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[[File:Disc_pyramid_earrings_BM_J1672-3_(cropped).jpeg|thumb|380px|イユンクスの玩具を持つ[[エロース]]の姿を描いたイヤリングのディテール。紀元前330〜300年頃、北ギリシアで制作<ref>https://www.hermitagemuseum.org/wps/portal/hermitage/digital-collection/25.+Archaeological+Artifacts/960524/?lng=ru, 2021-07-26, Пара серег</ref>。]]
'''イユンクス'''('''Ἴυγξ''', Iynx)は、ギリシア神話に登場する女呪術師あるいはその呪術に用いられた道具である。アリスイの意。カリマコスによると牧神[[パーン]]と[[エーコー]]の娘、あるいは[[ペイトー]]の娘<ref name="スーダ"/>。
ギリシア神話では、イユンクス(Greek: Ἴϋγξ, 訳注:Íÿnx)はアルカディアのオーレッドのニンフで、[[パーン]]と[[エーコー]]の娘であった。神話では、彼女は[[ゼウス]]に魔法をかけ、[[ゼウス]]はイーオーと恋に落ちたと言われている。 その結果、ヘーラーは彼女をイユンクス(Eurasian wryneck, Jynx torquilla)と呼ばれる鳥に変身させた<ref>Scholia on Theocritus 2. 17, on Pindar, Pythian Ode 4. 380, Nemean Ode 4. 56; Tzetzes on Lycophron 310. (cited in Smith)</ref>。 イユンクスの玩具は、金属や木でできた小さな円盤を、付属の紐を引っ張って回転させるもので、現代のボタン式の渦巻きおもちゃに似ている<ref>Hoorn Gerard van, Choes and Anthesteria, 1951, Brill Archive , https://www.google.co.uk/books/edition/Choes_and_Anthesteria/dcwUAAAAIAAJ?hl=en&gbpv=1&dq=iynx+disc&pg=PA46&printsec=frontcover, 22 August 2022</ref>。 ==神話==イユンクスはアルカディアのニンフで、[[パーン]]と[[エーコー]]、あるいはペイトーとの娘である。彼女は「イユンクス」と呼ばれる不思議な愛のお守りを作った。イユンクスとは、紡ぎ車にアリスイを取り付けたもので、紡ぎ車にはアリスイが描かれている。イユンクスは、ゼウスを自分やイーオーに惚れさせるために魔法を使った。ヘーラーは激怒し、彼女をアリスイに変身させた<ref>II. Epistula IIb ad Serapionem und Epistula III ad Serapionem, http://dx.doi.org/10.1515/9783110227710.32, Athanasius Werke Band 1, Teil 1: Epistulae I-IV ad Serapionem, 2010, Berlin, New York, De Gruyter|doi=10.1515/9783110227710.32, isbn:978-3-11-022771-0, 2021-02-09</ref>。 
神話によるとイユンクスは呪いで[[ゼウス]]を[[イーオー]]かあるいは自分に対して恋するように仕向けたために、女神[[ヘーラー]]によって石像あるいは自分と同じ名前の鳥(アリスイ)に変えられた<ref name="スーダ" /><ref>テオクリトス、第2歌17行への古註。</ref><ref>高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』p. 56b。</ref>。
 
また、ピエラスの娘で、姉妹と一緒にミューズたちと音楽祭に出ようとしたため、鳥のアリスイに変えられてしまったという話もある<ref>Antoninus Liberalis 9. (cited in Smith)</ref>。この鳥は、情熱的で落ち着きのない愛の象徴であり、アプロディーテがイアーソンに与えたもので、イアーソンはこれを回転させ、ある魔法の言葉を発音することによって、メーデイアの愛を呼び覚ましたと言われている<ref>Pindar, Pythian Ode 4. 380, &c.; Tzetzes on Lycophron 310 (cited in Smith)</ref>。
;鳥
イユンクスはしばしば[[イクシーオーン]]とよく似た存在であることが指摘されている。イクシーオーンは[[ゼウス]]の妻[[ヘーラー]]を奪おうとしたが、企みが発覚すると車輪につながれ、「恩人には報いなければならない」と叫びながら永劫に回転し続ける罰を受けた。イユンクスはイクシーオーンの女性版ともいうべき存在であり<ref>ドゥティエンヌ邦訳、p.193。</ref>、両者はいずれも誘惑してはならない者を誘惑したために罰を受け、回転する車輪と関連づけられている<ref>ドゥヴルー邦訳、p.73。</ref><ref name="ドゥティエンヌ">ドゥティエンヌ邦訳、p.187以下。</ref>。同様の共通点はイユンクスの名前で呼ばれたメンテーにも見られる。これら3者についてマルセル・ドゥティエンヌは[[アドーニス]]に関する研究『アドニスの園』の中で構造主義]視点から論じている<ref name="ドゥティエンヌ" />。それによるとイユンクスとイクシーオーンは[[ゼウス]]と[[ヘーラー]]の夫婦関係に害を与えようとし、ミンターもまたハーデースと[[ペルセポネー]]の夫婦関係に害を与える存在として語られており、彼らは儀礼的・神話的に結婚を象徴する神々の夫婦に対して、その仲を引き裂いて自らと結びつけようとする誘惑者であり、[[カリス]](優美)とペイトー(説得)の2つの対立概念の社会的文脈の中に位置付けられていると論じている<ref name="ドゥティエンヌ" />。
== 脚注 私的考察 == <ref name="スーダ">『[[スーダ]]』。"{{URL|http://www.stoa.org/sol-entries/iota/759|iynx}}", ''Suda On Line", tr. Jennifer Benedict. 3 December 2000</ref><ref name="ピンダロス">ピンダロスイユンクスとは、子音からいってケルト神話の[[ピューティア第四祝勝歌|『ピュティア祝勝歌』第4歌オェングス]]213行以下;{{harvnb|沓掛訳|1978|p=151}}。</ref>やエーディンに関係するのではなかろうか。
