「燃える鳥」の版間の差分
(→『鳥の言葉』) |
|||
19行目: | 19行目: | ||
なお、イスファンディヤールは、イランと隣国[[トルキスタン|トゥーラーン]]との戦争の際、トゥーラーン王のいる「青銅の城」へ攻め込む途中で7つの艱難を攻略している。その艱難の1つはシームルグとの戦いであった<ref>[[#フェルドウスィー,岡田訳 (1999)|フェルドウスィー,岡田訳 (1999)]]、306頁。</ref>が、ここでのシームルグはザールを育てたシームルグとは別の、邪悪な鳥だとされている。イスファンディヤールは策略をもってシームルグを倒し{{refnest|group="注釈"|奥西は訳註において、イスファンディヤールと敵対しているロスタムを守るシームルグは、イスファンディヤールから見れば敵となることから、善と悪の2羽のシームルグがいるとするヘダーヤトの説明に異議を述べている<ref>[[#ヘダーヤト,奥西訳註 (1999)|ヘダーヤト,奥西訳註 (1999)]]、320頁(訳註68)。</ref>。}}<ref>[[#ヘダーヤト,奥西訳註 (1999)|ヘダーヤト,奥西訳註 (1999)]]、313頁。</ref><ref name="カーティスp90-91">[[#カーティス,薩摩訳 (2002)|カーティス,薩摩訳 (2002)]]、90-91頁。</ref>、剣でその体をバラバラにしたところ、飛び散った羽根が山々の間の平野を埋めたという<ref name="カーティスp90-91" />。 | なお、イスファンディヤールは、イランと隣国[[トルキスタン|トゥーラーン]]との戦争の際、トゥーラーン王のいる「青銅の城」へ攻め込む途中で7つの艱難を攻略している。その艱難の1つはシームルグとの戦いであった<ref>[[#フェルドウスィー,岡田訳 (1999)|フェルドウスィー,岡田訳 (1999)]]、306頁。</ref>が、ここでのシームルグはザールを育てたシームルグとは別の、邪悪な鳥だとされている。イスファンディヤールは策略をもってシームルグを倒し{{refnest|group="注釈"|奥西は訳註において、イスファンディヤールと敵対しているロスタムを守るシームルグは、イスファンディヤールから見れば敵となることから、善と悪の2羽のシームルグがいるとするヘダーヤトの説明に異議を述べている<ref>[[#ヘダーヤト,奥西訳註 (1999)|ヘダーヤト,奥西訳註 (1999)]]、320頁(訳註68)。</ref>。}}<ref>[[#ヘダーヤト,奥西訳註 (1999)|ヘダーヤト,奥西訳註 (1999)]]、313頁。</ref><ref name="カーティスp90-91">[[#カーティス,薩摩訳 (2002)|カーティス,薩摩訳 (2002)]]、90-91頁。</ref>、剣でその体をバラバラにしたところ、飛び散った羽根が山々の間の平野を埋めたという<ref name="カーティスp90-91" />。 | ||
− | |||
− | |||
− | |||
− | |||
== 類似する幻想動物 == | == 類似する幻想動物 == |
2022年2月21日 (月) 08:31時点における版
死と再生を繰り返し、死ぬ際に燃え上がる鳥
シームルグ
シームルグ[1](またはスィームルグ[2]、スィーモルグ[3]、シムルグ。سیمرغ、Simurgh)は、イラン神話に登場する神秘的な鳥である。サムルク(Samruk)などともいう。
シームルグの伝承は、ペルシア(現在のイラン)やカシミール(現在のインド北部)[4]で知られている。ペルシアの北部にあるアルブルズ山に住むとされており、その羽毛は美しいだけでなく治癒する力を持つとされている[5]。
伝承では、シームルグの体は象さえ運べるほど巨大だという。鳥の王であり、ゆえに餌として得たものは自身が満腹になると残りは他の動物が食べられるようにとその場に置いていくという[6]。伝承によっては、シームルグは1700年の寿命を持ち、300歳になると卵を産み、その卵は250年かかって孵るという。そして、雛が成長すると親鳥が火に飛び込んで死ぬとされている。
サエーナ鳥とも呼ばれ、アヴェスター[7]においては太古の海にある二本の大木のうちの一本に棲んでいた。この木の上でシームルグが羽ばたくと種子が巻き散らされ、その種子からはあらゆる種類の植物が生えた。しかし、ある時ダエーワたちによってこの大木が打ち倒されて枯れると、シームルグはアルブルズ山へと住処を移した[8]。
フェルドウスィーによる叙事詩『シャー・ナーメ(王書)[9]』では、シームルグは重要な役割をもって登場する。
ナリーマン(Nariman (father of Sām))家のサームの元に生まれたザールは、生まれた時から白髪だったため、父サームの命令によって遠い場所に捨てられた。エルブルズ山(アルブルズ山)に巣を置いて雛を育てていたシームルグがこの捨てられた赤ん坊を見つけ、巣に連れ帰って雛鳥と一緒に育て始めた。雛鳥もこの赤ん坊に危害を加えることはなかった。やがてサームの夢に不思議な青年が現れたことから、サームはかつて子供を捨てたことを後悔し、子供を捜すべくエルブルズ山にやって来た。サームを見つけたシームルグは、成長したサームの息子に別れの時が来た旨を告げ、自分の羽根の1枚を渡すと、サームの元まで連れて行った。そしてサームから感謝の言葉を受けてから山へ飛び去った。サームは息子にザールと名付けて共に山を下りた。サームが仕えるイラン王マヌーチェフル(Manuchehr)は、サームの子をシームルグが育てたと知ると非常に喜んだ[10][11][12]。
