]]|isbn=978-4-336-03948-4|ref=多田編1997}}
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* Wikipedia:[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%8A%E3%82%AE ヤナギ](最終閲覧日:22-10-17)
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** 多田克己, 竹原春泉 絵本百物語 桃山人夜話, 1997, 国書刊行会, isbn:978-4-336-03948-4
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* Wikipedia:[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E5%A5%B3 柳女](最終閲覧日:22-10-17)
  
 
== 関連項目 ==
 
== 関連項目 ==
{{Sisterlinks|柳
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* [[相柳]]:中国神話の龍女神。頭が9つある。共工の部下的存在。
| wikt = やなぎ
+
* [[柳花夫人]]:高句麗の始祖・朱蒙の母女神。黄河の河伯の娘、とされている。
| n = no
+
** [[洛嬪]]:黄河の河伯の妻、[[羿]]の妻とされている女神。[[柳花夫人]][[相柳]]の起源ではなかろうか。
}}
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* [[伊邪那岐命]]:ヤナギを意味するかも、と管理人は思う。
* [[ヤナギ科]]
 
* [[河畔林]]
 
* [[萌芽更新]]
 
* [[治山]]
 
* [[新潟市]](柳都という別名を持つ)
 
* [[東北大学植物園]]
 
* [[木村有香]]
 
  
==外部リンク==
+
== 私的注釈 ==
* {{hfnet|1718|セイヨウシロヤナギ}}
+
<references group="私注"/>
  
 
== 参照 ==
 
== 参照 ==
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[[カテゴリ:柳|*]]
 
[[カテゴリ:柳|*]]
 
[[カテゴリ:中国神話]]
 
[[カテゴリ:中国神話]]
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[[カテゴリ:朝鮮神話]]
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[[カテゴリ:日本神話]]
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[[カテゴリ:メソポタミア神話]]
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[[カテゴリ:吊す神]]

2022年12月20日 (火) 18:45時点における最新版

ヤナギ、Willow)は、ヤナギ科(Salicaceae) ヤナギ属 (Salix)の樹木の総称。風見草、遊び草と呼ばれることがある。世界に約350種あり、主に北半球に分布する。日本では、ヤナギと言えば一般にシダレヤナギを指すことが多い。ここではヤナギ属全般について記す。

特徴[編集]

落葉性の木本であり、高木から低木、ごく背が低く、這うものまである。

葉は互生、まれに対生。托葉を持ち、葉柄は短い。葉身は単葉で線形、披針形、卵形など変化が多い。

雌雄異株で、花は尾状花序、つまり、小さい花が集まった穂になり、枯れるときには花序全体がぽろりと落ちる。ただし、外見的には雄花の花序も雌花の花序もさほど変わらない。雄花は雄しべが数本、雌花は雌しべがあるだけで、花弁はない。代わりに小さい苞や腺体というものがあり、これらに綿毛を生じて、穂全体が綿毛に包まれたように見えるものが多い。すべて虫媒花(ただしケショウヤナギ属をヤナギ属に含める場合はこの限りではない)。

冬芽は1枚のカバーのような鱗片に包まれ、これがすっぽりと取れたり、片方に割れ目を生じてはずれたりする特徴がある。これは、本来は2枚の鱗片であったものが融合したものと考えられる。

果実は蒴果で、種子は小さく柳絮(りゅうじょ)と呼ばれ、綿毛を持っており風に乗って散布される。なお、中国において5月頃の風物詩となっており、古くから漢詩等によく詠み込まれる柳絮だが、日本には目立つほど綿毛を形成しない種が多い。しかし、日本においても意図的に移入された大陸品種の柳があり、柳絮を飛ばす様子を見ることができる。特に北海道において移入種のヤナギが多く、柳絮の舞う様が見られる。

主に温帯に生育し、寒帯にもある。高山やツンドラでは、ごく背の低い、地を這うような樹木となる。日本では水辺に生育する種が多いが、山地に生育するものも少なくない。

表記[編集]

ヤナギの漢字表記には「」と「」があるが、枝が垂れ下がる種類(シダレヤナギやウンリュウヤナギなど)には「柳」、枝が立ち上がる種類(ネコヤナギやイヌコリヤナギなど)には「楊」の字を当てる[1]。これらは万葉集でも区別されている[2]

神話等[編集]

