エジプト神話のトートは時代が下るとギリシア神話のヘルメースと習合して、ヘルメス・トリスメギストスという架空の伝説的人物とされた。どちらも「知恵の神」とされたけれども、ヘルメースは「泥棒の守護神」ともされ、泥棒のためなら平気で嘘をつくという神話がある。ヘルメースの知恵とは、要は「'''悪知恵'''」なのだ。また、ヘルメースは「'''ゼウスの息子神'''」として下位の神であり、また伝令神であるがゆえに冥界などの異界との境界を出入りできる神ともされた。ヘルメースそのものは、ギリシャ先住民の神と考える説があり、'''牧羊神'''や豊穣神と考えられ、ヘルマと呼ばれる道祖神的な役割を果たした柱像では、男根が強調された姿で描かれた。エジプト神話のミン神と類似した性質である。
「'''同じ名前で違う神'''」群を挙げていくと、これまた大量に出てくる神なので、まずは名前の'''「H+M」という子音が「K+M」という子音と交通性があるM(N)」という子音と交通性がある'''、ということを前提として書き出してみる。すると、ヘルメース(ギリシア)、クロノス(ギリシア)、クマルビ(ヒッタイト)、ハモン(カルタゴ)、アメン(エジプト)、クヌム(エジプト)、エンキ(メソポタミア)、フンババ(メソポタミア)、ヘミッツ(カフカス・オセット族)、クンバン(エラム)、ハヌマーン(インド)と、軽く挙げただけでもどんどん出てくる。おそらく、この系統の神として、ヘレネスの神がクロノスであり、ギリシャ先住民の神がヘルメースだったので、ギリシャ神話をまとめるときに、クロノスは上位の神、ヘルメースは下位の神にされてしまったのだろう。
余談的になるけれども、「K+M(N)」という子音の名を持つ「女神」といえる存在も、少数だけれどもある。いずれも強烈な個性を持つので挙げてみる。クリュタイムネーストラー(ギリシア、アガメムノーンの妻)、クリームヒルト・グズルーン(ドイツ・北欧、ジークフリートの妻)、グィネヴィア(ブリテン、アーサーの妻)、グラーニア(アイルランド、フィン・マックールの妻)である。いずれも「'''王侯の妻であり姉妹'''」だ。そして名高いハイヌウェレとなる。