盤古が生まれたとき、天と地とは接しており非常に窮屈で暮らしづらかった。盤古は一日一日その背丈を伸ばしてゆくと共に天を押し上げて地と離し、一万八千歳のときに天地を分離したとされる<ref>出石, 1943, pp20-22, 71-74</ref>。
天地を分離した盤古についての記述が確認できる古い書物は、呉の時代(3世紀)に成立した徐整による神話集『三五歴紀』である。そこでは、天地ができる以前の、卵の中身のように混沌とした状態から盤古が出現したと記されている<ref group="私注">盤古が本来は「卵」から生まれた存在であったことを示唆する内容である。</ref>。また、4世紀後半に書かれた『述異記』あるいは『五運暦年記』(『繹史』収録)には、天地を分離した後に盤古は亡くなり、その死体の各部位から万物が生成されたと伝えられている<ref>袁, 鈴木, 1993, pp104-107</ref><ref group="私注">この辺り、本来の神話の内容が改変された可能性があるように思う。(「[[啓主義]]」参照のこと)</ref>。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
!盤古の部位!!左目!!右目!!息!!声!!四肢!!頭・五体!!脂膏!!血!!筋!!眉・髭!!髪・皮膚<ref group="注">皮膚に生えていたうぶ毛などをさすと考えられる。</ref><ref>伊藤, 松村, 1976, p11</ref>!!肉!!骨・歯牙!!精髄!!汗!!虫
|-
|『述異記』での記述||colspan="2"|日月||風||雷||-||'''四岳・五岳'''<ref group="注">秦や漢での俗説として『述異記』には、盤古の頭が東岳・腹が中岳・左臂が南岳・右臂が北岳・足が西岳なのであるという説を記している。</ref><ref>出石, 1943, p23</ref>||江海||-||-||-||草木||-||-||-||-||-
|-
|後代に設定された生成||日||月||風・雲||雷||大地の四極||五岳||-||河川||道||星||草木||田畑||金属||玉石||雨||人間
=== 神話の中での役割 ===
盤古は天地創造の神であり、時系列で考えれば人類創成の神とされる[[伏羲]]・[[女媧]]よりも前に存在したことになる。しかし、少なくとも文献による考察によれば盤古の存在が考え出されたのは、前述のごとく呉の時代(3世紀)であり<ref group="私注">これは盤古が文献に登場した時代に過ぎない、と感じる。</ref>、『史記』(前漢・紀元前1世紀)や『風俗通義』(後漢・2世紀)に記述がある[[伏羲]]・[[女媧]]など三皇五帝が考え出された時期よりも後の時代ということになる。民間伝承にその神話伝説、[[応竜]]生盤古など三皇五帝が考え出された時期よりも後の時代ということになる。民間伝承にその神話伝説、応竜生盤古<ref>『華商報』「應龍生盤古的傳說」</ref>。
天地を押し上げて分離させる点が[[マオリ]]神話の[[タネ・マフタ]]に、体からさまざまなものが創造される点がインド神話の[[プルシャ]]に類似していることなど<ref>出石, 1943, pp20-22, 71-74</ref>が指摘されているほか、インドシナ半島の神話伝説にも盤古神話と類似した内容のものが確認されている。天地万物のつくられ方の類似から、インドに伝わる『リグ・ヴェーダ』の原始巨人[[プルシャ]]が伝播したものだ、という学説もある。
=== 盤古と牛について・私的考察 ===
チベット語族の伝承には、牛を殺して世界を作った、という盤古神話に類似した話があるチベット語族の伝承には、'''牛'''を殺して世界を作った、という盤古神話に類似した話がある<ref>[https://eastasian.livedoor.blog/archives/1946161.html 牛(1) 創世神牛]、神話伝説その他、eastasian、00-03-01(最終閲覧日:22-10-11)</ref>。また、重慶市には「盤牛王」という地名があるようなので、かつては盤古は牛である、という伝承が牛神信仰の強い中国南部にはあったのかもしれない、と思う。盤牛王の世界創世神話はそこから日本に伝播したのであろう。牛神であれば、[[炎帝神農|炎帝]]や[[蚩尤]]との関連姓も示唆される。北欧神話では盤古に相当する巨人[[ユミル]]を倒したのはオーディンとされる。
== 日本の文献での盤古(盤牛王) ==
日本における盤古についての記述には、陰陽道の文献のひとつである『簠簋内伝』(ほきないでん)<ref>村山, 1981, pp330-340, 410</ref>あるいは雑説や説話を多く収録している文献『榻鴫暁筆』に見られる'''盤牛王'''(盤牛大王とも。『榻鴫暁筆』では盤古王<ref>『榻鴫暁筆』, 1992, pp36-37</ref>)の話が確認出来る。また、能楽の文献である『八帖花伝書』などにも土用の間日に関する記述の起原として類似傾向の説話が書かれている<ref>村山, 1981, pp398-399</ref>。[[スサノオ|素戔嗚尊]](すさのおのみこと)と習合されていたり、仏典など各種の説話と混成されたりしており、中国神話を直接とったものではない特殊なものであるといえる<ref>脇田, 1991, pp4-7</ref>。その内容は以下のようなものである。
