リンブルク=ルクセンブルク朝(1308年から1437年まで神聖ローマ帝国とボヘミア、ハンガリーを支配)、アンジュー家とその子孫のプランタジネット家(イングランド王)、フランスのルシニャン家(キプロス王、1205年から1472年、キリキアアルメニア、エルサレムも短時間支配)は、民話や中世文献にメリュジーヌの子孫とされている。水の精(人魚)、大地の存在(テロワール)、場所の守護神(ゲニウス・ロキ)、極悪非道な世界からやってきて男と肉的に結合するサキュバス、死の前触れ(バンシー)など、伝説の主要テーマを組み合わせた物語である。
== 伝説の概要 ==
メリュジーヌの伝説は、フランスでは14世紀より前から'''メリサンド'''という名でも知られ、民話にも登場していた<ref name="ローズp431" />。その原型は、ずっと以前から知られている[[ヴイーヴル]]や[[セイレーン]]といった怪物であろうとも考えられている<ref name="松平2005b_p222" />。
1397年にフランスのジャン・ダラス(Jean d'Arras)<ref group="注釈">ジャン・ダラスは、ジャン・ド・ベリー公の元で司書および製本職人として働いていた。</ref><ref name="蔵持p10">蔵持 (2005), p. 10.</ref>が『メリュジーヌ物語』を散文で著し<ref name="ローズp431" />、その後クードレット(Couldrette)<ref group="注釈">クルドレッド(クードレット)は、リュジニャン家の当主ジャン2世の元で司祭を務めていた</ref><ref name="蔵持p10" />。という人物が1401年以降にパルトゥネの領主に命じられ『メリュジーヌ物語、あるいはリュジニャン一族の物語 (''Le roman de Mélusine ou histoire de Lusignan'' )』を韻文で書き上げたことで広く知られるようになった。その物語とは次のようなものである。
メリュジーヌは、泉の妖精プレッシナとスコットランドのオルバニー(アールバニー)王エリナスの子<ref group="注釈">松平の説明によれば、妖精の[[モーガン・ル・フェイ|モルガン]]の妹・プリジーヌ([[アーサー王]]とは父親の異なる兄妹の関係となる)の子で、のアルバニア王エリナスとの間に生まれた姫</ref><ref name="松平2005b_p222" />。である。母親の出産時に、禁忌とされていた妖精の出産を父親である領主が見てしまったために、メリュジーヌと2人の妹、メリオールとプラティナは妖精の国に戻されてしまった。成長したメリュジーヌと妹達は復讐心を募らせ、結託して父親をイングランドのノーサンブリアのある洞窟に幽閉した<ref group="注釈">異説では母親を陥れようとした<sup>''(要出典, 2015-11-10)''</sup>。</ref>。ところが母親は夫を愛するがゆえに、メリュジーヌと妹達に、週に1日だけ腰から下が蛇の姿となるという呪いをかけた<ref name="ローズp431" /><ref name="松平2005b_p222" />。さらに、もし変身した姿を誰かに見られた場合には、永久に下半身が蛇で翼を持った姿のままとなってしまう<ref name="ローズp431" /><ref group="注釈">別のヴァリアントでは、メリュジーヌはもともと泉を掌る妖精とアールバニーの領主の間に生まれた姫君であった。人間の男の愛を得れば呪いが解けると聞かされて、メリュジーヌは領主に近づいたのであった。</ref>。従って、メリュジーヌが誰かと愛を育むには、その1日に彼女の姿を見ないという約束を果たせる者と出会わねばならなかった。
ポワトゥー伯のレイモン<ref name="ローズp431" />(またはフォレ伯の子レモンダン<ref name="松平2005b_p221">松平 (2005b), p. 221.</ref>)は、'''おじを誤って殺したことから家族の元を離れていた'''が、ある日メリュジーヌと会って恋に落ち、メリュジーヌも「土曜日に自分の姿を決して見ないこと」という誓約を交わした上で結婚する。彼女は夫に富をもたらし、10人の子供を儲けた。また、彼女の助力もあってレイモン(レモンダン)はリュジニャン城を建て、町も築くことができた<ref name="松平2005b_p221" />。ところが夫は悪意のこもった噂を耳にすると<ref name="アランp209">アラン,上原訳 (2009), p. 209.</ref>、つい誓約を破り、沐浴中のメリュジーヌの正体を見てしまった<ref group="注釈">神話類型として、[[禁忌|見るなのタブー]]が見受けられる。</ref><ref name="蔵持p10" />。。部屋に1人閉じこもっていた彼女の姿は上半身こそ人間だったが、下半身は巨大な蛇<ref name="松平2005b_p222">松平 (2005b), p. 222.</ref>(あるいは魚<ref name="アランp209" />)になっていたのだった<ref group="私注">レイモンは目上の身内を殺しており、[[啓型神]]の性質を持っているように思う。</ref>。
誓約を破られたため、メリュジーヌは竜の姿になって城を飛び出していった<ref name="ローズp431" /><ref name="松平2005b_p222" />。しかしまだ小さい子供がいたことから、授乳のために一時城に戻ったほか、城の城主や子孫の誰かが亡くなる直前にも戻ったという<ref name="松平2005b_p222" />。そのため、城主らの死が近づくと、城壁の上に幽霊のようにメリュジーヌが姿を現しては泣き悲しむ様子が見られたという。メリュジーヌの子供達の多くは化け物の性質を持っていたものの、問題なく生まれた2人の子供の血統からは、後のフランス君主が立ったという<ref name="ローズp431" />。リュジニャン城は後に取り壊され、現在は存在しない<ref name="アランp209" />。
