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* '''神霊''':古代中国は一神教の世界ではないと思うので、饕餮は多神教の神の一つ、あるいは神よりもやや位が低い精霊や死者の霊である鬼である可能性がある。祭祀において、このような立場から何らかの役割があるからこそ、玉鉞や青銅器の鼎にその姿が描かれるのであろう。
** '''雷神(鳥神)''':良渚文化の饕餮文は、頭部に「羽毛があり、足指が3本あり、'''蹴爪'''のついた」人獣形を伴うことがある。これは鳥がモデルとなった、何らかの合成獣的神霊の姿と思われる。「蹴爪のついた鳥」といえば、'''雉'''あるいは'''鶏'''が代表的であると思う。長江流域では雉は「悪しき鳥」として表される場合がある。苗族は蘆笙会という祭祀で白い雉の羽を頭につけると言われる。これは彼らの先祖が悪しき雉に勝利した証拠とのことである<ref>村松一弥『苗族民話集』平凡社、1974年、p67-70。</ref>。鶏は太陽を呼び覚ます鳥であり、雷神とも考えられることがある。イ族の一部には鶏冠を模した「鶏冠帽」を民族衣装に持つ人々がいる<ref>桃田弥栄子『中国の伝承曼荼羅』三弥井書店、1999年、p8。</ref>。
** '''上帝(北斗神、[[天狗(中国)|天狗]])''':これはおそらく雷神から分かれたものではないだろうか。
** '''太陽神''':鳥は時に「太陽鳥」として太陽そのものとみなされることがある。
** '''月神''':月には樹木が生えている、と古代中国では考えられていた。これも月神の一種と言えるのではないだろうか。また「[[天狗(中国)|天狗]]は月の邪神である」という説もある。
** '''河伯''':中国で人身御供を求める代表的な神霊といえる。
** '''祖霊''':これも死者の一種なので「鬼」に含まれるかもしれないが、祖先の霊を特別視する文化は古代中国に存在したし、周辺のアジア地域、西欧世界まで広くみられる習慣である。苗族は現代的・政治的な思想が根源にあるとしても、蚩尤を先祖と考えている。
** '''巨人''':「巨人」は各地の神話・伝承で英雄に倒される典型的な架空の怪物である。時に、世界の原材料となったり、天地を分けたり、天地の間を支えたりする。開拓を行うこともある。台湾の神話では織女を殺す。
* '''自然物・自然現象''':自然というものは、古代の人々には未知な部分が多く、神霊と同様、容易に触れがたいものであったのではないだろうか。
** '''雲''':「入道雲」というように、雲が擬巨人化される概念があると思われる。
** '''山''':伝承上では山も巨人と関連が深い。
** '''岩''':岩は巨人が変化したものである、という伝承がある。
* '''建造物'''(架空のものを含む)
** '''橋''':台湾の神話では、橋が巨人とされる場合がある。橋の建築の際に人柱を建てることは、近世に至るまで日本では見られた。
* '''シャーマン''':鼎は神や祖霊に捧げる生け贄を煮る鍋であるので、子孫である祭祀者と神々や祖霊を結ぶ「媒介」の役割を果たすと考える。人間の中で神々と交流できる特別な存在を「シャーマン」と定義できると思う。シャーマンは霊的には神霊に近いかもしれないが、れっきとした「生きた人間」で、実体を確実に持っていて誰でも確認できる、という点で神霊とは異なる。
** '''王・皇帝''':古代中国の王あるいは皇帝はシャーマンでもあった。饕餮が「生きて」いた時があったとすれば、シャーマンや王といった存在だった可能性があるように思う。
* '''鳥''':イヌワシ等の鳥の要素を含んでいる。
** '''雉''':苗族の伝承では、余所の伝承で「巨人」に相当するものが雉である。
* '''[[天狗(中国)|狼(ヤマイヌ)]]''':苗族の伝承では、日月乙女たちを襲うのはヤマイヌである。
* '''犠牲獣''':饕餮は牛や羊などといった要素を含むが、これらは人間にとって食料でもあるし、生け贄に捧げる動物でもある。饕餮は何でも食べるかもしれないが、食べられるものの要素も含んでいる。
* '''植物''':特に農作物の収穫の一部を「神に捧げる」という祭祀を行う習慣も世界各地に広くあるように思う。饕餮が食べられるものの要素を含んでいるのなら、植物の要素も含まれるのではないだろうか。
大渓文化は、モン・ミエン系民族が担い手であったと考えられる<ref>Li, Hui; Huang, Ying; Mustavich, Laura F.; Zhang, Fan; Tan, Jing-Ze; Ling-; Wang, E; Qian, Ji; Gao, Meng-He; Jin, Li (2007). "Y chromosomes of prehistoric people along the Yangtze River". Human Genetics 122 (3-4): 383–388. doi:10.1007/s00439-007-0407-2. {{PMID|17657509}}.</ref>。
大渓文化の代表的な遺跡である城頭山遺跡の城内からは、建築材料としてフウの木が多く出土しており、人々がフウの木に特別な感情を抱いていたことが分かる。大渓文化の代表的な遺跡である城頭山遺跡の城内からは、建築材料としてフウの木が多く出土しており、人々がフウの木に特別な感情を抱いていたことが分かる<ref>梅原猛,安田喜憲共著 長江文明の探求, 2004, 2004年10月30日, (株)新思索社, p186-192, isbn:4-7835-1188-8</ref>。
モン・ミエン系民族であるミャオ族は、'''フウの木が先祖である'''、という伝承を持っており、黔東南では、13年に一度の大きな祖先祭祀であるノン・ニュウを父系氏族 (clan) が合同して行い、大量の水牛や豚を供犠して祖先を祀る。ノンとは「食べる」、ニュウは「鼓」の意味で、'''祖先の霊魂が宿るとされる楓香樹'''から作った木鼓をたたいて、祖先の霊を呼び戻して交流する。
管理人的にとっては余談的だが、もしも、現在のミャオ族の考えのように、蚩尤を頭目とする集団が北方から長江流域に移動してきたのだとすれば、それは大渓文化よりも更に昔の話、紀元前5000年よりも古い時代の話ということになりはしないだろうか。そのような時代に、集団の移動が存在した、というなにがしかの史料があれば、ミャオ族の主張の裏付けになると思われるのだが。
 
