== 私的考察 ==
メリュジーヌはメリュジーヌは、日本神話の[[禁忌]]を破られて逃走する[[逃走女神豊玉毘売]]である。日本神話のと同じ起源で良いと考える。夫に食い殺されたギリシア神話の[[豊玉毘売メーティス]]と起源は同じで良いと考える。一番古い起源は、中国神話のに近い神といえようか。彼女が夫や家族のかたわらからあっという間に消えてしまうのは、「'''[[嫦娥]]夫に殺されたから'''である。」といえる。ささいで、意味のない禁忌であっても、夫がそれを破ることは、神話的には「妻を殺すことと同じ」といえる。
もっとヨーロッパに近い起源としては、名前からメソポタミア神話のティアマトの最初の子音「T」が外れたもの、ヒッタイト神話の[[マリヤ]]、ギリシア神話の[[メーデイア]]が上げられるように思う。大抵の「夫」は彼女によって栄光や子孫を得、子孫は人の世での権力や名誉を得ていると言われるが、それは最初の先祖である「'''メリュジーヌの夫'''」が妻の能力によって名誉や権力を得たからともいえる。彼は妻を殺したことで、自らが権力や名誉を得たのである。
古い順にいえば、ティアマトのように「TNT」の子音の女神はカルタゴのタニトのように「幼児供犠」を求めた可能性があるように思う。その性質は(自らの子ではあるが)子供を連れ去るメリュジーヌの姿に残されているように思う。蛇を思わせる人型ではない女神である点もティアマトと類似しているように思う。このように「幼児」に対して残虐な性質は、弟をバラバラにして殺すギリシア神話の[[メーデイア]]にもみられる。ティアマトは「神々の母」であり、おそらく「王権者の祖神」的な地位も占めていたと思われるので、その性質が「ヨーロッパの名歌の先祖」としてのメリュジーヌに投影されているように思う。 ヒッタイト神話の[[マリヤ]]は建築の女神でもあり、その点は城を建てたりするメリュジーヌの性質と共通しているように思う。 [[逃走女神]]としての性質であるが、ティアマトは「逃げ出す」というよりは「倒される女神」である。倒すのは近親であるマルドゥクを始めとした神々である。ヒッタイト神話の[[マリヤ]]にはこのような性格は備わっていなかったかもしれない、と考える。古代エジプトで同系統の子音の女神であるネイトやタニトに「倒される女神」という性質はなく、地中海周辺の地域ではむしろこれらの群の女神は「祖神」あるいは「創造神」といった高い地位を保ったままだったのではないだろうか。ということは「ティアマト」のような「倒される女神」としての性質は後から付け加えたものと思われる。ヨーロッパでは「多神教時代」の女神は、キリスト教の時代になって、その地位は更に低下し、民間伝承の中の「妖精」のようなものとして生き残るようになったと思われる。 また「倒される女神」であった部分は、「自ら逃走する女神」へと変化している。メリジューヌが夫に課す「禁忌」は、一般的には彼女の存在を脅かすまでのものとは考えられにくく、禁忌を破るハードルが低く設定されているように思う。しかし、その理由は定かではないが、一般的な女性とは違って、メリュジーヌにはその「禁忌」は人間の世界での存在を左右する重要なものなのである。よって、禁忌が破られ、「人の世界」から逃走するメリュジーヌはある種「夫との愛と信頼を守る戦い」に敗れて死んだ、といえ、その点でマルドゥクとの戦いに敗れて死んだティアマトの姿を投影しているといえる。ただし、「女神がなぜ逃走するのか」という理由は、例えばエジプト神話において逃走する女神であるセクメトのような古い時代の神話でも明らかにはされておらず、「逃走」とは単に「死んだこと」を置き換えただけのことにも思える。要はメリュジーヌは「'''夫に殺された女神である'''」といえる。そして、ティアマトの神話からメリュジーヌの物語までの変遷を見ると、「禁忌を破られて逃走する女神」とは単に「殺された女神」を指し、それが変化したものであることが分かる。この「殺された女神」は「幼児供犠」を求めた女神であったかもしれないが、「'''夫'''」はそれとは関係なく彼女を殺し、「'''夫'''」そのものが「妻を人身御供にする存在」へと移り変わっている、といえる。大抵の「夫」は彼女によって栄光や子孫を得、子孫は人の世での権力や名誉を得ていると言われるが、それは最初の先祖である「メリュジーヌの夫」が妻によって名誉や権力を得たからともいえる。彼は妻を人身御供にすることで、自らが権力や名誉を得たのである。 そもそもの起源といえる中国神話では、[[嫦娥]]の夫の[[羿]]は「父」ともいえる帝夋の不興を買っており「同族」や「仲間同士」の間での不和があることが示されている。また、中国神話で「罰を受ける女神」の代表格である[[織女]]も結婚したことで近親の不興を買っている。本来、「逃走女神」の「'''死'''」の原因は彼女の結婚に関して、同族の不興を得、同族から報復された、あるいは粛正された、というものだったのではないだろうか。メソポタミア神話のティアマトを殺すのは子孫に当たるマルドゥクである。インド神話の火の神アグニや、日本神話の火之迦具土神には母親を焼き殺す神話があり、マルドゥクが太陽神の延長であることと一致する。朝鮮神話の[[朱蒙]]の母である[[柳花夫人]]も結婚に関して同族の不興を得ている。このように、「結婚に関して同族の不興を得て殺された女神(的女性)」が歴史的に存在したとしても、その死に彼女の夫が関連しないわけではないので、ヨーロッパでは彼女の物語は親族による粛正ではなく、「'''夫の裏切りにより妻は死ぬ'''」という形式の物語に変化したものと思われる。中国神話の[[嫦娥]]が、そもそも夫の羿から逃げ出す女神であるので、このような変化というか「作り替え」は中国神話の段階から始まっていた可能性があると考える。それが各地に伝播したものがメリジューヌでもあり、[[豊玉毘売]]でもあると考える。 「龍蛇女神」という点では、メリュジーヌは[[女媧]]が起源といえる。「[[女媧型女神]]」の1形である。(起源については「[[嫦娥]]」の私的考察も参照のこと。)彼女のそもそもの役割が「'''幼児供犠を求める'''」というものであったのならば、彼女が結婚に際して放棄した「'''役目'''」とは人身御供に関することだったのではないだろうか。[[アリアドネー]]が人身御供を止めようとする[[テーセウス]]を助けたように、である。そのために彼女自身が親族から粛正されて、親族の繁栄のための人身御供にされたという事実があったとするならば、一方で彼女を太母として崇めながら、一方で彼女を悪しき者として殺してしまうという矛盾を含んだ古代の信仰と神話を生み出しているように思う。中国神話でいえば、禹と塗山氏女の関係がメリュジーヌとその夫との関係に似ると考える。
== 参考文献 ==