動物番
貧しい動物番の若者が難題を解いて王女等と結婚する説話物語群。難題婿の一形態であって、難題を課すのは舅であることが多いが、王女自身が課すものもある。西欧の民話に多い。
特に物語の中にイデオロギー的な要素は乏しい。ただし、主人公に兄達あるいは先行する求婚者達がいて、難題に失敗すると殺されてしまう、というエピソードが付加されている物語があり、彼らはおそらく人身御供にされてしまったのであろう、ということが暗喩されている内容のものもある。
内容は
貧しい若者(多くは末息子)が王女に求婚に出かける、あるいは王家の動物番の仕事を求めて出かけるが、途中で困っている人を助けて、動物を番するコツを教えて貰う。動物番に成功するコツは特殊な笛を使う点にあることが多い。先行する求婚者達は困っている人を助けなかったので成功せず、王様に捕らえられたり、殺されたりしている。若者は援助者の助言の通りにふるまい王女を手に入れる。
というものである。
動物を助けたことによって結婚を手に入れるいわゆる「蜂の援助」譚も、動物番の類型と考える。助けた相手が困っている人(神仙の類い)から動物に直接親切にするという形に変化したものと思われる。
ATU分類は穴ウサギ番(570)、姫のあざ(850)、蛇の冠(672)の一部、病気を治す果物(610)の一部、恩に報いる動物たち(554)が該当する。
私的考察
いわゆる「炎黄闘争」が変化した話型であると考える。「黄帝」に相当する「動物番の若者」が成功を得る話である。黄帝が動物を調教することに巧みであった、という要素から発生したものではないか、と思う。人身御供を行う者を罰する、という要素は乏しいと考えるが、人身御供の形跡を伺わせるエピソードを含む物語もある。
例話
動物番型
- オズボーンの笛(オズボルンの笛):ノルウェー、「穴ウサギ番」型
- 三本の金髪のある王女:ドイツ、「姫のあざ」型
部分的動物番型
主人公は動物番をするが、それが直接的な求婚の成功には結びつかない群。
- 洗礼式に招かれたトロル:デンマーク。動物番の若者が知恵でトロルを退ける話。婚姻譚は省かれている。
- ばらの姫:オーストリア。動物番というよりは怪物退治の要素が強い話。ただし、蜂の女王に助けて貰うなど、蜂の援助譚に近い内容が含まれている。
- 「フェアリーの子牛の丘」の伝説:アイルランド。動物番の若者がフェアリーを退ける話。
- 雪のように白い石:スイス。主人公が牧童である、というだけだが、姿を消す魔法のアイテムを手に入れる話であり、元は動物番に類する話があったものと思われる。
蜂の援助型
- 黒いさくらんぼ:レートロマン。蟻、魚、悪魔と天使を助ける話。
- まったらこうよ:長野県。蜂を助けるエピソードが省かれているが、かなり典型的な「蜂の援助型」ではないかと思う。
- 蛇の女王:スイス。男主人公は牧童なので動物番の要素も含む。蛇の女王を助けるのは女主人公であって、やや変則的な話となっている。
蜂の援助型亜型・呪的逃走型
主に主人公が呪的闘争の際に、動物などの助けを借りるもの。
主人公が女性かつ結婚に結びつかないもの
- 紡錘むすめ:コミ共和国:生贄にされた娘が呪的闘争の際に様々な動物などの助けを借りる話。
蜂の援助型亜型・報復型
動物虐待などに対する何らかの報復譚で、毒鉢に報復されるもの。
- 西瓜の種:ウズベキスタン:後半部分は鳥への虐待に対する報復譚である。