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リンブルク=ルクセンブルク朝(1308年から1437年まで神聖ローマ帝国とボヘミア、ハンガリーを支配)、アンジュー家とその子孫のプランタジネット家(イングランド王)、フランスのルシニャン家(キプロス王、1205年から1472年、キリキアアルメニア、エルサレムも短時間支配)は、民話や中世文献にメリュジーヌの子孫とされている。水の精(人魚)、大地の存在(テロワール)、場所の守護神(ゲニウス・ロキ)、極悪非道な世界からやってきて男と肉的に結合するサキュバス、死の前触れ(バンシー)など、伝説の主要テーマを組み合わせた物語である。
 
== 伝説の概要 ==
メリュジーヌの伝説は、フランスでは14世紀より前から'''メリサンド'''という名でも知られ、民話にも登場していた<ref name="ローズp431" />。その原型は、ずっと以前から知られている[[ヴイーヴル]]や[[セイレーン]]といった怪物であろうとも考えられている<ref name="松平2005b_p222" />。
 
1397年にフランスのジャン・ダラス(Jean d'Arras)<ref group="注釈">ジャン・ダラスは、ジャン・ド・ベリー公の元で司書および製本職人として働いていた。</ref><ref name="蔵持p10">蔵持 (2005), p. 10.</ref>が『メリュジーヌ物語』を散文で著し<ref name="ローズp431" />、その後クードレット(Couldrette)<ref group="注釈">クルドレッド(クードレット)は、リュジニャン家の当主ジャン2世の元で司祭を務めていた</ref><ref name="蔵持p10" />。という人物が1401年以降にパルトゥネの領主に命じられ『メリュジーヌ物語、あるいはリュジニャン一族の物語 (''Le roman de Mélusine ou histoire de Lusignan'' )』を韻文で書き上げたことで広く知られるようになった。その物語とは次のようなものである。
 
メリュジーヌは、泉の妖精プレッシナとスコットランドのオルバニー(アールバニー)王エリナスの子<ref group="注釈">松平の説明によれば、妖精の[[モーガン・ル・フェイ|モルガン]]の妹・プリジーヌ([[アーサー王]]とは父親の異なる兄妹の関係となる)の子で、のアルバニア王エリナスとの間に生まれた姫</ref><ref name="松平2005b_p222" />。である。母親の出産時に、禁忌とされていた妖精の出産を父親である領主が見てしまったために、メリュジーヌと2人の妹、メリオールとプラティナは妖精の国に戻されてしまった。成長したメリュジーヌと妹達は復讐心を募らせ、結託して父親をイングランドのノーサンブリアのある洞窟に幽閉した<ref group="注釈">異説では母親を陥れようとした<sup>''(要出典, 2015-11-10)''</sup>。</ref>。ところが母親は夫を愛するがゆえに、メリュジーヌと妹達に、週に1日だけ腰から下が蛇の姿となるという呪いをかけた<ref name="ローズp431" /><ref name="松平2005b_p222" />。さらに、もし変身した姿を誰かに見られた場合には、永久に下半身が蛇で翼を持った姿のままとなってしまう<ref name="ローズp431" /><ref group="注釈">別のヴァリアントでは、メリュジーヌはもともと泉を掌る妖精とアールバニーの領主の間に生まれた姫君であった。人間の男の愛を得れば呪いが解けると聞かされて、メリュジーヌは領主に近づいたのであった。</ref>。従って、メリュジーヌが誰かと愛を育むには、その1日に彼女の姿を見ないという約束を果たせる者と出会わねばならなかった。
 
ポワトゥー伯のレイモン<ref name="ローズp431" />(またはフォレ伯の子レモンダン<ref name="松平2005b_p221">松平 (2005b), p. 221.</ref>)は、'''おじを誤って殺したことから家族の元を離れていた'''が、ある日メリュジーヌと会って恋に落ち、メリュジーヌも「土曜日に自分の姿を決して見ないこと」という誓約を交わした上で結婚する。彼女は夫に富をもたらし、10人の子供を儲けた。また、彼女の助力もあってレイモン(レモンダン)はリュジニャン城を建て、町も築くことができた<ref name="松平2005b_p221" />。ところが夫は悪意のこもった噂を耳にすると<ref name="アランp209">アラン,上原訳 (2009), p. 209.</ref>、つい誓約を破り、沐浴中のメリュジーヌの正体を見てしまった<ref group="注釈">神話類型として、[[禁忌|見るなのタブー]]が見受けられる。</ref><ref name="蔵持p10" />。。部屋に1人閉じこもっていた彼女の姿は上半身こそ人間だったが、下半身は巨大な蛇<ref name="松平2005b_p222">松平 (2005b), p. 222.</ref>(あるいは魚<ref name="アランp209" />)になっていたのだった<ref group="私注">レイモンは目上の身内を殺しており、[[啓型神]]の性質を持っているように思う。</ref>。
 
