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「'''ノックグラフトンの伝説'''」(The Legend of Knockgrafton)は、アイルランドの民話または昔話。 トマス・クロフトン・クローカーの話集『アイルランド南部の妖精伝説と伝承』(1825年)で発表された。内容は日本の昔話「瘤取り爺さん」に酷似する。

背中に瘤をもつラズモア<ref>井村訳では「ラズモア」で、あだ名。英語だと Lusmore だが、アイルランド語式だと"s"は濁音にならず lus mór は"ルスモール"のような発音になる。しかしLismore, Lismore(アイルランド語:Lios Mór)の例でもリズモアと表記されることから英語読みも「ラズモア」と想定できる。</ref>(「ジギタリス」の意)が、妖精の墳丘で休憩したとき聞こえてきた歌唱にくわわり「月曜、火曜」の歌詞に「水曜」を足し、喜んだ妖精([[フェアリー]])たちに瘤を除去してもらい衣服も贈られる。隣国人ジャックも、ラズモアを真似て瘤を除いてもらおうとするが、欲をかき曜日を余計に付け足したため、逆に妖精たちの怒りを買い、元の瘤の上にラズモアの瘤をつけられてしまう。

この話は、ATU503の話型「小人の贈り物」タイプに分類されるが、「小人の贈り物」という分類名は、典型話であるグリム童話第182「こびとのおつかいもの」に由来する。

==発表経歴==
この説話は、 [[トマス・クロフトン・クローカー]]編『アイルランド南部の妖精伝説と伝承』第1部(Fairy Legends and Traditions of the South of Ireland、1825年)にて最初に発表された<ref name=croker1825-knockgrafton/>{{Refn|例えばグッドウィンが "1824 or 1825年あたり about the year 1824 or 1825"にに最初に発表されたと述べている<ref name=goodwin/>。}}。

のち[[ウィリアム・バトラー・イェイツ]]『アイルランド農民の妖精物語と民話集』(Fairy and Folk Tales of the Irish Peasantry、1888年)に編まれ、[[井村君江]]訳「ノックグラフトンの伝説」としてイェイツ編『ケルト妖精物語』(1986年)に収載される{{sfn|Yeats|1888|pp=40–45, 320}}{{sfn|井村|イエイツ|1986|pp=94–103}}{{Refn|group="注"|邦題表記は日下隆平の論文の『アイルランド農民の妖精物語と民話集』が逐語訳なので採用する<ref name=kusaka/>。井村の表記『アイルランド各地方の妖精譚と民話』{{sfn|井村|イエイツ|1986|p=335}}。}}。

また、クローカーの原著の[[グリム兄弟]]訳 『[[:de:Irische Elfenmärchen|Irische Elfenmärchen]]』(1826年)に、本篇のドイツ訳「Fingerhütchen」{{efn2|「ジギタリスちゃん」の意。}})が収載されるが<ref name=grimm-fingerhuetchen/>、これも[[藤川芳朗]]が「'''ジギタリスと呼ばれた男'''」として重訳している(2001年){{sfn|藤川 (訳)|2001}}。

また[[ジョセフ・ジェイコブス]]の話集の石井桃子訳「'''ノックグラフトンの昔話'''」がある{{sfn|ジェイコブス|石井|2002}}。

==要約==

粗筋は以下のようなものである<ref name=croker1825-knockgrafton/>{{sfn|井村|イエイツ|1986|pp=94–103}}。

アイルランド南部[[ティペラリー県]]の{{仮リンク|アハーロウ峡谷|en|Glen of Aherlow}}に{{efn2|{{harvnb|井村|イエイツ|1986|p=94}}では"アッハロウという..谷あい"と表記するが、地図名に準ずる。}}、綽名をラズモア(ルスモール)という{{efn2|name=imura-lusmore}}、背中に瘤のある男が住んでいた。ラズモアは、草花のキツネノテブクロ([[ジギタリス]])のこと{{sfn|Croker|1825|p=35–36, 195}}{{Refn|group="注"|[[アイルランド英語]]: Lusmore; {{lang-ga|lus mór}}、直訳「大いなる野草」<ref name=odonaill-lus/>。}}。男はこの草をよく帽子に指していたのでその綽名がついた。

