'''スギ'''([[学名]](学名: ''Cryptomeria japonica'')は、ヒノキ科スギ亜科スギ属で常緑針葉樹である。主に本州以南の山地に生え、広く植林されている。
== 名前と分類 ==
スギの名の由来は、真直ぐの木「直木」から来ていると言われる(大和本草)。本居宣長は古事記伝神代七之巻にて、スギは傍らにはびこらず上へ進み上る木として「'''進木(ススギ)'''」が語源としており、「直木(スグキ)」は誤りであるとしている。漢字の「杉」は、日本ではスギのことを指すが、中国ではコウヨウザンのことを指す。中国では日本の杉の仲間を「柳杉」と呼ぶ。他にも「椙」の字の表記がある。「椙」はいわゆる国字であり、日本でしか通じない。太平洋側に産するものを「オモテスギ」、日本海側に産するものを「ウラスギ」と呼んで区別することがある<ref>平野隆久監修 永岡書店編, 1997, p286</rrefref>。
本種は単型であり、本種のみでスギ属 (''Cryptomeria''属) を形成する。科はヒノキ科に属する。ヒノキ科は中生代に登場した起源の古い植物群で、現在は日本のスギの他、アメリカ大陸のセコイア ''Sequoia sempervirens''、中国のメタセコイア ''Metasequoia glyptostroboides''、コウヨウザン ''Cunninghamia lanceolata'' などが遺存的に分布している。
中国浙江省の天目山に分布するヤナギスギ''Cryptomeria fortunei'' が日本のスギと同種であるという研究もある<ref>和書, 佐橋紀男, 渡辺幹男, 三好彰, 程雷, 殷敏, 1999, 中国の天目山と日本の屋久島・伊豆大島産のスギの遺伝的特性, https://doi.org/10.11334/jibi1954.45.6supplement2_630, 耳鼻と臨床, ISSN:0447-7227, 耳鼻と臨床会, volume45, issue:6Supplement2, pages630-634, doi:10.11334/jibi1954.45.6supplement2_630, CRID:1390282680477923456</ref>。スギの変種の一つカワイスギ''Cryptomeria japonica var. sinensis''ともされる<ref>スギ Cryptomeria japonica ヒノキ科 Cupressaceae スギ属 三河の植物観察, https://mikawanoyasou.org/data/sugi.htm, mikawanoyasou.org, 2022-03-17</ref><ref>河合杉はどんな植物?Weblio辞書, https://www.weblio.jp/content/%E6%B2%B3%E5%90%88%E6%9D%89, www.weblio.jp, 2022-03-17</ref>。
[[第二次世界大戦]]以前には[[台湾]]と[[朝鮮半島]]で植林されていたが、戦後は[[アゾレス諸島]]、[[レユニオン|レユニオン島]]、[[インド]]、[[ネパール]]で植林が続けられており、主に木材や[[防風林]]として利用されている第二次世界大戦以前には台湾と朝鮮半島で植林されていたが、戦後はアゾレス諸島、レユニオン島、インド、ネパールで植林が続けられており、主に木材や防風林として利用されている<ref>{{Cite web |date=2016-03-09 |url=, https://news.yahoo.co.jp/byline/tanakaatsuo/20160309-00055234 |title=, スギ花粉は世界中に舞っていた! |publisher=, 田中淳夫 |accessdate=, 2016-03-12 |deadlinkdate= }}</ref><ref>{{Cite web |date=2002-05-01 |url=, https://www.ffpri.affrc.go.jp/ftbc/research/kakonokouhousi/documents/22.pdf |title=, 林木育種センターだより(2000年1月) |format=PDF |page=1 |publisher=, page1, 林野庁・林木育種センター |accessdate=, 2016-03-12 |deadlinkdate= }}</ref>。
== 形態 ==