誓約を破られたため、メリュジーヌは竜の姿になって城を飛び出していった<ref name="ローズp431" /><ref name="松平2005b_p222" />。しかしまだ小さい子供がいたことから、授乳のために一時城に戻ったほか、城の城主や子孫の誰かが亡くなる直前にも戻ったという<ref name="松平2005b_p222" />。そのため、城主らの死が近づくと、城壁の上に幽霊のようにメリュジーヌが姿を現しては泣き悲しむ様子が見られたという。メリュジーヌの子供達の多くは化け物の性質を持っていたものの、問題なく生まれた2人の子供の血統からは、後のフランス君主が立ったという<ref name="ローズp431" />。リュジニャン城は後に取り壊され、現在は存在しない<ref name="アランp209" />。
 
別のヴァリアントでは、メリュジーヌはブルターニュ伯(あるいはポワトゥー伯)の下に美女の姿で現れて求婚し、妻となって後は彼を助けたが、「日曜日に必ず沐浴するので、決して覗かないこと」という誓約を夫に破られ、正体を明かされる。夫は、メリュジーヌが人間でないことを知ってからも妻とし続けたが、2人の間に生まれた気性の荒い異形の'''息子達が町で殺人を犯した'''と聞いて激昂し、息子達の性格上の欠陥の原因を彼女の正体のせいだとして、「化け物女」と罵倒したため、自尊心を傷つけられた彼女は正体を現し、教会の塔を打ち壊して川に飛び込んで行方をくらましたという。その後、彼女は水妖の一員となった。紋章などに用いられている尾が2つあるマーメイドは彼女の姿であるとされている<ref group="私注">こちらは息子達が非道の殺人を行っており、息子達が[[啓型神]]の性質を持っているように思う。</ref>。
 
== 息子たち ==
クードレットの記述による。
 
* ユリアン(後にキプロスの王になったという)
* ウード(外見と顔が炎のように燃えて見える)
* ギイ(後にアルメニアの王になったという)
* アントワーヌ(片頬に獅子の足が生えている)
* ルノー(一つ目)
* ジョフロワ(大牙が一本あり)
* フロモン(鼻の上に毛で覆われたアザがある)
* オリブル(三つ目)
 
== 象徴 ==
エリアーデによれば、メリュジーヌを構成する「女性」と「蛇」、そして伝承によっては加えられる「魚」といった要素は、いずれも豊穣のシンボルである。従って、メリュジーヌは豊穣、さらには再生を生み出す存在だと考えることができる<ref name="松平2005b_p222" /><ref group="私注">エリアーデの考察はざっくりしすぎていると思う。しかも「再生を生み出す」とはどういう意味なのだろうか?</ref>。
 
== お菓子 ==
<sup>''(出典の明記, 2015年11月10日 (火) 12:22 (UTC))''</sup>
ブルターニュ地域圏では近代まで、メリュジーヌが町を去ったとされる日に祭りが開かれ、屋台で人魚のような姿をした女性を木型で浮き彫りにした素朴な焼き菓子が売られていたという<ref group="私注">これは中国で言うところの「'''月餅'''」に相当するものではないか、と管理人は思う。</ref>。
 
この素朴な焼き菓子の名も「メリュジーヌ」と言った。
 
現代では、祭りが廃れこの「メリュジーヌ」も僅かな木型だけを残して姿を消している<ref group="私注">中国では月餅のことを[[嫦娥]]とは言わないが、現代でも盛んに食べられているように思う。</ref>。
== 語源 ==
呪われた蛇の乙女がキスで解放されるというモチーフは、「Le Bel Inconnu」の物語にも登場する。
 
== 私的考察 ==
メリュジーヌは[[禁忌]]を破られて逃走する[[逃走女神]]である。日本神話の[[豊玉毘売]]と起源は同じで良いと考える。一番古い起源は、中国神話の'''[[嫦娥]]'''である。
 
もっとヨーロッパに近い起源としては、名前からメソポタミア神話のティアマトの最初の子音「T」が外れたもの、ヒッタイト神話の[[マリヤ]]、ギリシア神話の[[メーデイア]]が上げられるように思う。
 