男は[[麦藁]]や[[イグサ科|イグサ]]で編んだ工芸品を売って生計を立てていたが、その藁編みもの商売で町に出た帰りに、ノックグラフトン{{Refn|group="注"|ノックグラフトンの「ノック」 "knock"は、アイルランド語「クノック」 "cnoc"に由来し、「丘、山」の意<ref name=joyce1869/><ref name=odonaill-cnoc/>。}}の古墳(モート)の近くで休憩した(この[[モット・アンド・ベーリー|モート]]は正しくは城跡だが<ref name=westropp/>、クローカーは「古墳」と解釈した{{sfn|Croker|1825|p=33}} )。夕方になると、この墳丘のなかから、「{{読み仮名|月曜日|ダルーアン}}、{{読み仮名|火曜日|ダモルト}}」という歌声が聞こえてきた{{Refn|group="注"|曜日のルビは、原則として井村訳にしたがった。より正確なアイルランド語の発音は神村朋佳の論文に詳しいが、月・火・水曜日は「ヂェルーン*」・「ヂェモウルチ*」・「ディけーディン*」とカナ表記される<ref name=kamimura/>。}}。ラズモアは、相手の声が途切れる拍子に、「それまた{{読み仮名|水曜日|ダダーデイン}}」と合いの手の具合で歌い返した。すると歌っていた妖精([[フェアリー]])たちは歓喜し、つむじ風がまきおこったかと思うとラズモアは墳丘の中に運ばれていた。ラズモアはもてなしを受け、背中の瘤を除去され、目を覚ましたときには新調した衣服を着せられていた。

そのうち老婆が訪ねてきた。隣の[[ウォーターフォード県]]、 {{仮リンク|デーシイ|en|Déisi}}の民の地から来たという{{Refn|group="注"|クローカーの原文は"Deici's country"であるが、"Déisi"人々の異綴りとして"Deici"があることが、例えば{{仮リンク|サミュエル・ルイス (出版者)|en|Samuel Lewis (publisher)|label=サミュエル・ルイス}}の地理参考書で確認できる<ref name=lewis/> 。井村の解釈は「ディシスの田舎」である。}}。この老婆は、自分の茶飲み友達(あるいは名付け親)の息子にせむしの男がいて、背瘤が治った話の詳細を聞きにきたのである{{Refn|group="注"|クローカーの原文は老婆の"gossip"で、これは多義あり、井村は「茶飲み友達」と解した。しかしグリム兄弟の訳( {{lang-de|Gevatterin}} )を参考とするなら、ここは「名付け母親」である<ref>{{harvnb|Grimm|1826|p=17}} </ref>。}}。

まもなくそのジャック・マッデンという名の背に瘤がある男がやってきて{{Refn|group="注"|クローカーの原文は"Jack Madden"で、井村の表記は「ジャック・マドン」だが、より一般的なカナ表記とする。}}、ラズモアの行動を真似てみたが、気持ちが急いたために、妖精たちの歌が途切れるのも待たずに合いの手を入れ、もっと曜日をつけ足せば褒美の衣服も倍増するだろうなどと欲をかいて水曜日だけでなく「{{読み仮名|木曜日|ダダーディーン}}、{{読み仮名|金曜日|ダヒナ}}」(ここは井村訳と異なる)と歌った{{Refn|アイルランド英語: Da Hena, {{lang-ga|dia aoine; dé haoine}} "Friday".<ref name=keightley1850/><ref name=odonaill-aoine/>}}{{Refn|group="注"|クローカーの原文は"Da Dardine, augus Da Hena"であったが、なぜか1834年の第3版で、"augus Da Cadine, augus Da Hena"に変んじており、しかもそれが「水曜日、木曜日」であるという脚注がついていた{{sfnp|Croker|1834|p=20}}。この脚注はカイトリーが指摘したように誤りで、ダヒナは金曜日である<ref name=keightley1850/>。イエイツは初版のどおりの正しい曜日だが{{sfn|Yeats|1888|p=45}} 、井村訳ではなぜか誤った改変(ダヒナが木曜日)を踏襲していることは、神村の論文に詳しい<ref name=kamimura/>。}}。結果、妖精たちは歌を台無しにしたと怒り、一番力持ちの二十人の妖精がラズモアの瘤を持ってきてジャックの背瘤の上にくっつつけてしまった。ほうほうの態で帰ったジャックは、まもなく意気消沈して死んだという。