やがてザールは、カブールのテンプレート:仮リンク姫と結ばれる。ルーダーベがザールの子を身ごもったが、臨月となっても胎児は産まれずルーダーベを苦しめた。ザールは、かつてシームルグから貰った羽根のことを思い出し、シームルグが言ったように羽根の一部を香炉で燃やした。すぐにシームルグが現れ、生まれてくる子が強く賢い人物となる旨を告げると、出産のための助言を与えた。そして1枚の羽根を置いて飛び去った。シームルグの指示通り、ルーダーベを酒で酔わせた後に腹部を切開して無事に赤ん坊を取り上げ、腹部は縫合して薬を塗り、最後にシームルグの羽根で腹部を撫でた。こうしてルーダーベは救われ、生まれた子供はロスタムと名付けられた[13][14]。
成長したロスタムが、イランの王子テンプレート:仮リンクと戦って傷ついた時、ザールは香炉でシームルグの羽根の一部を燃やした。再びシームルグが現れて、まずロスタムの傷を治療し、やはり負傷していた彼の馬テンプレート:仮リンクをも治療した。それから、ロスタムからイスファンディヤールと戦うことになった事情を聞くと、イスファンディヤールと和解を試みるよう、そしてもしイスファンディヤールが和解を受け入れないなら、シームルグが作らせた矢を用いて彼と戦うよう助言した。再びイスファンディヤールと相まみえたロスタムが和解を試みたが、イスファンディヤールはなおも戦おうとするため、ロスタムはシームルグが指示した方法で矢を放った。矢はイスファンディヤールの目に深々と刺さり、これが彼の致命傷となった[15][16]。
なお、イスファンディヤールは、イランと隣国トゥーラーンとの戦争の際、トゥーラーン王のいる「青銅の城」へ攻め込む途中で7つの艱難を攻略している。その艱難の1つはシームルグとの戦いであった[17]が、ここでのシームルグはザールを育てたシームルグとは別の、邪悪な鳥だとされている。イスファンディヤールは策略をもってシームルグを倒しテンプレート:Refnest[18][19]、剣でその体をバラバラにしたところ、飛び散った羽根が山々の間の平野を埋めたという[19]。
類似する幻想動物
シームルグが自ら焼死するという伝承は、エジプトのフェニックスの伝承と類似している[20]。
シームルグはスラヴ神話に取り込まれ、セマルグルという神になり、ウラジーミル1世がキエフの丘に置いた6体の神像の1体としても祀られた。キエフやリャザンで見つかった、12世紀から13世紀頃のものと考えられている銀製の腕輪には、鳥と動物の要素の入り交じった外見の生き物が彫刻されたものがあるが、一部の研究者はその生き物をセマルグルだと考えている。その生き物は、古代ペルシアで作られた金製または銀製の皿に彫刻されたシームルグに似ている[21]。
脚注
参考文献
原典資料
- フェルドウスィー『王書』
二次資料
参照
- ↑ ローズ,松村訳 (2004), ローズ,松村訳 (2004)で確認した表記。
- ↑ カーティス,薩摩訳 (2002), カーティス,薩摩訳 (2002)で確認した表記。
- ↑ フェルドウスィー,岡田訳 (1999), フェルドウスィー,岡田訳 (1999)、ヘダーヤト,奥西訳註 (1999), ヘダーヤト,奥西訳註 (1999)で確認した表記。
- ↑ カシミール地方はパミール高原の東(中国)寄りの地域である。パキスタン、インド、中国の国境地帯。
- ↑ ローズ,松村訳 (2004), ローズ,松村訳 (2004)、214頁。
- ↑ ヘダーヤト,奥西訳註 (1999), ヘダーヤト,奥西訳註 (1999)、311頁。
- ↑ 紀元前600年~300年頃に成立
- ↑ 伝説の英雄とモンスター,西東社 (2008), 伝説の英雄とモンスター,西東社 (2008)、138頁
- ↑ 10~11世紀にかけて記された。
- ↑ フェルドウスィー,岡田訳 (1999), フェルドウスィー,岡田訳 (1999)、119-131頁。
- ↑ カーティス,薩摩訳 (2002), カーティス,薩摩訳 (2002)、87頁。
- ↑ ヘダーヤト,奥西訳註 (1999), ヘダーヤト,奥西訳註 (1999)、312頁。
- ↑ フェルドウスィー,岡田訳 (1999)、182-186頁。
- ↑ 引用エラー: 無効な
<ref>
タグです。 「カーティスp87
」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません - ↑ フェルドウスィー,岡田訳 (1999)、312-323頁。
- ↑ カーティス,薩摩訳 (2002)、87-90頁。
- ↑ フェルドウスィー,岡田訳 (1999)、306頁。
- ↑ ヘダーヤト,奥西訳註 (1999)、313頁。
- ↑ 19.0 19.1 カーティス,薩摩訳 (2002)、90-91頁。
- ↑ 20.0 20.1 引用エラー: 無効な
<ref>
タグです。 「ローズp214
」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません - ↑ テンプレート:Cite book