アステン
[要出典] 古代エジプトの神話において、アステン(Astennu)(またはAsten、Isten、Astes、Isdesと綴る)はトートに関連したヒヒに関係している。アステンは単にヒヒの形をとる神であって、トートの別の相であると言われていた。[1]この神は、デュアトにおける審判の場とされる炎の湖のまわりに立っている4匹のヒヒのうちの1匹であり、そのためにウテンヌ(Utennu)と関連付けられていた。[2][3]
アステンの名は死者の書の呪文17に登場する。その名は「月」を意味している。
ヒヒという単語は「犬頭の猿」という言葉と同じ意味である場合がある。この動物は古い時代に「現代的な神」として遠いヌビアの南の国からもたらされたと考えられているが、これが事実であるか否かは別として、サルが非常に早い時期からエジプト神話の中に認められることは事実である。[要出典]審判の場において、この神は「偉大なる秤」の支柱の上に座り、秤の針が目盛りの真ん中にきたときに、仲間のトートに報告することが役目であった。[4]
私的解説
エジプト神話の月神トートは、ヒヒの姿で現されることもある神であり、かつ「自力で石から生まれた」と言われる神でもある。大地を「地母神」という女神の化身として考えた場合、「石(あるいは岩)から生まれた」という表現は、婉曲的に「地母神から生まれた」ということを暗示しているのだが、古代の神話の中には、明確にどの母神から生まれた、ということを明かにせずに、
- 石(あるいは岩)から生まれた
と表現される神の一群があるように思われる。これは、
- 男神から生まれたテシュブ
というほど「男系」的な思想とは言えないように思うのだが、やはり女性(=地母神)に対する蔑視的な思想の表現の一形態とも言えると感じる。この神を信仰していた人々は、自分達の神を「女から産まれた」と言いたくないからこそ、このように表現したのではないだろうか。
また、これらの神の特徴は、名前も一貫せず、名前から性質が推し量れないという点で、やややっかいでもあると思うのである。例えば、アステン(Astennu)という名は太陽女神であるイスタヌやエスタンに近い名ではあるが、この場合は
- 猿神かつ月神
であることが全てであって、性別も男性であるし、太陽信仰という意味合いは非常に弱い神である。古代の神々には
- 石(あるいは岩)から生まれた(かつ/あるいは)
- 猿神である
という点に重点が置かれた神々もいるのである。この個性的な神の姿も機会があれば、徐々に紹介したいと考えるものである。
参照
- ↑ E・A・ウォリス・バッヂ、「死者の書(Book of the Dead)」、ケッシンガー出版(Kessinger Publishing)、2003、p.188
- ↑ デュアトとは古代エジプト人の考えていた死後の世界の一つで、人は死ぬとまずここに来て、生前の行いによりオシリスの裁きを受けると考えられていた。
- ↑ ウテンヌ(Utennu)とは知恵の神でトートに関連する神のようである。
- ↑ コルネリス・ペトリュス・ティーレ(Cornelis Petrus Tiele)、「エジプトとメソポタミアの宗教の歴史の比較(Comparative history of the Egyptian and Mesopotamian religions, tr.)」、J・バリンガル(J. Ballingal) [from Vergelijkende geschiedenis der oude godsdiensten, vol.1]. 1882, p 64 Google Books