=== 挿入歌 ===
[[File:Croker(1834)Fairy Legends p016-melody.jpg|thumb|240px|"Da Luan"の歌の楽譜{{sfn|Croker|1834|p=16}}]]
クローカーはまた、"Da Luan, Da Mort"という歌曲の[[楽譜]]も収載している{{efn2|Alexander D. Roche が音符に記したとされる。}}。これは、語り部たちが、この物語を吟じる際に、歌って聞かせるものだと説明されている{{sfn|Croker|1825|pp=34–35}}。

== 地理的考察 ==
<!--{{Also|Knockgraffon}}-->

ノックグラフトンのモート([[モット・アンド・ベーリー]])は、クローカーの解釈では[[墳丘墓]]であった{{sfn|Croker|1825|p=33}}。しかし、こうした丘はじっさいは{{仮リンク|円形土砦|en|ringfort|label=円形土砦(ラース)}}の城址だと説明されている<ref name=joyce1869/>。ノックグラフトンは実在する[[ティペラリー県]]の{{仮リンク|ノックグラフォン|en|Knockgraffon}}と比定されている<ref name=joyce1869/>{{sfn|Croker|1825|p=33}}<ref name=westropp/>{{Refn|group="注"|これは"Knockgraffan"と呼ぶべきでないかと{{仮リンク|ジョン・オドノヴァン (学者)|en|John O'Donovan (scholar)|label=ジョン・オドノヴァン}}や{{仮リンク|トーマス・ジョンソン・ウェストロップ|en|Thomas J. Westropp}}が提唱したが、これは『権利の書』([[:en:Book of Rights|Book of Rights]])に記されるアイルランド古来の"Graffan (Graffand)"の砦ではないかという仮説によるものである。しかし、それほど古いものではなく、おそらくノルマン王朝の建築物の可能性が高い、とその説は批判されている<ref name=orpen1907/>。}}。

この丘は、作中でラズモアが商売を行った町{{仮リンク|ケア (アイルランド)|en|Cahir|ケア}}{{efn2|井村訳では「ケール」。}}から以北{{convert|3|mi|km}}の距離にある<ref name=joyce1883/> 。

物語の冒頭では、ラズモアの住む里は{{仮リンク|ギャルティー山脈|en|Galtee Mountains}}のふもとの{{仮リンク|アハーロウ峡谷|en|Glen of Aherlow}}とあるが{{sfn|Croker|1825|p=23}}、これはノックグラフォン以西にある。だがラズモアが家路にむかったときや、老婆の訪問をうけたときは、キャップアー(Cappagh)の町村に住んでいたと語られている{{sfn|Croker|1825|pp=28–29}}{{Refn|group="注"|Cappagh はありふれた町名で、ティペラリー県内でもこの名や、派生的な名の街が複数ある。たとえば、{{仮リンク|ティペラリー県クランウィリアム|en|Clanwilliam (County Tipperary)|label=クランウィリアム}}男爵領の Donohill 行政教区にはCappaghrattinという町があった<ref name=ireland1871census/>。ケアからアハーロウ峡谷までは西にむかって直線で10マイル程だが、ノックグラフォンを経由すると20マイルに近い旅程になる。もしかりに Cappaghrattin に帰るとするなら、ノックグラフォンを経由してもほぼ遠回りにはならず北西に20マイル程の道のりになる。}}。