常緑針葉樹の高木{{sfn|<ref>田中潔|, 2011|p=109}}, p109</ref>。最大樹高は60[[メートル]] (m) 近くに達する{{sfn|<ref>田中潔|, 2011|p=108}}。典型的には明瞭な主幹を持ち樹形は[[円錐]]形、ただし株立ちするものもある。樹形はふつう細長く直立し、高さ50 mに達するものもあるが、生育条件などによっては幹が太くなる。[[屋久島]]の[[縄文杉]]は樹高25, p108</ref>。典型的には明瞭な主幹を持ち樹形は円錐形、ただし株立ちするものもある。樹形はふつう細長く直立し、高さ50 mに達するものもあるが、生育条件などによっては幹が太くなる。屋久島の縄文杉は樹高25.3 m、胸高周囲16.4 mに達し、推定樹齢は2000 - 7200年とされている<ref name="yakusugi">{{Cite web |date=2015-04-26 |url=, http://www.yakusugi-museum.com/data-yakushima-yakusugi/204-kyojyu.html |title=, 屋久杉巨樹・著名木 |publisher=, 屋久杉自然館 |accessdate=, 2016-03-12 |deadlinkdate= }}</ref>。
また大王杉は樹高24.7 m、胸高周囲11.1 m、推定樹齢3000年とされている<ref name="yakusugi" />。
[[樹皮]]は赤褐色で、成長した幹の樹皮は縦に長く裂け、帯状に剥げやすい{{sfn|樹皮は赤褐色で、成長した幹の樹皮は縦に長く裂け、帯状に剥げやすい<ref>平野隆久監修 永岡書店編|, 1997|p=286}}{{efn2|この生態を利用した皮むき[[間伐]]は、表皮を剥がすことで樹木中の水分を抜いて1年ほどで枯れさせる山林整備の手法である。}}, p286</ref><ref>この生態を利用した皮むき間伐は、表皮を剥がすことで樹木中の水分を抜いて1年ほどで枯れさせる山林整備の手法である。</ref>。若枝は褐色で無毛である{{sfn|<ref>鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|, 2014|p=245}}, p245</ref>。
[[雌雄同株]]。3月から4月に開花する{{sfn|雌雄同株。3月から4月に開花する<ref>田中潔|, 2011|p=109}}。[[雄花]]は長さ5[[ミリメートル]] , p109</ref>。雄花は長さ5(mm) くらいの[[楕円]]形で前年の枝先に密生する{{sfn|くらいの楕円形で前年の枝先に密生する<ref>田中潔|, 2011|p=109}}。[[雌花]]はほぼ球形で鱗片が密着し表面に小さな棘が出る。果期は10月{{sfn|, p109</ref>。雌花はほぼ球形で鱗片が密着し表面に小さな棘が出る。果期は10月<ref>田中潔|, 2011|p=109}}, p109</ref>。雄花の冬芽は楕円形の裸芽で、枝先に多数つく{{sfn|<ref>鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|, 2014|p=245}}, p245</ref>。雌花の冬芽は球形で多数の鱗片に包まれ、1個ずつつく{{sfn|<ef>鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|, 2014|p=245}}, p245</ref>。
[[葉]]は基部が枝に密着してらせんを描いてつき、葉身は先端が尖った鎌状の針形で{{sfn|葉は基部が枝に密着してらせんを描いてつき、葉身は先端が尖った鎌状の針形で<ref>平野隆久監修 永岡書店編|, 1997|p=286}}、枝全体としては一面に上向きの針を並べたようになる。[[表日本]]([[太平洋]]側)に分布する個体群と[[裏日本]]([[日本海]]側)に分布する針葉をはじめとする各部の形態が違うことはしばしば指摘され, p286</ref>、枝全体としては一面に上向きの針を並べたようになる。表日本(太平洋側)に分布する個体群と裏日本(日本海側)に分布する針葉をはじめとする各部の形態が違うことはしばしば指摘され<ref>[[四手井綱英]] (1957) 大阪営林局管内の天然生スギの系統の分布について. 日本林学会誌39(7), pp. 270 - 273. {{, doi|:10.11519/jjfs1953.39.7_270}}</ref>、分布地からそれぞれオモテスギ(表杉)、ウラスギ(裏杉)などと呼ばれる。ウラスギについては植物学者の[[中井猛之進]] 、分布地からそれぞれオモテスギ(表杉)、ウラスギ(裏杉)などと呼ばれる。ウラスギについては植物学者の中井猛之進 (1882 - 1952) が名付けたアシウスギ(芦生杉)という名前もよく使われる。これは[[京都大学]]の[[京都大学フィールド科学教育研究センター森林ステーション芦生研究林|芦生研究林]]で標本を採取したことに由来する。両者は別種ではないが変種程度の差があるとされ、中井はアシウスギに対し が名付けたアシウスギ(芦生杉)という名前もよく使われる。これは京都大学の芦生研究林で標本を採取したことに由来する。両者は別種ではないが変種程度の差があるとされ、中井はアシウスギに対し ''Cryptomeria japonica'' (L.fil.) D.Don var. ''radicans'' Nakai と変種名を与えている。
