「洪水の話」の版間の差分
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数ある「洪水神話」の中に、通常の「洪水」や「津波」ではなくて、火山活動を思わせるものが混じっている。それを2編挙げる。彼らが逃げおおせた結果、人類の多くは滅んでしまったけれども、祖神である「男女」の1対は生き残った、という話で、台湾の伝承と下諏訪の伝承は良く似ているように思う。オーストロネシア語族の伝承の中でも、起源が非常に古いものだと考える。 | 数ある「洪水神話」の中に、通常の「洪水」や「津波」ではなくて、火山活動を思わせるものが混じっている。それを2編挙げる。彼らが逃げおおせた結果、人類の多くは滅んでしまったけれども、祖神である「男女」の1対は生き残った、という話で、台湾の伝承と下諏訪の伝承は良く似ているように思う。オーストロネシア語族の伝承の中でも、起源が非常に古いものだと考える。 | ||
| − | + | 台湾の伝承では、バロン・ダロン的神話で、子供達が「臼」に乗って大洪水を逃れる、というものがある、「臼」というのは「岩」を変形させたものだと思われる。「岩から子供が生まれる」という発想は、母親が既に死んでいる(死んだから岩に変じてしまった)ことを示しているように思う。中国神話の[[塗山氏女]]のようなものと言えよう。 | |
=== 推察される元の話とその変遷 === | === 推察される元の話とその変遷 === | ||
2026年1月7日 (水) 21:53時点における版
台湾原住民の神話より、洪水などに関する話をいくつか挙げてみたい。
目次
人類の初め
例えば、伏羲・女媧神話では、大洪水の後に生き残った二人の子供が人類の祖となる。台湾では、「人類の祖」はどのように語られるのだろうか。
大嵙崁部族創生
昔、山に一巨石があり、二つに割れてその中から2名の男と1名の女が出現した。彼らの間から四人の子が生まれ、その子がまた互いに行き来して子孫は増えていった。子孫は兄妹の婚姻を堅く禁じた(アヤタル族スコレク群大嵙崁部族、神々の物語19-21p)。
補足
台湾の始祖神話は、男女が石から生まれた、というものが多いと感じる。男女二人が生まれることもあるし、複数の場合もある。少数だが2羽の鳥のうち1羽が溺れて死に、残りの1羽が変化して男女が生じた、という「洪水神話」を思わせる話もある。
バロン・ダロン類話
洪水が起きて、その上地震があり、地が避け熱湯が噴き出した。そのため、生物はほとんど死に絶えたが、神は二人の兄妹に臼を与えて逃れさせた。兄妹は夫婦となった。(アミ族南勢アミ群、神々の物語133-134p)。
大洪水が起きて、二人の兄妹が臼をに乗って生き延びた。兄妹は夫婦となった。タタハチラヅという神が来て、拝神の行事を教えた(アミ族南勢アミ群、神々の物語134-136p)。
じじ穴とばば穴
下諏訪の伝承。下諏訪は金刺氏の拠点の一つ。
下諏訪町の上水道池付近にじじ穴とばば穴と呼ばれる古墳がある。むかし、火の雨が降ったとき、この二つの穴に逃げ込んだ人だけが助かったという。今の下諏訪の人々は、この二つの穴に逃げ込んだ人たちの子孫だといわれている(信州の民話伝説集成南信編p44)。
私的解説
数ある「洪水神話」の中に、通常の「洪水」や「津波」ではなくて、火山活動を思わせるものが混じっている。それを2編挙げる。彼らが逃げおおせた結果、人類の多くは滅んでしまったけれども、祖神である「男女」の1対は生き残った、という話で、台湾の伝承と下諏訪の伝承は良く似ているように思う。オーストロネシア語族の伝承の中でも、起源が非常に古いものだと考える。
台湾の伝承では、バロン・ダロン的神話で、子供達が「臼」に乗って大洪水を逃れる、というものがある、「臼」というのは「岩」を変形させたものだと思われる。「岩から子供が生まれる」という発想は、母親が既に死んでいる(死んだから岩に変じてしまった)ことを示しているように思う。中国神話の塗山氏女のようなものと言えよう。
推察される元の話とその変遷