別のヴァリアントでは、メリュジーヌはブルターニュ伯(あるいはポワトゥー伯)の下に美女の姿で現れて求婚し、妻となって後は彼を助けたが、「日曜日に必ず沐浴するので、決して覗かないこと」という誓約を夫に破られ、正体を明かされる。夫は、メリュジーヌが人間でないことを知ってからも妻とし続けたが、2人の間に生まれた気性の荒い異形の'''息子達が町で殺人を犯した'''と聞いて激昂し、息子達の性格上の欠陥の原因を彼女の正体のせいだとして、「化け物女」と罵倒したため、自尊心を傷つけられた彼女は正体を現し、教会の塔を打ち壊して川に飛び込んで行方をくらましたという。その後、彼女は水妖の一員となった。紋章などに用いられている尾が2つあるマーメイドは彼女の姿であるとされている<ref group="私注">こちらは息子達が非道の殺人を行っており、息子達が[[啓型神]]の性質を持っているように思う。</ref>。
== 息子たち ==
クードレットの記述による。
* ユリアン(後にキプロスの王になったという)
* ウード(外見と顔が炎のように燃えて見える)
* ギイ(後にアルメニアの王になったという)
* アントワーヌ(片頬に獅子の足が生えている)
* ルノー(一つ目)
* ジョフロワ(大牙が一本あり)
* フロモン(鼻の上に毛で覆われたアザがある)
* オリブル(三つ目)
== 象徴 ==
エリアーデによれば、メリュジーヌを構成する「女性」と「蛇」、そして伝承によっては加えられる「魚」といった要素は、いずれも豊穣のシンボルである。従って、メリュジーヌは豊穣、さらには再生を生み出す存在だと考えることができる<ref name="松平2005b_p222" /><ref group="私注">エリアーデの考察はざっくりしすぎていると思う。しかも「再生を生み出す」とはどういう意味なのだろうか?</ref>。
== お菓子 ==
<sup>''(出典の明記, 2015年11月10日 (火) 12:22 (UTC))''</sup>
ブルターニュ地域圏では近代まで、メリュジーヌが町を去ったとされる日に祭りが開かれ、屋台で人魚のような姿をした女性を木型で浮き彫りにした素朴な焼き菓子が売られていたという<ref group="私注">これは中国で言うところの「'''月餅'''」に相当するものではないか、と管理人は思う。</ref>。
この素朴な焼き菓子の名も「メリュジーヌ」と言った。
現代では、祭りが廃れこの「メリュジーヌ」も僅かな木型だけを残して姿を消している<ref group="私注">中国では月餅のことを[[嫦娥]]とは言わないが、現代でも盛んに食べられているように思う。</ref>。
== 語源 ==
呪われた蛇の乙女がキスで解放されるというモチーフは、「Le Bel Inconnu」の物語にも登場する。
== 芸術と大衆文化における参考文献 ==
=== 芸術 ===
* メリュジーヌは、ハレヴィの大作オペラ『ラ・マジシャンヌ』(1858年)の主題であるが、物語は大きく変容している。メリュジーヌは、呪いをかけられた半妖精ではなく、悪魔に魂を売った魔女で、昼は美しく、夜は醜悪な姿をしている。
* ゲーテは、この伝説を短編小説『新メリュジーヌ』にまとめ、『ヴィルヘルム・マイスターズ・ワンダイヤハレ』(1807年)の中で発表した。この物語では、メリュジーヌは小さな妖精で、時々人間の大きさになる。
* 劇作家のフランツ・グリルパルツァーはゲーテの物語を舞台化し、フェリックス・メンデルスゾーンは演奏会用序曲『妖精メルジーヌ』(作品32)を作曲している。
* マルセル・プルーストの主人公は、『芽吹きの木立の中で』でジルベルをメリュジーヌに例えている。また、(ゲルマン公爵によれば)リュシニャン王朝の直系であるゲルマン公爵夫人とも幾度か比較されている。例えば『ゲルマント道』では、語り手はリュシニャン家が「妖精メリュジーヌが消え去る日に絶滅する運命にある」と述べている<ref>Proust, 1996, p5</ref>。
* メリュジーヌ(メルシナとも呼ばれる)の物語は、レティシア・ランドンが『フィッシャーの応接室スクラップ・ブック』<ref>Landon, 1834</ref>の詩「泉の妖精」で語り、彼女の作品集『ゼナナ』に再録された。ここで彼女は女流詩人の代表格となる。分析はDeLong 2012, pp.124-131に掲載されている。
* ジャン・ジュネは『花の聖母』の中で、主人公のディヴィーヌが「セイレーンのメルシナ」の子孫であることを二度にわたって述べている<ref>Genet Jean, pages198, 298, Grove Press, 1991, Our Lady of the Flowers , isbn:9780802130136</ref>。
* ドロシー・L・セイヤーズの短編集『In the teeth of the evidence』に収録されている「The leopard lady」には、「メリュジーヌと呼ばれるべき」ミス・スミスが登場します。
* メリュジーヌは、1893年に初演されたモーリス・メーテルリンクの戯曲『ペレアスとメリザンド』に登場する、泉や水を連想させるキャラクター、メリザンドにインスピレーションを受けたと思われる。ドビュッシーは、この曲をオペラ化し、1902年に上演した。
