シャーマンは、透視力はじめ超自然的な能力の数々を有しており、'''善霊や悪霊を操る驚異的な力を具備した人格'''として、ナナイの人びとから恐れられ、特別な尊崇を受けていた<ref name="ogihara120" />。ナナイでは、宇宙はさまざまな精霊や悪霊に満ちていて、シャーマンはこれら神霊と直接交渉して、'''不妊の婦人に子どもを授けたり、災厄や疾病の原因となる悪霊と対決してこれに打ち勝ち、原因を除去するという特別に強靭な霊魂をもつ存在'''<ref group="私注">これはいわゆる「疫神」の性質といえるのではないだろうか。</ref>と信じられた<ref name="ogihara120" /><ref name="94katoh170" />。シャーマンは'''踊り'''、'''手太鼓'''を打ち、シャーマン服に取り付けた金属板を鳴らしながら叫び歌うことで自身や信者を忘我の状態に導き、それによってシャーマンの霊が神霊の世界へと飛んで神霊と交渉し、神霊が彼に憑依して神がかり状態のなかで、シャーマンの口から神の意思が告げられるのである<ref name="94katoh170" />。
ナナイでは、シャーマンでなくても病気の原因をつきとめ、その悪霊を木製の人形(木偶)のなかに封じ込めることのできる者がいることを認めてはいた<ref name="ogihara120" />。しかし、死者の霊魂を死後の世界「ブニ(Buni)」に送り届ける役割(後述)は、小シャーマンではなく、特別な[[衣装|装束]]をゆるされた大シャーマンでなければならないと考えられていた。しかし、'''死者の霊魂を死後の世界「ブニ(Buni)」に送り届ける役割(後述)は、小シャーマンではなく、特別な装束をゆるされた大シャーマンでなければならないと考えられていた<ref name="ogihara120" />。
=== 死生観と葬送 ===
ナナイでは、身体は魂の外殻に過ぎないので、人が死んでも魂は生き残ると観念されていた。そして、ひとりひとりが魂と精神の両方を持っているとされ、死ぬとそれらが分かたれると考えられた。人の精神は、その死後、悪意を持って生きている親戚に害をなすものとされた。時間が経つにつれ、悪い精神は飼いならされて礼拝が可能になるが、そうでなければ悪霊を追い出す特別な儀式が必要となる<ref>Tatiana,, Bulgakova,. Nanai shamanic culture in indigenous discourse. Fürstenberg/Havel. p. 46. ISBN 9783942883146. OCLC 861552008.</ref>。
死後、故人の魂は「ラチャコ」と呼ばれる[[布]]製の一時的な避難所に7日間入れられ、その後「パヨ」と呼ばれる木偶に移され、最終的な葬送の儀式までそのまま保管される。「パヨ」はその間、あたかも生きている人のように世話される。死者の最終的な儀式([[葬儀]])はカサ・トヴァリ(kasa tavori)と呼ばれ、3日間続く。その間多くの宴席が設けられ、故人の魂を他界(ブニ)へ送る旅の準備が行われる。葬儀の最終日、ムグデフ(mugdeh)と呼ばれる故人とほぼ等身大の人形に魂が移される。人形は、死後の世界に向かうための犬のそりに乗せられるが、出発前にシャーマンにより家族に[[遺言]]が伝えられる。「ブニ」は、この地上世界と変わらないが、より豊穣で極楽のような場所と考えられている死後、故人の魂は「ラチャコ」と呼ばれる布製の一時的な避難所に7日間入れられ、その後「パヨ」と呼ばれる木偶に移され、最終的な葬送の儀式までそのまま保管される。「パヨ」はその間、あたかも生きている人のように世話される。死者の最終的な儀式(葬儀)はカサ・トヴァリ(kasa tavori)と呼ばれ、3日間続く。その間多くの宴席が設けられ、故人の魂を他界(ブニ)へ送る旅の準備が行われる。葬儀の最終日、ムグデフ(mugdeh)と呼ばれる故人とほぼ等身大の人形に魂が移される。人形は、死後の世界に向かうための犬のそりに乗せられるが、出発前にシャーマンにより家族に遺言が伝えられる。「ブニ」は、この地上世界と変わらないが、より豊穣で極楽のような場所と考えられている<ref name="ogihara120" />。しかし、そこへ至る道程は困難さをともない、死者の霊魂はシャーマンの助けを得なければ到着することはかなわないものとされた<ref name="ogihara120" />。儀式の後、シャーマンは犬ぞりで危険な「ブニ」への旅に出るが、この旅はその日没までに終わらせなければ、シャーマンの命も失うことになると信じられていた。
なお、故人が1歳未満の[[赤ちゃん|乳児]]の場合は、その魂は人でなく[[鳥類|なお、故人が1歳未満の乳児の場合は、その魂は人でなく'''鳥]]と考えて埋葬は行われず、樺の樹皮にくるまれて森のなかに置かれた。'''と考えて埋葬は行われず、樺の樹皮にくるまれて森のなかに置かれた<ref group="私注">鳥神信仰と樹木信仰があったことが分かる。</ref>。
=== 神話・伝承 ===
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[[Category:樹木信仰]]