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== 概要 ==
 
== 概要 ==
見るなのタブーは、ヘブライ神話、ギリシア神話、日本神話をはじめ、多くの神話体系にみられる。[[フロイト]]は、『トーテムとタブー』において王権がタブー(禁忌)とされることを論じ、このタブーが法や戒律の基礎をなすとしている。日本の精神科医の[[北山修]]は、フロイトの『トーテムとタブー』における考察をふまえて、このモチーフについて精神医学または精神分析的な観点から考察し、ある社会体系に住む人々(特に日本人)の精神構造を根本的に規定していると見なした<ref>{{Cite book |和書 |author=北山修|authorlink=北山修 |year=1993 |title=見るなの禁止 |page= |publisher=岩崎学術出版社 |location= |isbn= |quote= }}</ref><ref>{{Cite book |和書 |author1=北山修|authorlink1=北山修|author2=橋本雅之 |year=2009 |title=日本人の<原罪> |page= |publisher=[[講談社]] |series= 講談社現代新書 |location= |isbn= |quote= }}</ref>。
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見るな等のタブーは、ヘブライ神話、ギリシア神話、日本神話をはじめ、多くの神話体系と民間伝承にみられる。
  
 
=== 民話における禁室型 ===
 
=== 民話における禁室型 ===
異類の者と結婚をした人間が「見るなのタブー」を犯して異類の者の本当の姿を見てしまい、それが原因で離別するという話は、この類型のフランスの伝説に登場する[[メリュジーヌ]]から'''メルシナ型'''(メリュジーヌ・モチーフ)とも呼ばれる<ref>メルシナ型の一部は、二人の間の子孫が王侯の始祖となったという一門の創設神話と結びついている。- 著者が「特に注目しているのは、「メリュジーヌ型」のユーラシア的展開」(訳者前書き)と紹介されているフィリップ・ヴァルテール『ユーラシアの女性神話-ユーラシア神話試論Ⅱ』([[渡邉浩司]]・渡邉裕美子訳)[[中央大学]]出版部 2021年 ISBN 978-4-8057-5183-1、118-121頁他を参照。</ref>。
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異類の者と結婚をした人間が「見るなのタブー」を犯して異類の者の本当の姿を見てしまい、それが原因で離別するという話は、この類型のフランスの伝説に登場する[[メリュジーヌ]]から'''メリュジーヌ型'''(メリュジーヌ・モチーフ)とも呼ばれる<ref>メルシナ型の一部は、二人の間の子孫が王侯の始祖となったという一門の創設神話と結びついている。- 著者が「特に注目しているのは、「メリュジーヌ型」のユーラシア的展開」(訳者前書き)と紹介されているフィリップ・ヴァルテール『ユーラシアの女性神話-ユーラシア神話試論Ⅱ』(渡邉浩司・渡邉裕美子訳)中央大学出版部 2021年 ISBN 978-4-8057-5183-1、118-121頁他を参照。</ref>。
  
 
== 事例 ==
 
== 事例 ==
 
=== 旧約聖書 ===
 
=== 旧約聖書 ===
* 『[[創世記]]』9章18節-27節において、父[[ノア (聖書)|ノア]]の酔っぱらった寝姿を息子[[ハム (聖書)|ハム]]が見てしまい、ノアによってハムの息子[[カナン]]とその子孫が呪われてしまう。
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* 『創世記』9章18節-27節において、父ノアの酔っぱらった寝姿を息子ハムが見てしまい、ノアによってハムの息子カナンとその子孫が呪われてしまう<ref group="私注">これは誰が何故定めたのかが不明な禁忌である。</ref>。
  
* 『創世記』19章において、[[ソドムとゴモラ]]が滅ぼされるとき、[[天使|神の使い]]が[[ロト (聖書)|ロト]]の家族へそれを予告する代わりに、町の方を振り返るなと言いつけたが、妻は途中で振り返ってしまい、[[ロトの妻の塩柱|塩の柱]]となった。
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* 『創世記』19章において、ソドムとゴモラが滅ぼされるとき、神の使いがロトの家族へそれを予告する代わりに、町の方を振り返るなと言いつけたが、妻は途中で振り返ってしまい、塩の柱<ref group="私注">死の暗喩である。</ref>となった。
  
 
=== ギリシア神話 ===
 
=== ギリシア神話 ===
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* 竪琴の名手[[オルペウス]]は、毒蛇に咬まれて死んだ妻[[エウリュディケー]]を生き返らせようと決意して[[冥界]]へ行き、冥王[[ハーデース]]と交渉を試みた末に「地上に戻るまでは決して後ろを振り向いてはいけない。成し遂げたら妻を返そう」と約束させることに成功した。しかし、エウリュディケーが本当に付いて来ているか不安だったオルペウスは、もう少しで地上にたどり着くという所で後ろを振り向いてしまい、エウリュディケーは冥界に引き戻されてしまった。オルペウスは絶望しながら地上を彷徨い歩いた末に、悲惨な死を遂げ、再び冥界でエウリュディケーと一緒になることができた。
 