* マーガレット・アーウィンのファンタジー小説『These Mortals』(1925年)は、父の宮殿を出たメリュジーヌが人間の世界で冒険をする話である<ref>Brian Stableford, " Re-Enchantment in the Aftermath of War", in Stableford, ''Gothic Grotesques: Essays on Fantastic Literature''. Wildside Press, 2009, ISBN:978-1-4344-0339-1 (p.110-121)</ref>。
* シャーロット・ハルデインは1936年にメリュジーヌの研究を書いている(当時の夫J.B.S.ハルデインが児童書『My Friend Mr Leakey』の中で紹介している)。
* アリベルト・ライマンはオペラ「メルシーネ」を作曲し、1971年に初演している。
* メリュジーヌ伝説は、20世紀末のA・S・バイアットの小説『ポゼッション』に登場する。主人公の一人、クリスタベル・ラモットはメリュジーヌについて叙事詩を書く。
* 1454年にフィリップ善良公が行った「雉の饗宴」では、豪華な「アントルメ」(テーブル装飾)のひとつとして、竜に扮したメリュジーヌがリュシニャン城の周囲を飛び回る機械仕掛けの絵が描かれていた<ref>Jeffrey Chipps Smith, ''The Artistic Patronage of Philip the Good, Duke of Burgundy (1419–1467)'', PhD thesis (Columbia University, 1979), p. 146</ref>。
* ローズマリー・ホーリー・ジャーマンは1972年の小説『王の灰色の牝馬』の中で、サビーン・ベリング=グールドの『中世の不思議な神話』<ref>"Stephan, a Dominican, of the house of Lusignan, developed the work of Jean d'Arras, and made the story so famous, that the families of Luxembourg, Rohan, and Sassenage altered their pedigrees so as to be able to claim descent from the illustrious Melusina", citing Jean-Baptiste Bullet's ''Dissertation sur la mythologie française'' (1771).</ref>から、ルクセンブルク家がメルシンの子孫であるとする記述を用い、エリザベス・ウッドヴィルの家族が水の精霊の子孫であるとするように仕向けた<ref>Rosemary Hawley Jarman, Foreword, The King's Grey Mare, 1972</ref>。この要素はフィリッパ・グレゴリーの小説『白の女王』(2009年)と『川の女』(2011年)で繰り返されるが、ルクセンブルクのジャケッタがエリザベスに、メルシネからの子孫はブルゴーニュ公家を経由していると語っている<ref>Philippa Gregory, Chapter One, http://www.philippagregory.com/assets/files/books/c378dc51467f69710c276f803d42762f.pdf, The White Queen, 2009, The White Queen (novel)</ref><ref name="Women"/>。
* マヌエル・ムヒカ・ライネス作『さまよえる一角獣』(1965年)では、メリュジーヌが最初の呪いから十字軍の時代まで、数世紀にわたる存在の物語を語っている<ref>[http://worldcat.org/search?q=Wandering+Unicorn++Lainez&qt=results_page Láinez, Manuel Mujica (1983) ''The Wandering Unicorn'' Chatto & Windus, London], ISBN:0-7011-2686-8</ref>。
* 作家のマイケル・パラスコスは2016年の小説『In Search of Sixpence』で、メリュジーヌの物語を、来日したフランス人によって強制的に島から誘拐されたトルコ系キプロス人の少女と想像して再演している。
* ローレン・グロフの2021年の小説「マトリックス」では、詩人マリー・ド・フランスが妖精メリュジーヌの子孫であると言われている。
=== その他参考文献 ===
* チェコ語やスロバキア語では、メリュジーヌ(meluzína)という単語は、通常煙突の中で哭く風を指す。これは、子供たちを探して慟哭するメリュジーヌにちなむものである<ref>Smith G.S., C. M. MacRobert, G. C. Stone , Oxford Slavonic Papers, New Series, Oxford University Press, USA, 1996, edition28, illustrated, volume:XXVIII, pages150, https://books.google.com/books?id=Zjl-AAAAIAAJ&q=wind, isbn:978-0-19-815916-2</ref>。
* 2019年6月、欧州高性能コンピューティング共同事業(EuroHPC JU)プログラムの一環であるルクセンブルク初のペタスケールスパコンが「Meluxina」と命名されることが発表された<ref>Le superordinateur luxembourgeois "Meluxina" fera partie du réseau européen EuroHPC, Luxembourgish supercomputer "Meluxina" will be part of the EuroHPC European network, https://gouvernement.lu/fr/actualites/toutes_actualites/communiques/2019/06-juin/14-schneider-meluxina.html, gouvernement.lu, 30 June 2019, 14 June 2019</ref>。