古い順にいえば、ティアマトのように「TNT」の子音の女神はカルタゴのタニトのように「幼児供犠」を求めた可能性があるように思う。その性質は(自らの子ではあるが)子供を連れ去るメリュジーヌの姿に残されているように思う。蛇を思わせる人型ではない女神である点もティアマトと類似しているように思う。このように「幼児」に対して残虐な性質は、弟をバラバラにして殺すギリシア神話の[[メーデイア]]にもみられる。ティアマトは「神々の母」であり、おそらく「王権者の祖神」的な地位も占めていたと思われるので、その性質が「ヨーロッパの名歌の先祖」としてのメリュジーヌに投影されているように思う。
 
ヒッタイト神話の[[マリヤ]]は建築の女神でもあり、その点は城を建てたりするメリュジーヌの性質と共通しているように思う。
 
[[逃走女神]]としての性質であるが、ティアマトは「逃げ出す」というよりは「倒される女神」である。倒すのは近親であるマルドゥクを始めとした神々である。ヒッタイト神話の[[マリヤ]]にはこのような性格は備わっていなかったかもしれない、と考える。古代エジプトで同系統の子音の女神であるネイトやタニトに「倒される女神」という性質はなく、地中海周辺の地域ではむしろこれらの群の女神は「祖神」あるいは「創造神」といった高い地位を保ったままだったのではないだろうか。ということは「ティアマト」のような「倒される女神」としての性質は後から付け加えたものと思われる。ヨーロッパでは「多神教時代」の女神は、キリスト教の時代になって、その地位は更に低下し、民間伝承の中の「妖精」のようなものとして生き残るようになったと思われる。
 
また「倒される女神」であった部分は、「自ら逃走する女神」へと変化している。メリジューヌが夫に課す「禁忌」は、一般的には彼女の存在を脅かすまでのものとは考えられにくく、禁忌を破るハードルが低く設定されているように思う。しかし、その理由は定かではないが、一般的な女性とは違って、メリュジーヌにはその「禁忌」は人間の世界での存在を左右する重要なものなのである。よって、禁忌が破られ、「人の世界」から逃走するメリュジーヌはある種「夫との愛と信頼を守る戦い」に敗れて死んだ、といえ、その点でマルドゥクとの戦いに敗れて死んだティアマトの姿を投影しているといえる。ただし、「女神がなぜ逃走するのか」という理由は、例えばエジプト神話において逃走する女神であるセクメトのような古い時代の神話でも明らかにはされておらず、「逃走」とは単に「死んだこと」を置き換えただけのことにも思える。要はメリュジーヌは「'''夫に殺された女神である'''」といえる。そして、ティアマトの神話からメリュジーヌの物語までの変遷を見ると、「禁忌を破られて逃走する女神」とは単に「殺された女神」を指し、それが変化したものであることが分かる。この「殺された女神」は「幼児供犠」を求めた女神であったかもしれないが、「'''夫'''」はそれとは関係なく彼女を殺し、「'''夫'''」そのものが「妻を人身御供にする存在」へと移り変わっている、といえる。大抵の「夫」は彼女によって栄光や子孫を得、子孫は人の世での権力や名誉を得ていると言われるが、それは最初の先祖である「メリュジーヌの夫」が妻によって名誉や権力を得たからともいえる。彼は妻を人身御供にすることで、自らが権力や名誉を得たのである。
 
そもそもの起源といえる中国神話では、[[嫦娥]]の夫の[[羿]]は「父」ともいえる帝夋の不興を買っており「同族」や「仲間同士」の間での不和があることが示されている。また、中国神話で「罰を受ける女神」の代表格である[[織女]]も結婚したことで近親の不興を買っている。本来、「逃走女神」の「'''死'''」の原因は彼女の結婚に関して、同族の不興を得、同族から報復された、あるいは粛正された、というものだったのではないだろうか。メソポタミア神話のティアマトを殺すのは子孫に当たるマルドゥクである。インド神話の火の神アグニや、日本神話の火之迦具土神には母親を焼き殺す神話があり、マルドゥクが太陽神の延長であることと一致する。朝鮮神話の[[朱蒙]]の母である[[柳花夫人]]も結婚に関して同族の不興を得ている。このように、「結婚に関して同族の不興を得て殺された女神(的女性)」が歴史的に存在したとしても、その死に彼女の夫が関連しないわけではないので、ヨーロッパでは彼女の物語は親族による粛正ではなく、「'''夫の裏切りにより妻は死ぬ'''」という形式の物語に変化したものと思われる。中国神話の[[嫦娥]]が、そもそも夫の羿から逃げ出す女神であるので、このような変化というか「作り替え」は中国神話の段階から始まっていた可能性があると考える。それが各地に伝播したものがメリジューヌでもあり、[[豊玉毘売]]でもあると考える。
 
