神鳥
神話・伝説上の神鳥・霊鳥リスト
目次
盗む鳥
ズー
ズー(Zū)は、メソポタミア神話(バビロニア神話)に登場する。現在ではアンズー(Anzū)がより正確な呼称であるとされる。ライオンの頭を持つワシの姿で表されることがある。
ズーは天の主神エンリルの随獣であり彼に仕えていたが、主神権の簒奪を目論み、主神権の象徴である「天命の書板」を盗み出してしまう。この話はいくつかバージョンがあり、あるバージョンでは、「天命の書板」を取り返すために神々がルガルバンダを送り込み、彼がズーを殺したことになっており、また別のバージョンでは、エアとベレト・イリがニヌルタを書板の奪還に向かわせたという。また、アッシュールバニパルの讃歌では、マルドゥクがズーの討伐を命じられている。
トゥプシマティ(Tupsimati)
「天命の書板(Tablet of Destinies)」のこと。 メソポタミア神話では、運命の石版[1][2]は、楔形文字で刻まれた粘土板に円柱の印章を押したもので、エンリル神に宇宙の支配者としての最高権威を与える永遠の法的文書と考えられていた。
シュメール語の詩『ニヌルタと亀』では、石版を持つのはエンリルではなくエンキ神であり、エンキが石版を盗んでアプスー(apsû、abzu)に持ち込んだためである[3][4]。エンキは、世界の創造者であり、知識および魔法を司る神とされる。この詩とアッカド語の『アンズー』の詩もまた、鳥イミュグド(シュメール語)またはアンズー(アッカド語)に石版を盗まれるという懸念を共有している。
後期バビロニアの文書エヌマ・エリシュによると、神々の父であったアプスーは、若い世代の神々に平穏な眠りを乱されたため、彼らを滅ぼそうとした。アプスーの孫にあたり、当時神々の中で最強であったエンキは、若い世代の神々の代表に選ばれた。彼はアプスーに魔法をかけて深く眠らせたうえ、地底深くに閉じ込めて殺した。エンキ(エア)は、世界を豊かに保つ力をアプスーから獲得し、そのまま地底を住処として、淡水および繁殖を司る神としての役割を継承した。夫のアプスーを殺されたティアマトは、エアの子供世代の神々を殺そうと企み、キングーに石版を与え軍の指揮権を委ねるが、エアの息子マルドゥクがキングーから天命の粘土板を奪い勝利を収めた。天地の秩序を取り戻し、確立したマルドゥクはエンリルに代わって神々の王となった(「運命の石版」を手に入れた。)
マルドゥクの息子とされた書記と書記官の神ナブーが、人類の運命が記された「運命の石版」の保持者であった。ナブーは文字の神として、個々の人間に与えられた運命を石版に刻み、書記神ニヌルタと関連付けられた[5]。知恵者としては、メソポタミアの月神シンと関連があった。メソポタミアにおいてシンは月を司り[6]、大地と大気の神としても信仰されていた[7]。月の規則正しく満ちては欠ける性質から「暦を司る神」とされた。「暦の神」としてのシンは「遠い日々の運命を決める」力を持っていたとされ、彼の練る計画を知った神はいないとされる。シンはエンリルとニンリルの息子である。
もともとナブーは西部セム族の神であり、アムル人によって紀元前2000年過ぎ頃、恐らくマルドゥクが導入されるのとほぼ同時期にメソポタミアに導入された[8]。ナブーは当初はマルドゥクの書記官で大臣であるとされていたが、後に息子であるとされた。
「運命の石版」はシュメール時代にはエンキの持ち物とされていたが、その頃(前3500年頃 - 前3100年頃)から鳥イミュグド(アンズー)に盗まれる、という神話があったようである。
ガルダ
ガルダ(गरुड, Garuḍa)は、インド神話に登場する炎の様に光り輝き熱を発する神鳥。ガルダはサンスクリットやヒンディー語による名称で、パーリ語ではガルラ(Garuḷa)、英語やインドネシア語などではガルーダという。カシュヤパとヴィナターの息子で、ヴィシュヌのヴァーハナ(神の乗り物)である。
その一族はインド神話において人々に恐れられる蛇・竜のたぐい(ナーガ族)と敵対関係にあり、それらを退治する聖鳥として崇拝されている。これは、インドにおいて猛禽類や孔雀は蛇を食べると解釈されていたことによる。単に鷲の姿で描かれたり、人間に翼が生えた姿で描かれたりもするが、基本的には人間の胴体と鷲の頭部・嘴・翼・爪を持つ、翼は赤く全身は黄金色に輝く巨大な鳥として描かれる。
ガルダとアムリタ(amṛta)
アムリタ(amṛta), 甘露は、インド神話に登場する神秘的な飲料の名で、飲む者に不死を与えるとされる。乳海攪拌によって醸造され、神々によって厳重に保管された。
ガルダはナーガたちの奴隷だった母親を助け出すために、天界にある乳海攪拌から生まれた不死の聖水アムリタを神々から力ずくで奪ってくるとナーガたちに約束した。