* スターバックスのロゴは、王冠と2本の尾を持つセイレーンまたは人魚として描かれた紋章学のメリュジーヌをベースにしている<ref>https://abcnews.go.com/Business/starbucks-drops/story?id=12554345, ABC News, Can You Say 'Melusine?" Starbucks Will Explain, Woodard Larry, 6 January 2011, 28 April 2021</ref><ref>https://www.fastcompany.com/90157014/the-starbucks-logo-has-a-secret-youve-never-noticed
, The Starbucks Logo Has A Secret You've Never Noticed, Wilson Mark, Fast Company, 17 January 2018, 7 June 2021</ref>。
* 『モンスター娘』では、一対のコウモリの羽を持つラミアの亜種が彼女の名を冠している<ref>https://i.kym-cdn.com/photos/images/original/000/998/109/357.png, Lamia and Their Subspecies</ref>。
* 2022年、フランスの郵便制度は、神話と伝説のシリーズの一部として、ラ・フィーユ・メリュジーヌを描いた1.65ユーロの切手を発売した<ref> [https://www.wikitimbres.fr/timbres/12908/2022-mythes-et-legendes-la-fee-melusine-europa]</ref><ref>[https://www.lecarredencre.fr/timbre/serie-europa-mythes-et-legendes-melusine/]</ref>。
==External links==
*[http://www.pitt.edu/~dash/melusina.html "Melusina"], translated legends about mermaids and water sprites that marry mortal men, with sources noted, edited by [[D. L. Ashliman]], at University of Pittsburgh
*{{usurped|[https://web.archive.org/web/20061111101830/http://www.endicott-studio.com/rdrm/rrMarriedToMagic.html Terri Windling, "Married to Magic: Animal Brides and Bridegrooms in Folklore and Fantasy"]}}
*[https://archive.org/details/melusine00jeanuoft Jean D'Arras, ''Melusine''], Archive.org
*{{Cite EB1911|wstitle=Mélusine |short=x}}
== 伝説の概要 ==
メリュジーヌの伝説は、フランスでは14世紀より前から'''メリサンド'''という名でも知られ、民話にも登場していた<ref name="ローズp431" />。その原型は、ずっと以前から知られている[[ヴイーヴル]]や[[セイレーン]]といった怪物であろうとも考えられている<ref name="松平2005b_p222" />。
1397年にフランスのジャン・ダラス(Jean d'Arras)<ref group="注釈">ジャン・ダラスは、ジャン・ド・ベリー公の元で司書および製本職人として働いていた。</ref><ref name="蔵持p10">蔵持 (2005), p. 10.</ref>が『メリュジーヌ物語』を散文で著し<ref name="ローズp431" />、その後クードレット(Couldrette)<ref group="注釈">クルドレッド(クードレット)は、リュジニャン家の当主ジャン2世の元で司祭を務めていた</ref><ref name="蔵持p10" />。という人物が1401年以降にパルトゥネの領主に命じられ『メリュジーヌ物語、あるいはリュジニャン一族の物語 (''Le roman de Mélusine ou histoire de Lusignan'' )』を韻文で書き上げたことで広く知られるようになった。その物語とは次のようなものである。