{{仮リンク|パトリック・ウェストン・ジョイス|en|Patrick Weston Joyce|label=P・W・ジョイス}}によれば、アイルランド南部では、妖精の音楽が聞こえるとされる丘は lissakeole ({{lang-ga|lios a cheoil}} 「音楽の砦」)と呼ばれていた<ref name=joyce1869/>。

== 作者 ==

「ノックグラフトンの伝説」の真の執筆者は{{仮リンク|ウィリアム・マギン|en|William Maginn}}(1794-1842年)であったという主張がある。

ただ、マギンの作とされる他の作品と比べると傍証が薄い。なぜならマギン所有本『妖精伝説』の書き込みから判明したとされるマギン作4篇のなかには含まれていないからである(これはマギンの年の離れた弟チャールズ・アーサー・マギン牧師から提供された情報で、ウィリアム・ベイツ(1821–1884年)が発表した){{Refn|group="注"|作家ウィリアム・マギンの弟チャールズ・アーサー・マギン牧師は1887年没、72歳。よって20年以上年下。死んだときにはコーク市のキラナリー Killanully の{{仮リンク|教区牧師|en|rector (ecclesiastical)}}<ref name=church_records1903/>。この名の人物がウィリアム・マギンの弟だったことはベイツも記すが、ウィリアムの別の兄弟ジョンが{{仮リンク|クロイン|en|Cloyne}}市のキャッスルタウンの教区牧師で1840年に死去したのち、後任に弟のチャールズが選ばれたことが教会の年間に記録されている<ref name=clerical_records1864/>。}}<ref name=maccarthy/><ref name=bates/>。

一方、「ノックグラフトンの伝説」は、マギンの甥(同名のチャールズ・アーサー・マギン牧師)が撰して1933年に刊行されたマギン話集に編まれている{{Refn|group="注"|じつは、この甥の方のチャールズも、1887年にキラナリー教区牧師を後継したので<ref name=church_records1903/>、マッカーシーの論文のように年長のチャールズを"キラナリー教区牧師のチャールズ・アーサー・マギン牧師"と称しても区別がつきにくくいのだが、チャールズ Jr. の方は、1933年の話集刊行時には、[[シェフィールド]]に移っていた<ref name=maccarthy/>。}}<ref name=maccarthy/><ref name=maginn/>。そして"内部的証拠"から、「ノックグラフトンの伝説」がマギンの執筆であった可能性は高く、クローカーの作と断定できるなかで似た作風の作品はなにひとつないというのが、アイルランド文学者ビアトリス・G・マッカーシー (Beatrice G. MacCarthy) の結論である<ref name=maccarthy/>。

==イェイツ==
[[ウィリアム・バトラー・イェイツ|W・B・イェイツ]]も、1888年の話集に本篇を編んでいる([[井村君江]]が邦訳)<ref name=yeats/>{{sfn|井村|イエイツ|1986|pp=94–103}}<ref name=kamimura/>。

本篇に触れて、イェイツが妖精([[フェアリー]])の存在を信じていたことを指摘しているくだりが、いくつかの民俗学者論文にみつかる。例えば、フランク・キナハン(Frank Kinahan)は、"[他のアイルランドの作家たち]は、フェアリーに惹きつけられる魅力を、幻想ゆえに危険だとみなしていた。イェイツは、現実だからこそ危険とみなしていた"と評しているが、これを別の学者ビョルン・スンドマーク(Björn Sundmark)が「ノックグラフトンの伝説」考察で引用している
{{efn2|キナハンの原文:"[Other Irish writers] saw the attractions of faery as dangerous because illusory. Yeats saw them as dangerous because real"。}}{{Refn|name=sundmark|{{cite journal|ref=harv |last=Sundmark |first=Björn |author-link=<!--Björn Sundmark--> |title=Yeats and the Fairy Tale |journal=Nordic Irish Studies |volume=5 |date=2006 |url= |pages=196 <!--101–108--> |jstor=30001546}}。Castle の論文p. 57<ref name=castle/>よりKinahan を孫引き。}}。

