<blockquote>八束水臣津野命が天から降りられた時、ひとりの姫神(御名は石見天豊足柄姫命)が現れて、告げられた。「此国に八色石という石があります。山を'''干山となし'''、川を'''乾川となし'''、'''蛇'''に化けて、いつもやってきては民を悩まします。」命は人々のためにこれを滅ぼそうと思い、姫神に案内させて八色石を2つに切った。すると、その首は飛び去って邑智郡の龍石となり、その尾は裂けて這っていき、美濃郡の角石となった。「これで国から災いがなくなりました。」と姫神はたいそう喜んで、命を館に誘いさまざまにもてなした。命が館に宿泊し、夜が明けてみると、姫神は岩と化していた。命はいぶかしく重い、「これは怪しいことだ。」と仰せられた。<br>龍石というのは、邑智郡に八色石村という駅があって、駅の荘屋・野田鹿作の家の裏山に、八色の石があったのを、神体として祀ったのが龍石である。その理由は、この石がともすれば人に祟って、よくなかったからだ。人々の嘆きが大きいので、役所が素佐鳴尊を添えて祀ったところ、祟りはなくなったとのことだ。三月三日が祭日である。山に上ること八丁、岩の形をよく見ると、蛇の頭のようである。山を下て、鳥居の前にある田中に一つの岩があるが、これは蛇を切って飛び散った血が、変化したものだという。また山に一丁上ると、川中に夫婦石とて、二つの石がある。是も血が飛び散って変化したものだと語り伝えている。</blockquote>
== 私的解説 ==
石見天豊足柄姫命の伝承は、大きく分けて2つの伝承が融合しているものと考える。
* 八束水臣津野命が'''干ばつ'''に対する人身御供の石見天豊足柄姫命を助ける話。八束水臣津野命が、人身御供を求める悪い蛇神(石神)を退治する話でもある。
* 石見天豊足柄姫命が、悪い蛇神(石神)に追い回されて死に、石に変じてしまった話。
である。この2つの話が入り交じった結果、悪い蛇神は退治されて、人身御供は必要なくなったはずなのに、女神が死ぬことにだけなってしまっている、という印象を受ける。静岡県の矢奈姫神社では、人身御供を求める干ばつの猿神が退治されたはずなのに、女神を殺すことを模した祭祀が今も続けられている。なんだか、その祭祀の精神的構図が、そのまま神話で語られている感がする伝承である。
== 祀る神社 ==