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2023年1月9日 (月) 21:57時点における版
ヴィシャップ(Višap)とはアルメニア伝承に出るドラゴンの事である。ゾロアスター教のアジ・ダハーカにあたる。アララト山の頂上に棲む。英雄神ヴァハグンに倒される。 なお先史時代の石柱を「ヴィシャップ石」と呼ぶ。
概要
ヴィシャップ(Վիշապ)はアルメニア神話に登場する、リヴァイアサンに似た水に関係の深い龍である。翼のある蛇として、あるいはさまざまな動物の要素を組み合わせて描かれるのが一般的である[1][2]。
アララト山が、ヴィシャップの住処である。アララト山の峰の火山性とその地震は、ヴィシャップとの関連性を示唆したのかもしれない。時にはその子供たちと一緒に、ヴィシャップは子供や幼児を盗み、自分たちの子飼いの小さな悪霊をその代わりに置くことがあった[私注 1]。古代の信仰では、ヴィシャップは天に昇り、あるいは地上に降りてきて、雷鳴、旋風、太陽の吸収(日食)などを起こしたとされている。龍は東洋の多くの国々で、水の要素、豊穣、富の象徴として崇拝され、後に権力の象徴として恐ろしい存在となった。古代の伝説によると、このドラゴンは竜殺しのヴァハグンと戦ったとのことである[3]。
私的考察
「ヴィシャップ石」とは、全てではないのかもしれないが、石柱に女陰が掘られており、これは道標(ギリシャで言うところのヘルマーのようなもの)でもあるし、ヴィシャップの象徴でもあるし、ヴィシャップに道や土地の守護を求めたものでもあるのではないだろうか。そして、ヴィシャップが雌の龍であることも示唆されているように思う。
おそらく、ヴィシャップとアストヒクは本来「同じもの」であって、日本風にいえば、アストヒクが「和魂」、ヴィシャップが「荒魂」であって、ヴィシャップに対しては、これに捧げ物をする等で機嫌を取って鎮めるか、あるいは力づくで押さえ込んで鎮めるか、そのような対応が必要とされたものではないだろうか。どのような方法であろうとも、ヴィシャップの相が鎮まれば、彼女は人々に豊穣をもたらす穏やかな水神(またおそらく穏やかな火山の女神)であるアストヒクとなる、と考えられたのであろう。
ヴァハグンとの関連については、本来アストヒク・ヴィシャップであった女神は、ヴァハグンの「母親」であって、息子に倒される点は、バビロニア神話のマルドゥクとティアマトに類似するように思う。ただ、「息子が母親を殺す」という展開は大抵の文化で非道徳であるし、体裁の悪いことと見なされることであろうと思うので、ヴァハグンの英雄性を維持するために、アストヒクとヴィシャップを分けて、ヴィシャップをヴァハグンと敵対する存在であると再定義し、「禍をもたらす悪龍」と変更したのではないだろうか。女陰石を「ヴィシャップ石」と呼ぶのは、アストヒクとヴィシャップが一体であったことの名残であると考える。
ヴィシャップをヴァハグンの母、とすると、中国神話の塗山氏女とその子である啓(かつ祝融の関係に類するように思う。火神の息子が「母親を焼き殺した」という神話はインド神話や日本神話に見られる。明確に「倒された」という神話がないパターンでも、何らかの理由で母親は亡くなって石や山の女神に変化する場合が多いと感じる。啓が倒したとされる悪神には共工と相柳がいる。特に相柳は女神であり、塗山氏女の荒魂あるいは死霊である可能性が高いと言える。
語源的には、ヴィシャップの語源は兔子(Tùzǐ)であって、最初のT音が省略され、Z音がS音に変化したものではなかろうか。後半のZ音はS音に変化するパターンが多いように感じる。「炎」を意味する「ignis」系の言葉は付加されていないが、「火山の神」も兼ねているようである。
参考文献
関連項目
私的注釈
参照
- ↑ Armenian Mythology: Stories of Armenian Gods and Goddesses, Heroes and Heroines, Hells & Heavens, Folklore & Fairy Tales, Ananikian, Mardiros Harootioon, IndoEuropeanPublishing.com, 2010, isbn:9781604441727
- ↑ The Dragon in Medieval East Christian and Islamic Art, Kuehn, Sara, Brill, 2011, isbn:9789004209725, pages29
- ↑ Vahan M. Kurkjian, https://penelope.uchicago.edu/Thayer/E/Gazetteer/Places/Asia/Armenia/_Texts/KURARM/34*.html, Chapter XXXIV - Armenian Mythology, A History of Armenia, 2010-09-25