ガルダは天上に乗り込むと、守備を固めて待ち受けていた神々を次々に払いのけ、アムリタを奪い飛び去った。
ヴィシュヌはガルダの勇気と力に感動したため、アムリタを用いなくてもガルダを不死とする、と告げた。ガルダはそれを受けてヴィシュヌのヴァーハナとなることを誓った。インドラはガルダと戦って敵わなかったので、ガルダに永遠の友情の誓いを申し込んだ。ガルダはナーガたちを食料とするという約束を神々と交わした。
約束を守るために、一旦ガルダはアムリタをナーガたちの元へ持ち帰った。しかし、ナーガたちが飲む前に、インドラがアムリタを取り返してしまった(『マハーバーラタ』第1巻14~30章[9])。
関連するもの
トートとナブー:書記の神・月と関連する神
トート(ギリシャ語:Θωθ)は、古代エジプトの知恵を司る神。エジプト初期王朝時代(第1 - 2王朝)(紀元前3100年よりも前)から信仰されていた。古代エジプトでの発音は、完全には解明されていないがジェフティ(エジプト語:ḏḥwty)と呼ばれる。聖獣は、トキとヒヒである。主にヘルモポリスで信仰された。
多くの信仰を集め、長い間、様々な広い地域で信仰されたため、知恵の神、書記の守護者、時の管理人、楽器の開発者、創造神などとされ、王族、民間人問わず信仰された。
ヘリオポリス神話において世界ができた時、自らの力で石から生まれたとされる説が有名である(この場合、早く生まれたために足が悪くなったとされる)。神話では、世界は、八柱神(オグドアド)によって作り出されたとされている。その後この神々が眠りにつくが世界が終焉を迎えた時、また新しい世界を生み出すために神々を目覚めさせなければならない。この役目を請け負ったのがトートだとされる。あるいは、トートが創造神とされた。
トートは神々の書記であり、ヒエログリフを開発したことから書記の守護者とされた。死者の審判においては、全ての人の名前や行動を生前の内から記録しているとも、アヌビスが死者の心臓を計りにかけ、トートは、死者の名前を記録する作業を行うともいう。王が即位した時には、その王の名前をイシェドと呼ばれる永遠に朽ちない葉に書き記す。
トートは月と賭けをして勝ち、時の支配権を手に入れた。そこで太陽神の管理できない閏日を5日間作った(太陰暦と太陽暦の差)。月としての属性を得たため太陽の沈んだあとの夜の時間は、トート神が太陽にかわって地上を守護するとされる。
トートは、魔法に通じておりイシスに数多くの呪文を伝えた。病を治す呪文も熟知していることから医療の神の面もある。
参考文献
ズー
- Wikipedia:ズー
トゥプシマティ(Tupsimati)
ガルダ
- Wikipedia:ガルダ
ガルダとアムリタ(amṛta)
関連するもの
トートとナブー:書記の神・月と関連する神
参照
- ↑ Not, as frequently misquoted in general works, the Tablets of Destiny.
- ↑ http://etcsl.orinst.ox.ac.uk/cgi-bin/etcsl.cgi?text=c.1.6.3&display=Crit&charenc=gcirc&lineid=c163.B.1#c163.B.1, The Electronic Text Corpus of Sumerian Literature, etcsl.orinst.ox.ac.uk, access-date=2017-08-28
- ↑ http://etcsl.orinst.ox.ac.uk/cgi-bin/etcsl.cgi?text=t.1.6.3# , Oxford.
- ↑ シュメール語はシュメール地方の都市文明を担った人々が使用していた言語である。前3500年頃 - 前3100年頃。
- ↑ Leick, Dr Gwendolyn, A Dictionary of Ancient Near Eastern Mythology, date=2002, Routledge, isbn=9781134641024, page=127, https://books.google.com/books?id=_pqEAgAAQBAJ&pg=PA123, =March 7, 2019, en
- ↑ 『オリエントの神話』36-38頁
- ↑ 『世界神話辞典』50-51頁(シンの項)。
- ↑ url=http://www.mythencyclopedia.com/Mi-Ni/Nabu.html , Nabu - Myth Encyclopedia - mythology, god, ancient, children , publisher=Mythencyclopedia.com , 2010-12-24
- ↑ 「マハーバーラタ」の成立年代は一般に、紀元前4世紀頃から紀元後4世紀頃とされている。