イェイツはフェアリーに拉致された実体験を主張していたと、民俗学者[[リチャード・ドーソン (民俗学者)|リチャード・ドーソン]]も指摘している<ref name=dorson/>{{efn2|ドーソンは「ノックグラフトンの伝説」の解説と前後してこれを述べたに過ぎないが。原文は:"Yeats .. was himself supposed to have been transported by the fairies one night on a four-mile journey"}}。

また、ラズモアのように、つむじ風がまき起こり人間が妖精の丘に連れ去られるという迷信について、イエィツはアイルランドの農民たちがつむじ風を畏怖していた点を指摘している<ref name=giraudon/><ref>ここでも「ノックグラフトンの伝説」と関連付けているのは、別の学者ダニエル・ジロードン(Daniel Giraudon)で、イェイツ自身ではない:Yeats (15 January 1889). "Irish Fairies, Ghosts, Witches..". ''Lucifer'' magazine. Reprinted in [https://books.google.com/books?id=61IX00wwuYYC&pg=PA78 Collected Works IX], p. 78.</ref>。

==異本や類話==
この説話の土台となった伝説は少なくとも400年前の昔に成立したとみられ、その傍証として、{{仮リンク|トマス・パーネル|en|Thomas Parnell}}がこの題材をもとに「妖精物語 」(原題:A Fairy Tale in the Ancient English Style、1722年刊行)を作詩したとされている{{sfn|Croker|1825|pp=32–33}}<ref name=rawson&rock/>。

イェイツによれば、[[ダグラス・ハイド]]が[[コノート]]のどこかでこの伝説の異形を聞いていたと述べており、そこでは、「1ペニー、1ペニー、2ペンス、1ペニーに、ヘイペニー(半ペニー)」という意味のアイルランド語の歌が挿入されていたという{{efn2|原文のアイルランド語は"pighin, pighin, dá phighin, pighin go leith agus leith phighin" (誤植は訂正).}}{{sfn|Yeats|1888|p=320}}。

=== 欧州の類話 ===
グリム兄弟は、この物語を『Fingerhütchen』の題名で、クローカーのアイルランド妖精物語集のドイツ訳本に収載している{{Refn|group="注"|[[藤川芳朗]]訳「ジギタリスと呼ばれた男」}}<ref name=bolte-polivka/><ref name=grimm-fingerhuetchen/>{{sfn|藤川 (訳)|2001}} 。そして『[[グリム童話集]]』の第182「[[こびとのおつかいもの]]」の解説で、このアイルランド民話を含め、ヨーロッパ各地の類話を挙げている{{sfn|Grimm|1884|loc='''2''': 460}}。一例として、フランスのブルターニュ地方の『Les korils de Plauden』({{仮リンク|エミール・スーヴェストル|en|Émile Souvestre}}話集に所収)が挙げられる{{sfn|Grimm|1884|loc='''2''': 460}}<ref name=bolte-polivka/>。題中のコリル({{lang|br|koril}})は妖精の一種で、荒野([[湿原]]まじりも含む)に住む{{仮リンク|コリガン (ブルターニュ)|en|korrigan|label=コリガン }}の仲間と説明されているが、作中には多種のコリガンが登場している<ref name=souvestre/>{{Refn|group="注"|原著(フランス語)ではkorilは"lande"に棲むとあるが、この語は仏日事典では"荒野、荒れ地"としか掲載されない例があるが<ref name=dico-lande/>、"lande tourbeuse"という場合は moor のように[[湿原]]っぽい地形をさし、文字通り[[泥炭]]採取できるような場所になる。英訳では「里山」のような意の"commons"([[ローカル・コモンズ|コモンズ]])となっている<ref name=souvestre/>。}}。

他にも類話は{{仮リンク|ヨハンネス・ボルテ|en|Johannes Bolte}}と{{仮リンク|ゲオルク・ポリフカ|en|Jiří Polívka}}によるグリム童話注釈書に綿々と挙げられている<ref name=bolte-polivka/>。

「ノックグラフトンの伝説」は[[アールネ=トンプソン|AT]] 503の話型「小人の贈り物」タイプ(上述のグリム童話第182を典型話とする)に分類されている<ref name=dorson/><ref name=uther/>。