「龍蛇女神」という点では、メリュジーヌは[[女媧]]が起源といえる。「[[女媧型女神]]」の1形である。(起源については「[[嫦娥]]」の私的考察も参照のこと。)彼女のそもそもの役割が「'''幼児供犠を求める'''」というものであったのならば、彼女が結婚に際して放棄した「'''役目'''」とは人身御供に関することだったのではないだろうか。[[アリアドネー]]が人身御供を止めようとする[[テーセウス]]を助けたように、である。そのために彼女自身が親族から粛正されて、親族の繁栄のための人身御供にされたという事実があったとするならば、一方で彼女を太母として崇めながら、一方で彼女を悪しき者として殺してしまうという矛盾を含んだ古代の信仰と神話を生み出しているように思う。
 
== 参考文献 ==
* Wikipedia:[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%8C メリュジーヌ](最終閲覧日:22-09-29)
<sup>''(2015年11月)''</sup>
** アラン・トニー, 上原ゆうこ訳, 世界幻想動物百科 ヴィジュアル版, 原書房, 2009-11, 2008, isbn:978-4-562-04530-3, メリュジーヌの秘密, p. 209
** 松平俊久, 蔵持不三也監修, 図説ヨーロッパ怪物文化誌事典, 原書房, 2005-03, isbn:978-4-562-03870-1
** 蔵持 (2005), 蔵持 (2005):蔵持不三也「序文 中世怪物表象考 - 『ヨーロッパ怪物文化誌事典』に寄せて」pp. 7-36。
*** 松平 (2005a), 松平 (2005a):松平俊久「第1章 異形へのまなざし - 怪物文化誌へ向けて」pp. 37-62。
*** 松平 (2005b), 松平 (2005b):松平俊久「メリュジーヌ」pp. 221-223。
** ローズ・キャロル, 松村一男監訳, 世界の怪物・神獣事典, 原書房, シリーズ・ファンタジー百科, 2004-12, メリュジーヌ, p. 431, isbn:978-4-562-03850-3
** クードレット, 森本英夫・傳田久仁子訳, 妖精メリュジーヌ伝説, 社会思想社, 現代教養文庫 1584, 1995-12, isbn:978-4-390-11584-1
* Wikipedia:[https://en.wikipedia.org/wiki/Melusine Melusine](最終閲覧日:23-01-30)
** Donald Maddox, Sara Sturm-Maddox, Melusine of Lusignan: foundling fiction in late medieval France, 1996, isbn:9780820318233, Essays on the ''Roman de Mélusine'' (1393) of Jean d'Arras.
** Lydia Zeldenrust, The Mélusine Romance in Medieval Europe: Translation, Circulation, and Material Contexts, Cambridge, D.S. Brewer, 2020, ISBN:9781843845218, On the many translations of the romance, covering French, German, Dutch, Castilian, and English versions.
** Jean d'Arras. Mélusine, roman du XIVe siècle, Louis Stouff, Dijon, Bernigaud & Privat, 1932, French, A scholarly edition of the important medieval French version of the legend by Jean d'Arras.
** Otto J. Eckert, Luther and the Reformation, lecture, 1955, http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:-6AU_rXMR5gJ:www.wls.wels.net/library/Essays/Authors/E/EckertReformation/EckertReformation.pdf+Heraldry+Melusina&hl=en
** Proust, Marcel, C. K. Scott-Moncrieff, Within A Budding Grove, page190, year1996, isbn:9780099362319
** Letitia Elizabeth Landon, Fisher's Drawing Room Scrap Book, 1835 (1834).<ref>Landon, firsetitia Elizabeth, Fisher's Drawing Room Scrap Book, 1835, https://play.google.com/books/reader?id=Bzk_AAAAYAAJ&pg=GBS.PA57, poem, 1834, Fisher, Son & Co.</ref> The Fairy of the Fountains
** Anne DeLong, Mesmerism, Medusa and the Muse: The Romantic Discourse of Spontaneous Creativity, 2012, isbn:9780739170434
 
