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先史時代のアルメニアのユニークな遺物であるヴィシャップ(「龍の石」)<ref>Armenian višap 'serpent, dragon', derived from Persian.</ref>は、歴史的にアルメニアの多くの地方(ゲガルクニク、アラガツォトン、ジャヴァフク、タイクなど)に広がり、彼女の崇拝がさらに表出したものとなっている。
 
先史時代のアルメニアのユニークな遺物であるヴィシャップ(「龍の石」)<ref>Armenian višap 'serpent, dragon', derived from Persian.</ref>は、歴史的にアルメニアの多くの地方(ゲガルクニク、アラガツォトン、ジャヴァフク、タイクなど)に広がり、彼女の崇拝がさらに表出したものとなっている。
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== 私的考察 ==
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語源とも関連するが、女神としてのアストヒクの起源はヒッタイトの[[イスタヌ]]にあるのではないか、と思う。ヒッタイトは構成各部族の太陽女神を大習合させて、独特な太陽女神信仰を行っていた。[[イスタヌ]]はハッティ族の神から、ヒッタイトの太陽女神へと発展した女神である。太陽女神は天候とも関連するため、時代が下って、その地位が低下すると水神(河川や泉の神)に変化する傾向はヨーロッパに強いように思う。ヒッタイト時代から[[イスタヌ]]には星神としての性質があり、それがアストヒクへ受け継がれているように思う。
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アストヒクと[[ヴィシャップ]]との一体性だが、管理人には[[ヴィシャップ]]の起源はヒッタイト神話の[[ウルシェム]]と思われ、元は「'''同じ太陽女神'''」と考えられていた可能性がある。ただし、その中でもアストヒクには星神、水神としての性質が強く、[[ヴィシャップ]]の前身である[[ウルシェム]]には冥界女神としての性質が強調されていたこと。また、エジプト神話のイシス・ネフティスのように「再生の女神」と「冥界女神」の二柱を組み合わせて女神を信仰する形式が地中海周辺地域で流行したことから、アルメニアではアストヒク(再生の女神)と[[ヴィシャップ]](冥界女神)で一対となるような女神信仰が行われたのではないか、と思われる。その後、イラン系のゾロアスター的な、アラマズドとアナヒットの信仰が盛んとなったため、アストヒクは「娘神」の地位に移され、また[[ヴィシャップ]]は「冥界の悪女神」的な地位から更にアジ・ダハーカ的な「倒されるべき悪龍」へと変更されたのではないか、と思う。しかし、アストヒクとほぼ一対かつ一体として祀られていた名残が、アストヒク信仰であるのに「ヴィシャップ石」と呼ばれる女陰石(境界石)なのではないだろうか。石であるのは、[[ヴィシャップ]]が死んで石化した女神である暗喩のようにも思える。
  
 
== 参考文献 ==
 
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== 関連項目 ==
 
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* [[イスタヌ]]:アストヒクの起源ではあるまいか。
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* [[ヴィシャップ]]:アストヒクと表裏一体といえる、荒魂的な龍神(水神)かつ火山神(?)。
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* [[ヴァハグン]]
 
* [[アナヒット]]
 
* [[アナヒット]]
* [[Aramazd]]
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* [[アラマズド]]
* [[Hayk]]
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* [[ハイク・ナハペト]]
* [[Ishtar]]
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* [[イシュタル]]
* [[Vahagn]]
 
  
 
== 参照 ==
 
== 参照 ==

2023年1月16日 (月) 00:53時点における最新版

アストヒク(アルメニア語:Աստղիկ、Astghik、Astłik[1] )は、アルメニアで先史時代初期にアストヒク、一般にはアシャ、またはアストヒク、アストリクと呼ばれる異教の神として崇拝されていた愛と豊穣の神である。後に天上の光(星)の化身、戦神ヴァハグンの妻・恋人とされた。伝説によると、ノアの娘とされている。

異教期後期に、愛と美貌と水源と湖の神となった。全ての神の父アラマズド(太陽の擬人化)、地母神アナヒット(月の擬人化)と三位一体としてパンデオンで奉られた。ヘレニズムから影響をうけた期間では、ギリシア神話のアプロディーテーやメソポタミア神話のイシュタルと同一視された。

