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、 2022年3月24日 (木) 06:17
'''ジン'''({{Rtl翻字併記|ar|جِنّ|jinn}}、[[英語|英]][[フランス語|仏]] jinn, djin,[[日本語]]の翻訳の[[クルアーン]]の[[漢字]]:幽精<ref>[http://www2.dokidoki.ne.jp/islam/quran/quran114.htm イスラムのホームページ]</ref>、妖霊<ref>[http://www.alislam.org/quran/Holy-Quran-Japanese.pdf 聖クルアーン]</ref>)とは、[[アラブ人|アラブ]]世界で人にあらざる存在であり、なおかつ人のように思考力をもつとみなされる存在、すなわち[[精霊]]や[[妖怪]]、[[魔人]]など一群の超自然的な生き物の総称である<ref name="堀内p970">[[#堀内 (1997)|堀内 (1997)]], p. 970.</ref>。
[[イスラーム]]以前からいわば俗信として[[アラブ人]]に信じられてきた<ref name="堀内p970" /><ref name="ケネディp126">[[#ケネディ,山我訳 (1991)|ケネディ,山我訳 (1991)]], p. 126.</ref>が、イスラム以降、[[クルアーン]]がその存在を否定せずに認めているため、[[神学]]などで盛んに論じられるようになった<ref name="堀内p970" />。一般的には[[千夜一夜物語]]([[アラジンと魔法のランプ]])に登場するランプの精が有名である<ref name="幻想動物事典">『[[#幻想動物事典|幻想動物事典]]』・173頁</ref>。
== 名称 ==
以下、本節では特に断りのない限り、文語のアラビア語([[フスハー]])について述べ、{{ill2|アラビア文字のラテン・アルファベット翻字|en|Romanization of Arabic|label=アラビア文字のラテン・アルファベット}}への[[翻字]]は、{{ill2|アメリカ議会図書館翻字方式|en|ALA-LC romanization|ALA-LC 方式}}に準じた方式で用いる。ただし、[[ター・マルブータ]]を上付き文字の t で示している。
[[アラビア語]]の{{ill2|セム諸語の語根|en|Semitic root|label=語根}} {{transl|ar|ALA|j-n-n}} からは、「隠す,覆う,護る」などを意味する {{transl|ar|ALA|jann}} や「狂う,狂気に陥る」などを意味する {{transl|ar|ALA|junn}} といった動詞が派生し<ref name="almaany-jnn">{{cite web|url=https://www.almaany.com/en/dict/ar-en/%D8%AC%D9%86/ |title=Translation and Meaning of {{rtl-lang|ar|جن}} in Almaany English Arabic Dictionary |website=almaany.com |accessdate=2019-09-11}}</ref>、名詞としては本項に係る {{transl|ar|ALA|jinn}} のほか、「庭園,楽園,墓地」を意味する {{transl|ar|ALA|janna<sup>t</sup>}}、「狂人,瘋癲,憑りつかれた人」などを意味する {{transl|ar|ALA|majnūn}}、「繭、いじめられっ子、隠れたもの、隠されたもの」などを意味する {{transl|ar|ALA|janīn}} といった単語が派生する<ref name="Lane-Lexicon 1863">{{cite web|url=http://www.tyndalearchive.com/tabs/lane/ |title=An Arabic-English Lexicon |author=Edward William Lane |year=1863 |accessdate=2019-09-11 |pages=462}}</ref>。
{{transl|ar|ALA|jinn}} は複数形の名詞でなおかつ集合名詞である<ref name="Lane-Lexicon 1863" /><ref name="Nünlist 2015">{{cite book|first=Tobias |last=Nünlist |title=Dämonenglaube im Islam |publisher=Walter de Gruyter GmbH & Co KG |date=2015 |ISBN=978-3-110-33168-4 |pages=22-23 |language=de |url={{Google books|yoE_CgAAQBAJ|Dämonenglaube im Islam|plainurl=1}}}}</ref>。単数形男性は {{transl|ar|ALA|jinnī}}、女性は {{transl|ar|ALA|jinnyya<sup>t</sup>}} である(読みはそれぞれ「ジンニー」「ジンニーヤ」など)<ref name="Lane-Lexicon 1863" /><ref name="Nünlist 2015" />。同じ語根 {{transl|ar|ALA|j-n-n}} から派生して似たような意味を持つ複数形の言葉には、ほかに、{{transl|ar|ALA|jinna}}, {{transl|ar|ALA|jānn}}, {{transl|ar|ALA|jinnān}} があり<ref name="Lane-Lexicon 1863" /><ref name="Nünlist 2015" />、マグレブ方言には {{transl|ar|ALA|jnūn}} という言葉もある<ref name="Nünlist 2015" />。{{transl|ar|ALA|jānn}} の語源について、19世紀イギリスの東洋学者{{ill2|エドワード・ウィリアム・レイン|en|Edward William Lane|label=レイン}}は、[[預言者ムハンマド]]と同時代のアラビアの詩人{{ill2|アブー・ズアイブ・フザリー|ar|أبو ذؤيب الهذلي|label=フザリー}}の詩句に基づいて、少なくとも[[クルアーン]]の時代には「五感による知覚からは隠された、あるいは隠れた、精神的な存在」を意味したのであろうと推測した<ref name="Lane-Lexicon 1863" />。フザリーの詩句において、"{{transl|ar|ALA|jinn}}" の意味には「[[天使]]」が含まれている<ref name="Lane-Lexicon 1863" />。