* 竪琴の名手[[オルペウス]]は、毒蛇に咬まれて死んだ妻[[エウリュディケー]]を生き返らせようと決意して[[冥界]]へ行き、冥王[[ハーデース]]と交渉を試みた末に「地上に戻るまでは決して後ろを振り向いてはいけない。成し遂げたら妻を返そう」と約束させることに成功した。しかし、エウリュディケーが本当に付いて来ているか不安だったオルペウスは、もう少しで地上にたどり着くという所で後ろを振り向いてしまい、エウリュディケーは冥界に引き戻されてしまった。オルペウスは絶望しながら地上を彷徨い歩いた末に、悲惨な死を遂げ、再び冥界でエウリュディケーと一緒になることができた。
  
* とある小国の王女[[プシューケー]]は絶世の美女だったが、これを快く思わない美の女神[[アプロディーテー]]は、彼女が決して子孫を残さぬよう[[鉛]]の矢で撃つことを息子[[エロース]]に命じたが、彼はプシューケーの美しさに恋をしてしまった。エロースは魔神に化けてプシューケーの両親の前に現れ、彼女を生贄として捧げるよう命じた。晴れてプシューケーと同居したエロースだが、神であることを知られては禁忌に触れるため、暗闇でしかプシューケーに会おうとしなかった。姉たちに唆されたプシューケーが灯りをエロースに当てると、彼は逃げ去ってしまった。その後、エロースの端正な顔と美しい姿を見てプシューケーも恋に陥り、人間でありながら姑アプロディーテーの出す難題を解くため冥界へ行き、冥府の女王[[ペルセポネー]]に首尾よく美の箱を分けてもらうことができた。しかし、プシューケーは箱の中味が気になり、開けてしまった。その箱の中には冥府の眠り、すなわち死が入っていた。プシューケーの亡骸を見付けたエロースは、彼女に取り憑いていた冥府の眠りを箱に戻し、再び彼女を目覚めさせた。その後、二人は神々の王[[ゼウス]]の仲立で正式に結婚を認められ、プシューケーはエロースと同じく神の身分として生きることになった。
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* とある小国の王女[[プシューケー]]は絶世の美女だったが、これを快く思わない美の女神[[アプロディーテー]]は、彼女が決して子孫を残さぬよう鉛の矢で撃つことを息子[[エロース]]に命じたが、彼はプシューケーの美しさに恋をしてしまった。エロースは魔神に化けてプシューケーの両親の前に現れ、彼女を生贄として捧げるよう命じた。晴れてプシューケーと同居したエロースだが、神であることを知られては禁忌に触れるため、暗闇でしかプシューケーに会おうとしなかった。姉たちに唆されたプシューケーが灯りをエロースに当てると、彼は逃げ去ってしまった。その後、エロースの端正な顔と美しい姿を見てプシューケーも恋に陥り、人間でありながら姑アプロディーテーの出す難題を解くため冥界へ行き、冥府の女王[[ペルセポネー]]に首尾よく美の箱を分けてもらうことができた。しかし、プシューケーは箱の中味が気になり、開けてしまった。その箱の中には冥府の眠り、すなわち死が入っていた。プシューケーの亡骸を見付けたエロースは、彼女に取り憑いていた冥府の眠りを箱に戻し、再び彼女を目覚めさせた。その後、二人は神々の王[[ゼウス]]の仲立で正式に結婚を認められ、プシューケーはエロースと同じく神の身分として生きることになった。
  
 
=== 日本神話 ===
 
=== 日本神話 ===
* [[神産み]]の段で、亡くなった[[イザナミ]]を追って[[黄泉|黄泉の国]]を訪れた[[イザナギ]]は、中を見るなと彼女に言われたにもかかわらず、[[櫛]]に火をつけ扉を開けて中を見てしまう。自身の朽ち果てた姿を見られたイザナミは怒り、逃げるイザナギを追いかけるが、黄泉の国の入り口で二神は離婚する。
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* 神産みの段で、亡くなった[[イザナミ]]を追って[[黄泉|黄泉の国]]を訪れた[[イザナギ]]は、中を見るなと彼女に言われたにもかかわらず、櫛に火をつけ扉を開けて中を見てしまう。自身の朽ち果てた姿を見られたイザナミは怒り、逃げるイザナギを追いかけるが、黄泉の国の入り口で二神は離婚する。
<!--*[[高天原]]を追放された[[スサノオ]]は、途中で[[オオゲツヒメ]]の饗応を受けるが、オオゲツヒメが料理を用意している所を覗き見、オオゲツヒメが口や尻から食物を取り出していることを知り、怒ってオオゲツヒメを斬り殺してしまう。(見ることを禁止はされていないが、見るなのタブーの変形と考えられる)-->
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<!--*高天原を追放された[[スサノオ]]は、途中で[[大宜都比売]]の饗応を受けるが、[[大宜都比売]]が料理を用意している所を覗き見、[[大宜都比売]]が口や尻から食物を取り出していることを知り、怒って[[大宜都比売]]を斬り殺してしまう。(見ることを禁止はされていないが、見るなのタブーの変形と考えられる)-->
  