彼女の名前を短くするとアルメニア語でաստղ(astġ)となり「星」を意味し、インド・ヨーロッパ祖語の*h₂stḗrを介してサンスクリット語のSTRやアヴェスター語や英語のスター、ラテン語とイタリア語のアストロ・ステラ等の同根語である。

先史時代の初期には、アストヒク[2](アルメニア語:Աստղիկ)がアルメニアの豊穣と愛の神として崇拝され、後に天空の光が彼女の擬人化とみなされ、ヴァハグンの配偶神となった。後の異教時代には、愛、乙女の美しさ、水源や泉の女神となった[3]

かつて7月中旬に行われていたアストヒクに捧げるヴァルダヴァル祭は、キリスト教の祝日「イエスの変容」に姿を変え、現在もアルメニア人によって祝われている。キリスト教以前の時代と同様、この祭りの日には、人々は鳩を放ち、健康と幸運を願って水をかけあう。

ある伝承では、彼女は大洪水の後に生まれたノアの娘とされている[4]

神話[編集]

アストヒクはもともと天と地を創造する女神で、後に「乙女」に降格された。この神殿構成の変化は、アラマズドが創造主[5]となり、アナヒットが大女神、母神(月は彼女の擬人化として崇拝された)として知られるようになったことに起因する。彼らはアルメニアの神々の神殿の中で三位一体を形成している。ヘレニズムの影響を受けた時代には、アストヒクはギリシャのアプロディーテやメソポタミアのイシュタルに類似する存在となった。

語源[編集]

彼女の名前は、アルメニア語で「星」を意味するաստղ、astłの短縮形である[6]。語源はインド・ヨーロッパ語族の原語*h₂stḗrで、サンスクリット語のstṛ́、アヴェスター語のstar、パーレビ語のstar、ペルシア語のsetār、古代ギリシャ語のastḗr 等と同語源である。星の女神は、朝夕の星(金星、Venus)をはじめ、もともとすべて夜の女神と呼ばれていた。

水の祭り(Vardavar)[編集]

もともとは7月中旬にアストヒクの祭りとして行われていたが、現在もイースターの14日前、主イエスの変容の祝日として執り行われている。この日はキリスト教布教以前のように、バラが飾られ、鳩を放ち、誰彼構わず健康と幸運を願い水を掛け合う。

慣習の由来[編集]

バラが飾られる理由は、ヴァハグンにバラを送った祝い、戦いで怪我をしたヴァハグンのために、花が咲き乱れる道を裸足で駆けつけ、その際の怪我から流れる血でバラが赤くなったためなど諸説ある。鳩を放ち、水を掛ける理由は、ノアの大洪水を生き残った幸運を祝うため、大洪水を忘れないため、水が穢れの浄化と癒しを与えるためなどの理由が伝えられている。

祀る神についての混乱[編集]

アストヒクの祭りとされているが[7]、キリスト教の祝日となった現在ではアナヒットの祭り、もしくはどちらの神の祭りか不明とされるなど混乱がみられる[8][9][10]

カルト的なロケール[編集]

彼女の本拠地はムシュの北に位置するアシュティシャット(タロン)で、その部屋はヴァハグンの名に捧げられ、「ヴァハグンの寝室」として知られていた。ヴァハグンは太陽神の擬人化であり、彼女の恋人または夫であったという説が有力である。

アストヒクの神殿や礼拝所は、パラティ山(ヴァン湖の南西)、アルタメット(ヴァンから12km)等、様々な町や村にあった[11]

先史時代のアルメニアのユニークな遺物であるヴィシャップ(「龍の石」)[12]は、歴史的にアルメニアの多くの地方(ゲガルクニク、アラガツォトン、ジャヴァフク、タイクなど)に広がり、彼女の崇拝がさらに表出したものとなっている。

私的考察[編集]

語源とも関連するが、女神としてのアストヒクの起源はヒッタイトのイスタヌにあるのではないか、と思う。ヒッタイトは構成各部族の太陽女神を大習合させて、独特な太陽女神信仰を行っていた。イスタヌはハッティ族の神から、ヒッタイトの太陽女神へと発展した女神である。太陽女神は天候とも関連するため、時代が下って、その地位が低下すると水神(河川や泉の神)に変化する傾向はヨーロッパに強いように思う。ヒッタイト時代からイスタヌには星神としての性質があり、それがアストヒクへ受け継がれているように思う。

