「ハイヌウェレ」の版間の差分

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== 私的考察 ==
 
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いわゆる「'''吊された女神'''」の一種である。
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いわゆる「'''吊された女神'''」の一種である。ハイヌウェレにはココヤシとイノシシの化身という二重の性質があり、要は彼女は「食べ物」であると強調されているように思う。イノシシはアメタに狩られて、行けに跳びこみ溺れ死んだ、とされるが、これはいわゆる蛇婿譚における妻女神が、池に入水して死ぬのと相関する。ハイヌウェレ神話では「吊された女神」が最初から人間あるいは神としてではなく、食物とされている。そして、その生まれ変わりともいえるハイヌウェレもまた殺されて食料と化す。
  
 
ハイヌウェレ神話の特徴は、夫に殺されたのではなく、不特定多数の人々に殺された点にある。蛇婿譚や[[メリュジーヌ]]型神話のように夫が原因で女神が消えるあるいは死ぬ場合、夫の元に子供が残されたりして、結果的に夫を利することになる。ハイヌウェレの場合は、彼女がサトイモに変化し、夫という個人ではなく、不特定多数の集団の利益に沿うようになる。ハイヌウェレの神話は、最初は
 
ハイヌウェレ神話の特徴は、夫に殺されたのではなく、不特定多数の人々に殺された点にある。蛇婿譚や[[メリュジーヌ]]型神話のように夫が原因で女神が消えるあるいは死ぬ場合、夫の元に子供が残されたりして、結果的に夫を利することになる。ハイヌウェレの場合は、彼女がサトイモに変化し、夫という個人ではなく、不特定多数の集団の利益に沿うようになる。ハイヌウェレの神話は、最初は
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女神が集団の利益のために殺された
 
女神が集団の利益のために殺された
  
という形に変化する過程で作られたものではないだろうか。これは人間の祭祀でいえば、若い女性が特に選ばれて集団の利益のために人身御供にされる根拠とされ得る神話といえる。ギリシアのイーピゲネイア、ローマのウェスタの巫女と類似した性質といえる。これらの「犠牲となる女神群」の起源は、[[バルン]]女神が亡くなる時に、家族になにがしかの財産を残した、というものだったと思われるが、それが時代が下ると政治的にただ女性を生贄として殺し、利益を得ようとする口実として使われるようになったと考える。
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という形に変化する過程で作られたものではないだろうか。これは人間の祭祀でいえば、若い女性が特に選ばれて集団の利益のために人身御供にされる根拠とされ得る神話といえる。ギリシアのイーピゲネイア、ローマのウェスタの巫女と類似した性質といえる。
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これらの「犠牲となる女神群」の起源は、[[バルン]]女神が亡くなる時に、家族になにがしかの財産を残した、その結果家族は利益を得た、というものだったと思われるが、それが時代が下ると政治的にただ女性を生贄として殺し、利益を得ようとする口実として使われるようになったと考える。
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特にハイヌウェレ神話の場合は、女性([[バルン]]に相当する女神)は最初から人間ではなく食料として扱われ、生まれ変わったとしてもまた食料とされるという状態で
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「何回生まれ変わっても、卑しい女(食物)は卑しい女(食物)である。」
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という思想が萌芽しているように思える。女性は型にはまった決められたことをしていれば良いのであって、でなければ罰として殺される、という思想でもあるといえる。要は、'''「女性差別」を肯定する神話として、社会的な「女性差別」を正当化した神話と言える。'''オーストロネシア語族がこの神話を語り継いでいるということは、このような思想が紀元前5000年の中国ですでに生じていたことを示している。それが世界的に男系の思想の広まりと共に世界中に流布し、しまいにはイーピゲネイアやウェスタのような思想として確立していったのだろう。蛇足だが、女性の法王を認めない[[ローマ教]]もアメタとハイヌウェレ神話の思想を受け継ぐ思想なのではないだろうか。
  
