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'''マーナガルム'''(Mánagarmr)は北欧神話に登場する狼である。その名前は'''月の犬'''」を意味する。

==概要==
『スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』で、次のような紹介がされている<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』233頁。</ref>。

人間の国[[ミズガルズ]]の東にある森イアールンヴィズ<ref>『エッダ 古代北欧歌謡集』24頁。</ref>に1人の女巨人が住んでおり、他に'''イアールンヴィジュル'''という魔女たちも住んでいる。女巨人がたくさんの巨人を産んだが、それはみな狼の姿であった。天空で[[ソール (北欧神話)|太陽]]を追う狼[[スコル]]、[[マーニ|月]]を追う狼[[ハティ]]も、これらの狼から由来している。

この一族中で最強の狼がマーナガルムである。すべての死者の肉を腹に満たし、月を捕獲して、天と空に血を塗る。そのために太陽が光を失ってしまう<ref>マーナガルムの性質はインド神話の[[ラーフ]]に似ように思う。ハティよりは[[スコル]]に近い性質の女神であるといえないだろうか。</ref>。

==ハティとの関係==
マーナガルムはしばしば、月を追いかけるとされる狼[[ハティ]]と同一視され、ハティの別名がマーナガルムだともいわれている。

しかし[[アクセル・オルリック]]は、『古エッダ』の『[[グリームニルの言葉]]』第39節にある、「森に太陽が沈むまで追いかける狼はスコル、ハティは天の花嫁(太陽)の前を走る」という節について、'''太陽の前を走ることと月を追いかけることは同じではない'''と指摘している<ref name="sekai55">『北欧神話の世界』55頁。</ref>。

彼は、太陽の前後を走る狼とは、[[北ヨーロッパ|北欧]]では一般的にみられる、太陽付近に光の斑点が現れる現象「[[幻日]]」をさしているのだとしている。この気象現象の民俗的な呼称は、[[デンマーク]]や[[ノルウェー]]では「'''太陽狼'''」であり、[[スウェーデン]]ではそれとともに同義の「''solvarg''」も使うとしている<ref name="sekai55" />。イギリスやアメリカでも、「''sun-dog''」といった名称で呼ばれることがあるという<ref>『北欧神話の世界』55-56頁。</ref>。この「2頭の太陽狼」という表象は広く行き渡っていて、たとえば[[アイスランド]]の農民はこの現象を「太陽が狼の挟みつけに遭う」つまり「両側から狼に襲われる」と表現するという<ref name="sekai55" />。

対して、北欧の民俗信仰に「月を飲み込む狼」は存在していないため、このマーナガルムは、[[スノッリ・ストゥルルソン]]が『グリームニルの言葉』の当該箇所を誤解したことに由来しているとオルリックは考えている<ref name="sekai55" />。

==関連項目==
* [[ハティ]]
* [[アングルボザ]] - マーナガルムらを生んだ女巨人は彼女だとされる。
* [[ケートゥ]]:インド神話で月を追いかける神。
** [[ラーフ]]:インド神話で太陽を追いかける神。
* [[相柳]]:中国神話でおそらくマーナガルムの遠い起源といえる神
** 黒耳:中国神話で太陽や月を追いかける犬。

==参考文献==
* アクセル・オルリック『北欧神話の世界』[[尾崎和彦]]訳、[[青土社]]、2003年、ISBN 9784791760657。
* V.G.ネッケル他編『エッダ 古代北欧歌謡集』[[谷口幸男]]訳、[[新潮社]]、1973年、ISBN 9784103137016。

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{{DEFAULTSORT:まなかるむ}}
[[Category:北欧神話]]
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