パーンには、少なくとも原インド・ヨーロッパ語族時代においてはもう一つの名前があり、ローマ神話でのファウヌス(下記)であると考えられる。あるいは印欧比較神話学的な観点からはインドの牧羊神[[プーシャン]](Pūṣán)と語源が共通しているという説もある。どちらにしても、パーンの血統をめぐる説がいくつもあることから、太古の神話的時代に遡る神であるに違いない。パーンが[[アルテミス]]に猟犬を与え、[[アポローン]]に予言の秘密を教えたというのが本当なら、他の自然の精霊と同じく、パーンはオリュンポス十二神よりも古いものにみえる。パーンはもともとアルカディアの神であって、パーンの主な崇拝者もアルカディア人だった。アルカディアはギリシア人の居住地であったが、この地のギリシア人はポリスを形成せず、より古い時代の村落共同体的な牧民の生活を送っていたので、オリュンポスの神域がパーンのパトロンになった時<!-- どういう意味か? -->、ポリス生活を送る先進地帯のギリシア人は彼らのことを蔑視していた。アルカディアの猟師たちは狩りに失敗した時、パーンの像を鞭打ったものである(テオクリトス vii. 107)。
パーンは人気のない所で、突然、混乱と恐怖をもたらすことがあった(「[[パニック]]パーンは人気のない所で、突然、混乱と恐怖をもたらすことがあった(「パニック(Panic)」)(''panikon deima'')。
復興[[ペイガニズム]](Neopaganism)においてパーンは「角を持つ神」の典型として、神の[[元型]]の一つだった(→復興ペイガニズム(Neopaganism)においてパーンは「角を持つ神」の典型として、神の元型の一つだった(→[[ケルヌンノス]])。
=== パーンとニュムペーたち ===
パーンのトレードマークである笛に関わる有名な伝説がある。シューリンクス({{lang|el|Συριγξ}}、Syrinx)はパーンのトレードマークである笛に関わる有名な伝説がある。シューリンクス(Συριγξ、Syrinx)は[[アルテミス]]の侍女で<ref name="K">木村点 『早わかりギリシア神話』 日本実業出版社</ref>、アルカディアの野に住む美しい[[ニュンペー|ニュムペー]]だった。サテュロス他の森に住むものに愛されていたが、彼女は彼らを皆軽蔑していた。ある日、狩りから彼女が帰ってくるとパーンに会った。アルテミスを崇敬し処女のままでいたいと思っていた、アルカディアの野に住む美しいニュムペーだった。サテュロス他の森に住むものに愛されていたが、彼女は彼らを皆軽蔑していた。ある日、狩りから彼女が帰ってくるとパーンに会った。アルテミスを崇敬し処女のままでいたいと思っていた<ref name="K" />彼女はパーンのお世辞を聞かずに逃げ出したが、パーンは[[ラドン川]]の土手まで追いかけて行って彼女を捕えた。水中のニュムペーに助けを求める余裕しかなく、パーンが手を触れた時、彼女は川辺の葦になった。風が葦を通り抜け、悲しげな旋律を鳴らした。パーンはニュムペーを讃え葦をいくたりか切り取ると[[楽器]]を作り「パーンの[[笛]]」([[パンパイプ|パーンパイプ]]、パーンフルート、つまり古代ギリシア語でシューリンクス、[[:en:Syrinx|Syrinx]])と呼んだ。彼女はパーンのお世辞を聞かずに逃げ出したが、パーンはラドン川の土手まで追いかけて行って彼女を捕えた。水中のニュムペーに助けを求める余裕しかなく、パーンが手を触れた時、彼女は川辺の'''葦'''になった。風が葦を通り抜け、悲しげな旋律を鳴らした。パーンはニュムペーを讃え葦をいくたりか切り取ると楽器を作り「パーンの笛」(パーンパイプ、パーンフルート、つまり古代ギリシア語でシューリンクス、Syrinx)と呼んだ。
[[エーコー]]({{lang|el|Ηχω}}、Ekho)は歌と踊りの上手なニュムペーであり、全ての男の愛情を軽蔑していた。好色な神であるパーンはこれに腹をたて、信者に彼女を殺させた。エーコーはバラバラにされ、世界中に散らばった。大地の女神[[ガイア]]がエーコーの肉片を受け取り、今もエーコーの声は他の者が話した最後の数語を繰り返している。エーコーとはギリシア語で、木霊を意味する。別の伝承では、はじめエーコーとパーンの間には[[イアムベー]]({{lang|el|’Ιαμβη}}、Iambe)という娘がいた。