鶴の恩返し
鶴の恩返し(つるのおんがえし)は、日本の民話。動物報恩譚の一つ。
概要
一般に「翁が罠にかかった鶴を助け、その鶴が人間の女性に姿を変えて翁とその妻に恩を返す」という筋立てが知られているが、類似する話は日本全国で報告されており、文献・伝承によって細部で差違が見られる。
- 鶴を助けた人物が翁ではなく若者である。
- その若者と人間に化けた鶴が世帯を持つ異類婚姻譚である。この類型は「鶴女房(つるにょうぼう)」として知られる。
- 老夫婦ではなくて、老爺の一人暮らしであった。
- 鶴は買ってきた糸でなく、自分の羽毛で機を織り、そのせいで日に日に痩せ細る娘を見かね、怪訝に思った翁が、機織りの部屋を覗く
- 娘が鶴に戻り若者の元を去った後、若者は自分の行いを悔やんで僧となる。
一説には唐代のものとされる「鶴氅裒(かくしょうほう)」の寓話が原型であるという[1]。
古今東西に広く見られる「見るなのタブー」をモティーフとした物語の一つでもある。
物語
昔々、ある所に貧しい老夫婦が住んでいた。ある冬の雪の日、老爺が町に薪を売りに出かけると、猟師の罠にかかった一羽の鶴を見つける。かわいそうに思った彼は、鶴を罠から逃がしてやった。激しく雪が降り積もるその夜、美しい娘が夫婦の家へやってきた。親に死に別れ、会った事もない親類を頼って行く途中、道に迷ったので一晩泊めて欲しいと言う娘を、夫婦は快く家に入れてやる。次の日も、また次の日も雪はなかなか止まず、娘は老夫婦の家に留まっていた。その間、娘は甲斐甲斐しく夫婦の世話をし、彼らを大そう喜ばせた。ある日娘が、顔も知らない親戚の所へ行くより、いっそあなた方の娘にして下さい、と言う。老夫婦は喜んで承知した。
その後も孝行して老夫婦を助けていた娘が、ある日「布を織りたいので糸を買ってきて欲しい」と頼むので老爺が糸を買って来ると、娘は「絶対に中を覗かないで下さい」と夫婦に約束を言い渡して部屋にこもり、三日三晩不眠不休で布を一反織り終わった。「これを売って、また糸を買ってきて下さい」と彼女が夫婦に託した布は大変美しく、たちまち町で評判となり、高く売れた。老爺が新しく買ってきた糸で、娘は2枚目の布を織り、それはいっそう見事な出来栄えで、更に高い値段で売れ、老夫婦は裕福になった。
しかし、娘が3枚目の布を織るためにまた部屋にこもると、初めのうちは辛抱して約束を守っていた老夫婦だが、娘はどうやってあんな美しい布を織っているのだろうと、老妻の方がついに好奇心に勝てず約束を破って覗いてしまった。娘の姿があるはずのそこには、一羽の鶴がいた。鶴は自分の羽毛を抜いて糸の間に織り込み、きらびやかな布を作っていたのである。もう羽毛の大部分が抜かれて、鶴は哀れな姿になっている。驚いている夫婦の前に機織りを終えた娘が来て、自分が老爺に助けてもらった鶴だと告白し、このまま老夫婦の娘でいるつもりだったが、正体を見られたので去らねばならないと言うと、鶴の姿になり、別れを惜しむ老夫婦に見送られ空へと帰っていった。
関連項目
- 夕鶴 - 柳田國男『全国昔話記録』の第一編『佐渡昔話集』(1932年(昭和7年))中の「鶴女房」(採話者 鈴木棠三 話者 道下ヒメ 相川町史編纂委員会編『佐渡相川郷土史事典』から)を題材にした戯曲
脚注
- ↑ 横井見明, 明治44年(1911年), 源翁和尚と殺生石, 孝子と鶴(鶴氅裒物語), https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/822952/24 , 森江書店, p.50, p18-23