== 関連資料 ==
<!--この節には、記事本文の編集時に参考にしていないがさらなる理解に役立つ書籍等を記載して下さい-->
* 篠田知和基 「[https://doi.org/10.24522/basllfc.20.0_13 メリュジーヌの変容]」『日本フランス語フランス文学会中部支部研究報告集』 日本フランス語フランス文学会、第20巻、1996年3月、pp.13-14, doi:10.24522/basllfc.20.0_13, NAID:110009459107。
* 篠田知和基 「[https://doi.org/10.18999/joufll.44.151 メリュジーヌ伝承の比較]」『名古屋大學文學部研究論集 文學』 第44巻、1998年3月31日、pp.151-171, {{doi|10.18999/joufll.44.151}}, {{NAID|110000295763}}。
* 傳田久仁子 「[https://doi.org/10.20634/ellf.67.0_97 「境界」の位置 : 『メリュジーヌ物語』におけるリュジニャン城]」、『フランス語フランス文学研究』 日本フランス語フランス文学会、第67巻、1995年10月29日、p.97, doi:10.20634/ellf.67.0_97, NAID:110001247436。
* フィリップ・ヴァルテール『ユーラシアの女性神話-ユーラシア神話試論Ⅱ』(渡邉浩司・渡邉裕美子訳)中央大学出版部 2021年8月25日、ISBN 978-4-8057-5183-1。―この本で著者が「特に注目しているのは、「メリュジーヌ型」のユーラシア的展開」(訳者前書き)である。
* 松村朋彦「異類の女性――『メルジーネ』から『崖の上のポニョ』まで」『希土』希土同人社、第46号 2021年9月1日、 ISSN 0387-3560、pp. 2-16.―対象としている作品は、民衆本『メルジーネ』(1474)、フーケー『ウンディーネ』(1811)、アンデルセン『人魚姫』(1837)、ホフマンスタール『影のない女』(1919)、バッハマン『ウンディーネ行く』(1961)、宮崎駿『崖の上のポニョ』(2008)の6作品。
== 芸術と大衆文化における参考文献 ==
* 2022年、フランスの郵便制度は、神話と伝説のシリーズの一部として、ラ・フィーユ・メリュジーヌを描いた1.65ユーロの切手を発売した<ref> [https://www.wikitimbres.fr/timbres/12908/2022-mythes-et-legendes-la-fee-melusine-europa]</ref><ref>[https://www.lecarredencre.fr/timbre/serie-europa-mythes-et-legendes-melusine/]</ref>。
== Literature 外部リンク ==* {{cite book |first1=Donald |last1=Maddox |first2=Sara |last2=Sturm-Maddox |title=Melusine of Lusignan: foundling fiction in late medieval France |year=1996 |isbn=9780820318233}} Essays on the ''Roman de Mélusine'' (1393) of [[Jean d'Arras]].* {{cite book |first=Lydia |last=Zeldenrust |title=The Mélusine Romance in Medieval Europe: Translation, Circulation, and Material Contexts |location=Cambridge |publisher=D.S. Brewer |year=2020 |ISBN=9781843845218}} On the many translations of the romance, covering French, German, Dutch, Castilian, and English versions.* {{cite book |first=Jean |last=d'Arras |title=Mélusine, roman du XIVe siècle |editor-first=Louis |editor-last=Stouff |location=Dijon |publisher=Bernigaud & Privat |year=1932 |language=French}} A scholarly edition of the important medieval French version of the legend by Jean d'Arras.*{{cite book |first=Otto J. |last=Eckert |title=Luther and the Reformation |format=lecture |year=1955 |url=httphttps://webcachearchive.googleusercontent.comorg/search?q=cache:-6AU_rXMR5gJ:www.wls.wels.netdetails/library/Essays/Authors/E/EckertReformation/EckertReformation.pdf+Heraldry+Melusina&hl=en}}* {{cite book |last=Proust |first=Marcel |translator-first=C. K. |translator-last=Scott-Moncrieff |title=Within A Budding Grove |page=190 |year=1996 |isbn=9780099362319}}* [[Letitia Elizabeth Landon]], Fishermelusine00jeanuoft ''Melusine's Drawing Room Scrap Book, 1835 (1834).