末子成功譚
(出典の明記、2010年3月) 末子成功譚(ばっしせいこうたん / まっしせいこうたん)は、昔話の形式の一種。年上のきょうだいたちになめられていた末っ子が成功を摑み取り、きょうだいたちは損をしてしまうという話。または、一番年上のきょうだいから順に課題に挑むが次々に失敗し、最後に残った末っ子が成功する話。成功する理由はさまざまであり、知恵や勇気や素直さは必ずしも成功の条件ではない。
うりこひめとあまのじゃく型[編集]
女性が主人公の場合は、上の姉妹は罰せられたり、不幸になる結末が多い。稀には全員が「めでたし、めでたし」となる場合もある。「うりこひめとあまのじゃく」のように対比される女性達が姉妹ではなく、他人同士の話も多い。
三人兄弟あるいは二人兄弟[編集]
末子成功譚は三人兄弟あるいは二人兄弟で成立する場合が多い。あるいは、似たような境遇の三人組の物語となることもある。
彼らは共に、あるいは順番に冒険に出る場合が多い。互いに争うこともあるし、助け合う場合もある。
物語の結末も、上の二人(あるいは一人)が罰されて、末子だけが成功するものから、全員が幸せになって「めでたし、めでたし」で終わる場合もある。時には上の二人の結末が不明の場合もある。
末子成功譚の原型か[編集]
管理人が末子成功譚(三人兄弟型)の原型に近い、と考える物語。
eastasian氏のブログから、引用。
ロッパ族
大地の母が三匹の神牛を生んだ。長男は火神牛、次男は鉄神牛、三男は土神牛で、お互いに争った。ある時火神牛が鉄神牛を飲み込んだ。鉄神牛が死んだ後その毛は草木に変化し、骨は石や山脈に、血液は河に、内臓は動物や昆虫になった[1][私注 1]。
神話における末子成功譚・三人兄弟の場合[編集]
ギリシア神話・クロノスの追放[編集]
ギリシア神話の大地及び農耕の神クロノスは父であるウーラノスの性器を、刃が魔法の金属・アダマスでできた鎌で切り取って追放した。彼は父同様、子にその権力を奪われるという予言を受けたため、子供が生まれるたびに(ヘスティアー、デーメーテール、ヘーラー、ハーデース、ポセイドーンの順に)飲み込んでしまったという。
最後に生まれたゼウスだけは、母のレアーが偽って石をクロノスに食わせたために助かった。クレタ島で(牝山羊アマルテイアによって)密かに育てられたゼウスは、クロノスに(神酒ネクタールを飲ませて)兄弟を(飲み込んだときとは逆の順に)吐き出させ(このとき、兄弟の序列が入れ替わり、末子であるゼウスが最高神となった)、兄弟は力を合わせて、クロノスらティーターン神族を倒した。
北欧神話・ユミル退治[編集]
ユミルはギンヌンガガプの、ムスペルヘイムの熱とニヴルヘイムの寒気がまじわったところで生まれ、原初の牛アウズンブラの乳を飲んでいた。
ユミルの身体の各所から何人もの巨人が産み出された。その中には頭が複数ある奇怪な姿の巨人もいたとされている。
あるとき、最初に生まれた神ブーリの息子ボル(ブル)が、ユミルの一族である霜の巨人ボルソルンの娘ベストラと結婚し、オーディン、ヴィリ、ヴェーの三神が生まれた。巨人達は非常に乱暴で神々と常に対立していたが、巨人の王となっていたユミルはこの三神に倒された。 この時、ユミルから流れ出た血により、ベルゲルミルとその妻以外の巨人は死んでしまった[私注 2]。
三神はユミルを解体し、血から海や川を、身体から大地を、骨から山を、歯と骨から岩石を、髪の毛から草花を、睫毛からミズガルズを囲う防壁を、頭蓋骨から天を造り、ノルズリ、スズリ、アウストリ、ヴェストリに支えさせ、脳髄から雲を造り、残りの腐った体に湧いた蛆に人型と知性を与えて妖精に変えた。
私的解説[編集]
ロッパ族の伝承からは、「火神牛」とは「火の神」である「祝融」のように思われる。「鉄神牛」とは「鉄の額」を持つと言われている「蚩尤」のことではないだろうか。蚩尤を倒したのは黄帝のはずだが、ロッパ族の伝承では、黄帝が既に祝融に置き換わっている。これは啓思想5型の変換である。
ギリシア神話と比較すると、「殺される神」であるクロノスは農耕神であり、明らかに性質が炎帝と一致している。炎帝と蚩尤の同一性が窺える。
北欧神話での「殺される神」であるユミルは牛の乳を飲んで育っており、牛神であることが示唆されるし、死して世界に変化する巨人である点は盤古と一致する。死した巨人から草木が発生したとすれば、伏羲のような植物を神格化した神も盤古型の神から発生した、といえる。中国神話では伏羲は女媧の配偶神にまで格が上がることになるが、北欧神話では巨人の死体から「下位の神」ともいえる妖精が発生している。妖精は巨人の腐った体から発生しており、腐ったものを肥料にして成長する植物を彷彿とさせる。伏羲は西欧で言うところの「妖精」といえるのではないだろうか。ユミルが牛神である点は炎帝と性質が一致している。
よって、炎帝、蚩尤、盤古(伏羲)は、元は同じ神を分けたものと考えられる。
ロッパ族の「土神牛」が何を指すのかは事績がないので曖昧だが、これは炎帝の可能性が高いように思う。一方、ギリシア神話、北欧神話では、「倒される神」が兄弟の内にいるのではなく、兄弟の外部に設定されている。兄弟達は互いに助け合って巨人を倒す。その性質は神話によって様々である。ギリシア神話のゼウスは雷神であり、北欧神話のオーディンは天候神とシャーマン的な性質を持つ。彼らは天候を操る点は黄帝的であるが、ゼウスには妻を食い殺すといった逸話があり、オーディンには「悪賢い」というイメージがつきまとう。これらの「非黄帝的な要素」は、本来「祝融」の性質であり、まず中国に近いところで、ロッパ族の伝承のように、「倒す神」が黄帝から祝融的な神に変換された上で、西欧に伝播したことが示唆される。
「火神牛」は長男であり、オーディンは兄弟の中での順位が明らかでないか、ギリシア神話のゼウスは「末子」であり、長子として扱われるようになった理由まで神話の中で語られる。よって、全体に見ると、民間伝承ほど「末子成功」の要素は強くないが、これらの神話は「末子成功譚」の起源となる神話として重要と考える。また「怪物退治」の起源としても重要であろう。
末子成功譚の例[編集]
- 上のきょうだいに困らされ、あるいはひどい目に遭わされるパターン
- いじめや難題は登場しないが、不利な条件下で末っ子が成功するパターン
関連項目[編集]
参考文献[編集]
私的注釈[編集]
参照[編集]
- ↑ 牛(1) 創世神牛、神話伝説その他、eastasian、00-03-01(最終閲覧日:22-10-11)
- ↑ https://kotobank.jp/word/%E7%94%B2%E8%B3%80%E4%B8%89%E9%83%8E-61618, 甲賀三郎とは - ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説, コトバンク, 2020-12-13