{{transl|ar|ALA|jinn}}, {{transl|ar|ALA|jinna}}, {{transl|ar|ALA|jānn}}, {{transl|ar|ALA|jinnān}} の語源はさらに遡れる可能性があるが、確かなことは言えないのが21世紀現在の状況である<ref name="Nünlist 2015" />。フランス語で「天才」や「工学」を意味する {{lang|fr|génie}} は「守護神」や「精霊」などの意味もあり<ref>旺文社『ロワイヤル仏和中辞典』第2版 p.933</ref>、語源はラテン語の {{lang|la|genius}} にさかのぼる<ref name="Nünlist 2015" />。フランス語 {{lang|fr|génie}} は、本項で取り扱うアラブ民話の「ジン」をフランス語の中で表す言葉として定着しているが、アラビア語 {{transl|ar|ALA|jinn}} も同様に、ラテン語 {{lang|la|genius}} に由来するとする説が、19世紀のヨーロッパでは確かな根拠なく信じられていた<ref name="Nünlist 2015" />。しかし、オランダの東洋学者 Arent Jan Wensinck の "The etymology of the arabic djinn (spirit)" (1920) はこうした俗説を否定し、その後も Eichler, Starcky といった学者も支持した<ref name="Nünlist 2015" />。
アラビア語の {{transl|ar|ALA|jinn}} は、英語においてはより英語化されたかたちの {{lang|en|genie}} のつづりで書かれることがある(例えば、ディズニーキャラクターの[[ジーニー (ディズニーキャラクター)|ジーニー]]など)<ref name="oed" />。これは『[[千一夜物語]]』の英語翻訳の際(18世紀)にフランス語 {{lang|fr|génie}} から借用したものがある程度定着したものである<ref name="oed">''Oxford English Dictionary'', 3rd ed. "genie, ''n''." Oxford University Press (Oxford), 2014.</ref><ref>{{citation |title=Arabian Nights' entertainments |year=1706 |volume=Vol. I |p=14 }}.</ref>。アラビア語 {{transl|ar|ALA|jinn}} が表すものと、ラテン語由来フランス語の {{lang|fr|génie}} が表すものが大まかには一致しているため、定着したものと考えられている<ref>John L. Mckenzie ''The Dictionary Of The Bible'' Simon and Schuster 1995 {{ISBN|9780684819136}} p. 192</ref>。
== 性質 ==
[[ファイル:Houghton Lowell 4211.30 - Smirke, Arabian Nights.jpg|thumb|right|220px|1802年に描かれたジン。]]
普段は目に見えないが、煙のような気体の状態から凝結して固体となって姿を現す<ref name="堀内p970" />。その姿も変幻自在で、さまざまな動物や蛇<ref name="堀内p970" />、巨人、醜い生き物、さらには美しい女性にも変わることができる<ref name="ローズp190">[[#ローズ,松村訳 (2003)|ローズ,松村訳 (2003)]], p. 190.</ref>。知力・体力・魔力全てにおいて人間より優れるが、[[ソロモン]]王には対抗できないとされる<ref name="堀内p970" />。ソロモン王はジンを自在に操り、神殿を立てる際にもジンを動員したと言われている<ref name="ボスワースp227">[[#ボスワース,松永訳 (1999)|ボスワース,松永訳 (1999)]], p. 227.</ref>。
人間に善人と悪人がいるように、ジンにも善人と悪人<ref name="ケネディp126" />、[[ムスリム]]と非ムスリムがおり<ref name="ボスワースp227" />、人間と同様に救いを受けるものと[[ジャハンナム]]([[地獄]])に落ちるものがいる<ref name="ケネディp126" />。人間に取り憑く場合があり、ジンに取り憑かれた人すなわち気が狂った人をマジュヌーン({{Rtl翻字併記|ar|مجنون|majnǔn}})と呼ぶ。善性のジンに取り憑かれれば聖者となり社会に利益をもたらすが、悪性のジンに取り憑かれると狂人になる<ref name="堀内p970" />。
害悪を与えるといっても、ただの悪戯好きから人間の命を奪うものまで様々である。強大で恐ろしいものから順に{{仮リンク|マリード|en|Marid}}(マーリド、マリッド)、[[イフリート]]、[[サタン|シャイターン]]、ジン、ジャーンと格付けされており、リーダー格が[[イブリース]]だと言われている<ref name="堀内p970" />。しかしイブリースがアッ・シャイターンと呼ばれているので異説もある。人助けをするイフリートもいることから、この階級は悪性だけでなく、善悪統合した階級だという意見もある{{要出典|date=2015年11月3日 (火) 13:55 (UTC)}}。
