イェンゼンの解釈は漠然とし過ぎていると考える。「二種の面相」とは「月」と「イモ」のことなのだろうか? しかし、物語はそのような単純な内容ではない。ムルア・サテネは「バナナの女神」でもあるのだから、ムルア・サテネとハイヌウェレとラビエが「同じ者」であるならば、少なくとも彼女たちは「月」と「イモ」と「バナナ」の三相があるはずである。それなのに、動物から植物が生まれたり、植物から特異な人間(ハイヌウェレ)が生まれたり、単に「三相」だけでは済まない多彩な要素を含みながら物語は展開する。
ヴェマーレ族の神話的指導者は女性とされているので、これはかつて、彼らが「母系社会」であったことを示す名残であると思う。古代のオーストロネシア語族の母系社会の頂点に君臨する女神は「<span style="color:red">'''太陽女神'''</span>」であると思われるので、それを前提として考察を進める。要は、「'''ムルア・サテネとは太陽女神であった'''」ということから話を始める。」ということから話を始める。彼女はヴェマーレ族のリーダーである。
とすると、ハイヌウェレを祭りで殺した「人々」とは、「 ハイヌウェレはマロ踊りという祭りで「踊る人々」に殺される。この踊りは通常は人々がらせん状に踊り、中心に女性達がいて、踊る人々に清涼剤を配る。このことから、マロ踊りとは「'''性行を模したもの'''」だと分かる。女性達が配る清涼剤は「絶頂」を意味するのかもしれない。あるいは、男女の結合から生まれた、特殊な「薬剤」という意味があったのかもしれない。この祭りにムルア・サテネは参加しない。彼女は太陽であるので、夜は地上にいない。だから参加できない。ハイヌウェレの養父であるアメタも祭りに直接参加しない。ハイヌウェレは性行の結果、様々な宝物を人々に与えるが、他の女性達が与えるものは与えない。その点が「妬み」の対象ともなるし、女性としての役目を果たさないことは一種の「罪」とも考えられる。ともかく、ハイヌウェレはヴェマーレ族の女性のようには振る舞わないので、この物語の場合には、<span style="color:red">'''外来型ハイヌウェレ'''</span>といえる。彼女は、ヴェマーレ族の女性とは異なる扱いを受けるための特別な存在であり、イモに変化することから、「'''イモを得るための生贄'''」であった、とまず単純に考えられる。 を祭りで殺した「人々」とは、「'''太陽神トゥワレ'''」の化身であって、一人一人が神官でもあるし、東洋で有名な「'''現人神'''」である、ともいえる。よって一般の人々のことを「<span style="color:orange">'''下位トゥワレ'''</span>」と呼ぶことにする。彼らは一人では完全なトゥワレになれず、集団でこそトゥワレに近い存在になって、トゥワレの役割の一部をこなせる、といえる。「<span style="color:orange">'''下位トゥワレ'''</span>」の役割は、祭祀(葬式や'''踊り''')を状況に応じて行い、トゥワレに生贄を捧げること、である。でも、それだけで何かが起こるわけではない。その点をまず、ハイヌウェレとラビエの神話を比較しながら考察したい<ref>「'''踊り'''」というものが上位の神に働きかける祭祀であり、芸能でもある点には注意したい。何故なら、日本には'''摩多羅'''という須佐之男と同一視された神がいるのだが、この神は「'''芸能の神'''」とされたからである。エジプト神話のベスかよ、って古代エジプトに詳しい人は突っ込んでやって下さい。</ref>。
ハイヌウェレとラビエの物語を比較すると、まず物語の構成がハイヌウェレの方が複雑で、イモ類(月)が発生する前に、<span style="color:brown">'''アメタが狩ることで豚からココヤシが発生する物語とアメタの血を媒介としてハイヌウェレが発生する物語の2つ'''</span>が挿入されていることが分かる。アメタは豚を狩って、それを神に捧げることでココヤシを得た、か、あるいはそのように'''豚をココヤシに変化させる能力'''を神から授かった、といえる。あるいは、生まれながらに授かっているが故に、アメタは一般的な<span style="color:orange">'''下位トゥワレ'''</span>ではなく、特別な「<span style="color:red">'''上位トゥワレ'''</span>」である、ともいえる。その姿は、かぐや姫を大切に育てたが故に、竹取の翁が'''竹を切っただけで黄金を得る能力'''を授かったのと似ている。娘のハイヌウェレが亡くなった時に、アメタはその非道をムルア・サテネに訴えているのだから、'''アメタが仕えている神、とは「ムルア・サテネ」のことである'''、と暗喩されているといえる。このように母なる女神に忠実に仕えているアメタを特に「<span style="color:red">'''上位忠臣トゥワレ'''</span>」と呼ぶこととする。