<ref> {{cite book|last =Landon|first=Letitia Elizabeth|title=Fisher's Drawing Room Scrap Book, 1835|url=https://play.google.com/books/reader?id=Bzk_AAAAYAAJ&pg=GBS.PA57|section=poem|year=1834|publisher=Fisherby Jean, Son & Co.}}</ref> {{ws|[[s:Letitia Elizabeth Landon (L. E. L.) in Fisherd's Drawing Room Scrap Book, 1835/The Fairy of the Fountains|The Fairy of the FountainsArras]]}}* {{cite book |first=Anne |last=DeLong |title=Mesmerism, Medusa and the Muse: The Romantic Discourse of Spontaneous Creativity |year=2012 |isbn=9780739170434}} ==External links==- Internet Archive*[http://www.pitt.edu/~dash/melusina.html "Melusina"], translated legends about mermaids and water sprites that marry mortal men, with sources noted, edited by [[D. L. Ashliman]], at University of Pittsburgh*{{usurped|[https://web.archive.org/web/20061111101830/http://www.endicott-studio.com/rdrm/rrMarriedToMagic.html Terri Windling, "Married to Magic: Animal Brides and Bridegrooms in Folklore and Fantasy"]}}*[https://archive.org/details/melusine00jeanuoft Jean D'Arras, ''Melusine''], Archive.org*{{Cite EB1911|wstitle=Mélusine |short=x}}  == 伝説の概要 ==メリュジーヌの伝説は、フランスでは14世紀より前から'''メリサンド'''という名でも知られ、民話にも登場していた<ref name="ローズp431" />。その原型は、ずっと以前から知られている[[ヴイーヴル]]や[[セイレーン]]といった怪物であろうとも考えられている<ref name="松平2005b_p222" />。 1397年にフランスのジャン・ダラス(Jean d'Arras)<ref group="注釈">ジャン・ダラスは、ジャン・ド・ベリー公の元で司書および製本職人として働いていた。</ref><ref name="蔵持p10">蔵持 (2005), p. 10.</ref>が『メリュジーヌ物語』を散文で著し<ref name="ローズp431" />、その後クードレット(Couldrette)<ref group="注釈">クルドレッド(クードレット)は、リュジニャン家の当主ジャン2世の元で司祭を務めていた</ref><ref name="蔵持p10" />。という人物が1401年以降にパルトゥネの領主に命じられ『メリュジーヌ物語、あるいはリュジニャン一族の物語 (''Le roman de Mélusine ou histoire de Lusignan'' )』を韻文で書き上げたことで広く知られるようになった。その物語とは次のようなものである。 メリュジーヌは、泉の妖精プレッシナとスコットランドのオルバニー(アールバニー)王エリナスの子<ref group="注釈">松平の説明によれば、妖精の[[モーガン・ル・フェイ|モルガン]]の妹・プリジーヌ([[アーサー王]]とは父親の異なる兄妹の関係となる)の子で、のアルバニア王エリナスとの間に生まれた姫</ref><ref name="松平2005b_p222" />。である。母親の出産時に、禁忌とされていた妖精の出産を父親である領主が見てしまったために、メリュジーヌと2人の妹、メリオールとプラティナは妖精の国に戻されてしまった。成長したメリュジーヌと妹達は復讐心を募らせ、結託して父親をイングランドのノーサンブリアのある洞窟に幽閉した<ref group="注釈">異説では母親を陥れようとした<sup>''(要出典, 2015-11-10)''</sup>。</ref>。