針葉の形状以外では樹形、樹冠の形状、葉横断面の形状<ref>高桑進・米澤信道・綱本逸雄・宮本水文 (2010) 日本列島におけるスギの分布状況と針葉の形態変化について. 京都女子大学宗教・文化研究所研究紀要23 {{hdl|:11173/1936}}</ref>、花粉重量<ref>齋藤秀樹・竹岡政治 (1987) 裏日本系スギ林の生殖器官生産量および花粉と種子生産の関係. 日本生態学会誌37(3), pp. 183 - 185. {{doi|:10.18960/seitai.37.3_183}}</ref>など様々な違い<ref>遠山富太郎 (1960) オモテスギとウラスギについて. 島根農科大学研究報告8, pp. 141 - 149. {{naid|:120005584288}}</ref>が指摘されている。また、後述のように生態面の違いも指摘されている。両者に現れる様々な形態の違いは日本海側の多雪環境に適応したものと解釈されることが多い。
深根性であり、根を深くまで伸ばす<ref>苅住昇一『樹木根系図鑑』誠文堂新光社、1979年</ref>。根系直径10[[ミリメートル]] (mm) の引き抜き抵抗力は、スギ、ヒノキと広葉樹(ナラ類)は100kgf程度、アカマツはその半分、カラマツは4割程度であり、スギは土砂災害に強い森林づくりに好ましい。根系直径10mmの引き抜き抵抗力は、スギ、ヒノキと広葉樹(ナラ類)は100kgf程度、アカマツはその半分、カラマツは4割程度であり、スギは土砂災害に強い森林づくりに好ましい<ref name="nagano-ringyo">{{Cite web |date=2002-05-01 |url=, http://www.pref.nagano.lg.jp/ringyosogo/seika/gijyutsu/documents/126-1.pdf |title=, 土砂災害に強い森林づくりに向けて |format=PDF |page=2 |publisher=[[, page2, 長野県]] |author=, 信州大学農学部森林科学科教授 北原曜 |accessdate=, 2016-03-12 |deadlinkdate= }}</ref>。しかし、植林するスギやヒノキの苗は挿し木によるクローン栽培が多く、{{要出典|範囲=挿し木は地中深くに伸びる直根が出てこないため(種から生産する[[実生]]苗には直根がある)、台風や大雨などによって簡単に倒れやすい|date=2016年3月}}<sup>''(要出典、挿し木は地中深くに伸びる直根が出てこないため(種から生産する実生苗には直根がある)、台風や大雨などによって簡単に倒れやすい、2016年3月)''</sup>。20世紀末頃からスギ山林の土砂崩れが多く聞かれるようになったことで、スギは根が浅いとの風説が語られるようになったが、これは戦後復興期から高度成長期にかけての木材供給不足時代に、元来崩れやすい急斜面や岩層上の表土が薄い箇所にまで植林を行ったことが原因であるともいわれる。
== 生態 ==
スギは常緑樹であるが、一般に葉の色は常に緑ではなく冬季には葉の色が赤褐色に変化し{{sfn|<ref>田中潔|, 2011|p=108}}、春には緑に戻るということを繰り返す。これは[[ロドキサンチン]]という色素によるものだとされており、[[光合成]]機能が低下する低温条件下で太陽光による障害(光阻害)を防ぐ効果があると見られている, p108</ref>、春には緑に戻るということを繰り返す。これはロドキサンチンという色素によるものだとされており、光合成機能が低下する低温条件下で太陽光による障害(光阻害)を防ぐ効果があると見られている<ref>向井譲 (2004) 低温条件下で樹木が受ける光ストレスとその防御機能. 日本林学会誌86(1), pp. 48 - 53. {{doi|:10.11519/jjfs1953.86.1_48}}</ref>。このような低温条件下での光阻害とその対応が種の分布を決める一因となっているとして、高山帯に分布する[[マツ科]]や[[ツツジ科]]を中心に研究が進んでいるという。このような低温条件下での光阻害とその対応が種の分布を決める一因となっているとして、高山帯に分布するマツ科やツツジ科を中心に研究が進んでいるという<ref>丸田恵美子・中野隆志 (1999) 中部山岳地域の亜高山帯針葉樹と環境ストレス (<特集>中部山岳地域の高山・亜高山帯における植物群落の現状と将来). 日本生態学会誌49(3), pp. 293 - 300. {{doi|:10.18960/seitai.49.3_293}}</ref><ref>宇梶徳史・原登志彦 (2007) Expressed sequence tags (EST)から見た樹木の越冬戦略. 日本生態学会誌57(1), pp. 89 - 99. {{doi|:10.18960/seitai.57.1_89}}</ref>。なお、スギの針葉の変色については冬でも変化せず緑色を保つものや、黄白色に変色するものなども知られる。緑色のままのものや黄白色に変化するという[[形質]]は赤褐色に変化するものに対して劣性形質であるとされる<ref>大庭喜八郎 (1972) メアサ,キリシマメアサおよびアオスギのミドリスギ劣性遺伝子. 日本林学会誌54(1), pp. 1 - 5. {{doi|:10.11519/jjfs1953.54.1_1}}</ref>