メリュジーヌは、泉の妖精プレッシナとスコットランドのオルバニー(アールバニー)王エリナスの子<ref group="注釈">松平の説明によれば、妖精の[[モーガン・ル・フェイ|モルガン]]の妹・プリジーヌ([[アーサー王]]とは父親の異なる兄妹の関係となる)の子で、のアルバニア王エリナスとの間に生まれた姫</ref><ref name="松平2005b_p222" />。である。母親の出産時に、禁忌とされていた妖精の出産を父親である領主が見てしまったために、メリュジーヌと2人の妹、メリオールとプラティナは妖精の国に戻されてしまった。成長したメリュジーヌと妹達は復讐心を募らせ、結託して父親をイングランドのノーサンブリアのある洞窟に幽閉した<ref group="注釈">異説では母親を陥れようとした<sup>''(要出典, 2015-11-10)''</sup>。</ref>。ところが母親は夫を愛するがゆえに、メリュジーヌと妹達に、週に1日だけ腰から下が蛇の姿となるという呪いをかけた<ref name="ローズp431" /><ref name="松平2005b_p222" />。さらに、もし変身した姿を誰かに見られた場合には、永久に下半身が蛇で翼を持った姿のままとなってしまう<ref name="ローズp431" /><ref group="注釈">別のヴァリアントでは、メリュジーヌはもともと泉を掌る妖精とアールバニーの領主の間に生まれた姫君であった。人間の男の愛を得れば呪いが解けると聞かされて、メリュジーヌは領主に近づいたのであった。</ref>。従って、メリュジーヌが誰かと愛を育むには、その1日に彼女の姿を見ないという約束を果たせる者と出会わねばならなかった。
ポワトゥー伯のレイモン<ref name="ローズp431" />(またはフォレ伯の子レモンダン<ref name="松平2005b_p221">松平 (2005b), p. 221.</ref>)は、'''おじを誤って殺したことから家族の元を離れていた'''が、ある日メリュジーヌと会って恋に落ち、メリュジーヌも「土曜日に自分の姿を決して見ないこと」という誓約を交わした上で結婚する。彼女は夫に富をもたらし、10人の子供を儲けた。また、彼女の助力もあってレイモン(レモンダン)はリュジニャン城を建て、町も築くことができた<ref name="松平2005b_p221" />。ところが夫は悪意のこもった噂を耳にすると<ref name="アランp209">アラン,上原訳 (2009), p. 209.</ref>、つい誓約を破り、沐浴中のメリュジーヌの正体を見てしまった<ref group="注釈">神話類型として、[[禁忌|見るなのタブー]]が見受けられる。</ref><ref name="蔵持p10" />。。部屋に1人閉じこもっていた彼女の姿は上半身こそ人間だったが、下半身は巨大な蛇<ref name="松平2005b_p222">松平 (2005b), p. 222.</ref>(あるいは魚<ref name="アランp209" />)になっていたのだった<ref group="私注">レイモンは目上の身内を殺しており、[[啓型神]]の性質を持っているように思う。</ref>。
誓約を破られたため、メリュジーヌは竜の姿になって城を飛び出していった<ref name="ローズp431" /><ref name="松平2005b_p222" />。しかしまだ小さい子供がいたことから、授乳のために一時城に戻ったほか、城の城主や子孫の誰かが亡くなる直前にも戻ったという<ref name="松平2005b_p222" />。そのため、城主らの死が近づくと、城壁の上に幽霊のようにメリュジーヌが姿を現しては泣き悲しむ様子が見られたという。メリュジーヌの子供達の多くは化け物の性質を持っていたものの、問題なく生まれた2人の子供の血統からは、後のフランス君主が立ったという<ref name="ローズp431" />。リュジニャン城は後に取り壊され、現在は存在しない<ref name="アランp209" />。
別のヴァリアントでは、メリュジーヌはブルターニュ伯(あるいはポワトゥー伯)の下に美女の姿で現れて求婚し、妻となって後は彼を助けたが、「日曜日に必ず沐浴するので、決して覗かないこと」という誓約を夫に破られ、正体を明かされる。夫は、メリュジーヌが人間でないことを知ってからも妻とし続けたが、2人の間に生まれた気性の荒い異形の'''息子達が町で殺人を犯した'''と聞いて激昂し、息子達の性格上の欠陥の原因を彼女の正体のせいだとして、「化け物女」と罵倒したため、自尊心を傷つけられた彼女は正体を現し、教会の塔を打ち壊して川に飛び込んで行方をくらましたという。その後、彼女は水妖の一員となった。紋章などに用いられている尾が2つあるマーメイドは彼女の姿であるとされている<ref group="私注">こちらは息子達が非道の殺人を行っており、息子達が[[啓型神]]の性質を持っているように思う。</ref>。
== 息子たち ==
クードレットの記述による。
* ユリアン(後にキプロスの王になったという)
* ウード(外見と顔が炎のように燃えて見える)
* ギイ(後にアルメニアの王になったという)
* アントワーヌ(片頬に獅子の足が生えている)
* ルノー(一つ目)
* ジョフロワ(大牙が一本あり)
* フロモン(鼻の上に毛で覆われたアザがある)
* オリブル(三つ目)
== 象徴 ==
エリアーデによれば、メリュジーヌを構成する「女性」と「蛇」、そして伝承によっては加えられる「魚」といった要素は、いずれも豊穣のシンボルである。従って、メリュジーヌは豊穣、さらには再生を生み出す存在だと考えることができる<ref name="松平2005b_p222" /><ref group="私注">エリアーデの考察はざっくりしすぎていると思う。しかも「再生を生み出す」とはどういう意味なのだろうか?</ref>。
== お菓子 ==
<sup>''(出典の明記, 2015年11月10日 (火) 12:22 (UTC))''</sup>
ブルターニュ地域圏では近代まで、メリュジーヌが町を去ったとされる日に祭りが開かれ、屋台で人魚のような姿をした女性を木型で浮き彫りにした素朴な焼き菓子が売られていたという<ref group="私注">これは中国で言うところの「'''月餅'''」に相当するものではないか、と管理人は思う。</ref>。
この素朴な焼き菓子の名も「メリュジーヌ」と言った。