=== 長江文明の饕餮文感 ===
良渚文化の饕餮文に顕著であるが、特に以下のような「特性」があるように感じる。黄河文明と共通した性質もあるかもしれない。
 
* 目が大きく強調されている。
* 人に近い顔で表現される場合には口も大きく強調されている。
* 人型が上下に2重になっている姿で表現される場合がある。
=== 河姆渡文化 ===
[[画像:Hangzhou.jpeg|thumb|350px|図1,猪紋黒陶鉢<br />新石器時代(河姆渡文化)、1977年浙江省余姚河姆渡文化遺跡出、陶器、高さ11.7cm、口径21.7cm、底径17.5cm、浙江省博物館所蔵<ref>[http://abc0120.net/words/abc2007070901.html 猪紋黒陶鉢]、考古用語辞典、07-07-09</ref>]]
蚩尤は死して植物(楓)に化生する植物神であるので、饕餮もその性質が被っていると思われる。「猪紋黒陶鉢」は猪の紋様の中に植物の葉と「目」が見られ、おそらくこの猪は「雄」と思われるが、植物を内包している。猪を生け贄として、その中にある「植物の精」のようなものを、能力のある者が取り出せば、それが植物となって発芽し、植物の豊穣をもたらす、と考えられたのではないだろうか。そのように考えれば、蚩尤あるいは饕餮は河姆渡文化の猪紋黒陶鉢は「'''猪の体内に2つの目と植物の葉が存在する'''」という図が示されている。* 通常の猪には存在しない'''目'''が強調されている。植物の霊的な種を内包した獣神* 獣と植物が一体化されており、合成獣の一種である。蚩尤が動物となったり、植物となったりする点と類似している。* 文献によれば、饕餮は頭上に猪を抱いているという。猪であるという点が饕餮と一致している。といえる。彼は「植物の父」であるが獣でもある。これらの3点より、管理人は猪紋黒陶鉢の文様は「'''饕餮文の一種'''」であると考える。「首だけの饕餮文」が王権と密接に関連するとした場合、河姆渡文化はまだ父系的な王権の発生に至らない文化なので、「饕餮文とは首だけの人獣面である」という厳格な規定はまだ発生していなかったのかもしれないと考える。
=== 良渚文化 ===

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