  • メソポタミア神話:世界樹の一種である「フルップの木」は柳であろう、と言われている。イナンナ女神がこの木を自分の庭園に植えて育て、木から自らのベッドと玉座を作った。ギルガメシュ(あるいはシャマシュ)がこの木に宿る大蛇を倒した、とされる。
  • 中国神話:相柳。中国神話の祟り神的龍女神。頭が9つある。共工の部下的存在。啓に倒される。
  • 朝鮮神話:朱蒙の母の名を柳花夫人という。
  • 日本神話:伊邪那岐命の語源はヤナグ(柳の古語)ではないか、と管理人は個人的に思う。

文化[編集]

  • 空海が中国を訪れていた時代には、長安では旅立つ人に柳の枝を折って手渡し送る習慣があった。この文化は、漢詩などにも広く詠まれ、王維の有名な送別詩「元二の安西に使するを送る」においても背景になっている。「客舎青青 柳色新たなり」の句について、勝部孝三は、「柳」と「留」(どちらも音はリウ)が通じることから、柳の枝を環にしたものを渡すことが、当時中国において、旅人への餞の慣習であったと解説している。「還」と「環」(どちらも音はホワン)が通じて、また帰ってくることを願う意味が込められているわけである[3]
  • 歯磨き用の歯木として用いられた。多くの種が歯木として使用されたが、中国や日本では楊柳(カワヤナギ)の枝から作ったことから、楊枝(ようじ)と呼ばれた。そこから歯を掃除するための爪楊枝や、歯ブラシとしての房楊枝となった。
  • 柳は解熱鎮痛薬として古くから用いられてきた歴史がある。シュメール時代の粘土板には疼痛の薬として記述され、エジプト人はヤナギの葉から作られたポーションを痛み止めとして使用した[4]。日本でも「柳で作った楊枝を使うと歯がうずかない」と言われ沈痛作用について伝承されていた。19世紀には生理活性物質のサリシンが柳から分離され、より薬効が高いサリチル酸を得る方法が発見されている。その後アスピリンも合成された。現在では、サリシンは体内でサリチル酸に代謝される[5]ことがわかっている。また、葉には多量のビタミンCが含まれている。
  • 植栽木として、川や池の周りに植えられた実績があり、先人が考えた水害防止対策といえる。これは柳が湿潤を好み、強靭なしかもよく張った根を持つこと、また倒れて埋没しても再び発芽してくる逞しい生命力に注目したことによる。時代劇に出てくるお堀端の「しだれ柳」の楚々とした風情は、怪談ばなしに、つきものとなった。
  • 古く奈良時代以前から奈伎良(ナギラ)とも呼ばれた。
  • 柳の枝を生糸で編んで作った箱を柳筥(やないばこ)と言い神道では重要な神具である。柳筥に神鏡を納めたり、また柳筥に短冊を乗せたりもするもので、奈良時代から皇室や神社で使用され続けている[6]
  • 花札では1月の絵柄として、「柳に小野道風」、「柳に燕[7]」、「柳に短冊」、カス(鬼札)が描かれる。

柳女[編集]

柳女(やなぎおんな)は、江戸時代の奇談集『絵本百物語』にあるヤナギの怪異。

画図ではヤナギの木の下に、子供を抱いた女の姿が描かれている。解説文によれば風の激しい日に、子供を抱いた女がヤナギの木の下を通ったところ、女の首にヤナギの枝が巻きついて死んでしまい、その女の一念がヤナギの木に留まり、夜な夜な現れ「口おしや、恨めしの柳や」と泣くという[8][私注 1]

『絵本百物語』以外にも、ヤナギと女にまつわる話として、宝暦時代の『祇園女御九重錦』や文政時代の『三十三間堂棟木由来』などの浄瑠璃に、ヤナギの精が人間の女性に化けて人と契る話があり、民間信仰にもヤナギにまつわる俗信は多い[9]。『絵本百物語』本文においては、ヤナギが女に例えられることや、ヤナギが女に化ける話は、宋の士捷(ししょう)という者がヤナギに食われて死んだことが由来とされており、勇猛なイメージを持つマツに対して、ヤナギは優しい姿のために女の姿をとるのだという[8]

また、ヤナギそのものが霊の宿る木と考えられ、ヤナギの枝が風になびく様子が幽霊の手の動作と同じように見え、風に揺れるヤナギの古木の枝に頬を撫でられたり傘を取られたりすることがヤナギの精の仕業と恐れられたことを「柳女」の由来とする説もあり、同様にヤナギのイメージから生まれたと考えられている『絵本百物語』の妖怪に「柳婆」がある。また怪談や民間伝承において「柳女」と同じく死んだ女の霊が子供を抱いて現れる妖怪に「産女」がある[10]

ヤナギの種類[編集]

