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、 2022年9月26日 (月) 02:06
'''メリュジーヌ'''(別名:'''メリュジーナ'''、Melusine)は、フランスの伝承に登場する水の精霊で、一種の異類婚姻譚の主人公。<!--ローズp3431ここから-->上半身は中世の衣装をまとった美女の姿だが、下半身は|蛇の姿で、背中にはドラゴンの翼が付いている事から竜の妖精でもあるとも言われている<ref name="ローズp431">ローズ,松村訳 (2004), p. 431.</ref>。マーメイドの伝承とも結び付けられて考えられることもある。
== 伝説の概要 ==
メリュジーヌの伝説は、フランスでは14世紀より前から'''メリサンド'''という名でも知られ、民話にも登場していた<ref name="ローズp431" />。その原型は、ずっと以前から知られている[[ヴイーヴル]]や[[セイレーン]]といった怪物であろうとも考えられている<ref name="松平2005b_p222" />。
1397年にフランスのジャン・ダラス(Jean d'Arras)<ref group="注釈">ジャン・ダラスは、ジャン・ド・ベリー公の元で司書および製本職人として働いていた。</ref><ref name="蔵持p10" />が『メリュジーヌ物語』を散文で著し<ref name="ローズp431" />、その後クードレット(Couldrette)<ref group="注釈">クルドレッド(クードレット)は、リュジニャン家の当主ジャン2世の元で司祭を務めていた</ref><ref name="蔵持p10" />。という人物が1401年以降にパルトゥネの領主に命じられ『メリュジーヌ物語、あるいはリュジニャン一族の物語 (''Le roman de Mélusine ou histoire de Lusignan'' )』を韻文で書き上げたことで広く知られるようになった。その物語とは次のようなものである。
メリュジーヌは、泉の妖精プレッシナと[[スコットランド]]の[[オールバニ|オルバニー]](アールバニー)王エリナスの子{{refnest|group="注釈"|松平の説明によれば、妖精の[[モーガン・ル・フェイ|モルガン]]の妹・プリジーヌ([[アーサー王]]とは父親の異なる兄妹の関係となる)の子で、のアルバニア王エリナスとの間に生まれた姫<ref name="松平2005b_p222" />。}}である。母親の出産時に、禁忌とされていた妖精の出産を父親である領主が見てしまったために、メリュジーヌと2人の妹、メリオールとプラティナは妖精の国に戻されてしまった。成長したメリュジーヌと妹達は復讐心を募らせ、結託して父親を[[イングランド]]の[[ノーサンブリア]]のある洞窟に幽閉した<ref group="注釈">異説では母親を陥れようとした{{要出典|date=2015-11-10}}。</ref>。ところが母親は夫を愛するがゆえに、メリュジーヌと妹達に、週に1日だけ腰から下が蛇の姿となるという呪いをかけた<ref name="ローズp431" /><ref name="松平2005b_p222" />。さらに、もし変身した姿を誰かに見られた場合には、永久に下半身が蛇で翼を持った姿のままとなってしまう<ref name="ローズp431" /><ref group="注釈">別のヴァリアントでは、メリュジーヌはもともと[[泉]]を掌る[[妖精]]と[[オールバニ|アールバニー]]の領主の間に生まれた姫君であった。人間の男の愛を得れば呪いが解けると聞かされて、メリュジーヌは領主に近づいたのであった。</ref>。従って、メリュジーヌが誰かと愛を育むには、その1日に彼女の姿を見ないという約束を果たせる者と出会わねばならなかった。
[[ポワトゥー]]伯のレイモン<ref name="ローズp431" />(またはフォレ伯の子レモンダン<ref name="松平2005b_p221">[[#松平 (2005b)|松平 (2005b)]], p. 221.</ref>)は、おじを誤って殺したことから家族の元を離れていたが、ある日メリュジーヌと会って恋に落ち、メリュジーヌも「土曜日に自分の姿を決して見ないこと」という誓約を交わした上で結婚する。彼女は夫に富をもたらし、10人の子供を儲けた。また、彼女の助力もあってレイモン(レモンダン)はリュジニャン城を建て、町も築くことができた<ref name="松平2005b_p221" />。ところが夫は悪意のこもった噂を耳にすると<ref name="アランp209">[[#アラン,上原訳 (2009)|アラン,上原訳 (2009)]], p. 209.</ref>、つい誓約を破り、沐浴中のメリュジーヌの正体を見てしまった{{refnest|group="注釈"|神話類型として、[[見るなのタブー]]が見受けられる<ref name="蔵持p10" />。}}。部屋に1人閉じこもっていた彼女の姿は上半身こそ人間だったが、下半身は巨大な[[ヘビ|蛇]]<ref name="松平2005b_p222">[[#松平 (2005b)|松平 (2005b)]], p. 222.</ref>(あるいは[[魚類|魚]]<ref name="アランp209" />)になっていたのだった。
