赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命

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赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命(あかふすまいぬおおすみひこさわきのみこと)は、「出雲国風土記」の国引き神話に登場する八束水臣津野命(やつかみずおみつぬのみこと)の子神である。天甕津日女命(あめのみかつひめのみこと)の夫とされる。おそらく犬神であろう。

「衾」とは「夜具」や「布団」という意味だが、この場合は犬神なので、毛並みのことと思われる。「赤い毛並みの犬」ということだろうか。また、「和氣能命」とは「別命」とも書き、誰か(父親)から分かれた息子神という意味と考える。

伊努神社について

島根県出雲市の神社。伊努神社の近傍には斐伊川、山持川が流れている。主祭神は赤衾伊努意保須美比古佐倭氣命。出雲国風土記、秋鹿郡伊農郷の由来に

出雲の郡伊農の郷に鎮座される、赤衾伊農意保須美比古佐和気能命の后である天甕津日女の命が、国内をご巡行になった時に、ここにお着きになっておっしゃったことには「ああわが夫よ、伊農よ(伊農波夜)」であった。それで伊努というのだ。(HP:伊努神社、玄松子より)

この神社には伊豆能売を合祀したとされているが、現在の祭神に伊豆能売の名はない。この女神は天甕津日女命と同じ女神ではないだろうか。

ただし、この神社には現在4つの式内社が合祀されており、それは神魂伊豆乃賣神社、神魂神社、比古佐和氣神社、意布伎神社である[1]

蘆高神社について

高神社は出雲市美野町935にある神社。主祭神は赤衾伊農意保須美比古佐和気能命(あかふすまいぬおほすみひこさわけのみこと)。蘆高神社の向かい側には、妻神・天甕津姫命(あめのみかつひめ)を祀る伊努(いの)神社が建っている[2]

花長下神社について

岐阜県揖斐郡揖斐川町(旧谷汲村)(美濃國大野郡)にある神社。祭神は赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命である。同町内にある花長上神社(祭神は天甕津媛命)と対になる関係にある。

その他関連がありそうな神社

伊奴神社

愛知県名古屋市西区稲生町にある神社。旧郷社。主祭神は素盞嗚尊、大年神、伊奴姫神

伊奴神社にまつわる伝承。

かつて庄内川の氾濫に困った村人が、旅の山伏にお願いしてお祈りをしてもらったところ、その年は洪水が起こらなかった。不思議に思った村人が山伏から「開けてはならない」と言われていた、御幣を開けたところ、一匹の犬の絵と「犬の王」という文字が書かれていた。そして、翌年はまた大洪水が起こった。村人は再び山伏に御幣を勝手に開けてしまったことを謝り、もう一度お祈りをお願いした。山伏は「御幣を埋め、社を建てて祀れ」と言い、その後洪水がなくなった。それが伊奴神社の始まりと伝わっている。境内内には「犬の王」の像がある。[3]

私的考察

「赤衾」と「和氣能命」

「赤衾」とは「赤い毛並み(の犬)」という意味と考える。「赤」とは「火」を連想させる言葉だ。

また「和氣能命」とは息子神であることを示す。父親の名は「伊農意保須美比古」となろうか。ということは父神も「」といえる。

赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命と対になる神は阿遅鉏高日子根神だ。阿遅鉏高日子根神は性質より明確に「疫神」で「祝融型神」だが、赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命の方にも、火神を思わせる点、息子神である点は祝融型神といえると考える。

大国主命との同一性・「あし」という言葉

赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命は「高神社」という神社に祀られているが、広く犬神と思われる神々との共通点をみるに、「」、「」、「」といった「あし」と呼ぶ言葉が、祀る神社の名前についていたりすることが多いように感じる。大国主命の別名に「原醜男」があり、この名のときは、特に赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命と同じ犬神を指すのではないか、と考える。