現代では、祭りが廃れこの「メリュジーヌ」も僅かな木型だけを残して姿を消している<ref group="私注">中国では月餅のことを[[嫦娥]]とは言わないが、現代でも盛んに食べられているように思う。</ref>。
== 私的考察 ==
** Lydia Zeldenrust, The Mélusine Romance in Medieval Europe: Translation, Circulation, and Material Contexts, Cambridge, D.S. Brewer, 2020, ISBN:9781843845218, On the many translations of the romance, covering French, German, Dutch, Castilian, and English versions.
** Jean d'Arras. Mélusine, roman du XIVe siècle, Louis Stouff, Dijon, Bernigaud & Privat, 1932, French, A scholarly edition of the important medieval French version of the legend by Jean d'Arras.
*{{cite book |first=* Otto J. |last=Eckert |title=, Luther and the Reformation |format=, lecture |year=, 1955 |url=, http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:-6AU_rXMR5gJ:www.wls.wels.net/library/Essays/Authors/E/EckertReformation/EckertReformation.pdf+Heraldry+Melusina&hl=en}}
* {{cite book |last=Proust |first=Marcel |translator-first=C. K. |translator-last=Scott-Moncrieff |title=Within A Budding Grove |page=190 |year=1996 |isbn=9780099362319}}
* [[Letitia Elizabeth Landon]], Fisher's Drawing Room Scrap Book, 1835 (1834).<ref> {{cite book|last =Landon|first=Letitia firsetitia Elizabeth|title=Fisher's Drawing Room Scrap Book, 1835|url=https://play.google.com/books/reader?id=Bzk_AAAAYAAJ&pg=GBS.PA57|section=poem|year=1834|publisher=Fisher, Son & Co.}}</ref> {{ws|[[s:Letitia Elizabeth Landon (L. E. L.) in Fisher's Drawing Room Scrap Book, 1835/The Fairy of the Fountains|The Fairy of the Fountains]]}}
* {{cite book |first=Anne |last=DeLong |title=Mesmerism, Medusa and the Muse: The Romantic Discourse of Spontaneous Creativity |year=2012 |isbn=9780739170434}}
* フィリップ・ヴァルテール『ユーラシアの女性神話-ユーラシア神話試論Ⅱ』(渡邉浩司・渡邉裕美子訳)中央大学出版部 2021年8月25日、ISBN 978-4-8057-5183-1。―この本で著者が「特に注目しているのは、「メリュジーヌ型」のユーラシア的展開」(訳者前書き)である。
* 松村朋彦「異類の女性――『メルジーネ』から『崖の上のポニョ』まで」『希土』希土同人社、第46号 2021年9月1日、 ISSN 0387-3560、pp. 2-16.―対象としている作品は、民衆本『メルジーネ』(1474)、フーケー『ウンディーネ』(1811)、アンデルセン『人魚姫』(1837)、ホフマンスタール『影のない女』(1919)、バッハマン『ウンディーネ行く』(1961)、宮崎駿『崖の上のポニョ』(2008)の6作品。
== 芸術と大衆文化における参考文献 ==
=== 芸術 ===
* メリュジーヌは、ハレヴィの大作オペラ『ラ・マジシャンヌ』(1858年)の主題であるが、物語は大きく変容している。メリュジーヌは、呪いをかけられた半妖精ではなく、悪魔に魂を売った魔女で、昼は美しく、夜は醜悪な姿をしている。
* ゲーテは、この伝説を短編小説『新メリュジーヌ』にまとめ、『ヴィルヘルム・マイスターズ・ワンダイヤハレ』(1807年)の中で発表した。この物語では、メリュジーヌは小さな妖精で、時々人間の大きさになる。
* 劇作家のフランツ・グリルパルツァーはゲーテの物語を舞台化し、フェリックス・メンデルスゾーンは演奏会用序曲『妖精メルジーヌ』(作品32)を作曲している。
* マルセル・プルーストの主人公は、『芽吹きの木立の中で』でジルベルをメリュジーヌに例えている。また、(ゲルマン公爵によれば)リュシニャン王朝の直系であるゲルマン公爵夫人とも幾度か比較されている。例えば『ゲルマント道』では、語り手はリュシニャン家が「妖精メリュジーヌが消え去る日に絶滅する運命にある」と述べている<ref>Proust, 1996, p5</ref>。