ところが母親は夫を愛するがゆえに、メリュジーヌと妹達に、週に1日だけ腰から下が蛇の姿となるという呪いをかけた<ref name="ローズp431" /><ref name="松平2005b_p222" />。さらに、もし変身した姿を誰かに見られた場合には、永久に下半身が蛇で翼を持った姿のままとなってしまう<ref name="ローズp431" /><ref group="注釈">別のヴァリアントでは、メリュジーヌはもともと泉を掌る妖精とアールバニーの領主の間に生まれた姫君であった。人間の男の愛を得れば呪いが解けると聞かされて、メリュジーヌは領主に近づいたのであった。</ref>。従って、メリュジーヌが誰かと愛を育むには、その1日に彼女の姿を見ないという約束を果たせる者と出会わねばならなかった。 ポワトゥー伯のレイモン<ref name="ローズp431" />(またはフォレ伯の子レモンダン<ref name="松平2005b_p221">松平 (2005b), p. 221.</ref>)は、'''おじを誤って殺したことから家族の元を離れていた'''が、ある日メリュジーヌと会って恋に落ち、メリュジーヌも「土曜日に自分の姿を決して見ないこと」という誓約を交わした上で結婚する。彼女は夫に富をもたらし、10人の子供を儲けた。また、彼女の助力もあってレイモン(レモンダン)はリュジニャン城を建て、町も築くことができた<ref name="松平2005b_p221" />。ところが夫は悪意のこもった噂を耳にすると<ref name="アランp209">アラン,上原訳 (2009), p. 209.</ref>、つい誓約を破り、沐浴中のメリュジーヌの正体を見てしまった<ref group="注釈">神話類型として、[[禁忌|見るなのタブー]]が見受けられる。</ref><ref name="蔵持p10" />。。部屋に1人閉じこもっていた彼女の姿は上半身こそ人間だったが、下半身は巨大な蛇<ref name="松平2005b_p222">松平 (2005b), p. 222.</ref>(あるいは魚<ref name="アランp209" />)になっていたのだった<ref group="私注">レイモンは目上の身内を殺しており、[[啓型神]]の性質を持っているように思う。</ref>。 誓約を破られたため、メリュジーヌは竜の姿になって城を飛び出していった<ref name="ローズp431" /><ref name="松平2005b_p222" />。しかしまだ小さい子供がいたことから、授乳のために一時城に戻ったほか、城の城主や子孫の誰かが亡くなる直前にも戻ったという<ref name="松平2005b_p222" />。そのため、城主らの死が近づくと、城壁の上に幽霊のようにメリュジーヌが姿を現しては泣き悲しむ様子が見られたという。メリュジーヌの子供達の多くは化け物の性質を持っていたものの、問題なく生まれた2人の子供の血統からは、後のフランス君主が立ったという<ref name="ローズp431" />。リュジニャン城は後に取り壊され、現在は存在しない<ref name="アランp209" />。 別のヴァリアントでは、メリュジーヌはブルターニュ伯(あるいはポワトゥー伯)の下に美女の姿で現れて求婚し、妻となって後は彼を助けたが、「日曜日に必ず沐浴するので、決して覗かないこと」という誓約を夫に破られ、正体を明かされる。夫は、メリュジーヌが人間でないことを知ってからも妻とし続けたが、2人の間に生まれた気性の荒い異形の'''息子達が町で殺人を犯した'''と聞いて激昂し、息子達の性格上の欠陥の原因を彼女の正体のせいだとして、「化け物女」と罵倒したため、自尊心を傷つけられた彼女は正体を現し、教会の塔を打ち壊して川に飛び込んで行方をくらましたという。その後、彼女は水妖の一員となった。紋章などに用いられている尾が2つあるマーメイドは彼女の姿であるとされている<ref group="私注">こちらは息子達が非道の殺人を行っており、息子達が[[啓型神]]の性質を持っているように思う。</ref>。 == 息子たち ==クードレットの記述による。 * ユリアン(後にキプロスの王になったという)* ウード(外見と顔が炎のように燃えて見える)* ギイ(後にアルメニアの王になったという)* アントワーヌ(片頬に獅子の足が生えている)* ルノー(一つ目)* ジョフロワ(大牙が一本あり)* フロモン(鼻の上に毛で覆われたアザがある)* オリブル(三つ目) == 象徴 ==エリアーデによれば、メリュジーヌを構成する「女性」と「蛇」、そして伝承によっては加えられる「魚」といった要素は、いずれも豊穣のシンボルである。従って、メリュジーヌは豊穣、さらには再生を生み出す存在だと考えることができる<ref name="松平2005b_p222" /><ref group="私注">エリアーデの考察はざっくりしすぎていると思う。しかも「再生を生み出す」とはどういう意味なのだろうか?</ref>。 == お菓子 ==<sup>''(出典の明記, 2015年11月10日 (火) 12:22 (UTC))''</sup>ブルターニュ地域圏では近代まで、メリュジーヌが町を去ったとされる日に祭りが開かれ、屋台で人魚のような姿をした女性を木型で浮き彫りにした素朴な焼き菓子が売られていたという<ref group="私注">これは中国で言うところの「'''月餅'''」に相当するものではないか、と管理人は思う。</ref>。 この素朴な焼き菓子の名も「メリュジーヌ」と言った。 現代では、祭りが廃れこの「メリュジーヌ」も僅かな木型だけを残して姿を消している<ref group="私注">中国では月餅のことを[[嫦娥]]とは言わないが、現代でも盛んに食べられているように思う。