コボルト
コボルトは、ドイツの民間伝承に由来する醜い妖精、精霊である。
16世紀頃のドイツで、鉱山に、時々発見される、熱すると有毒ガスを吐く鉱石について、Cobaliと呼ばれる妖精が銀や銅を抜いたものであるとされた。後、この伝承がイギリスに渡った際、その石はヒ素や銀、銅を含んだものであると解釈され、さらに後の18世紀、そこから精製された物質が原子番号27の金属元素 に制定されるにあたって、その名をこの妖精の名からコバルトとした[1]。
概要
アンナ・フランクリンによれば、ドイツ、デンマーク、オーストリア、スイスで言い伝えられている精霊[1]である。彼らはミルクや穀物などと引き替えに家事をしてくれたりもするが、贈り物をしないままだと住人の人間にいたずらをして遊んだりもする。また、一度贈り物をもらったコボルトはその家から出て行ってしまうと言われる。
ローズマリ・エレン・グィリーによれば、コボルトにはイギリスのボガートやブラウニーのような「家につく」者と、ノッカーやアメリカのトミーノッカーにあたる「鉱山につく」ものがいるという[2]。
造形
最も一般的なイメージは、ときに手助けしてくれたりときにいたずらをするような家に住むこびとたちというものである。もうひとつあるコボルトのイメージは、坑道や地下に住み、皴のよった小さな顔で、尖ったフードの付いた服を着たノームにより近い姿である[3]。
A・フランクリンは、身長60cm、緑か、濃い灰色の肌をして、毛がふさふさとした尻尾と毛深い脚を持ち、手を持たない、という姿で、三角形の帽子に先のとがった靴を履き、赤か緑色の服を着た姿であるとし[4]、他に、子供や猫という形もあると言っている[5]。また、大笑いしている小人の形をした人形があったとし、マンドレークの根やツゲの木でコボルトの像が作られたという[5]。
水木しげるは、ある女性の家へ、煙突から炎の形で現れ、家事をなした、通いのコボルト伝承を紹介している[6]。
呼称或いは亜種
コーボルト、(Kobold [7])、コボルド(kobold, cobold)とも表記する。コボルトはドイツ語で邪な精霊を意味し、英語ではしばしばゴブリンと訳される。アンナ・フランクリンは、コボルデ(Kobolde)、コバルト(Kobalt)[8]、キャロル・ローズはコーベル(Kobel)、コベルト(Kobelt)という呼称を紹介[3]している。
また、ローズマリ・E=グィリーはハインツァ、メンケン ヴァルター[9]と呼ばれるものが、A・フランクリンは、ガルゲンメンライン、オアラウンレ、グリュックスメンヒェン、アーレリュンケン、アルラウネ[10]、C・ローズはキメケン(Chimeken)、ハインツェ(Heinze)、ヒンツェルマン(Hinzermann)、ゴルドマル王King Goldmar)、と呼ばれるものもいるとしている[3]。
最古の記述として、13世紀の文献に出る、「山の精」を指すラテン語「Cobaldus」を紹介するA・フランクリンは、語源としてギリシャ語の「Kaballoi」(馬に乗るもの達)、また悪漢を指す「Kabalos」の可能性を示唆している[10]。
グリム童話におけるコボルト
細部は省略するが、おおむね以下のとおりである。
嘘をついたことで王に藁を黄金に変えるよう無理難題を命じられた娘の前に、奇妙な小人(原文ではコボルト[11])が現れる。彼は藁を黄金に変えることと引き替えに、娘に将来生まれる娘の子供を要求した。娘はそれを承諾し、黄金を受け取る。喜んだ王は娘と結婚し、やがて子供が生まれた。すると約束通り小人が現れ、子供を要求するが、娘が泣いて頼んだため、3日以内に名前を当てたら許してやると約束する。様々な名前を言う娘だが、いずれも違う。万策尽きた娘は四方に人をやって情報を集めるが、そのうちの一人が何者かの歌う歌を聞いたと報告した。
- 「ランペルスティルスキン[12] は明日になれば子供を手に入れる」
翌日、現れたコボルトに娘は名前を告げる。まさか当てられるとは思っていなかったコボルトは怒り狂い、力任せに床を踏み抜き、足を取られてしまう。そして引き抜こうと力を込めたが、足は抜けず、彼の体は真っ二つに裂けて死んでしまった。
初版や子供向きの翻案では、最後に死ななかったり、仲直りするなどの結末となる場合がある。
参考文献
参照
- ↑ 1.0 1.1 A・フランクリン, 2004, 172p
- ↑ ローズマリ・エレン・グィリー, 1995, 182p
- ↑ 3.0 3.1 3.2 C・ローズ, 2003, 149p
- ↑ A・フランクリン, 2004, 174p
- ↑ 5.0 5.1 A・フランクリン, 2004, 172p
- ↑ 水木しげる, 1985, 182p
- ↑ ˈkoːbɔlt
- ↑ A・フランクリン, 2004, 174p
- ↑ ローズマリ・エレン・グィリー, 1995, 182
- ↑ 10.0 10.1 A・フランクリン, 2004, 173p
- ↑ 本話が『がたがたの竹馬こぞう』として収録された『完訳 グリム童話集 2巻』(岩波文庫)1979年岩波書店刊 182頁に、翻訳した金田鬼一の解説で、これは「コボルト」といわれるとある
- ↑ テンプレート:Lang-en-short(ルンペルシュティルツヒェン、テンプレート:Lang-de-short)