=== アジアの類話 ===
{{More|こぶとりじいさん}}

明治初期の頃、日本に赴任していた裁判官{{仮リンク|チャールズ・ウィクリフ・グッドウィン|en|Charles Wycliffe Goodwin}}が、「ノックグラフトンの伝説」と日本の昔話「[[瘤取り]]」との相似に着目し、1875年のアジアティック・ソサイエティの会合でこれを発表した{{efn2|グッドウィンの発表があった1875年の議事録が刊行されたのは10年後の1885年だが、1878年にはグッドウィンによる考察とする[[ジョルジュ・ブスケ]]の論文が公刊されている。}}<ref name=goodwin/><ref name=bousquet/>。アイルランドの遺跡や地誌などの研究家である{{仮リンク|トマス・J・ウェストロップ|en|Thomas J. Westropp}}も「瘤取り」との類似を(初名乗りと思って)指摘したが<ref name=westropp/>、実際にはかなり以前から指摘者がいたことになる。

[[ジョセフ・ジェイコブス]]も「ノックグラフトンの伝説」を1894年のケルト話集続編に収めており、巻末注で「瘤取り」との類似を指摘している。ジェイコブスはまた(1891年の会合で)、この東西の民話の近似性を説話の世界的分布の模範例としてとりあげ、アイルランド語で語り継がれた民話の収集の必要性を訴えている{{sfn|Jacobs|1894|p=231}}<ref name=dorson/>。

== 言及例 ==

アイルランドの劇作家[[サミュエル・ベケット]]の小説『 {{仮リンク|ワット (小説)|en|Watt (novel)|label=ワット}}』で、この伝説のことがほのめかせられている<ref name=harrington/>。

また[[ケビン・クロスリー=ホランド]]も、「ノックグラフトンの伝説」を話集に撰しているが、幼少の頃、父親からこの話を聞かされたことを述懐している{{sfn|Crossley-Holland|1986|pp=9–10}}。

==注釈==
{{Notelist2}}

== 出典 ==
=== 脚注 ===
{{Reflist|30em|refs=
<ref name=bates>{{cite book|ref=harv|last=Bates |first=William |author-link=<!--William Bates (academic) (1821–1884)--> |others=Daniel Maclise (illustr.) |chapter=Thomas Crofton Croker |title=The Maclise Portrait-gallery of "illustrious Literary Characters" |edition=New |location=London |publisher=Chatto & Windus |year=1891 |origyear=1874 |url=https://books.google.com/books?id=rjsuAAAAYAAJ&pg=RA2-PA47 |page=47<!--49–53-->}}</ref>

<ref name=bolte-polivka>{{cite book|ref={{SfnRef|Bolte|Polívka|1918}}|last1=Bolte |first1=Johannes |author1-link=:en:Johannes Bolte |last2=Polívka |first2=Jiří |author2-link=:en:Jiří Polívka |chapter=182. Die Geschenke des kleinen Volkes |title=Anmerkungen zu den Kinder- und Hausmärchen der Brüder Grimm |volume=3 |publisher=Dieterich |origyear=1918 |year=2017 | url=https://books.google.com/books?id=ZCW71SSgfmgC&pg=PA327 |pages=327 (324–330) |lang=de}}</ref>

<ref name=bousquet>Goodwin (私書簡)、ブスケが引用。 {{citation|last=Bousquet |first=George[s] |author-link=:en:Georges Hilaire Bousquet |title=Le Japon littéraire |journal=Revue des Deux Mondes (1829-1971), Troisième période |volume=29 |number=4 |date=15 October 1878 |url=https://books.google.com/books?id=liW3fsNS0RcC&pg=PA772 |pages=<!--747–780--> |jstor=44752662}}.</ref>

<ref name=castle>Frank Kinahan, quoted in {{cite book|ref=harv|last=Castle |first=Gregory |author-link=<!--Gregory Castle--> |chapter= |title=Modernism and the Celtic Revival |publisher=Cambridge University Press |year=2001 |url=https://books.google.com/books?id=Ap28is5mYWoC&pg=PA57 |page=57 |isbn=1139428748<!--, 9781139428743-->}}</ref>