日本では、ヤナギといえば、街路樹、公園樹のシダレヤナギが代表的であるが、生け花では幹がくねったウンリュウヤナギや冬芽から顔を出す花穂が銀白色の毛で目立つネコヤナギがよく知られている。柳の葉といえば一般的にシダレヤナギの細長いものが連想されるが、円形ないし卵円形の葉を持つ種もある。マルバヤナギ(アカメヤナギ)がその代表で、野生で普通に里山にあり、都市部の公園にも紛れ込んでいる。

実際には、一般の人々が考えるよりヤナギの種類は多く、しかも身近に分布しているものである。やや自然の残った河原であれば、必ず何等かのヤナギが生育し、山地や高原にも生育する種がある。それらはネコヤナギやシダレヤナギとは一見とても異なった姿をしており、結構な大木になるものもある。さらには高山やツンドラでは、地を這うような草より小さいヤナギも存在するが、綿毛状の花穂や綿毛をもつ種子などの特徴は共通している。

ただし、その同定は極めて困難である。日本には30種を軽く越えるヤナギ属の種がある。これらは全て雌雄異株である。花が春に咲き、その後で葉が伸びて来るもの、葉と花が同時に生じるもの、展葉後に開花するものがある。同定のためには雄花の特徴、雌花の特徴、葉の特徴を知る必要がある。しかも、自然界でも雑種が簡単にできるらしいのである。

植生[編集]

ヤナギは水分の多い土壌を好み、よく川岸や湿地などに、生えている。自然状態の河川敷では、河畔林として大規模に生育していることがある。これは出水時に上流の河川敷から流木化したものが下流で堆積し、自然の茎伏せの状態で一斉に生育するためである。 

川の侵食を防ぐため川岸に植林される。オーストラリア南部でも入植時に護岸目的で植林されたが、侵略的外来種(国家的に深刻な雑草(Weeds of National Significance))として認定され、在来の樹木への置き換えが進んでいる[11]。繁殖力もさることながら、川の流れを阻害したり、秋には葉を大量に落とし、葉が分解されることで水質を悪化させ環境を激変させることが、オーストラリア政府の関心をひいている。

人の利用[編集]

土木工事への利用[編集]

挿し木で容易に増えることから、治山などの土留工、伏工ではヤナギの木杭や止め釘を用い、緑化を進める基礎とすることがある。

参考文献[編集]

  • Wikipedia:ヤナギ(最終閲覧日:22-10-17)
    • 多田克己, 竹原春泉 絵本百物語 桃山人夜話, 1997, 国書刊行会, isbn:978-4-336-03948-4
  • Wikipedia:柳女(最終閲覧日:22-10-17)

関連項目[編集]

  • 相柳:中国神話の龍女神。頭が9つある。共工の部下的存在。
  • 柳花夫人:高句麗の始祖・朱蒙の母女神。黄河の河伯の娘、とされている。
  • 伊邪那岐命:ヤナギを意味するかも、と管理人は思う。

私的注釈[編集]

  1. これはヤナギと人身御供の関連が示唆される伝承であると思う。ヤナギを治水工事で使用していれば、それは治水に関する人身御供でもあったのかもしれない、と思う。ヤナギに対する人身御供は「吊すもの」と考えられていたかもしえない、と管理人は思う。

参照[編集]

  1. http://miyakanken.co.jp/modules/p04/index.php?content_id=9, https://web.archive.org/web/20160308020608/miyakanken.co.jp/modules/p04/index.php?content_id=9, ネコヤナギ(猫柳), 株式会社宮城環境保全研究所, 2016-2-29, archivedate:2016-3-8, deadlinkdat:2020年1月28日
  2. ken0229
  3. 勝部孝三『桃源詩話』国文社, 1987年11月25日初版, pp.21‐22
  4. http://www.nobelprizes.com/nobel/medicine/aspirin.html%7Ctitle=An aspirin a day keeps the doctor at bay: The world's first blockbuster drug is a hundred years old this week, ノーベル財団, 2021-11-19
  5. Biosynthesis and metabolism of β-d-salicin: A novel molecule that exerts biological function in humans and plants, Biotechnology Reports, volume4, 2014, pmid:28626665, doi:10.1016/j.btre.2014.08.005|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5466123/
  6. 神社本庁『神社有職故実』1951年7月15日発行全129頁中24頁
  7. これは本来は「初夏」のイメージの図である。
  8. 8.0 8.1 多田編1997年、42頁。
  9. 多田編1997年、133-134頁。
  10. 岩井宏實, 暮しの中の妖怪たち, 2000, 河出書房新社, 河出文庫, isbn:978-4309473963, pages118-119
  11. Weeds of National Significance (WoNS) 南オーストラリア政府