姆六甲
姆六甲(ムラカ)。壮族の神話の系譜における初代の祖神。女性。
伝説によると、天と地が分かれた後、地球は砂漠になったそうだ。その後、雑草が生え、その花から髪が乱れた裸の女性、すなわち姆六甲が生まれた。彼女は空を耕すために裸の獣を、地を耕すためにフンコロガシを送った。その結果、空は小さくなり、大地は大きすぎて、空は大地をしっかりと覆うことができなくなった。姆六甲は大地の中心を手で掴み、大地は空でしっかりと覆われうようになったが、大地にはしわが寄って、高いものは山に変わり、低いものは海、川、湖に変わった。彼女は大地に生物がいないのを見て、風によって妊娠し、その上で小便をし、それを人間にした。姆六甲が生んだ人類は男性と女性の区別がなかったので、姆六甲は山に登ってスターフルーツ(杨桃)と唐辛子(辣椒)を摘み、地面にばらまいた。スターフルーツを拾った者は少女になった。唐辛子を拾った者は少年になった。壮族は彼女を豊穣の神として崇めている[1]。
目次
風による妊娠の類話[編集]
風によって孕んだ先祖の神話・琉球[編集]
昔、まだ人間のいない時、天から男(シネリキュ)と女(アマミキュ)が、沖縄の島に降った。二人は家を並べて住んだ。彼らは性交はしなかったが、往来する風を媒介として、女は三人の子供を産んだ。第一子は諸方の主の始め、第二子はノロ(=女祭司)の始め、第三子は土民の始めである(琉球)。
カレワラ・アイスランド[編集]
『カレワラ』(リョンロット編)第1章
大気の娘イルマタルが、天空から海原へ降り、波間を漂った。風が吹いて処女イルマタルを身ごもらせ、海が彼女を身重にした。イルマタルは長い年月を経ても出産することができず、苦しんだ。彼女は天地を創造し、その後にようやく詩人ワイナミョイネンが、イルマタルの胎内から生まれ出た。彼は生まれながらに老人だった。
『なぜ神々は人間をつくったのか』[編集]
『なぜ神々は人間をつくったのか』(シッパー)第7章「最初に男がいなかった場合」
女人国に住む女たちは、子供が欲しくなると屋根や山に登り、かがみこんで臀部を突き出して、風にさらす。風が性器に吹き込むと子供が腹に入る。女児が生まれればめでたいが、男児が生まれると女たちは嘆き悲しみ、赤ん坊を切り裂いて殺してしまう(インド、ワンチョ族。台湾、ブヌン族ほか)。
女護が島[編集]
『御曹子島渡』(御伽草子)、『風流志道軒伝』(平賀源内)巻之5
私的考察[編集]
壮族の姆六甲女神は、ミャオ族のバロン、中国神話の女媧に相当する。ダイダラボッチのような巨人的な創造神の性質を持っており、これが本来女神の性質であったことが伺える。北欧神話の女神ゲフィオンに類する。女神がなにかをばらまいて人類の創造に関わる点も女媧的である。壮族の伏羲に相当するのは布洛陀である。ただ、壮族の伝承では、姆六甲と布洛陀は、夫婦とも兄妹ともされていないようである。
女神が植物から生まれている点は、ミャオ族の伝承にもそのような娘が登場する話があるし、インドネシアのハイヌウェレ、日本のかぐや姫と多くの神話がある。起源はミャオ族神話のニャンニであると考える。
「風による妊娠」は一般的には「女護が島」のように、「女性だけの国」のこととしして語られることが多い。これは「母系社会」の暗喩と、「風の神」による妊娠の暗喩でもあるし、通常の結婚ではない「犬祖」との結婚の暗喩でもあると考える。「風の神」とはミャオ族のアペ・コペンに相当する神である。「犬祖」とはヤオ族の槃瓠に相当する神である。古代の日本では犬神が風神も兼ねるように思う(「速飄神」を参照のこと。)
壮族の神々に漢字の表記のままの解釈をして良いか迷うのだが、「姆六甲」という字は「亀の女神」を連想させる。女媧が亀の足を、天地を修復する材料にした、という逸話もある。ただ、調べた範囲では姆六甲のトーテムが亀である、という情報が出てこなかったので、管理人の推測ということにとどめておく。
参考文献[編集]
- 百度百科:姆六甲(最終閲覧日:25-01-06)
- 風を受けて妊娠する。、『物語要素事典』(2021年4月15日改訂)、神山重彦、愛知学院大学(最終閲覧日:25-01-06)
- 【女護が島】『物語要素事典』(2021年4月15日改訂)、神山重彦、愛知学院大学(最終閲覧日:25-01-06)
関連項目[編集]
脚注[編集]
- ↑ 姆六甲.大辞海 [引用日期2020-11-17]