== 姿形 ==
巨体は星々と頭が摩するほどで、その腕は伸ばせば世界の東西の涯にも達した。腿から上は人間と同じであるが、腿から下は巨大な毒蛇がとぐろを巻いた形をしているという{{Sfnp|<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第1巻 6・3}}</ref>。底知れぬ力を持ち、その脚は決して疲れることがない<ref>ヘーシオドス、823行-834行。</ref>。肩からは百の[[蛇]]の頭が生え。'''肩からは百の蛇の頭が生え'''<ref>ヘーシオドス、825行。</ref>{{Sfnp|<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=第1巻 , loc第1巻 6・3}}</ref>、火のように輝く目を持ち、炎を吐いた<ref>ヘーシオドス、827行-828行。</ref>{{Sfnp|<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第1巻 6・3}}</ref>。またあらゆる種類の声を発することができ、声を発するたびに山々が鳴動したという<ref>ヘーシオドス、829行-835行。</ref>。古代の壷絵では[[鳥]]の翼を持った姿が描かれている。。古代の壷絵では鳥の翼を持った姿が描かれている。
== 怪物の父 ==
テューポーンは不死の怪女[[エキドナ]]を妻とし、数多くの怪物の父親になった。[[ヘーシオドス]]の『[[神統記]]』によればテューポーンの子供は[[オルトロス]]、[[ケルベロス]]、[[ヒュドラー]]、[[キマイラ]]だが、のちに多くの怪物がテューポーンとエキドナの子供とされた。[[アポロドーロス]]では[[ネメアーの獅子]]{{Sfnp|テューポーンは不死の怪女エキドナを妻とし、数多くの怪物の父親になった。ヘーシオドスの『神統記』によればテューポーンの子供はオルトロス、ケルベロス、ヒュドラー、キマイラだが、のちに多くの怪物がテューポーンとエキドナの子供とされた。アポロドーロスではネメアーの獅子<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第2巻 5・1}}、不死の百頭竜([[ラードーン]]){{Sfnp|</ref>、不死の百頭竜(ラードーン)<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第2巻 5・11}}、[[プロメーテウス]]の肝臓を喰らう不死の[[ワシ]]{{Sfnp|</ref>、プロメーテウスの肝臓を喰らう不死のワシ<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第2巻 5・11}}、[[スフィンクス|スピンクス]]{{Sfnp|</ref>、スピンクス<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第3巻 5・8}}、[[パイア]]{{Sfnp|</ref>、パイア<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 摘要 (E) 1・2}}、[[ヒュギーヌス]]においてはさらに[[ゴルゴーン]]や[[金羊毛]]の守護竜、[[スキュラ]]をもテューポーンの子供に加えている{{Sfnp|</ref>、ヒュギーヌスにおいてはさらにゴルゴーンや金羊毛の守護竜、スキュラをもテューポーンの子供に加えている<ref>ヒュギーヌス・松田ら|, 2005|loc=, 第151話}}</ref>。テューポーンはまた、多くの荒々しい風を生んだともいわれる<ref>ヘーシオドス、869行。</ref>。
== ゼウスとの死闘 ==