アストヒクとヴィシャップとの一体性だが、管理人にはヴィシャップの起源はヒッタイト神話のウルシェムと思われ、元は「同じ太陽女神」と考えられていた可能性がある。ただし、その中でもアストヒクには星神、水神としての性質が強く、ヴィシャップの前身であるウルシェムには冥界女神としての性質が強調されていたこと。また、エジプト神話のイシス・ネフティスのように「再生の女神」と「冥界女神」の二柱を組み合わせて女神を信仰する形式が地中海周辺地域で流行したことから、アルメニアではアストヒク(再生の女神)とヴィシャップ(冥界女神)で一対となるような女神信仰が行われたのではないか、と思われる。その後、イラン系のゾロアスター的な、アラマズドとアナヒットの信仰が盛んとなったため、アストヒクは「娘神」の地位に移され、またヴィシャップは「冥界の悪女神」的な地位から更にアジ・ダハーカ的な「倒されるべき悪龍」へと変更されたのではないか、と思う。しかし、アストヒクとほぼ一対かつ一体として祀られていた名残が、アストヒク信仰であるのに「ヴィシャップ石」と呼ばれる女陰石(境界石)なのではないだろうか。石であるのは、ヴィシャップが死んで石化した女神である暗喩のようにも思える。

参考文献[編集]

  • Wikipedia:アストヒク(最終閲覧日:23-01-06)
  • Wikipedia:Astłik(最終閲覧日:23-01-08)
    • Հայերեն Արմատական Բառարան [Dictionary of Armenian Root Words], https://archive.org/embed/Hrarm1%7Cfirst=Hračʿya, Ačaṙean, Hrachia Acharian, Yerevan University Press, 1971
    • The Indo‑european and Ancient Near Eastern Sources of the Armenian Epic, https://www.academia.edu/3656244, Armen Petrosyan, Washington, D.C., Institute for the Study of Man, 2002, isbn:9780941694810
    • Armen Petrosyan, 2007, State Pantheon of Greater Armenia: Earliest Sources, Aramazd: Armenian Journal of Near Eastern Studies, volume2, pages174–201, issn:1829-1376
    • Problems of Armenian Prehistory. Myth, Language, History, https://archive.org/embed/2015PetrosyanProblemsOfArmenianPrehistory, Armen Petrosyan, Yerevan, Gitutyun, 2015, isbn:9785808012011

関連項目[編集]

参照[編集]

  1. Armenian Mythology from the Tour Armenia site, http://www.tacentral.com/mythology.asp?story_no=2, 2014.7.12
  2. Petrosyan, 2015, p100
  3. Lurker, Manfred. The Routledge Dictionary Of Gods Goddesses Devils And Demons. Routledge. 2004. pp. 22-23. ISBN:978-04-15340-18-2
  4. http://www.armeniaculture-am.armin.am/en/Encyclopedia_astghik%7Ctitle = Astghik | armeniaculture.am
  5. As with all sun cults rising to power, the sun god personification began to be worshiped.
  6. Ačaṙean, 1971, p278
  7. welcomearmenia
  8. DTACアルメニア観光情報局 水の祭り
  9. アルメニアの祭りVartavar , https://web.archive.org/web/20140714171230/http://asyaararat.com/Vartavar.htm, 2014年7月14日
  10. http://www.reporter.am/go/article/2010-07-12-vardavar-armenia-s-annual-water-fights-come-at-perfect-time, アーカイブされたコピー , 2014年7月14日, https://web.archive.org/web/20140715095313/http://www.reporter.am/go/article/2010-07-12-vardavar-armenia-s-annual-water-fights-come-at-perfect-time, 2014年7月15日, deadlinkdate:2018年3月
  11. p. 107, "The Pantheon of Armenian Pagan Deities", Gagik Artsruni, Yerevan, 2003
  12. Armenian višap 'serpent, dragon', derived from Persian.