静岡県浜松市水窪町奥領家の足神神社では「早太郎」という犬神を祀る[4]早太郎は長野県南信から静岡県浜松市にかけて活躍する霊犬である。「伊農波夜」の言葉とおり、「」の字が名前につく。愛知県よりも東では赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命を祀る神社はみられないが、早太郎は赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命の流れをくむ犬神と考える。

大国主命の「人間型」が大国主命であり、「犬型」が赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命なのではないだろうか。

「伏」という言葉との関連

」という字は「」に「」と書き、犬神信仰とも関連する言葉と考える。長野県岡谷市に鉢伏山という山があり、山頂に「雨乞いの神」とされている鉢伏大権現を祀る鉢伏神社がある[5]。また、長野市信州新町竹房の八布施山に武八布施神社がある。こちらは馬の産地であって、八布施駒形大明神を祀っていた。現在の祭神は保食神である。竹房大門の武富佐神社には「速瓢神(はやちかみ)」という神が祀られている。「伏」という字に関連する地名であり、「」という字が名前につくことから、「速瓢神(はやちかみ)」も犬神だと管理人は考える。

ちなみに、長野市信州新町竹房あたりから、小布施の辺りまでは、かつて「布施氏」という氏族が活動した地域である。彼らは犀川・千曲川東側に広く展開し、地名や神社名にその痕跡を残している。彼らが元は「伏氏」と名乗っていたのであれば、犬神に縁の深い氏族だったのかもしれないと思う。

犬甘氏と辛犬甘氏

布施氏は大伴氏の後衛氏族で大彦命を祖神に祀る。長野県には他にも「犬」に冠する名字が多いように感じる。古代において、筑摩郡島内(旧嶋之内)付近を治め、安曇・筑摩両郡に渡って犬甘(いぬかい)氏、辛犬甘氏という氏族が活動していた。犬甘氏は大伴氏の後衛、辛犬甘氏は阿曇氏の庶流と言われているが、同族との説もある。阿曇系の犬養氏には六氏族がある。管理人が思うに、古代においては数種類の「犬神」がいて、それぞれ祀る氏(うじ)が定められていたのではないだろうか。

出早雄命と小萩命

岡谷市の鉢伏山には山頂付近にいくつかの小祠が祀られており、「鉢伏大権現」「鉢伏太神」「小萩」「日本第一軍神」と読めるとのこと[6]。鉢伏山を水源としている横河川がつくる扇状地の扇頂部には出早雄小萩神社がある。この神社は内県(うちあがた)(諏訪郡)の総領といわれ、小萩祝(こはぎほうり)という専属の神官が存在した[7]。祭神は諏訪神の子神といわれる出早雄命小萩命である。小萩命は意岐萩命・児萩・古波岐とも書き、長野県佐久市田口宮代にある新海三社神社の祭神でもある[8]出早雄命の名には「」という字がつく。小萩命は鉢伏山信仰と関連がありそうだ。すなわち、この二柱の神は、鉢伏山に関する犬神だったのではないだろうか。赤衾伊農意保須美比古佐和氣能命は、犬神としての性質が東国へと移動するにつれて、複数の犬神の姿へと変化していったように管理人には思われる。

関連項目

注釈

  1. 伊怒比売、國學院大學「古典文化学」事業(最終閲覧日:24-12-13)
  2. 地元では両社を結ぶ道を「恋人ロード」と呼んでいる。
  3. 伊奴神社(名古屋)|犬好きにはたまらない!犬の伝説が伝わる神社、「あっちこっち名古屋」より
  4. 足神(あしがみ)神社 、狼神話(最終閲覧日:24-11-29)
  5. 鉢伏神社、写真紀行・旅おりおり(最終閲覧日:24-11-29)
  6. 鉢伏山(岡谷市)、たてしなの時間(最終閲覧日:24-12-01)
  7. 出早神社、諏訪市博物館HPより(最終閲覧日:24-11-29)
  8. 出早雄小萩神社、諏訪大社と諏訪神社、from八ヶ岳原人(最終閲覧日:24-11-29)