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、 2022年10月9日 (日) 18:53
'''常世神'''(とこよのかみ)は、『日本書紀』に登場する新興宗教の神。この神を祀ると、富と長寿が授けられ、貧者は裕福になり、老人は若返ると説かれた。
古来行われてきた共同体的な祭祀ではなく、個人の欲求を叶える信仰であるところに特色があるといわれ、民間道教の一種ではないかとの説もある<ref name="水谷">水谷千秋『謎の渡来人 秦氏』(文春新書、2009年)。</ref>。
== 概要 ==
『日本書紀』によると、皇極天皇3年([[644年]])、東国の富士川の近辺の人・[[大生部多]]が村人に虫を祀ることを勧め、「これは常世神である。この神を祀れば、富と長寿が授かる。」と言って回った。巫覡(かんなぎ)等も神託と偽り、「常世神を祀れば、貧者は富を得、老人は若返る」と触れ回った。さらに人々に財産を棄てさせ酒や食物を道端に並べ、「新しい富が入って来たぞ」と唱えさせた。
やがて信仰は都にまで広がり、人々は「常世虫」を採ってきて清座に祀り、歌い舞い、'''財産を棄捨して福を求めた'''。しかし、全く益することはなく、その損害は甚大だった。ここにおいて、山城国の豪族・秦河勝は、民が惑わされるのを憎み、大生部多を討伐した。巫覡等は恐れ、常世神を祀ることはしなくなった。時の人は河勝を讃え、
<blockquote>太秦(うずまさ)は 神とも神と 聞こえくる 常世の神を 打ち懲(きた)ますも
<br />(秦河勝は、神の中の神と言われている 常世の神を、打ち懲らしめたことだ)</blockquote>
と歌った。
== 常世神の正体 ==
『日本書紀』では、常世神とされた虫について「この虫は、常に[[タチバナ|橘]]の樹に生る。あるいは[[サンショウ|山椒]]に生る。長さは4寸余り、親指ぐらいの大きさである。その色は緑で黒点がある。形は全く[[蚕]]に似る」と記され、[[ナミアゲハ|アゲハチョウ]]の幼虫ではないかといわれる。
== 解説 ==
;橘
「[[常世の国]]」は、海の彼方にある、不老不死の世界のことである。[[大国主命]]の国造りを助けた[[スクナヒコナ|スクナヒコナ命]]や、[[浦島太郎|浦島子]](浦島太郎)が行ったのが常世の国といわれる。この常世の国には、「時じくの香(かぐ)の木の実」という、不老不死の仙薬になる木の実が生えており、『[[記紀]]』では「橘」のこととされる。橘は常緑樹で、雪や霜にも負けずに繁茂し、その実も保存の利く植物であるために、常世の木と同一視されるに到った。橘に発生する「虫」が常世神とされたのも、これに関連づけられている<ref>及川智早 「ときじくのかぐの木の実」『日本神話辞典』 大和書房 1997年。</ref>。
;秦河勝
当時、[[仏教]]の信仰に篤い豪族は他にもおり、また、秦河勝より強い政治権力を持った人物も多かった。なぜ河勝ひとりが、常世神信仰を討伐したのかについては、全国に秦人・秦部を抱え、殖産興業を推進してきた[[秦氏]]としては、民の生産・経済活動を停止させる宗教は、看過できなかったとする考えがある。また、[[渡来人|渡来氏族]]である秦氏の河勝は、新興ではあるが原始的な「神」を恐れることなく、これと対決できたのではないかとも言われる<ref name="水谷"/>。
== 関連項目 ==
* [[月読命]]
* [[不老不死の薬]]
== 参照 ==
{{デフォルトソート:とこよのかみ}}
[[Category:日本神話]]
[[Category:医薬神]]
[[Category:汎用神]]