スギの[[根]]は[[菌類]]と共生し[[菌根]](mycorrhiza)を形成している。スギが形成する菌根は草本植物や熱帯の樹木に多いといわれる[[アーバスキュラー菌根]](arbuscular スギの根は菌類と共生し菌根(mycorrhiza)を形成している。スギが形成する菌根は草本植物や熱帯の樹木に多いといわれるアーバスキュラー菌根(arbuscular mycorrhiza, AM)と呼ばれるもので、温帯域で繁栄しているマツ科針葉樹や[[ブナ科]]広葉樹が形成する外生菌根(ectomycorrhiza)とは異なるものである。同一個体における菌根菌への感染率は季節を通じて常に一定ではなく変動があるというと呼ばれるもので、温帯域で繁栄しているマツ科針葉樹やブナ科広葉樹が形成する外生菌根(ectomycorrhiza)とは異なるものである。同一個体における菌根菌への感染率は季節を通じて常に一定ではなく変動があるという<ref>畑邦彦・木本遼太郎・曽根晃一 (2018) スギ成木および実生におけるアーバスキュラー菌根菌の感染率の季節変化. 日本林学会誌100(1), pp. 3 - 7. {{doi|:10.4005/jjfs.100.3}}</ref>。マツ科針葉樹ではしばしば[[アレロパシー]](他感作用)を持ちほかの植物の生育を阻害しているする報告がしばしばある。マツ科針葉樹ではしばしばアレロパシー(他感作用)を持ちほかの植物の生育を阻害しているする報告がしばしばある<ref>Il Koo LEE, Masami MONSI. (1963) Ecological Studies on ''Pinus densiflora'' Forest 1 -Effects of Plant Substances on the Floristic Composition of the Undergrowth-. The Botanical Society of Japan 76(905), pp. 400 - 413. {{doi|:10.15281/jplantres1887.76.400}}</ref><ref>高橋輝昌・鷲辺章宏・浅野義人・小林達明, (1998) 木本類における他感作用. ランドスケープ研究62(5), pp. 525 - 528. {{doi|:10.5632/jila.62.525}} </ref>が、スギでは特に知られていない。ただし、スギが混交するブナ科森林では[[外菌根|外生菌根]]を形成する菌根菌の種類が減少するという報告があるが、スギでは特に知られていない。ただし、スギが混交するブナ科森林では外生菌根を形成する菌根菌の種類が減少するという報告がある<ref>岡部宏秋,(1994) 外生菌根菌の生活様式(共生土壌菌類と植物の生育). 土と微生物24, pp. 15 - 24.{{doi|:10.18946/jssm.44.0_15}}</ref>スギが植えられた場所は[[カルシウム]]などの塩基が蓄積し土壌は塩基性に傾くという<ref>澤田智志・加藤秀正 (1991) スギおよびヒノキ林の林齢と土壌中の塩基の蓄積との関係. 日本土壌肥料学雑誌62(1), pp. 49 - 58. {{doi|10.20710/dojo.62.1_49}}</ref>。
スギは雪に強いのも生態的な特徴の一つになっている。特に多雪環境で進化したウラスギの系統は[[ブナ]](''Fagus crenata'')と並び日本のの樹木では最も多雪環境に対応したものの一つとされるスギが植えられた場所はカルシウムなどの塩基が蓄積し土壌は塩基性に傾くという<ref> 酒井昭 澤田智志・加藤秀正 (19771991) 植物の積雪に対する適応スギおよびヒノキ林の林齢と土壌中の塩基の蓄積との関係. 低温科学生物編34, pp. 47 - 78. {{hdl|2115/17828}}</ref>。更新は種子によるものの他に枝が接地したところから発根し個体を増やす[[取り木]]的な伏条更新を取ることで知られ、特にウラスギ系統は伏条更新の報告が多い<ref>平英彰, (1994) タテヤマスギの更新形態について. 日本林学会誌76(6), pp. 547 - 552. {{doi|10.11519/jjfs1953.76.6_547}}</ref><ref>川尻秀樹・安江保民・大橋英雄・中川一 (1989) 岐阜県板取村のカブスギ集団の実態. 