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− | また、[[wikija:メソポタミア|メソポタミア]]における「Nin」という接頭辞は「T」という子音に置き換えられるため、[[ニヌルタ]]の「Nin」を「T」に置き換えると、「T-utu」となり、[[古代エジプト]]の[[トート]]と非常に近い名となる。[[ニヌルタ]]の「Utu」という音を優先させれば、テリピヌは太陽神に近い名となるが、「T-utu」という音を優先させて[[トート]]的に考えれば、月神とも成り得る名である。<br> | + | また、[[wikija:メソポタミア|メソポタミア]]における「Nin」という接頭辞は「T」という子音に置き換えられるため、[[wikija:ニヌルタ|ニヌルタ]]の「Nin」を「T」に置き換えると、「T-utu」となり、[[wikija:古代エジプト|古代エジプト]]の[[wikija:トート|トート]]と非常に近い名となる。[[wikija:ニヌルタ|ニヌルタ]]の「Utu」という音を優先させれば、テリピヌは太陽神に近い名となるが、「T-utu」という音を優先させて[[wikija:トート|トート]]的に考えれば、月神とも成り得る名である。<br> |
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* [[wikipedia:Hittite mythology|ヒッタイトの神話]] | * [[wikipedia:Hittite mythology|ヒッタイトの神話]] | ||
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2014年7月3日 (木) 17:49時点における最新版
テリピヌはヒッタイトの農業の神である。ヒッタイトの神話では、この神は天候神と豊穣神の息子とされている。
古代ヒッタイトにおけるテリピヌの神話は、彼が失踪すると、植物と動物に関わる全ての豊穣が失われれる、というものである。破壊と荒廃を止めるために、神々はテリピヌを探したが、見つけ出すことはできなかった。母女神であるハンナハンナはミツバチを送ってテリピヌを見つけさせた。ミツバチがテリピヌを刺して、蜜蝋を塗りつけると、テリピヌは怒り、世界を破壊し始めた。
最終的に、魔法の女神であるカムルセパが、黄泉の国の門番にテリピヌの怒りを与えることによってテリピヌは鎮まった。
他の文書では、テリピヌの怒りがわずかでも逃げ出さないように、それを入れた青銅の容器が黄泉の国へ送られるように祈るのは、死すべき定めの神官であったとされている。[1]
私的解説
ヒッタイトにおけるテリピヌは、「植物と動物に関わる豊穣神」であって、農耕文化の民族、牧畜文化の民族から、双方を併せた「豊穣神」として信仰されていたことが分かる。「眠っているテリピヌ」は芽吹く以前の「植物神(種)」の姿を模していると考えるのは分かりやすいのだが、どうやらこの古い農業信仰に、遊牧民的な信仰も習合しているようで、目覚めたテリピヌは「怒れる死神」としての性質をも発揮している。古代エジプトやメソポタミアの古い神話で「怒れる破壊神」とされるのは、獅子頭女神達やイナンナであり、夫神達は彼らを鎮めるための存在に過ぎないのとは対照的であると感じる。「怒れる神」が男神であるという形態は、サバジオス、ゼウス、ハーデースといったヨーロッパ的な神話との共通点であるので、テリピヌの起源も北方にあったことが示唆される。
しかし、テリピヌ神話では「神の怒り」を鎮めるために、いずれかの犠牲神を要求するのではなく、「怒り」のみを黄泉の国へ封印する、という神話へと変更が成されているようである。「怒り」を失うことで、テリピヌは農耕と牧畜双方の平等な「豊穣神」として立とうとしているように思える。もちろん、現実の祭祀では「テリピヌの怒り」を黄泉の国へ運ぶために、少なくとも動物の犠牲が捧げられたという可能性はあるが、それが「農耕文化への差別」という形で露骨に「植物神を餌として蔑む思想」が現れているギリシア神話とは、一線を画しているといえる。植物神に「犠牲」としての姿を強く要求する点では、ヒッタイトよりも新しい時代に誕生したはずのギリシア神話の方が、はるかにメソポタミアのイナンナ・ドゥムジ神話に近い思想を残しているように思える。
