そのうち老婆が訪ねてきた。隣のウォーターフォード県、デーシイ(Déisi)の民の地から来たという<ref>クローカーの原文は"Deici's country"であるが、"Déisi"人々の異綴りとして"Deici"があることが、例えばサミュエル・ルイス (出版者)(Samuel Lewis (publisher))の地理参考書で確認できる。井村の解釈は「ディシスの田舎」である。</ref><ref name=lewis>Samuel Lewis (publisher) , A Topographical Dictionary of Ireland, Comprising the Several Counties, Cities,...with Historical and Statistical Descriptions |publisher=S. Lewis and Co. , 1837 , https://books.google.com/books?id=dDQE_stxs-AC&pg=PA676 , page676</ref> 。この老婆は、自分の茶飲み友達(あるいは名付け親)の息子にせむしの男がいて、背瘤が治った話の詳細を聞きにきたのである<ref>クローカーの原文は老婆の"gossip"で、これは多義あり、井村は「茶飲み友達」と解した。しかしグリム兄弟の訳(Gevatterin)を参考とするなら、ここは「名付け母親」である。</ref><ref>Grimm, 1826, p17</ref>。
まもなくそのジャック・マッデンという名の背に瘤がある男がやってきて<ref>クローカーの原文は"Jack Madden"で、井村の表記は「ジャック・マドン」だが、より一般的なカナ表記とする。</ref>、ラズモアの行動を真似てみたが、気持ちが急いたために、妖精たちの歌が途切れるのも待たずに合いの手を入れ、もっと曜日をつけ足せば褒美の衣服も倍増するだろうなどと欲をかいて水曜日だけでなく「木曜日(ダダーディーン)、金曜日(ダヒナ)」(ここは井村訳と異なる)と歌った<ref>アイルランド英語: Da Hena, (dia aoine; dé haoine)、"Friday".</ref><ref name=keightley1850>Thomas Keightley , The Fairy Mythology: Illustrative of the Romance and Superstition of various Countries , new revised , H. G. Bohn , 1850, 1828, https://books.google.com/books?id=3cByu3_ZtaAC&pg=PA364 , pp364–365</ref><ref name=odonaill-aoine>Gabshegonal Ó Dónaill (1977) ''Focloir'', s. v. "[https://www.teanglann.ie/en/fgb/aoine aoine]": Dé hA~, Friday.</ref><efref>クローカーの原文は"Da Dardine, augus Da Hena"であったが、なぜか1834年の第3版で、"augus Da Cadine, augus Da Hena"に変んじており、しかもそれが「水曜日、木曜日」であるという脚注がついていた。Croker, 1834, p20</ref>。この脚注はカイトリーが指摘したように誤りで、ダヒナは金曜日である<ref name=keightley1850/>。イエイツは初版のどおりの正しい曜日だが<ref>Yeats, 1888, p45</ref> 、井村訳ではなぜか誤った改変(ダヒナが木曜日)を踏襲していることは、神村の論文に詳しい<ref name=kamimura/>。結果、妖精たちは歌を台無しにしたと怒り、一番力持ちの二十人の妖精がラズモアの瘤を持ってきてジャックの背瘤の上にくっつつけてしまった。ほうほうの態で帰ったジャックは、まもなく意気消沈して死んだという。
=== 挿入歌 ===