== イスラームとの関係 ==
[[イスラム教]]が成立するより前、[[ジャーヒリーヤ]](無明時代)と呼ばれた頃には、<!--ケネディp126ここから-->ジンは神々またはそれに準じる存在としてアラブ人によって崇拝されていた<ref name="ケネディp126" />。
やがて成立した、[[唯一神教]]であるイスラーム教でも、ジンの存在を完全には無視できなかった。クルアーンもその存在を認めており<ref name="堀内p970" /><ref name="ケネディp126" />、[[幽精 (クルアーン)|アル・ジン]]という表題の[[スーラ (クルアーン)|スーラ(章)]]があるほどである。
クルアーンに拠る公認教義では、ジンは人間と[[天使]]の間に位置する被造物とされる<ref name="ボスワースp227" />。古典イスラム法でもジンの位置づけを定めているが、ジンが人間と結婚する事についても論考されている<ref name="ボスワースp227" />。
[[アッラーフ]]が土から[[アダム|アーダム]] ({{Rtl-lang|ar|آدم}}) を作る2000年も前に<ref name="堀内p970" />、煙の出ない火<ref name="堀内p970" /><ref name="ボスワースp226">[[#ボスワース,松永訳 (1999)|ボスワース,松永訳 (1999)]], p. 226.</ref>、またはサハラ砂漠を越えて吹く熱風「[[シムーン]]」<ref name="ローズp190" />から作られたとされる。[[エジプト]]では、アラー(アッラーフ)の名を唱えることで、悪をなすジンを退散できると信じられていた。また、砂漠の夜空に流星が光るのはアラーがジンを攻撃しているためだとされていた<ref name="ローズp190" />。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{reflist|2}}
== 参考文献 ==
* {{Cite book |和書 |author=[[堀内勝]] |others=[[山折哲雄]]監修 |title=世界宗教大事典 |publisher=[[平凡社]] |date=1997-02 |edition=初版 |chapter=ジン |pages=pp. 970-971 |isbn=978-4-582-13002-7 |ref=堀内 (1997) }}
* {{Cite book |和書 |last=ケネディ |first=リチャード |others=[[田丸徳善]]監修、[[山我哲雄]]編訳 |title=世界宗教事典 カラー版 |publisher=[[教文館]] |date=1991-02 |chapter=ジン |page=p. 126 |isbn=978-4-7642-4007-0 |ref=ケネディ,山我訳 (1991) }}
* {{Cite book |和書 |last=ボスワース |first=C. E. |editor=ヒネルズ, ジョン・R. 編 |others=[[松永泰行]]訳、[[佐藤正英]]監訳 |title=世界宗教事典 |publisher=[[青土社]] |date=1999-04 |chapter=ジン |pages=pp. 226-227 |isbn=978-4-7917-5706-0 |ref=ボスワース,松永訳 (1999) }}
* {{Cite book |和書 |last=ローズ |first=キャロル |others=[[松村一男]]監訳 |title=世界の妖精・妖怪事典 |publisher=[[原書房]] |series=シリーズ・ファンタジー百科 |date=2003-12 |chapter=ジン (1) |pages=pp. 190-193|isbn=978-4-562-03712-4 |ref=ローズ,松村訳 (2003) }}
* {{Cite book |和書 |author=草野巧著、シブヤユウジ画 |year=1997-05 |title=幻想動物事典 |page=173 |publisher=[[新紀元社]] |location= |isbn=4-88317-283-X |ref=幻想動物事典 }}
== 関連項目 ==
<!--この節に項目を追加する前に、必ず[[Wikipedia:関連項目]]を読んで下さい-->
* [[精霊]]
* [[多神教]]
* [[アニミズム]]
== 外部リンク ==
{{Commonscat|Genies}}
{{Wiktionary pipe|:en:genie|genie}}
{{NIE Poster|year=1905|Jinn}}
* [http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20130610_165933.html イスラームから見たジンの正体(2013年06月02日付 Jam-e Jam紙)] - TUFSmedia {{ja icon}}
* [http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20130610_192742.html ニュースのなかの「ジン」(上)(2013年06月02日付 Jam-e Jam紙)] - TUFSmedia {{ja icon}}
* [http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20130612_144820.html ニュースのなかの「ジン」(下)(2013年06月02日付 Jam-e Jam紙)] - TUFSmedia {{ja icon}}
{{デフォルトソート:しん}}
[[Category:イスラーム神話]]
[[Category:中東]]