日本林学会誌71(5), pp. 204 - 208. {{doi|10.11519/jjfs1953.71.5_204}}</ref>。これも多雪環境に対する適応とみられる。その反面冬季の低温と乾燥に対し日本海側のスギは太平洋側のものよりも弱いことが指摘されている<ref>武藤惇・堀内孝雄 (1974)スギ種子産地と寒害抵抗性. 日本林学会誌56(6), pp. 210 - 215. {{doi|10.11519/jjfs1953.56.6_210}}</ref>。多雪に適応するが乾燥や低温に弱く分布が限られるという事例はほかの植物であっても[[ユキツバキ]](''Camellia rusticana'')と[[ヤブツバキ]](''C. japonica'')の関係<ref>石沢進 (1985) 植物の分布と積雪―新潟県およびその周辺地域について―. 芝草研究14日本土壌肥料学雑誌62(1), pp. 10 - 23. {{doi|10.11275/turfgrass1972.14.10}}</ref>、[[ブナ属]]と[[コナラ属]]の関係<ref>[[中静透]] (2003) 冷温帯林の背腹性と中間温帯論. 植生史研究11(2), pp. 39 49 - 4358. {{doi|:10.3459620710/hisbotdojo.1162.2_39}}1_49</ref>などでもしばしば指摘される。。
土壌の表層があるような個所では実生の定着が悪く、秋までにほとんど死滅してしまうというスギは雪に強いのも生態的な特徴の一つになっている。特に多雪環境で進化したウラスギの系統は[[ブナ]](''Fagus crenata'')と並び日本のの樹木では最も多雪環境に対応したものの一つとされる<ref>冨沢日出夫・丸山幸平 酒井昭 (19931977) 佐渡島のスギ天然林における実生更新の可能性植物の積雪に対する適応. 低温科学生物編34, pp. 日本林学会誌7547 - 78. hdl:2115/17828</ref>。更新は種子によるものの他に枝が接地したところから発根し個体を増やす取り木的な伏条更新を取ることで知られ、特にウラスギ系統は伏条更新の報告が多い<ref>平英彰, (1994) タテヤマスギの更新形態について. 日本林学会誌76(6), pp. 547 - 552. doi:10.11519/jjfs1953.76.6_547</ref><ref>川尻秀樹・安江保民・大橋英雄・中川一 (1989) 岐阜県板取村のカブスギ集団の実態. 日本林学会誌71(5), pp. 460 204 - 462, {{208. doi|:10.11519/jjfs1953.7571.5_460}}5_204</ref>。特に屋久島や積雪地の個体群では実生の生存には倒木の存在が重要であることがしばしば指摘され。これも多雪環境に対する適応とみられる。その反面冬季の低温と乾燥に対し日本海側のスギは太平洋側のものよりも弱いことが指摘されている<ref>Eizi SUZUKI 武藤惇・堀内孝雄 (1974)スギ種子産地と寒害抵抗性. 日本林学会誌56(19966) The dynamics of old , pp. 210 - 215. doi:10.11519/jjfs1953.56.6_210</ref>。多雪に適応するが乾燥や低温に弱く分布が限られるという事例はほかの植物であっても[[ユキツバキ]](''Cryptomeria Camellia rusticana'')と[[ヤブツバキ]](''C. japonica'' forest on Yakushima Island)の関係<ref>石沢進 (1985) 植物の分布と積雪―新潟県およびその周辺地域について―. Tropics 6芝草研究14(41), pp. 421 10 - 42823. {{doi|:10.375911275/tropicsturfgrass1972.614.421}}10</ref>、ブナ属とコナラ属の関係<ref>太田敬之・杉田久志・金指達郎・正木隆 中静透 (20152003) スギ天然生林におけるスギ実生の分布と生存―出現基質間の比較―冷温帯林の背腹性と中間温帯論. 日本森林学会誌.97植生史研究11(12), pp. 10 39 - 1843. {{doi|:10.400534596/jjfshisbot.9711.10}}2_39</ref>、実生で更新する場合はいわゆる[[倒木更新]](nurse log)・切株更新を採る樹種であると見られている。などでもしばしば指摘される。
