「水の父:シュメール」の版間の差分

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シュメールにおいて、エンキ(<sup>D</sup>EN.KI(G))は地底の「淡水の海・アプスー(apsû、abzu)」に住んでいると考えられており、その海が地上の淡水の源であると考えられていた。
 
シュメールにおいて、エンキ(<sup>D</sup>EN.KI(G))は地底の「淡水の海・アプスー(apsû、abzu)」に住んでいると考えられており、その海が地上の淡水の源であると考えられていた。

2014年2月17日 (月) 00:13時点における最新版

Enkiに関するシュメール語について

エンキ(En - ki)
エンキ
作成年代が不明なので、エンキ以外の神の特定が難しいと感じるが、沈みゆく太陽神のために、エンキと地母神(おそらくニンリル)が境界の門を開く図と思われる。
イタリア語版wikipediaEnki
エスペラント語版wikipediaEnki
(紀元前1500-1100年)
主な言葉
 日本語   シュメール語   他国の言葉への形 
a-、ab-、aqb- ap-、aq-、ak-(英語)、
→pre- = ~前
av-(ヘブライ語)
ab、ab -、ba、ad ap-(英語)、av-(ヘブライ語)
植物 abu、abou
陽、光 ab-、ba-
豊穣神(主に女神) ba-、bau b-(英語)、v-
地、盛り土、小山、冥界 ki q-、c-、g-(シリア)
丘、山 Khu Hu、Chu、Shu?(フランス語的変化?)
-su、-zu、-du、d-、z-
神、(王) e-、en- de-(インド・ローマ)、j(a)-、y(a)-
月、原始の水、深淵、神 nan、
nin-
(神の接頭辞が多い。女神>男神)、
n-
nun(エジプト)
月、深淵 n-、m-、nm-、
ni-、ne-、nin-
nu-、meh-、min(エジプト)
ma-、me-(シュメール)、mo-

シュメールにおいて、エンキ(DEN.KI(G))は地底の「淡水の海・アプスー(apsû、abzu)」に住んでいると考えられており、その海が地上の淡水の源であると考えられていた。

アプスーについて

アペプ
(インヘルカウの墓壁画)
(紀元前1100年頃)
アピス(紀元前350年頃)

アプスーという言葉は、ab-zuと分解され、「水」+「神」という意味となる。この場合、「神」という言葉は語尾に付いている。dやzという言葉は印欧語の神の接頭辞としても使われるため、その起源はヨーロッパと思われる。印欧語族の故地は黒海周辺とされているため、その辺りが起源なのではないだろうか。

一方、ab-という言葉は、aが失われて、ba-あるいはbau-という接頭辞として使われる場合、太陽神(主に男性神)、豊穣神(主に女性神)として使われるようである。ただし、ヒッタイトのヘバト(Hebat)女神のように、女性神であっても太陽を意味する場合があり、本来は性による意味の差はなく、「豊穣の太陽」を示す言葉であったと推察される。印欧語族には古くから、「水の中の太陽」という概念がみられ、「太陽」と「水」は近いものであると考えられているようである。そのため、「b」のつく一群の言葉は、「豊穣の太陽」、「水」という両方の意味を持っているようである。

古代エジプト神話には、原始の水から生まれ、太陽の進行を邪魔しようとするアペプ(Apep、古典ギリシア語転記アポピス(Apophis))という蛇が存在する。また、アピス(Apis)といって、神の化身とされ、必要な際に川に沈められる犠牲とされる牡牛が存在した。

言葉の類似性から鑑みるに、「アプスー」が示す神は、地下と地上の淡水に関わる神で、犠牲獣を要求する「豊穣の太陽」であった蛇神であったことが示唆される。エジプトでは、この神は悪神として退治されており、蛇を殺すのは太陽神の化身としてみなされる猫である。すなわち、エジプトには、蛇が古い太陽神で、猫が新しい太陽神であるということを意味する神話が存在している。
一方、シュメールでアプスーが悪神とされることはない。

エンキについて

動物と戦う英雄を描いた円筒印章(左)とその印影。マリイシュタル神殿で発見、紀元前2600年頃のシュメール初期王朝時代、ルーブル美術館所蔵

エンキという言葉は「En-ki」とされ、「神」+「地(あるいは冥界)」という意味となる。アッカド語ではエア(Ea)とされ、E-aと分解すれば、「水」の「神」ということになる。

エンキは、その姿が魚で現されることが多く、その寺院では鯉の生贄が認められることから、少なくともその尾は鯉神であったことが示唆される。そのため、水の中に住むこととされたのであろうが、その尾と神話からみて、父神であると共に、犠牲とされる神であったことが分かる。彼は本来、アプスーに生きて住むというよりは、アプスーに食べられて、その胎内に住んでいる死んだ神といえよう。分かりやすく言えば、地の底の水の冥界に住む蛇神に、豊穣のために捧げられた犠牲の魚神といえる。