* メリュジーヌ(メルシナとも呼ばれる)の物語は、レティシア・ランドンが『フィッシャーの応接室スクラップ・ブック』<ref>Landon, 1834</ref>の詩「泉の妖精」で語り、彼女の作品集『ゼナナ』に再録された。ここで彼女は女流詩人の代表格となる。分析はDeLong 2012, pp.124-131に掲載されている。
* ジャン・ジュネは『花の聖母』の中で、主人公のディヴィーヌが「セイレーンのメルシナ」の子孫であることを二度にわたって述べている<ref>Genet Jean, pages198, 298, Grove Press, 1991, Our Lady of the Flowers , isbn:9780802130136</ref>。
* ドロシー・L・セイヤーズの短編集『In the teeth of the evidence』に収録されている「The leopard lady」には、「メリュジーヌと呼ばれるべき」ミス・スミスが登場します。
* メリュジーヌは、1893年に初演されたモーリス・メーテルリンクの戯曲『ペレアスとメリザンド』に登場する、泉や水を連想させるキャラクター、メリザンドにインスピレーションを受けたと思われる。ドビュッシーは、この曲をオペラ化し、1902年に上演した。
* マーガレット・アーウィンのファンタジー小説『These Mortals』(1925年)は、父の宮殿を出たメリュジーヌが人間の世界で冒険をする話である<ref>Brian Stableford, " Re-Enchantment in the Aftermath of War", in Stableford, ''Gothic Grotesques: Essays on Fantastic Literature''. Wildside Press, 2009, ISBN:978-1-4344-0339-1 (p.110-121)</ref>。
* シャーロット・ハルデインは1936年にメリュジーヌの研究を書いている(当時の夫J.B.S.ハルデインが児童書『My Friend Mr Leakey』の中で紹介している)。
* アリベルト・ライマンはオペラ「メルシーネ」を作曲し、1971年に初演している。
* メリュジーヌ伝説は、20世紀末のA・S・バイアットの小説『ポゼッション』に登場する。主人公の一人、クリスタベル・ラモットはメリュジーヌについて叙事詩を書く。
* 1454年にフィリップ善良公が行った「雉の饗宴」では、豪華な「アントルメ」(テーブル装飾)のひとつとして、竜に扮したメリュジーヌがリュシニャン城の周囲を飛び回る機械仕掛けの絵が描かれていた<ref>Jeffrey Chipps Smith, ''The Artistic Patronage of Philip the Good, Duke of Burgundy (1419–1467)'', PhD thesis (Columbia University, 1979), p. 146</ref>。
* ローズマリー・ホーリー・ジャーマンは1972年の小説『王の灰色の牝馬』の中で、サビーン・ベリング=グールドの『中世の不思議な神話』<ref>"Stephan, a Dominican, of the house of Lusignan, developed the work of Jean d'Arras, and made the story so famous, that the families of Luxembourg, Rohan, and Sassenage altered their pedigrees so as to be able to claim descent from the illustrious Melusina", citing Jean-Baptiste Bullet's ''Dissertation sur la mythologie française'' (1771).</ref>から、ルクセンブルク家がメルシンの子孫であるとする記述を用い、エリザベス・ウッドヴィルの家族が水の精霊の子孫であるとするように仕向けた<ref>Rosemary Hawley Jarman, Foreword, The King's Grey Mare, 1972</ref>。この要素はフィリッパ・グレゴリーの小説『白の女王』(2009年)と『川の女』(2011年)で繰り返されるが、ルクセンブルクのジャケッタがエリザベスに、メルシネからの子孫はブルゴーニュ公家を経由していると語っている<ref>Philippa Gregory, Chapter One, http://www.philippagregory.com/assets/files/books/c378dc51467f69710c276f803d42762f.pdf, The White Queen, 2009, The White Queen (novel)</ref><ref name="Women"/>。
* マヌエル・ムヒカ・ライネス作『さまよえる一角獣』(1965年)では、メリュジーヌが最初の呪いから十字軍の時代まで、数世紀にわたる存在の物語を語っている<ref>[http://worldcat.org/search?q=Wandering+Unicorn++Lainez&qt=results_page Láinez, Manuel Mujica (1983) ''The Wandering Unicorn'' Chatto & Windus, London], ISBN:0-7011-2686-8</ref>。
* 作家のマイケル・パラスコスは2016年の小説『In Search of Sixpence』で、メリュジーヌの物語を、来日したフランス人によって強制的に島から誘拐されたトルコ系キプロス人の少女と想像して再演している。