人工的には[[挿し木]]で増やすことも比較的容易とされておりスギの林業が盛んな地域は苗木生産の方法として実生によるものが盛んな地域と挿し木が盛んな地域に二分される。さし穂の発根率や生存率は品種によって異なる土壌の表層があるような個所では実生の定着が悪く、秋までにほとんど死滅してしまうという<ref>榎本善夫 冨沢日出夫・丸山幸平 (19491993) 挿スギに見られた根及び癒傷組織発達の林業品種による差異に就いて佐渡島のスギ天然林における実生更新の可能性. 東京大学農学部演習林報告37, pp. 11 - 18. {{hdl|2261/23336}}</ref><ref>宮島寛 (1951) スギの挿木に於ける発根と品種との関係に就て. 九州大學農學部學藝雜誌13(1/4) p.277-281. {{doi|10.15017/21238}}</ref>。発根困難種でも薬剤処理によってある程度改善されるという<ref>石川広隆・田中郁太郎 (1970) 発根困難なスギ精英樹のさし木に及ぼすインドール酪酸の効果. 日本林学会誌52日本林学会誌75(35), pp. 99 460 - 101. 462, {{doi|10.11519/jjfs1953.5275.3_995_460}}</ref>。特に屋久島や積雪地の個体群では実生の生存には倒木の存在が重要であることがしばしば指摘され<ref>大山浪雄・上中久子 (1970) 発根困難なスギ,ヒノキの精英樹のさし木に対するエクベロンEizi SUZUKI (インドール酪酸1996)の効果The dynamics of old ''Cryptomeria japonica'' forest on Yakushima Island. 日本林学会誌52Tropics 6(124), pp. 374 421 - 376428. {{doi|:10.115193759/jjfs1953tropics.526.12_374}}421</ref>。また、挿し床や挿し穂切り口付近の加温で発根率が向上するという報告がある<ref>阿部正博・今井元政・島田一美 太田敬之・杉田久志・金指達郎・正木隆 (19572015) 電熱温床によるスギ老令樹さし木試験スギ天然生林におけるスギ実生の分布と生存―出現基質間の比較―. 日本森林学会誌. 日本林学会誌3997(61), pp. 245 - 248. {{doi|10.11519/jjfs1953.39.6_245}}</ref><ref>武田英文 (1971) 伝熱温床による秋田スギさし木試験(会員研究発表講演). 日本林學會北海道支部講演集19, pp. 99 - 102. {{doi|1018.24494/jfshc.19.0_99}}</ref>。挿し木苗と実生苗では特に初期の成長に差が出ることがしばしば指摘されており、実生苗の方が成長が良いというものが多い。成長の差から積雪地では挿し木苗が不利であるとするものもある<ref>宮下智弘 (2007) 多雪地帯に植栽されたスギ挿し木苗と実生苗の幼齢期における成育特性の比較. 日本森林学会誌89(6), pp. 369 - 373, {{doi|:10.4005/jjfs.8997.369}}10</ref>。挿し木林業が盛んなところは九州や千葉県など比較的雪の少ない所に多い。、実生で更新する場合はいわゆる倒木更新(nurse log)・切株更新を採る樹種であると見られている。
耐塩性については品種、及び樹齢によって異なるとされる人工的には挿し木で増やすことも比較的容易とされておりスギの林業が盛んな地域は苗木生産の方法として実生によるものが盛んな地域と挿し木が盛んな地域に二分される。さし穂の発根率や生存率は品種によって異なる<ref>青木正則・石川春彦 榎本善夫 (19711949) 挿スギに見られた根及び癒傷組織発達の林業品種による差異に就いて. 東京大学農学部演習林報告37, pp. 11 - 18. hdl:2261/23336</ref><ref>宮島寛 (1951) スギ品種の耐塩性の差異についてスギの挿木に於ける発根と品種との関係に就て. 日本林学会誌53九州大學農學部學藝雜誌13(1/4) p.277-281. doi:10.15017/21238</ref>。発根困難種でも薬剤処理によってある程度改善されるという<ref>石川広隆・田中郁太郎 (1970) 発根困難なスギ精英樹のさし木に及ぼすインドール酪酸の効果. 日本林学会誌52(3), pp. 99 - 101. doi:10.11519/jjfs1953.52.3_99</ref><ref>大山浪雄・上中久子 (1970) 発根困難なスギ,ヒノキの精英樹のさし木に対するエクベロン(インドール酪酸)の効果. 日本林学会誌52(12), pp. 108 374 - 112376. {{doi|:10.11519/jjfs1953.5352.4_108}}12_374</ref>。また、挿し床や挿し穂切り口付近の加温で発根率が向上するという報告がある<ref>阿部正博・今井元政・島田一美 (1957) 電熱温床によるスギ老令樹さし木試験. 日本林学会誌39(6), pp. 245 - 248. doi:10.11519/jjfs1953.39.6_245</ref><ref>武田英文 (1971) 伝熱温床による秋田スギさし木試験(会員研究発表講演). 日本林學會北海道支部講演集19, pp. 99 - 102. doi:10.24494/jfshc.19.0_99</ref>。挿し木苗と実生苗では特に初期の成長に差が出ることがしばしば指摘されており、実生苗の方が成長が良いというものが多い。成長の差から積雪地では挿し木苗が不利であるとするものもある<ref>宮下智弘 (2007) 多雪地帯に植栽されたスギ挿し木苗と実生苗の幼齢期における成育特性の比較. 日本森林学会誌89(6), pp. 369 - 373, doi:10.4005/jjfs.89.369</ref>。挿し木林業が盛んなところは九州や千葉県など比較的雪の少ない所に多い。
