二人は手研耳命が片丘の大窨(おおむろ)の中に有り、ひとり大床に臥せっているのに行き合った。この時神渟名川耳尊は、兄の神八井耳命に
<blockquote>今{{ruby|適|たまたま}}其時なり。夫れ{{ruby|言|こと}}密を尊び、言は{{ruby|宜|よろ}}しく慎むべし。{{ruby|故|かれ}}我の陰謀本より預者無し。今日の事は、唯吾{{ruby|爾|いまし}}と{{ruby|自|み}}行いたまはくのみ。吾{{ruby|当|まさ}}に{{ruby|先|ま}}ず{{ruby|窨|むろ}}の戸を{{ruby|開|あ}}けむ。爾其れ射よ。今適其時なり。夫れ言密を尊び、言は宜しく慎むべし。故我の陰謀本より預者無し。今日の事は、唯吾爾と自行いたまはくのみ。吾当に先ず窨の戸を開けむ。爾其れ射よ。</blockquote>
と言い、手研耳命を射殺す役目を兄に与えた。二人は窨(むろ)に進入し、神渟名川耳尊はその戸を突き開けた。しかし神八井耳命は手脚が戦慄し、矢をいることができなかった。この時神渟名川耳尊は兄の所持していた弓矢を掣(ひ)き取り、手研耳命を射た。一発目は胸に中(あ)たり、二発目は背に中たってついに殺した。