「月神について:ヒエログリフ」の版間の差分
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画像:y05-m.png|mn,y, セネト・ゲームの盤と駒 | 画像:y05-m.png|mn,y, セネト・ゲームの盤と駒 | ||
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画像:g007-horusfalse.png|g, 隼と男根? | 画像:g007-horusfalse.png|g, 隼と男根? | ||
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2014年3月7日 (金) 10:37時点における版
本項では古代エジプトにおける「月の神」について考察してみたい。地図を見てみると、古代エジプトにおける「月神信仰」は特に上エジプトにおいて盛んなようである。本項では主たる4柱の神について検討する。
クヌム(Khnum)について
羊頭のクヌム神は、ナイル川の上流エレファンティネ(現在のアスワン)の守護神とされ、ナイル川の増水を管理する神と考えられていた。その主なヒエログリフは以下の通りである。
表意文字
クヌムは平たい角を持つ羊神として表される
ドイツ語版wikipedia:Chnumよりメイン1:水瓶+鳥:
表記と発音が異なる
ドイツ語版wikipedia:Chnumよりメイン2:池+混沌の波+山
ドイツ語版wikipedia:Chnumより
水を管理する神だけあって、水、すなわち英語における「water」の「w」で現される「月」のヒエログラフが多く使われている。「月」を示すヒエログリフに「山」を意味する「m」が使用されるのは、エジプトにおける「月」が「水」や「水源」をも意味するため、「水源としての山」を意味するのであろう。古代エジプトの水源であるナイル川の水を管理する神に相応しいヒエログリフが選ばれている神といえる。
ミン(Min)について
ミン神は、本来農業の豊穣を示す神であったらしく、勃起した男根を伴う姿で描かれ、頭には羽をつけ、手には唐竿を持っている。男性の生殖能力と農業の豊穣性が結びつけられた信仰といえる。主にコプトスやアクミンで信仰された神である。ミンのヒエログリフは以下の通りである。
古王国時代(紀元前2686年頃 - 2185年前後)
ドイツ語版wikipedia:Min (Ägyptische Mythologie)より中王国時代(紀元前2040年頃 - 1782年頃)
ドイツ語版wikipedia:Min (Ägyptische Mythologie)より新王国時代(紀元前1570年頃 - 1070年頃)
ドイツ語版wikipedia:Min (Ägyptische Mythologie)より
ミン神は頭に羽をつけている姿で描かれるが、ヒエログリフにも鳥の姿が目立ち、月が「空を舞う鳥のようなもの」ともみなされていた信仰があったことが分かる。また、古い時代には「ミン」を示す言葉がヒエログリフの中には書かれず、それを意味する言葉が書かれるようになったのは新王国時代になってからのようである。古い時代のヒエログリフを言葉の通りに読むと「ルーグ」という言葉になる。かつてはそのように呼ばれていた月神もいたのかもしれないと考えると興味深いことである。
また、ミンのヒエログリフの中には、「人の運命を定める」という意味の「セネト・ゲーム」の文字が使われており、この神にはそのような性質も有していると考えられていたことを示している。
- G007-horusfalse.png
g, 隼と男根?
コンス(Khonsu)について
コンスは主にテーベやコム・オンボ等で信仰された月神である。古代エジプトの各都市には、それぞれの都市の主神、その妻神、その子神といった構成で神々が祀られていることが多かったように思うのだが、コンスは「息子としての月神」の地位にあるようである。
メイン
ドイツ語版wikipedia:Chonsより限定符
ドイツ語版wikipedia:Chonsより限定符
ドイツ語版wikipedia:Chonsよりピラミッド・テキスト
ドイツ語版wikipedia:Chonsより
コンスを構成するヒエログリフを見ると、「ウズラの雛」のヒエログリフが使われており、「子神」としてのコンスは「ひな鳥」のようなものとして考えられていたのではないかと推察される。また、葦用の植物のヒエログリフには、kh、m、sw、とさまざまな子音が割り振られているのだが、これを「sw」と読んだ場合には、「コンス」と読めるが、「m」と読んだ場合には、「クヌム」と読めることになり、上エジプトの月神であるクヌム神と、コンス神は、起源的に同一のものであったことが示唆される。古代エジプトの神々は都市によって守護神の構成が異なるため、各都市で守護神が編成される過程で、月神の一方はクヌム、一方はコンスに分かれたものなのではないだろうか。
トート(Thoth)について
トートは主にヘルモポリスで信仰された月神で、鴾の頭を持つ。ヘルモポリスは古代名をクヌムといい、月神信仰が盛んな土地であったようである。トートは知恵の神、書記の守護者、時の管理人等の様々な性質を有する神とされ、「知的な月神」としての面が強調されている。月が「時の管理者」であるという思想は太陰暦によるものである。知的な神トートは本来月の神ではなかったが、月の神と賭をして勝ち、時の管理権を手に入れて1年に新しく「5日」を付け加えたと言われている。要するに太陰暦から、より正確な太陽暦をもたらした神とされ、太陽暦の時代の新しい世代の月神がトートであるといえる。トートのヒエログリフは以下の通りである。
表意文字
ドイツ語版wikipedia:Thotより表意文字
ドイツ語版wikipedia:Thotよりメイン
ドイツ語版wikipedia:Thotより限定符
ドイツ語版wikipedia:Thotより限定符
ドイツ語版wikipedia:Thotより
トートを構成するヒエログリフを見ると、トート神を意味する鴾のヒエログリフ以外では、「食料としての月」を示す「t」の文字が目立つ。また、トートはジェフティとも呼ばれ、ウアジェト女神を示すコブラのヒエログリフも使用されている。ヘルモポリスは上エジプトと下エジプトの中間よりもやや下エジプトよりの場所にあるため、下エジプトの月女神ウアジェトの信仰が、トート信仰に大きく含まれているようである。
まとめ
古代エジプトの月神のうち、上エジプトのアスワンからテーベ付近で主に信仰されていたクヌム神とコンス神は、構成するヒエログリフの子音より、かつては同じ神であったことが推察される。この2神の名には「太陽」を意味する「kh」という子音が認められる。
テーベよりやや下流の地域では豊穣神としての性格を強調したミン神の信仰が盛んであったようである。
これが更に下流のヘルモポリスに至ると、「食料としての月」を強調したトート神が信仰されている。トートのヒエログリフの中には、ウアジェト女神を示すコブラが認められ、下エジプトの月女神が「鳥」で示されることの多い上エジプトの月神と習合していることが分かる。