スギの葉を好んで食べる昆虫はあまり知られていないが、[[スギドクガ]](''Calliteara argentata'')の幼虫が時に大発生し被害が大きい場合は成木でも枯死に至ることがあるという耐塩性については品種、及び樹齢によって異なるとされる<ref>古野東洲・中井勇・里見武志 青木正則・石川春彦 (19931971)スギドクガに食害されたスギの生育スギ品種の耐塩性の差異について. 日本林学会関西支部論文集2, pp. 193 - 196. {{doi|10.20660/safskansai.2.0_193}}</ref>。スギドクガは新葉より旧葉を好んで食べるという<ref>柴田叡弌・西口陽康 (1980) 大発生時のスギドクガ幼虫密度と被害葉量について. 日本林学会誌60日本林学会誌53(24), pp. 398 108 - 401112. {{doi|:10.11519/jjfs1953.6253.10_398}}4_108</ref>。シカやウサギなどもスギの葉を食べ、特に苗木に関しては問題になる。クマやシカが樹皮をはいでしまうことがある。。
スギは長寿の樹木である。寿命について[[屋久島]]に存在する[[縄文杉]]が樹齢7200年という説がしばしばいわれるが{{sfn|辻井達一|1995|p=44}}、縄文杉は中心部分が腐って消失しており年輪による測定ができないために推定値に留まる。スギの葉を好んで食べる昆虫はあまり知られていないが、スギドクガ(''Calliteara argentata'')の幼虫が時に大発生し被害が大きい場合は成木でも枯死に至ることがあるという<ref>古野東洲・中井勇・里見武志 (1993)スギドクガに食害されたスギの生育. 日本林学会関西支部論文集2, pp. 193 - 196. doi:10.20660/safskansai.2.0_193</ref>。スギドクガは新葉より旧葉を好んで食べるという<ref>柴田叡弌・西口陽康 (1980) 大発生時のスギドクガ幼虫密度と被害葉量について. 日本林学会誌60(2), pp. 398 - 401. doi:10.11519/jjfs1953.62.10_398</ref>。'''シカやウサギなどもスギの葉を食べ'''、特に苗木に関しては問題になる。クマやシカが樹皮をはいでしまうことがある。
スギは長寿の樹木である。寿命について屋久島に存在する縄文杉が樹齢7200年という説がしばしばいわれるが<galleryref>Cryptomeria japonica seedling in early spring.jpg|冬季は褐色に変色するスギの葉Swamps in Kitayama Sugi forestry in Seryō ravine 06.jpg|沢沿いに成立したスギ林New breed Dai Sugi 01.jpg|[[萌芽更新]]能力を活かした京都の「台杉」林業Kazo Aino River Natural Levee And Riparian Dune 2.JPG|参考:アカマツ林の林床。アレロパシーがあるとされ林床に植生が乏しいArbuscular mycorrhiza microscope.jpg|アーバスキュラー菌根Positive effects of arbuscular mycorrhizal (AM) colonization.png|アーバスキュラー菌根による効果の模式図辻井達一, 1995, p44</galleryref>、縄文杉は中心部分が腐って消失しており年輪による測定ができないために推定値に留まる。
スギは[[風媒花]]で、3 スギは風媒花で、3 - 4月の開花期は大量の[[花粉]]を飛散させる{{sfn|4月の開花期は大量の花粉を飛散させる<ref>平野隆久監修 永岡書店編|, 1997|p=286}}, p286</ref>。スギ花粉が長距離を飛ぶために遠くの産地のものを植えることは天然林の遺伝子汚染を引き起こしやすいとされる<ref>津村義彦(2012)日本の森林樹木の地理的遺伝構造(1)スギ(ヒノキ科スギ属). 森林遺伝育種1(1), pp. 17 - 22 {{doi|:10.32135/fgtb.1.1_17}}</ref>。
