== 悲劇作品 ==
三大悲劇詩人の1人ソポクレースは現存しない悲劇『アタマース』においてネペレーを女神として描いている。ネペレーはアタマースとの間にプリクソスとヘレーを生んだが、アタマースは女神の妻を捨てて人間の女イーノーと結婚した。ネペレーは怒って天に昇り、オルコメノスを三大悲劇詩人の1人ソポクレースは現存しない悲劇『アタマース』においてネペレーを女神として描いている。ネペレーはアタマースとの間にプリクソスとヘレーを生んだが、アタマースは女神の妻を捨てて人間の女[[イーノー]]と結婚した。ネペレーは怒って天に昇り、オルコメノスを'''旱魃'''で苦しめた<ref>ネペレーには天候を左右する天候神としての性質があったことが分かる。男性との関係がうまくいっていると、天候も順調である、とは[[巫山神女]]の思想に通じるものがある。</ref>。イーノーの陰謀によってネペレーの子供たちは旱魃を鎮めるための生贄にされそうになったが、子供たちは人語を話す不思議な羊の予言によって危険を逃れた。またネペレーはアタマースに罪を償わせようとしたが、ゼウスの祭壇で殺されそうになったアタマースを。イーノーの陰謀によってネペレーの子供たちは旱魃を鎮めるための生贄にされそうになったが、子供たちは人語を話す不思議な羊の予言によって危険を逃れた。またネペレーは[[アタマース]]に罪を償わせようとしたが、ゼウスの祭壇で殺されそうになった[[アタマース]]を[[ヘーラクレース]]が助けた<ref>アリストパネース『雲』257行への古註a。</ref><ref group="私注">ネペレーが人身御供を求める神であったことが窺える。</ref>。
== 解釈 ==
アポロドーロスはイーノーがネペレーの子供たちを殺そうとしたことについて述べた直後に<ref name="AP191" />、[[ヘーラー]]がアタマースとイーノーに怒り、狂気を送って狂わせたことに言及している<ref>アポロドーロス、1巻9・2。</ref><ref group="私注">ヘーラーにも「狂気をもたらす」月の女神としての性質があったことが分かる。</ref>。一般的に[[ヘーラー]]の怒りは彼らが[[ディオニューソス]]を養育したことに起因すると考えられているが、当該箇所においては[[デォニューソス]]が原因であるとは語られていない。民族精神医学(ethnopsychoanalysis)を創始したジョルジュ・ドゥヴルー(George Devereux)はこの点に注目し、[[ヘーラー]]の怒りは[[イーノー]]と[[アタマース]]が[[ディオニューソス]]を養育したことではなくネペレーの子供たちを殺そうとしたことに起因していると考え、[[アタマース]]の物語におけるネペレーと[[ヘーラー]]との間に緊密な関係があることを指摘している。ドゥヴルーによれば'''ネペレーは[[ヘーラー]]の分身ともいうべき存在'''であり、[[ヘーラー]]はネペレーに加えられた屈辱に対してネペレー同様に怒りを感じている<ref>ジョルジュ・ドゥヴルー、p.71。</ref>。イギリスの詩人ロバート・グレーヴスによれば、先妻ネペレーと後妻[[イーノー]]の争いは、侵入者である牧畜民のアイオリス人と、穀物の女神イーノーの信仰を受容していた先住民のの争いは、侵入者である牧畜民のアイオリス人と、穀物の女神[[イーノー]]の信仰を受容していた先住民の[[イオニア人]]との信仰上の対立を象徴したものである<ref>ロバート・グレーヴス、70話1。</ref><ref group="私注">管理人の考えでは、ネペレーも[[イーノー]]も「穀物などの豊穣のために生贄を求める女神」であって、「同じ女神」であると考える。下位の女神ほど「生贄となる女神」としての性質が割り振られやすいので、身分の順としては[[ヘーラー]]、ネペレー、[[イーノー]]となると考える。</ref>。 == 私的解説・ネペレーとホレのおばさん ==天候神ネペレーと「'''穀物の実りを左右する女神'''」である[[イーノー]]との対立は、むしろ「[[うりこひめとあまのじゃく]]」的に、[[イーノー]]の方が「罰を受けるべき(悪い)女神」であるという観点から生じているように思う。なぜなら、[[イーノー]]は本来「穀物を実らせる女神」でなければならないはずなのに、その役割を果たさず、逆に「凶作」をもたらそうとしているからである。女神が「働かないから罰せられなければならない」という労働型の受罰女神の発生思想は[[牛郎織女]]に似る。 [[イーノー]]は人身御供を求める女神でもあるが、対立するネペレーもその点は同様であるので、そのために責められる、という要素はほとんどない。 ネペレーと[[イーノー]]の本来の関係は、ゲルマン神話の[[ホレのおばさん]]と[[コルンムーメ]]の関係に相当すると考える。日本神話では[[豊玉毘売]]と妹の[[玉依姫]]との関係が近いように思うが、日本神話では「海の女神」としての性質が強いのは[[豊玉毘売]]の方である。 注釈にも書いたが、同一の女神の序列としては * [[ヘーラー]]、ネペレー、[[イーノー]]、ヘレー となって、一巡して[[ヘーラー]]系の名前に戻るようになっているように感じる。名前の類似性からいっても、[[ホレのおばさん]]と[[ヘーラー]]は同一の女神といえよう。
== 参考文献 ==