[[ファイル:Jebel Aqra (Kel Dağı, Mount Casius), 2008.jpg|thumb|200px|[[トルコ]]から見た{{仮リンク|カシオス山|en|Jebel Aqra}}。ゼウスとテューポーンが戦った舞台の一つと伝えられている。]][[ファイル:Corykian Cave, exterior aspect showing cave opening and mountain slope.JPG|thumb|200px|ゼウスが幽閉されたとされる[[デルポイ]]の{{仮リンク|コーリュキオン洞窟|en|Corycian Cave}}。]][[ファイル:Haemus.jpg|thumb|200px|ハイモス山(バルカン山脈)]][[ファイル:Valle del Bove (1999552567).jpg|thumb|200px|火を噴く[[エトナ山]]]]ゼウスら[[オリュンポス]]の神々は、[[ティーターノマキアー]]と[[ギガントマキアー]]に連勝し、思い上がり始めていた。ガイアにとっては[[ティーターン]]たちも[[ギガース]]たちも、わが子である。それゆえ、これを打ち負かしたゼウスに対して激しく怒りを覚えたガイアは、末子のテューポーンを産み落とした。テューポーンはやがてオリュンポスに戦いを挑んだ。ゼウスらオリュンポスの神々は、ティーターノマキアーとギガントマキアーに連勝し、思い上がり始めていた。ガイアにとってはティーターンたちもギガースたちも、わが子である。それゆえ、これを打ち負かしたゼウスに対して激しく怒りを覚えたガイアは、末子のテューポーンを産み落とした。テューポーンはやがてオリュンポスに戦いを挑んだ。
=== ヘーシオドス(神統記) ===
ヘーシオドスはテューポーンとゼウスの戦いの激しさを詳しく描いている。テューポーンの進撃に対し、ゼウスが[[雷鳴]]を轟かせると、大地はおろか[[タルタロス]]まで鳴動し、足元の[[オリュムポス]]は揺れた。ゼウスの雷とテューポーンの火炎、両者が発する熱で大地は炎上し、天と海は煮えたぎった。さらに両者の戦いによって大地は激しく振動し、冥府を支配する[[ハーデース]]も、タルタロスに落とされたティーターンたちも恐怖したという。ヘーシオドスはテューポーンとゼウスの戦いの激しさを詳しく描いている。テューポーンの進撃に対し、ゼウスが雷鳴を轟かせると、大地はおろかタルタロスまで鳴動し、足元のオリュムポスは揺れた。ゼウスの雷とテューポーンの火炎、両者が発する熱で大地は炎上し、天と海は煮えたぎった。さらに両者の戦いによって大地は激しく振動し、冥府を支配するハーデースも、タルタロスに落とされたティーターンたちも恐怖したという。
しかしゼウスの雷霆の一撃がテューポーンの100の頭を焼き尽くすと、テューポーンはよろめいて大地に倒れ込み、身体は炎に包まれた。この炎の熱気は[[ヘーパイストス]]が熔かした鉄のように大地をことごとく熔解させ、そのままテューポーンをタルタロスへ放り込んだしかしゼウスの雷霆の一撃がテューポーンの100の頭を焼き尽くすと、テューポーンはよろめいて大地に倒れ込み、身体は炎に包まれた。この炎の熱気はヘーパイストスが熔かした鉄のように大地をことごとく熔解させ、そのままテューポーンをタルタロスへ放り込んだ<ref>ヘーシオドス、840行-868行。</ref>。
=== アポロドーロス(ビブリオテーケー) ===
対してアポロドーロスはテューポーンとゼウスの戦いの全貌を次のように語っている。テューポーンはオリュムポスに戦いを挑み、天空に向けて突進した。迫りくるテューポーンを見た神々は恐怖を感じ、動物に姿を変えて[[エジプト]]に逃げてしまったという{{Sfnp|対してアポロドーロスはテューポーンとゼウスの戦いの全貌を次のように語っている。テューポーンはオリュムポスに戦いを挑み、天空に向けて突進した。迫りくるテューポーンを見た神々は恐怖を感じ、動物に姿を変えてエジプトに逃げてしまったという<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第1巻 6・3}}</ref>。それゆえ、エジプトの神々は動物の姿をしているともいわれる。