誓約を破られたため、メリュジーヌは竜の姿になって城を飛び出していった<ref name="ローズp431" /><ref name="松平2005b_p222" />。しかしまだ小さい子供がいたことから、授乳のために一時城に戻ったほか、城の城主や子孫の誰かが亡くなる直前にも戻ったという<ref name="松平2005b_p222" />。そのため、城主らの死が近づくと、城壁の上に幽霊のようにメリュジーヌが姿を現しては泣き悲しむ様子が見られたという。メリュジーヌの子供達の多くは化け物の性質を持っていたものの、問題なく生まれた2人の子供の血統からは、後のフランス君主が立ったという<ref name="ローズp431" />。リュジニャン城は後に取り壊され、現在は存在しない<ref name="アランp209" />。
{{Gallery
|title=『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』に描かれたメリュジーヌ
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|ファイル:Limbourg brothers - Les très riches heures du Duc de Berry - Mars (March) - WGA13020.jpg|<small>『[[ベリー公のいとも豪華なる時祷書]]』に描かれたリュジニャン城。右上に飛ぶ竜が、「リュジニャンの母(メール・リュジニャン)」とも呼ばれるメリュジーヌである<ref>[[#松平 (2005a)|松平 (2005a)]], pp. 45-46.</ref>{{refnest|group="注釈"|Mélusine(メリュジーヌ)の名は、Mère(母)とLusignan(リュジニャン)の合成語だと考えられている<ref name="蔵持p10">[[#蔵持 (2005)|蔵持 (2005)]], p. 10.</ref>。}}。</small>
|ファイル:Les Très Riches Heures du duc de Berry mars dragon.jpg|<small>リュジニャン城と竜(左の画像の一部を拡大)。</small>
}}
別のヴァリアントでは、メリュジーヌは[[ブルターニュ]]伯(あるいはポワトゥー伯)の下に美女の姿で現れて求婚し、妻となって後は彼を助けたが、「日曜日に必ず[[沐浴]]するので、決して覗かないこと」という誓約を夫に破られ、正体を明かされる。夫は、メリュジーヌが人間でないことを知ってからも妻とし続けたが、2人の間に生まれた気性の荒い異形の息子達が町で[[殺人]]を犯したと聞いて激昂し、息子達の性格上の欠陥の原因を彼女の正体のせいだとして、「化け物女」と罵倒したため、自尊心を傷つけられた彼女は正体を現し、[[教会]]の塔を打ち壊して川に飛び込んで行方をくらましたという。その後、彼女は[[水妖]]の一員となった。紋章などに用いられている尾が2つあるマーメイドは彼女の姿であるとされている。
== 息子たち ==
[[ファイル:Gotfrid magni dentis.jpg|thumb|200px|大牙のジョフロワ]]
クードレットの記述による。
* ユリアン(後にキプロスの王になったという)
* ウード(外見と顔が炎のように燃えて見える)
* ギイ(後にアルメニアの王になったという)
* アントワーヌ(片頬に獅子の足が生えている)
* ルノー(一つ目)
* ジョフロワ(大牙が一本あり)
* フロモン(鼻の上に毛で覆われたアザがある)
* オリブル(三つ目)
== 象徴 ==
[[ミルチャ・エリアーデ|エリアーデ]]によれば、メリュジーヌを構成する「女性」と「蛇」、そして伝承によっては加えられる「魚」といった要素は、いずれも豊穣のシンボルである。従って、メリュジーヌは豊穣、さらには再生を生み出す存在だと考えることができる<ref name="松平2005b_p222" />。
== お菓子 ==
{{出典の明記|section=1|date=2015年11月10日 (火) 12:22 (UTC)}}
[[ブルターニュ地域圏]]では近代まで、メリュジーヌが町を去ったとされる日に祭りが開かれ、屋台で[[人魚]]のような姿をした女性を木型で浮き彫りにした素朴な焼き[[菓子]]が売られていたという。
この素朴な焼き菓子の名も「メリュジーヌ」と言った。
現代では、祭りが廃れこの「メリュジーヌ」も僅かな木型だけを残して姿を消している。
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{脚注ヘルプ}}
<references group="注釈"/>
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
== 参考文献 ==