「オアイム」という若者が、太陽女神の助けを得て、異界を旅し悪しき月を射落とした。若者は太陽女神と結婚した。が、月が蘇ってオアイムと太陽女神を焼き殺してしまった。オアイムは死後鳥となって天に昇り、「天の神」となった。
オアイム神話の内容は、当初ほぼこのようなものだったと思う。オアイム神話の「連れ」のエピソードが欠損し、彼女との婚姻譚も欠損している。彼女が焼殺されたことは、オアイム神話では彼女の存在ごと欠損しているが、「若者二人」版の話より、「亡くなる若者」というのは元は「焼き殺された女神」のことで、これが男性に変更されているのだと推察される。そして、元は「月」が射落とされる話であって、ギリシア神話の「ミーノータウロス(月の雄牛)退治」と非常に近い話であるということが分かる。ということは、「射落とされた太陽」とは「男性形の太陽」で「月が太陽になりすましたもの」といえる。男性形の太陽神が女神を食い殺したり、太陽女神と地位が入れ替わったりするものである、という伝承がオーストロネシア語族の神話にある。
オアイムの射月神話は、テーセウスがアリアドネーの助けを得て、共に異界を旅しミーノータウロスを討つ話と相関する。アリアドネーはテーセウスと血痕の約束をするが、途中で彼の前から消えてしまうことになる。羿神話の嫦娥も、射日完了後早い時期に羿の前から姿を消す。アリアドネーと嫦娥は「燃やされた女神」といえるのだが、彼らは台湾神話の「太陽の血を浴びて亡くなった若者」の姿と相関する。なぜなら熱い太陽の血しぶきを人が浴びたなら、その人は焼け死んでしまうであろうから。そこで、「射日の英雄」の連れは、日(月)を射て早々に亡くなってしまう、というモチーフは紀元前5000年よりも更に古い時代に形成され、台湾、中原、ギリシアの神話の中に残されたことが分かる。
一方、ギリシアや中原では後代に至るまで、「射日の英雄」の連れは女性であり、妻であるのだが、神話発祥の地に近い長江河口域では、紀元前5000年頃には男性に変更されてしまっていたことが分かる。神話は元々、太陽女神になりすました月の男神を倒すものだったのに、太陽女神が物語の中から削除されてしまったり、結局男性形に変えられてしまっていることが分かる。射落とした月(男性)まで、太陽に変えられてしまったので、神話は「射日神話」としての方が有名になってしまったといえる。
しかし、ともかく「オアイム」という鳥の名は残った。子音からみて、これは女性形であれば「バロン」と同じ名。男性形であれば「ヴァルナ」と同じ名といえる。イラン神話ではヴァルナ(アフラ・マズダ)とデーヴァの対立神話がみられるが、ヴァルナが対立したデーヴァとは、まさに「ミーノータウロス(月のデーヴァ、とも読める)」のことだと推察される。本物語で「オアイム」が女性なのか男性なのか迷ったが、牛型の怪物と戦う神話のある黄帝について「昇天神話」があるので、男性形と考える。黄帝型神である。
言い換えれば、「黄帝が牛型の蚩尤と戦う話」と「羿の射日神話」は起源が同じ話であることが、オアイムの「射月神話」などから分かる。
また朝鮮の伝承には、妹を害した兄の太陽神を母親が殺してしまう、という伝承がある。これも射日神話の変形版といえ、射日神話の主役である英雄が削除され、助け手の女神が直接「なりすましの太陽神」を倒してしまったパターンといえる。
太陽を射る話
「日月の話(アヤタル族)」
太古は昼のみで暑さが耐えがたかった。太陽を射ようと二人の少年が食料を持って出発し、途中で食べた蜜柑や李の種を植えながら進んだ。太陽のそばにつくと、一人は暑さで倒れたが、もう一人は太陽を射た。太陽から何かが飛び出して月になった。ある者は、点に太陽が二つあって、一つを射たところ月になったという(アヤタル族スコレク群ガオガン部族テイリク社、神々の物語166-167p)。
私的解説
「射日神話」は種類が多い。特に重要なのは、太陽が射られて「月」になった、という部分と考える。中国の羿神話
粟の話
イコロンの話(穀物種を盗む)
その他
関連項目
参考文献
- 神々の物語 台湾原住民文学選5 紙村徹編・解説 草風館 2006年8月1日発行