これに対し、ゼウスは雷霆や[[ダイヤモンド|金剛]]の鎌を用いて応戦した。ゼウスは離れた場所からは雷霆を投じてテューポーンを撃ち、接近すると金剛の鎌で切りつけた。激闘の末、[[シリア]]の{{仮リンク|カシオス山|en|Jebel Aqra}}へ追いつめられたテューポーンはそこで反撃に転じ、ゼウスを締め上げて金剛の鎌と雷霆を取り上げ、手足の腱を切り落としたうえ、[[デルポイ]]近くの[[コーリュキオン洞窟]]これに対し、ゼウスは雷霆や金剛の鎌を用いて応戦した。ゼウスは離れた場所からは雷霆を投じてテューポーンを撃ち、接近すると金剛の鎌で切りつけた。激闘の末、シリアのカシオス山(Jebel Aqra)へ追いつめられたテューポーンはそこで反撃に転じ、'''ゼウスを締め上げて金剛の鎌と雷霆を取り上げ、手足の腱を切り落としたうえ、デルポイ近くのコーリュキオン洞窟<ref group="注">コーリュキオン洞窟({{lang-grc-short|Κωρύκιον ἄντρον}}〈Kōrykion antron;コーリュキオン・アントロン〉、[[:en:Corycian Cave]])コーリュキオン洞窟((Κωρύκιον ἄντρον)〈Kōrykion antron;コーリュキオン・アントロン〉、Corycian Cave)</ref> に閉じ込めてしまう。そしてテューポーンはゼウスの腱を熊の皮に隠し、番人として半獣の竜女[[デルピュネー]]を置き、自分は傷の治療のために母ガイアの下へ向かった。に閉じ込めてしまう'''。そしてテューポーンはゼウスの腱を熊の皮に隠し、番人として半獣の竜女デルピュネーを置き、自分は傷の治療のために母ガイアの下へ向かった。
ゼウスが囚われたことを知った[[ヘルメース]]と[[パーン]]はゼウスの救出に向かい、デルピュネーを騙して手足の腱を盗み出し、ゼウスを治療した。力を取り戻したゼウスは再びテューポーンと壮絶な戦いを繰り広げ、深手を負わせて追い詰める。テューポーンはゼウスに勝つために運命の女神[[モイラ (ギリシア神話)|モイラ]]たちを脅し、どんな願いも叶うという「勝利の果実」を手に入れたが、その実を食べた途端、テューポーンは力を失ってしまった。実は女神たちがテューポーンに与えたのは、決して望みが叶うことはないという「無常の果実」であった。ゼウスが囚われたことを知ったヘルメースとパーンはゼウスの救出に向かい、デルピュネーを騙して手足の腱を盗み出し、ゼウスを治療した。力を取り戻したゼウスは再びテューポーンと壮絶な戦いを繰り広げ、深手を負わせて追い詰める。テューポーンはゼウスに勝つために運命の女神モイラたちを脅し、どんな願いも叶うという「勝利の果実」を手に入れたが、その実を食べた途端、テューポーンは力を失ってしまった。実は女神たちがテューポーンに与えたのは、決して望みが叶うことはないという「無常の果実」であった。
敗走を続けたテューポーンは[[トラーキア]]で[[バルカン山脈|ハイモス山]](バルカン山脈)を持ち上げてゼウスに投げつけようとしたが、ゼウスは雷霆でハイモス山を撃ったので逆にテューポーンを押しつぶし、山にテューポーンの血がほとばしった。最後は[[シチリア|シケリア島]]まで追い詰められ、[[エトナ火山]]の下敷きにされた。以来、テューポーンがエトナ山の重圧を逃れようともがくたび、噴火が起こるという{{Sfnp|アポロドーロス・高津|1953|loc=第1巻 6・3}}。ゼウスはヘーパイストスにテューポーンの監視を命じ、ヘーパイストスはテューポーンの首に[[金床]]を置き、鍛冶の仕事をしているという{{Sfnp|アントーニーヌス・安村|2006|loc=第28話}}。ただし、シケリア島に封印されているのは[[エンケラドス]]とする説もある。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|<references group="注"}}/>
=== 出典 ===
{{Reflist|2|
[[Category:巨人]]
[[Category:ユミル系]]
[[Category:肩蛇系]]
[[Category:水性動物系]]
[[Category:蛇]]