一方、図で見るとエンキの頭は山羊や鳥で示されることがある。[1]また、人の姿で現される時は、手に鳥を伴っているようである。シュメールの印章には、空に鳥が描かれており、これは太陽のことと思われる。中東地域では、ずっと時代が下るまで鳥が太陽の象徴とされ、それはゾロアスター教の太陽円盤に受け継がれているからである。要するに、図でみた場合、エンキの上半身は、犠牲獣あるいは鳥で描かれて、それは太陽を示すといえる。一方、下半身は魚であり、大地と冥界を象徴している。こうして見ると、エンキとは単純に「特定の何かを象徴する神」というより、本来は天と地と世界全体を象徴している神であったといえる。

メソポタミアから中東付近では、豊穣をもたらす天上の太陽神にab-やba-という言葉をつける場合がみられる(この言葉は水をも意味する)。エンキの名前には「b」という言葉はみられないが、エンキが住むとされる「アプスー」という言葉には、「ab-」という言葉が含まれる。要するに、本来、「天の太陽」を示す「アプスー」と、「地の太陽」を示す「エンキ」はその図が示す通り、一体のもので、

「アプスー」+「エンキ」

として、世界全体を示す創世の太陽であったのだ、と言葉と図の上からはそう受け取れるのである。では、「地底の淡水」を示す本来の言葉はなんだったのであろうか? アッカド語で、「深淵の神」としてのエンキ(エア)を指すときには、「Naqbu」と呼ぶ。これを「N-aqb-(z)u」とすれば、アプスーにN-をつけたものとなり、本来「深淵」を指す言葉はこの「N-」であったと推察される。

古代エジプト神話では、地底にある原始の水を「ヌン(Nun)とナウネト(Nunet)」と呼んだ。ヌンは男性、ナウネトは女性であって、一対で「原始の水」を意味する。これは、N-という接頭辞が「地底にある原始の水」を示す点と一致する。
一方、シュメールにおいては、ナウネト(Nunet)の配偶神にあたるヌン(Nun)の地位と役割が、形ある神話が誕生した時点で、エンキと混合かつ習合しているようである。そして、男性形の「Nun」という言葉は、月の神ナンナ(Nanna)に残されているようである。ナンナは、再生のために犠牲を必要としている神であるので、その点では、「豊穣の太陽」というよりは「子神である太陽シャマシュに豊穣を与える月の神」といえる。混沌の月神ナンナに捧げられたエンキは、ナンナを通して新しい太陽であるウットゥの誕生をもたらすものへと繋がるのである。[2]

ということは、エジプトのアペプも本来は、「天の太陽」という意味であったと思われる。その太陽を原始の水である月神に犠牲に捧げる、というのが本来の「蛇退治」の思想の起源の一つであったのではないだろうか。エジプトには太陽神ラーの再生を助けるメヘンという蛇神がおり、殺された蛇が、後に地底でラーを保護し、「新たな太陽の誕生を助ける蛇の神」となったものがメヘンなのだと思われる。犠牲となって捧げられたものは、「原始の月神」と一体となった、「死せる太陽」=「月神」ということになろう。

要するに、「アプスー・エンキ」として現される神は「生きた天の太陽神」であるが、「ナプスー・エンキ」としてその頭に「N-」という言葉がつくと、「死んだ水底の太陽(=月)」を示すこととなるのである。

シュメールと古代エジプトの言葉の上での比較図
地下の「混沌とした水」を「蛇」とみなす傾向が強いため、ヌンや、地下のエンキも本来は「蛇」で象徴されていたものが、時代が下るにつれて、蛙や魚に置き換わったものと思われる。

解説: ナンナは、天空にある時は「牡牛」で表象されるが、彼の図像は蛇の杖を持っているものがみられ、おそらく地下世界では蛇神であったと思われる。
また、バビロニアにおいてナンナーと呼ばれる神は、月の神であり、女神と男神の両方の場合があると考えられていたようである。おそらく、本来イナンナとナンナは同じ性質を持つ1対の双神であったのであろう。

外部リンク

参照

  1. 特に人の先祖と考えられる場合に、鳥頭で現されることがある。
  2. 一方、Nannaの女性形といえるイナンナ(Inanna)は豊穣の女神かつ金星の女神へと変更されており、こちらも「原始の水」の性質を内包しつつも、別のものへと変化している。
  3. 本項におけるシュメール語の解釈は必ずしもこちらと一致するわけではなく、管理人の独自研究が入っております。