==外科的処置と動物福祉==
=== 断角/除角 ===
牛は、飼料の確保や社会的順位の確立等のため、他の牛に対し、角を用いて争うことがある。そのため牛舎内での高密度の群飼い(狭い時で1頭当たり5m前後<ref name=":1">http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/, 平成 26 年度国産畜産物安心確保等支援事業(快適性に配慮した家畜の飼養管理推進事業)肉用牛の飼養実態アンケート調査報告書, 2020-4-20, 公益社団法人畜産技術協会</ref>)ではケガが発生しやすく、肉質の低下に繋がることもある。また管理者が死傷することを防止するためにも、牛の除角(牛がまだ小さいころに、焼き鏝や刃物、薬剤などで角芽を除去すること)あるいは断角(角が成長してから切断すること)は有効な手段と考えられている。
日本では肉牛の59.5%、乳牛の85.5%が断角/除角されている<ref name=":2">http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/, 平成 26 年度国産畜産物安心確保等支援事業(快適性に配慮した家畜の飼養管理推進事業)乳用牛の飼養実態アンケート調査報告書, 20220107</ref><ref name=":1" />。断角/除角は激痛を伴い牛への負担が大きく、ショック死する例も報告されている<ref>https://www.hopeforanimals.org/cattle/528/, 畜産従業員の見た、除角による牛の死亡2017/04/24, 2020-4-21, 認定NPO法人アニマルライツセンター</ref>が、麻酔を使用する農家は肉牛で17.3%、乳牛で14%と低い<ref name=":2" /> <ref name=":1" />。断角/除角の方法は、腐食性軟膏や断角器、焼きごて、のこぎり、頭蓋骨から角をえぐり取る除角スプーンなどを使う<ref>ゲイリー・L・フランシオン, 動物の権利入門, 2018, 緑風出版, page66</ref>。
農水省が普及に努めている「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」では肉牛、乳牛ともに「除角によるストレスが少ないと言われている焼きごてでの実施が可能な角が未発達な時期(遅くとも生後2ヵ月以内)に実施することが推奨される」。だが実際には、乳牛では45%、肉牛では85%が3ケ月齢以上で断角/除角されている<ref name=":2">http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/, 平成 26 年度国産畜産物安心確保等支援事業(快適性に配慮した家畜の飼養管理推進事業)乳用牛の飼養実態アンケート調査報告書, 20220107</ref><ref name=":1" />。
=== 去勢 ===
雄牛を去勢しないで肥育した場合、キメが粗くて硬く、消費者に好まれない牛肉に仕上がる。また去勢しない雄牛を牛舎内で群飼すると、牛同士の闘争が激しくなり、ケガが発生しやすく肉質の低下にもつながる。こういった理由から、肉用に飼育されるオスは一般的に去勢される<ref name=":1" />。去勢の方法は、陰嚢を切開して、精索と血管を何度か捻りながら、引いてちぎる観血去勢法、皮膚の上からバルザックやゴムリングを用いて挫滅、壊死させる無血去勢法が一般的で、特別な場合を除いて、麻酔は行われない。日本も加盟するOIEの肉用牛の動物福祉規約<ref>https://www.oie.int/en/what-we-do/standards/codes-and-manuals/terrestrial-code-online-access/?id=169&L=0&htmfile=chapitre_aw_beef_catthe.htm, CHAPTER 7.9. ANIMAL WELFARE AND BEEF CATTLE PRODUCTION SYSTEMS, 20220107</ref>には3ヶ月齢より前に実施することが推奨されているが、日本の肉牛の90.9%は3ヵ月以上で去勢されている<ref name=":1" />。観血去勢では術中や術後の消毒不足や敷料等が傷口に入ることで化膿や肉芽腫の形成等が見られることがある<ref>千葉 暁子, 森山 友恵, 飯野 君枝, 山岸 則夫, 2020, 観血去勢後の手術部位感染により陰嚢膿瘍を形成した黒毛和種去勢牛の3 例, 産業動物臨床医学雑誌, volume11, issue2, pages82-86, 日本家畜臨床学会, 大動物臨床研究会, doi:10.4190/jjlac.11.82</ref>。
=== 鼻環(鼻ぐり) ===
鼻環による痛みを利用することで、牛の移動をスムーズにさせ、調教しやすくできる。日本の肉牛農家では76.1%で鼻環の装着が行われている<ref name=":1" />(乳牛における装着率は不明)。鼻環通しで麻酔は使用されない。農水省が普及に努めている「アニマルウェルフェアの考え方に対応した肉用牛の飼養管理指針」は鼻環の装着について「牛へのストレスを極力減らし、可能な限り苦痛を生じさせないよう、素早く適切な位置に装着すること」としている。
==ケア==