== 参考文献 ==
* {{仮リンク|アントーニーヌス・リーベラーリス|en|Antoninus Liberalis}}『ギリシア変身物語集』Wikipedia:[[安村典子https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%A6%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%82%B9 イユンクス]]訳、[[講談社文芸文庫]](2006年)(最終閲覧日:23-01-19)** アントーニーヌス・リーベラーリス(Antoninus Liberalis)『ギリシア変身物語集』安村典子訳、講談社文芸文庫(2006年)* [[テオクリトス]]『牧歌』古澤ゆう子訳、[[京都大学学術出版会]](2004年)* テオクリトス『牧歌』古澤ゆう子訳、京都大学学術出版会(2004年)* [[ピンダロス]]『祝勝歌集/断片選』[[内田次信]]訳、京都大学学術出版会(2001年)* ピンダロス『祝勝歌集/断片選』内田次信訳、京都大学学術出版会(2001年)* {{citation|和書|ref={{SfnRef|沓掛訳|1978}}|author=* ピンダロス |others=[[沓掛良彦]](訳) |translator-last=沓掛 |translator-first=良彦 |translator-link=沓掛良彦 |title=, 沓掛良彦(訳), ピンダロス『ピューティア祝捷歌』第四歌 |journal=, 東北大学文学部研究年報 |volume=28 |number= |year=, volume28, 1978 |publisher= |url=, https://books.google.com/books?id=-PwJAAAAIAAJ&q=斑なる羽毛もてる「ありすい |page=151, page151<!--59–110-->}}* * 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)** マルセル・ドゥティエンヌ『アドニスの園 ギリシアの香料神話』小苅米晛・鵜沢武保共訳、せりか書房(1983年)** ジョルジュ・ドゥヴルー(George Devereux)『女性と神話 ギリシア神話にみる両性具有』加藤康子訳、新評論(1994年)* Wikipedia:[[高津春繁https://en.wikipedia.org/wiki/Iynx Iynx]]『ギリシア・ローマ神話辞典』(最終閲覧日:23-01-20)** Antoninus Liberalis, ''The Metamorphoses of Antoninus Liberalis'' translated by Francis Celoria (Routledge 1992). [[岩波書店https://topostext.org/work/216 Online version at the Topos Text Project.]](1960年)** [[マルセル・ドゥティエンヌhttps://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.04.0057%3Aalphabetic+letter%3D*i%3Aentry+group%3D36%3Aentry%3Di%29%2Fugc Entry for '''ἴυγξ''' in LSJ Greek Lexicon (via Perseus)]]『アドニスの園 ギリシアの香料神話』– including magical uses of the word** Pindar, ''Odes'' translated by Diane Arnson Svarlien. 1990. [[小苅米晛]http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0162%3Abook%3DP. Online version at the Perseus Digital Library.]・鵜沢武保共訳、[[せりか書房]http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0162%3Abook%3DN. Online version at the Perseus Digital Library.](1983年)* {{仮リンク|ジョルジュ・ドゥヴルー|en|George Devereux}}『女性と神話 ギリシア神話にみる両性具有』加藤康子訳、* Pindar, ''The Odes of Pindar'' including the Principal Fragments with an Introduction and an English Translation by Sir John Sandys, Litt.D., FBA. Cambridge, MA., Harvard University Press; London, William Heinemann Ltd. 1937. [http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0161%3Abook%3DP. Greek text available at the Perseus Digital Library]. [新評論http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0161%3Abook%3DN. Greek text available at the Perseus Digital Library]](1994年).
== 関連項目 ==
* [[エーコー]]:イユンクスの母とされる。
* [[パーン]]:イユンクスの父とされる。
* [[エロース]]:イユンクスと関連するもののようである。
* エーディン:ケルト神話の転生を繰り返す女神。子音がイユンクスに近いように思う。
== 関連項目 脚注 ==* [[イクシーオーン]]<ref name="スーダ">『スーダ』。"http://www.stoa.org/sol-entries/iota/759, iynx", ''Suda On Line", tr. Jennifer Benedict. 3 December 2000</ref>* [[ジンクス]]* [[ペイトー]]<ref name="ピンダロス">ピンダロス『ピュティア祝勝歌』第4歌213行以下;沓掛訳, 1978, p151。</ref>
== 参照 ==
{{デフォルトソート:いゆんくす}}
[[Category:ギリシア神話]]
[[Category:愛の神]]
[[Category:鳥]]

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