{{参照方法|date=2015年11月|section=1}}
* {{Cite book |和書 |last=アラン |first=トニー |others=上原ゆうこ訳 |title=世界幻想動物百科 ヴィジュアル版 |publisher=[[原書房]] |date=2009-11 |origyear=2008 |isbn=978-4-562-04530-3 |chapter=メリュジーヌの秘密 |page=p. 209 |ref=アラン,上原訳 (2009) }}
* {{Cite book |和書 |author=松平俊久 |others=[[蔵持不三也]]監修 |title=図説ヨーロッパ怪物文化誌事典 |publisher=原書房 |date=2005-03 |isbn=978-4-562-03870-1 }}
** {{wikicite
|ref=蔵持 (2005)
|reference = 蔵持 (2005):蔵持不三也「序文 中世怪物表象考 - 『ヨーロッパ怪物文化誌事典』に寄せて」pp. 7-36。}}
** {{wikicite
|ref=松平 (2005a)
|reference = 松平 (2005a):松平俊久「第1章 異形へのまなざし - 怪物文化誌へ向けて」pp. 37-62。}}
** {{wikicite
|ref=松平 (2005b)
|reference = 松平 (2005b):松平俊久「メリュジーヌ」pp. 221-223。}}
* {{Cite book|和書|last=ローズ |first=キャロル |others=[[松村一男]]監訳 |title=世界の怪物・神獣事典 |publisher=原書房 |series=シリーズ・ファンタジー百科 |date=2004-12 |chapter=メリュジーヌ |page=p. 431 |isbn=978-4-562-03850-3 |ref=ローズ,松村訳 (2004) }}
* {{Cite book |和書 |author=クードレット |others=[[森本英夫]]・傳田久仁子訳 |title=妖精メリュジーヌ伝説 |publisher=[[社会思想社]] |series=[[現代教養文庫]] 1584 |date=1995-12 |isbn=978-4-390-11584-1 |ref= }}
== 関連資料 ==
<!--この節には、記事本文の編集時に参考にしていないがさらなる理解に役立つ書籍等を記載して下さい-->
* [[篠田知和基]] 「[https://doi.org/10.24522/basllfc.20.0_13 メリュジーヌの変容]」『日本フランス語フランス文学会中部支部研究報告集』 日本フランス語フランス文学会、第20巻、1996年3月、pp.13-14, {{doi|10.24522/basllfc.20.0_13}}, {{NAID|110009459107}}。{{オープンアクセス}}
* 篠田知和基 「[https://doi.org/10.18999/joufll.44.151 メリュジーヌ伝承の比較]」『名古屋大學文學部研究論集 文學』 第44巻、1998年3月31日、pp.151-171, {{doi|10.18999/joufll.44.151}}, {{NAID|110000295763}}。
* 傳田久仁子 「[https://doi.org/10.20634/ellf.67.0_97 「境界」の位置 : 『メリュジーヌ物語』におけるリュジニャン城]」、『フランス語フランス文学研究』 日本フランス語フランス文学会、第67巻、1995年10月29日、p.97, {{doi|10.20634/ellf.67.0_97}}, {{NAID|110001247436}}。{{オープンアクセス}}
* フィリップ・ヴァルテール『ユーラシアの女性神話-ユーラシア神話試論Ⅱ』([[渡邉浩司]]・渡邉裕美子訳)[[中央大学]]出版部 2021年8月25日、ISBN 978-4-8057-5183-1。―この本で著者が「特に注目しているのは、「メリュジーヌ型」のユーラシア的展開」(訳者前書き)である。
* 松村朋彦「異類の女性――『メルジーネ』から『崖の上のポニョ』まで」『希土』希土同人社、第46号 2021年9月1日、 ISSN 0387-3560、pp. 2-16.―対象としている作品は、民衆本『メルジーネ』(1474)、[[フーケー]]『ウンディーネ』(1811)、[[アンデルセン]]『人魚姫』(1837)、[[ホフマンスタール]]『影のない女』(1919)、[[バッハマン]]『ウンディーネ行く』(1961)、[[宮崎駿]]『崖の上のポニョ』(2008)の6作品。
== 関連項目 ==
* [[ヴイーヴル]]
== 外部リンク ==
* [https://archive.org/details/melusine00jeanuoft ''Melusine'', by Jean, d'Arras] - Internet Archive {{en icon}}
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