テリピヌ(Telipinu)の名は、「Teli-pi-nu」と分解でき、シュメールにおける農業と豊穣の男性神ニヌルタ(Ninurta)(またはニニブ(Ninib))の子音を逆から読んだ名である。(楔形文字は横書きであり、右から読むことも左から読むことも可能な文字であった。)テリピヌの名と性質は、おそらくシュメールのニヌルタ(ニニブ)に由来するのであろう。ニヌルタは男性神ではあるが、これはシュメール語の「太陽(Utu)」に「Nin」をつけた名であって、本来女神であったものが遊牧民的な男系文化の隆盛によって男性神に置き換えられたものであると思われる。そのため、「遊牧民の豊穣神(死神)」的な荒ぶる性質も持っており、その性質を犠牲神を捧げることなく「どう鎮めるのか」という点に、ヒッタイトにおけるテリピヌ神話には工夫がなされているように思う。ニヌルタの女性形はニサバという女神であるため、テリピヌの本来の姿はニサバの男性形であったともいえるであろう。
また、メソポタミアにおける「Nin」という接頭辞は「T」という子音に置き換えられるため、ニヌルタの「Nin」を「T」に置き換えると、「T-utu」となり、古代エジプトのトートと非常に近い名となる。ニヌルタの「Utu」という音を優先させれば、テリピヌは太陽神に近い名となるが、「T-utu」という音を優先させてトート的に考えれば、月神とも成り得る名である。
また、ニサバ(Nisaba)の「Ni」を「T」に置き換えれば、その名はテシュブ(Teshub)となる。男神であるテリピヌ、ニニブ(ニヌルタ)、テシュブはいずれもニサバに類する神々であり、遊牧民的な豊穣神としての性質を共通して持っていたことが分かる。要するにヒッタイトの神話におけるテリピヌは、テシュブの子神であると同時に、テシュブの別の姿ともいえる。ヒッタイトにおけるテシュブは雷神としての太陽神であり、かつ月神としても現される神である。そのように二重性のある性質も、もしかしたらメソポタミアのニヌルタに近い性質なのかもしれないと思う。
そもそも、ウトゥ(Utu)という太陽神の名は「(B)u-tu」から変化したもので、ヘバト(Hebat)の「He」を略した形といえる。シュメールにはウットゥ(Uttu)という織物の女神もいるため、「(B)u-tu」という子音構成で現される神は、男性系の場合とっじょせいけいの場合が存在する。この2つが、「K-B」という子音構成の太陽女神から発生したものであるとすると、「(B)u-tu」という子音構成に変化した時点で、男性神への作り替えが始まり、かつ「蛇神」としての性質も持ち始めた、ということになる。しかし、男性神には本来「月神」としての性質も存在するため、「男性の太陽神」には「太陽神(天候神)」かつ「月神」の二重の性質が混在することになり、ウトゥ(Utu)から更に作り替えられたニヌルタという男性形の豊穣神には、おそらくこの二重の性質が存在したものと思われる。ニヌルタは農業と狩猟の豊穣を司る神であったが、古代の西欧における「狩猟」とは「異なるトーテム獣を持つ氏族を狩る(すなわち「戦争」)」という意味も有しており、ニヌルタには、軍神としての性質もあった。このように、軍事も含めた「豊穣を司る神」としての性質は、ヒッタイトのテリピヌやテシュブに受け継がれているようである。
一方、ニヌルタに近縁性の高い神々には、古代エジプトのトート、メソポタミアのニサバ、ナブーのように、明確に
- 月神、書記の神、知恵の神(人類の運命を知る神)
として、共通の性質を持つ神々が存在している。こちらに発展した神群は、明確に「月神」とされ、太陽神としては現されないが、名前を辿っていくと、いずれも同じ太陽神に由来し、作り替えられた神であることが分かる。
ヒッタイトの神話におけるテシュブは「豊穣の牡牛」の姿で現される場合もあるが、軍神としての性質が強いため、メソポタミアのニヌルタ神が、豊穣神であるテリピヌと軍神であるテシュブに分けられたもので、テリピヌがテシュブと太陽女神の「子神」の位置に据えられたものといえよう。そのような点ではテリピヌもニヌルタ由来の「太陽神(天候神)」かつ「月神」の性質を受け継いだ神であり、西欧における”「農業の豊穣神」と「牧畜の豊穣神」を習合させた神”の形態の内の一つであり、双方が平等かつ台頭の立場にあるという点で、理想的な神の一つともいえるのではないだろうか。
本文中関連項目
関連項目
参照
- ↑ 「古代近東」、J.B.ピッカード、P.88