* ローレン・グロフの2021年の小説「マトリックス」では、詩人マリー・ド・フランスが妖精メリュジーヌの子孫であると言われている。
=== その他参考文献 ===
* チェコ語やスロバキア語では、メリュジーヌ(meluzína)という単語は、通常煙突の中で哭く風を指す。これは、子供たちを探して慟哭するメリュジーヌにちなむものである<ref>Smith G.S., C. M. MacRobert, G. C. Stone , Oxford Slavonic Papers, New Series, Oxford University Press, USA, 1996, edition28, illustrated, volume:XXVIII, pages150, https://books.google.com/books?id=Zjl-AAAAIAAJ&q=wind, isbn:978-0-19-815916-2</ref>。
* 2019年6月、欧州高性能コンピューティング共同事業(EuroHPC JU)プログラムの一環であるルクセンブルク初のペタスケールスパコンが「Meluxina」と命名されることが発表された<ref>Le superordinateur luxembourgeois "Meluxina" fera partie du réseau européen EuroHPC, Luxembourgish supercomputer "Meluxina" will be part of the EuroHPC European network, https://gouvernement.lu/fr/actualites/toutes_actualites/communiques/2019/06-juin/14-schneider-meluxina.html, gouvernement.lu, 30 June 2019, 14 June 2019</ref>。
* スターバックスのロゴは、王冠と2本の尾を持つセイレーンまたは人魚として描かれた紋章学のメリュジーヌをベースにしている<ref>https://abcnews.go.com/Business/starbucks-drops/story?id=12554345, ABC News, Can You Say 'Melusine?" Starbucks Will Explain, Woodard Larry, 6 January 2011, 28 April 2021</ref><ref>https://www.fastcompany.com/90157014/the-starbucks-logo-has-a-secret-youve-never-noticed
, The Starbucks Logo Has A Secret You've Never Noticed, Wilson Mark, Fast Company, 17 January 2018, 7 June 2021</ref>。
* 『モンスター娘』では、一対のコウモリの羽を持つラミアの亜種が彼女の名を冠している<ref>https://i.kym-cdn.com/photos/images/original/000/998/109/357.png, Lamia and Their Subspecies</ref>。
* 2022年、フランスの郵便制度は、神話と伝説のシリーズの一部として、ラ・フィーユ・メリュジーヌを描いた1.65ユーロの切手を発売した<ref> [https://www.wikitimbres.fr/timbres/12908/2022-mythes-et-legendes-la-fee-melusine-europa]</ref><ref>[https://www.lecarredencre.fr/timbre/serie-europa-mythes-et-legendes-melusine/]</ref>。
== 外部リンク ==
* [https://archive.org/details/melusine00jeanuoft ''Melusine'', by Jean, d'Arras] - Internet Archive
* [http://www.pitt.edu/~dash/melusina.html "Melusina"], translated legends about mermaids and water sprites that marry mortal men, with sources noted, edited by D. L. Ashliman, at University of Pittsburgh
* [https://web.archive.org/web/20061111101830/http://www.endicott-studio.com/rdrm/rrMarriedToMagic.html Terri Windling, "Married to Magic: Animal Brides and Bridegrooms in Folklore and Fantasy"]
* [https://archive.org/details/melusine00jeanuoft Jean D'Arras, ''Melusine''], Archive.org
== 関連項目 ==
* 雪女
* 白鳥の王
== 外部リンク ==
* [https://archive.org/details/melusine00jeanuoft ''Melusine'', by Jean, d'Arras] - Internet Archive
== 注釈 ==