</ref>。 == 私的考察 ==メリュジーヌは[[禁忌]]を破られて逃走する[[逃走女神]]である。日本神話の[[豊玉毘売]]と起源は同じで良いと考える。起源は中国神話の'''[[嫦娥]]'''である。 [[嫦娥]]の夫の[[羿]]は「父」ともいえる帝夋の不興を買っており「同族」や「仲間同士」の間での不和があることが示されている。[[羿]]は「弓の名手」とされ、[[黄帝]]の要素が投影された存在である。([[黄帝]]は兄弟である[[炎帝神農|炎帝]]と争いを生じている、と言われている。実際に[[炎帝神農|炎帝]]と[[黄帝]]が兄弟であったか否かは別として、[[羿]]と[[黄帝]]は同族同士の争いを示唆する存在とえる。)その[[羿]]に異母兄と争った[[啓]]の要素が加えられて、メリュジーヌの夫レイモンと[[豊玉毘売]]の夫[[山幸彦と海幸彦|山幸彦]]は作られている。 「龍蛇女神」という点では、メリュジーヌは[[女媧]]が起源といえる。「[[女媧型女神]]」の1形である。(起源については「[[嫦娥]]」の私的考察も参照のこと。) == 参考文献 ==* Wikipedia:[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%8C メリュジーヌ](最終閲覧日:22-09-29)<sup>''(2015年11月)''</sup>** アラン・トニー, 上原ゆうこ訳, 世界幻想動物百科 ヴィジュアル版, 原書房, 2009-11, 2008, isbn:978-4-562-04530-3, メリュジーヌの秘密, p. 209** 松平俊久, 蔵持不三也監修, 図説ヨーロッパ怪物文化誌事典, 原書房, 2005-03, isbn:978-4-562-03870-1** 蔵持 (2005), 蔵持 (2005):蔵持不三也「序文 中世怪物表象考 - 『ヨーロッパ怪物文化誌事典』に寄せて」pp. 7-36。*** 松平 (2005a), 松平 (2005a):松平俊久「第1章 異形へのまなざし - 怪物文化誌へ向けて」pp. 37-62。*** 松平 (2005b), 松平 (2005b):松平俊久「メリュジーヌ」pp. 221-223。** ローズ・キャロル, 松村一男監訳, 世界の怪物・神獣事典, 原書房, シリーズ・ファンタジー百科, 2004-12, メリュジーヌ, p. 431, isbn:978-4-562-03850-3** クードレット, 森本英夫・傳田久仁子訳, 妖精メリュジーヌ伝説, 社会思想社, 現代教養文庫 1584, 1995-12, isbn:978-4-390-11584-1 == 関連資料 ==<!--この節には、記事本文の編集時に参考にしていないがさらなる理解に役立つ書籍等を記載して下さい-->* 篠田知和基 「[https://doi.org/10.24522/basllfc.20.0_13 メリュジーヌの変容]」『日本フランス語フランス文学会中部支部研究報告集』 日本フランス語フランス文学会、第20巻、1996年3月、pp.13-14, doi:10.24522/basllfc.20.0_13, NAID:110009459107。* 篠田知和基 「[https://doi.org/10.18999/joufll.44.151 メリュジーヌ伝承の比較]」『名古屋大學文學部研究論集 文學』 第44巻、1998年3月31日、pp.151-171, {{doi|10.18999/joufll.44.151}}, {{NAID|110000295763}}。* 傳田久仁子 「[https://doi.org/10.20634/ellf.67.0_97 「境界」の位置 : 『メリュジーヌ物語』におけるリュジニャン城]」、『フランス語フランス文学研究』 日本フランス語フランス文学会、第67巻、1995年10月29日、p.97, doi:10.20634/ellf.67.0_97, NAID:110001247436。* フィリップ・ヴァルテール『ユーラシアの女性神話-ユーラシア神話試論Ⅱ』(渡邉浩司・渡邉裕美子訳)中央大学出版部 2021年8月25日、ISBN 978-4-8057-5183-1。―この本で著者が「特に注目しているのは、「メリュジーヌ型」のユーラシア的展開」(訳者前書き)である。* 松村朋彦「異類の女性――『メルジーネ』から『崖の上のポニョ』まで」『希土』希土同人社、第46号 2021年9月1日、 ISSN 0387-3560、pp. 2-16.―対象としている作品は、民衆本『メルジーネ』(1474)、フーケー『ウンディーネ』(1811)、アンデルセン『人魚姫』(1837)、ホフマンスタール『影のない女』(1919)、バッハマン『ウンディーネ行く』(1961)、宮崎駿『崖の上のポニョ』(2008)の6作品。
== 関連項目 ==
* ノッケン
* ナーイアス
*[[Potamides (mythology)]]ポタミディス*''[[Partonopeus de Blois]]''雪女*[[Yuki-onna]]*[[Knight of the Swan]] == 外部リンク ==* [https://archive.org/details/melusine00jeanuoft ''Melusine'', by Jean, d'Arras] - Internet Archive白鳥の王
== 注釈 ==

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