<ref name=clerical_records1864>"John Maginn (brother of the celebrated William Maginn)". "C. A. Maginn (brother of his predecessor), entered T. C. D. on 4th June, 1832, being then seventeen years old". {{cite book|last=Brady|first=W. Maziere |authorlink=<!--W. Maziere Brady-->|contribution=Castletown |title=Clerical and parochial records of Cork, Cloyne, and Ross |volume=2 |location=London |publisher=Longman, Green, Longman, Roberts, and Green |date=1864 |contribution-url=https://books.google.com/books?id=b5Bj9_FYao4C&pg=PA107 |pages=106–107}}</ref>

<ref name=church_records1903>Notices on the two "Charles Arthur Maginn"s. {{cite book|last=Cole |first=John Harding |authorlink=<!--John Harding Cole-->|contribution=Killanully |title=Church and Parish Records of the United Diocese of Cork, Cloyne, and Ross, Comprising the Eventful Period in the Church's History of the Forty Years from A.D. 1863, to the Present Time |location=Cork |publisher=Guy and Company |date=1903 |contribution-url=https://books.google.com/books?id=XowUAAAAYAAJ&pg=PA68 |pages=68}}</ref>

<ref name=croker1825-knockgrafton>{{harvnb|Croker|1825}}. "[https://books.google.com/books?id=ltoDAAAAQAAJ&pg=PA23 The Legend of Knockgrafton]". "Fairy Legends and Traditions of the South of Ireland", pp. 23–36.</ref>

<ref name=dico-lande>『Le Dico 現代フランス語辞典』、白水社、1993年。"lande", p. 869.</ref>

<ref name=dorson>{{cite book|ref=harv|last=Dorson |first=Richard |author-link=:en:Richard Dorson |chapter=The Celtic Folklorists |title=History of British Folklore |volume=1 |publisher=Taylor & Francis |year=1999 |url=http://books.google.com/books?id=DiCjLRGRkS4C&pg=PA438 |pages=392, 438–439 |isbn=0415204763}}</ref>

<ref name=giraudon>{{citation|last=Giraudon |first=Daniel |author-link=<!--Daniel Giraudon--> |title=Supernatural Whirlwinds in the Folklore of Celtic Countries |journal=Béaloideas |volume=75 |year=2007 |url=https://books.google.com/books?id=NgPaAAAAMAAJ&q=%22Knockgrafton%22 |page=8<!--1–23--> |jstor=20520921}}</ref>

<ref name=goodwin>{{citation|last=Goodwin |first=Charles Wycliffe Goodwin |author-link=:en:Charles Wycliffe Goodwin |title=On Some Japanese Legends |journal=Transactions The Asiatic Society Of Japan |volume=3 |number=Part 2 |year=1885 <!--18 January 1875 to 30 June 1875-->|url=https://archive.org/details/in.ernet.dli.2015.70888/page/n169/mode/2up/ |pages=46–52<!--45–62-->}}</ref>

<ref name=grimm-fingerhuetchen>{{harvnb|Grimm|1826}} tr. "Fingerhütchen", pp. 12–19</ref>

<ref name=harrington>{{cite book|ref=harv|last=Harrington |first=John P. |author-link=<!--John P. Harrington (literary scholar)--> |title=The Irish Beckett |volume=1 |publisher=Syracuse University Press |year=1991 |url=https://books.google.com/books?id=t8WNmVLa32sC&pg=PA118 |pages=118–119 |isbn=0815625286<!--, 9780815625285-->}}</ref>

<ref name=ireland1871census>{{cite book|ref=harv|author=Houses of Parliament, U. K. |title=Census of Ireland, 1871: Alphabetical Index to the Townlands and Towns of Ireland |location=Dublin |publisher=Alexander Thom|year=1877 |url=https://books.google.com/books?id=mzlcAAAAQAAJ&pg=PA149 |page=149}}</ref>

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[[Category:ケルト神話]]

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