 
== 関連項目 ==
 
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* [[バルン]]:台湾の女神、蛇婿譚で亡くなる女神。
 
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** [[バロン]]:ミャオ族の[[女媧]]。[[バルン]]女神と同起源の女神と考える。
 
** [[バロン]]:ミャオ族の[[女媧]]。[[バルン]]女神と同起源の女神と考える。
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* [[アメタ]]:ハイヌウェレの養父。狩人でバナナの化身である。
  
 
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2025年9月8日 (月) 15:24時点における最新版

インドネシアのウェマーレ族の神話に登場する半神半人といえる女性である。

ココヤシの花から生まれたハイヌウェレ(「ココヤシの枝」の意)という少女は、様々な宝物を大便として排出することができた。あるとき、踊りを舞いながらその宝物を村人に配ったところ、村人たちは気味悪がって彼女を生き埋めにして殺してしまった。ハイヌウェレの父親は、掘り出した死体を切り刻んであちこちに埋めた。すると、彼女の死体からは様々な種類の芋が発生し、人々の主食となった[1]

私的考察[編集]

いわゆる「吊された女神」の一種である。ハイヌウェレにはココヤシとイノシシの化身という二重の性質があり、要は彼女は「食べ物」であると強調されているように思う。イノシシはアメタに狩られて、行けに跳びこみ溺れ死んだ、とされるが、これはいわゆる蛇婿譚における妻女神が、池に入水して死ぬのと相関する。ハイヌウェレ神話では「吊された女神」が最初から人間あるいは神としてではなく、食物とされている。そして、その生まれ変わりともいえるハイヌウェレもまた殺されて食料と化す。

ハイヌウェレ神話の特徴は、夫に殺されたのではなく、不特定多数の人々に殺された点にある。蛇婿譚やメリュジーヌ型神話のように夫が原因で女神が消えるあるいは死ぬ場合、夫の元に子供が残されたりして、結果的に夫を利することになる。ハイヌウェレの場合は、彼女がサトイモに変化し、夫という個人ではなく、不特定多数の集団の利益に沿うようになる。ハイヌウェレの神話は、最初は

女神が夫(と子孫)の利益のために殺された

というものだったのが、

女神が集団の利益のために殺された

という形に変化する過程で作られたものではないだろうか。これは人間の祭祀でいえば、若い女性が特に選ばれて集団の利益のために人身御供にされる根拠とされ得る神話といえる。ギリシアのイーピゲネイア、ローマのウェスタの巫女と類似した性質といえる。

これらの「犠牲となる女神群」の起源は、バルン女神が亡くなる時に、家族になにがしかの財産を残した、その結果家族は利益を得た、というものだったと思われるが、それが時代が下ると政治的にただ女性を生贄として殺し、利益を得ようとする口実として使われるようになったと考える。

特にハイヌウェレ神話の場合は、女性(バルンに相当する女神)は最初から人間ではなく食料として扱われ、生まれ変わったとしてもまた食料とされるという状態で

「何回生まれ変わっても、卑しい女(食物)は卑しい女(食物)である。」

という思想が萌芽しているように思える。女性は型にはまった決められたことをしていれば良いのであって、でなければ罰として殺される、という思想でもあるといえる。要は、「女性差別」を肯定する神話として、社会的な「女性差別」を正当化した神話と言える。オーストロネシア語族がこの神話を語り継いでいるということは、このような思想が紀元前5000年の中国ですでに生じていたことを示している。それが世界的に男系の思想の広まりと共に世界中に流布し、しまいにはイーピゲネイアやウェスタのような思想として確立していったのだろう。蛇足だが、女性の法王を認めないローマ教もアメタとハイヌウェレ神話の思想を受け継ぐ思想なのではないだろうか。

関連項目[編集]

  • バルン:台湾の女神、蛇婿譚で亡くなる女神。
  • アメタ:ハイヌウェレの養父。狩人でバナナの化身である。

参考文献[編集]

参照[編集]

  1. 『世界神話事典』「ハイヌウェレ」の項(吉田、p. 153)