:天は初めにはその形が無く地もまたその姿かたちを持ってはいなかった。その様子は鶏卵のように丸くひとかたまりであった(宇宙卵生説)。この天地の様態のことを「最初の伽羅卵」という。この時、計り知れない大きさの蒼々たる天が開き、広々とした地が闢いた。そして、これら天地に生まれた万物を博載することの限りなさは想像すらできない。盤牛王はその世界の原初の人であった。その身の丈は十六万八千由旬であり、その円い顔を天となし、方形の足を地となした。そりたつ胸を猛火とし、蕩蕩たる腹を四海となした。頭は阿迦尼吒天に達し、足は金輪際の底獄に、左手は東弗婆提国に、右手は西瞿陀尼国にまで届いた。顔は南閻浮提国を覆い、尻は北鬱単越国を支えた。この世の万物で盤牛王から生じなかったものは一切ない。彼の左目は太陽となり、右目は月となった。その瞼を開けると世界は染明け、閉じると黄昏となった。彼が息を吐くと世界は暑くなり、吸うと寒くなった。吹き出す息は風雲となり、吐き出す声は雷霆となった。彼が天に坐すときは「大梵天王」といい、地に坐すときは「堅牢地神」と呼ぶ。さらに迹不生であるをもって「盤牛王」、本不生であるをもって「大日如来」と称するという。彼の本体は龍であり、彼はその龍形を広大無辺の地に潜ませている。四時の風に吹かれ、その龍形は千差万別に変化する。左に現れると青龍の川となって流れ、右に現れると白虎の園を広しめ、前に現れると満々たる水を朱雀の池に湛え、後ろに現れると玄武の山々を築いてそびえ立つという(四神相応)。また、彼は東西南北と中央に宮を構え、八方に八つの閣を開いた。そして五宮の采女を等しく愛し、五帝竜王の子をもうけたとされる。天は初めにはその形が無く地もまたその姿かたちを持ってはいなかった。その様子は鶏卵のように丸くひとかたまりであった(宇宙卵生説)。この天地の様態のことを「最初の伽羅卵」という。この時、計り知れない大きさの蒼々たる天が開き、広々とした地が闢いた。そして、これら天地に生まれた万物を博載することの限りなさは想像すらできない。'''盤牛王'''はその世界の原初の人であった。その身の丈は十六万八千由旬であり、その円い顔を天となし、方形の足を地となした。そりたつ胸を猛火とし、蕩蕩たる腹を四海となした。頭は阿迦尼吒天に達し、足は金輪際の底獄に、左手は東弗婆提国に、右手は西瞿陀尼国にまで届いた。顔は南閻浮提国を覆い、尻は北鬱単越国を支えた。この世の万物で盤牛王から生じなかったものは一切ない。彼の左目は太陽となり、右目は月となった。その瞼を開けると世界は染明け、閉じると黄昏となった。彼が息を吐くと世界は暑くなり、吸うと寒くなった。吹き出す息は風雲となり、吐き出す声は雷霆となった。彼が天に坐すときは「大梵天王」といい、地に坐すときは「堅牢地神」と呼ぶ。さらに迹不生であるをもって「盤牛王」、本不生であるをもって「大日如来」と称するという。彼の本体は龍であり、彼はその龍形を広大無辺の地に潜ませている。四時の風に吹かれ、その龍形は千差万別に変化する。左に現れると青龍の川となって流れ、右に現れると白虎の園を広しめ、前に現れると満々たる水を朱雀の池に湛え、後ろに現れると玄武の山々を築いてそびえ立つという(四神相応)。また、彼は東西南北と中央に宮を構え、八方に八つの閣を開いた。そして五宮の采女を等しく愛し、五帝竜王の子をもうけたとされる。
室町時代の神道家吉田兼倶も著書に盤古について記述しており<ref>中国起源の神 -盤古-, https://hdl.handle.net/10487/5214, 廣田 律子, 2009, 国際経営論集, volume37</ref>、『神道大意』では、盤古王は彦火々出見尊の治世に生まれたと記している<ref>『[https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/992876/13 神道叢説]』 「神道大意」国書刊行会 p.11(国立国会図書館)</ref><ref>『[https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1224160/25 国民思想叢書. 神道篇]』 加藤咄堂 編 国民思想叢書刊行会 p.20</ref>。
* 三郎王子 秋を支配する。
* 四郎王子 冬を支配する。
* 五郎王子 兄弟間の戦の結果、四季の土用と滅日・没日・大敗日、そして[[閏]]の期間を支配することとなる。五郎王子 兄弟間の戦の結果、四季の土用と滅日・没日・大敗日、そして閏の期間を支配することとなる。