人工林においては過密に植えられた後、十分な間伐をせずに放置されたものも多い。理由としては商業用の需要の低下や材木としての搬出が困難な場合等による価値の低下によるコストの増加等が上げられる。この場合、密に広がった[[樹冠]]で光が遮られ、林床にはほとんどの植物が生存できなくなる。このような森林は遠目には緑に覆われているものの、実態は生物多様性に乏しいことから「[[緑の砂漠]]」などと呼ばれたりする。密に植えられているため他の樹種が容易に侵入できず、そのままの状態となりやすい(ただし竹は侵入する)。人工林においては過密に植えられた後、十分な間伐をせずに放置されたものも多い。理由としては商業用の需要の低下や材木としての搬出が困難な場合等による価値の低下によるコストの増加等が上げられる。この場合、密に広がった樹冠で光が遮られ、林床にはほとんどの植物が生存できなくなる。このような森林は遠目には緑に覆われているものの、実態は生物多様性に乏しいことから「緑の砂漠」などと呼ばれたりする。密に植えられているため他の樹種が容易に侵入できず、そのままの状態となりやすい(ただし竹は侵入する)。
=== 赤枯病と溝腐病 ===
赤枯病とそれに引き続いて発生する[[杉の溝腐病|溝腐病]]はスギの重要な病害である。溝腐病は致命的ではないものの、病変部に著しい変形をもたらすために、木材としての価値を著しく落とす。''Cercospora sequoiae''が関与しない溝腐病も報告されており、非赤枯性溝腐病と呼ばれる。原因菌は''Phellinus punctatus''であり、[[千葉県]]特産の山武杉が特に感受性の強いことで知られている{{要出典|date=2012年1月|}}であり、千葉県特産の山武杉が特に感受性の強いことで知られている<sup>''(要出典、2012年1月)''</sup>。
=== カミキリムシ ===
スギには何種類かのカミキリムシがつき、特にその幼虫が木材を食べることで知られている。その中でも特に2種、スギカミキリ(''Semanotus japonicus'')とスギノアカネトラカミキリ(''Anaglyptus subfasciatus'')は著しい材質低下をもたらし林業的に害虫と知られていることから、生態や対策が特に研究されている<ref>柴田 叡弌 (2002) スギカミキリのスギ樹幹利用様式(<特集>穿孔性昆虫の樹幹利用様式). 日本生態学会誌52(1), pp. 59 - 62. {{doi|:10.18960/seitai.52.1_59}}</ref><ref>伊藤賢介 (2002) スギカミキリに対するスギの抵抗性反応(<特集>穿孔性昆虫の樹幹利用様式) . 日本生態学会誌52(1), pp. 63 - 68. {{doi|:10.18960/seitai.52.1_63}}</ref><ref>斎藤諦 (1960) “とびくされ”に開係のある3種のカミキリムシ. 日本林学会誌42(12), pp. 454 - 457. {{doi| : 10.11519/jjfs1953.42.12_454}}</ref>
スギノアカネトラカミキリはスギでは尾根筋に生える個体が被害を受けやすく、逆にヒノキでは谷筋に生えるものが被害を受けるという<ref>長島啓子・土田遼太・岡本宏之・高田研一・田中和博 (2014) 三重県大台町におけるスギノアカネトラカミキリ被害と立地環境および成長との関係―立地環境に基づく林業適地の抽出にむけて―. 日本森林学会誌96(6), pp. 308 - 314. {{doi|:10.4005/jjfs.96.308}}</ref>
== 人間との関係 ==
=== スギ人工林と分収林 ===
{{main|分収林}}
日本における[[人工林]]は、スギとヒノキの2樹種だけで造営面積全体の約65%を占めており、スギが450万[[ヘクタール]] (ha) で最も多く、造林面積の40%を占め、県別では秋田県が1位である{{sfn|田中潔|2011|p=108}}。トドマツとカラマツが人工林の主力樹種の北海道でも、[[道南]]の[[渡島半島]]では「道南スギ」が広く植栽され主力樹種となっている<ref>{{Cite web|url=https://www.woodplaza.or.jp/information/dounansugi.pdf|title=道南スギの利用促進に向けた検討会報告書|accessdate=2022年6月16日|publisher=北海道林業・木材産業対策協議会}}</ref>。日本の[[林業]]を支えてきた樹種であり、ヒノキよりもスギのほうが山地の中腹以下で湿った場所が生育に適し、生長量も多く経済的に有利であるなど、その他さまざまな理由でスギ人工林が増えていった{{sfn|田中潔|2011|p=108}}。スギは春に大量の花粉を生産して風に乗せて飛散することから{{sfn|田中潔|2011|p=108}}、日本で起こる[[花粉症]]の原因植物の筆頭に挙げられている。スギの人工林では、よい材を育てるために、過密林を避けて成木の間引きが行われ、これを「間伐林」という{{sfn|田中潔|2011|p=109}}。