これ以外に、竈(かまど)の神をまつる『土公神祭文』でも、盤古大王の子供たちが争い、五郎王子が竈の神となったという展開が見られる<ref>村山, 1981, pp398-399</ref>。
== 私的考察・盤古から須佐之男命へ 私的考察 ==eastasian氏のブログから、ロッバ族の伝承のみ引用させて頂く。盤古は[[黄帝]]を神格化した姿の一つと考える。[[槃瓠]]とも同じものであろう。
<blockquote>ロッパ族<br />大地の母が三匹の神牛を生んだ。長男は火神牛、次男は鉄神牛、三男は土神牛で、お互いに争った。ある時火神牛が鉄神牛を飲み込んだ。鉄神牛が死んだ後その毛は草木に変化し、骨は石や山脈に、血液は河に、内臓は動物や昆虫になった<ref>盤古のトーテムを[https://eastasian.livedoor.blog/archives/1946161.html 牛(1) 創世神牛[牛]]とする向きがあるのは、一つには黄帝の属性が「土」にあり、農耕神としての性質が[[黄帝]]にあるので農耕に重要な[[牛]]がトーテムに割り振られたのではないか、という理由があるように考える。もう一つは、[[炎帝神農|炎帝]]や[[蚩尤]](火神)のトーテムに「[[牛]]」があるので、[[黄帝]]と[[炎帝神農|炎帝]]を習合させるために敢えて[[黄帝]]型の神に[[牛]]をトーテムとして割り振ったのではないか、と思う。盤古を[[牛頭天王]]、神話伝説その他、eastasian、00-03-01(最終閲覧日:22-10-11)</ref>。</blockquote>と結びつけようとした日本の『簠簋内伝』は後者の典型ではないだろうか。
他に、北欧神話のように神が牛神を殺して世界を創造したという話もあり、全体としては、盤古神話は、盤古の起源としては[[炎黄闘争ミャオ族]]が更に発展して、の神[[黄帝アペ・コペン]]がが挙げられるように思う。[[炎帝神農|炎帝伏羲]]を殺して、・[[炎帝神農|炎帝女媧]]の死体から世界を創造した、という形になったものと考える。[[炎帝神農|炎帝]]は牛神でもあり巨人でもあったのであろう。これは[[蚩尤]]のこととしても同じである。ロッパ族の伝承では、長男が「火神」となっており、これは中国神話で言うところの[[祝融]]であると思う。牛神同士で殺し合うところは、[[禹]]や[[李氷]]のように、水神同士で殺し合って治水を行う神話と関連するように思う。特に、火神牛は[[祝融]]でもあり、[[李氷]]に相当するのではないか、と思う。鉄神牛は[[蚩尤]]に相当するのであろう。型神話の「父親」に相当するこの神は伝承によって死ぬ場合と死なない場合があるのだが、死ぬ場合は地上に墜落して'''バラバラになって'''亡くなる。彼の神格化が進んで、
古代の遙か昔、1万年も前には、炎帝型の水神が治水を行う、とされていて、それが炎黄闘争を経て、黄帝が治水を行う、とされ、それが更に時代が下って神話が改変され、炎帝型の神が黄帝のように水神を倒して治水を行う、という形式に神話が纏められていく過程で、それが「世界の創造神話」にまで発展していったことが示唆されると考える。バラバラになった父神から(雷神によって破壊された)世界が新生された
日本神話では、という神話に変化し、盤古が誕生したものではないだろうか。インド神話の[[須佐之男命プルシャ]]はその体から樹木が生えていたりして、盤古から変じたものであることが示唆される神である。また、[[須佐之男命]]は地上に降りた後、いつの間にか黄泉の国に住んでおり、いつの間にか「死んでいる」ことが示されている。それは[[須佐之男命]]が死した盤古であり、世界に化生したことを暗示しているし、盤古が牛神であったので、[[須佐之男命]]も牛神である、と考えられたのではないだろうか。日本神話では[[須佐之男命]]は死んでも生きているように活動している「鬼」であり、これが時代が下ると新たに「午頭天皇」というやはり牛つながりの神へと変化していくように思われる。は盤古に類似した神と考える。
== 参考文献 ==
== 関連項目 ==
* [[盤瓠アペ・コペン]]:[[ミャオ族]]の父、といえる神。** [[ハイヌウェレ型神話黄帝]]:盤古と起源を同じくすると考えられる神。* [[ティアマトグミヤー]]* :プーラン族の[[プルシャ黄帝]]* かつ[[ユミル羿]]* 。太陽は女神とされる。男神は'''月'''である。* [[須佐之男命プルシャ]]''':日本の盤古といえる。:[[黄帝型神]]と思われる。 === 樹木化生 ===
* [[桂男]]
* [[扶桒樹]]
* [[燭陰]]:目が天体と関連する点が盤古と一致する。
* [[河伯]]:太陽相の目を失った神。
{{DEFAULTSORT:はんこ}}
[[Category:中国神話]]
[[Category:炎帝型神日本神話]][[Category:太陽神]][[Category:月神黄帝型神]]
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