*[[天孫降臨]]の段で、[[トヨタマビメ]]に子を産む所を見るなと言われたにもかかわらず、[[ホオリ]](山幸彦)は産屋を覗き見てしまう。そこには八尋の[[和邇 (神話)|和邇]]に姿を変えたトヨタマビメがいた。これが元で、彼女は子を産んだ後、海の中へ帰って行ってしまう。そのときに産まれた子が[[ウガヤフキアエズ]]で、その子が[[神武天皇]]である<ref>メルシナ型の典型である{{要出典|date=2010年7月}}</ref>。
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*天孫降臨の段で、[[豊玉毘売]]に子を産む所を見るなと言われたにもかかわらず、[[[[山幸彦と海幸彦|ホオリ]]]](山幸彦)は産屋を覗き見てしまう。そこには八尋の和邇に姿を変えた[[豊玉毘売]]がいた。これが元で、彼女は子を産んだ後、海の中へ帰って行ってしまう。そのときに産まれた子がウガヤフキアエズで、その子が神武天皇である<ref>メリュジーヌ型の典型である<sup>''(要出典, 2010年7月)''</sup></ref>。
  
 
* 『[[日本書紀]]』の[[崇神天皇]]条において、[[倭迹迹日百襲姫命]](やまとととひももそひめ)は[[大物主]]と結婚するが、彼が夜にしか現れないので、姿を見たいと言った。大物主は姿を見ても驚かないようにと言うが、翌朝、[[ヘビ|蛇]]に姿を変えて櫛箱に入っていた彼を見た倭迹迹日百襲姫命が驚いてしまったので、大物主は恥をかかせたと怒って山に帰ってしまった(「見ること」自体を禁じられてはいないが、「見たこと」が原因で離別したという点で、見るなのタブーの変形と考えられる)。倭迹迹日百襲姫命は自らの行いを恥じて[[女性器|陰部]]を箸で刺して自害した<ref>ここから彼女の墓は[[箸墓]]と呼ばれるようになった。これが[[箸墓古墳]]の由来である。</ref>(驚いて座り込んだ拍子にそこにあった箸が刺さって死んだとも)。
 
* 『[[日本書紀]]』の[[崇神天皇]]条において、[[倭迹迹日百襲姫命]](やまとととひももそひめ)は[[大物主]]と結婚するが、彼が夜にしか現れないので、姿を見たいと言った。大物主は姿を見ても驚かないようにと言うが、翌朝、[[ヘビ|蛇]]に姿を変えて櫛箱に入っていた彼を見た倭迹迹日百襲姫命が驚いてしまったので、大物主は恥をかかせたと怒って山に帰ってしまった(「見ること」自体を禁じられてはいないが、「見たこと」が原因で離別したという点で、見るなのタブーの変形と考えられる)。倭迹迹日百襲姫命は自らの行いを恥じて[[女性器|陰部]]を箸で刺して自害した<ref>ここから彼女の墓は[[箸墓]]と呼ばれるようになった。これが[[箸墓古墳]]の由来である。</ref>(驚いて座り込んだ拍子にそこにあった箸が刺さって死んだとも)。

2022年9月26日 (月) 01:17時点における版

禁忌(きんき)とは、神話・伝承において見るな等のタブーに触れて物語が展開する、というモチーフの一つ。

見るなの場合、何かをしているところを「見てはいけない」と禁止が課せられていたにも拘らず、それを破ってしまったために悲劇的な結果が訪れる、あるいは、決して見てはいけないと言われた物を見てしまったために恐ろしい目に遭う、というパターンをもち、民話の類型としては禁室型(きんしつがた)ともいう。

概要

見るな等のタブーは、ヘブライ神話、ギリシア神話、日本神話をはじめ、多くの神話体系と民間伝承にみられる。

民話における禁室型

異類の者と結婚をした人間が「見るなのタブー」を犯して異類の者の本当の姿を見てしまい、それが原因で離別するという話は、この類型のフランスの伝説に登場するメリュジーヌからメリュジーヌ型(メリュジーヌ・モチーフ)とも呼ばれる[1]

事例

旧約聖書

  • 『創世記』9章18節-27節において、父ノアの酔っぱらった寝姿を息子ハムが見てしまい、ノアによってハムの息子カナンとその子孫が呪われてしまう[私注 1]
  • 『創世記』19章において、ソドムとゴモラが滅ぼされるとき、神の使いがロトの家族へそれを予告する代わりに、町の方を振り返るなと言いつけたが、妻は途中で振り返ってしまい、塩の柱[私注 2]となった。

ギリシア神話

  • 人間に火を使うことをもたらしたプロメーテウスを懲らしめるために、ゼウスはあえて彼の弟であるエピメーテウスの元へパンドーラーという女性に壺を持たせ贈った。その時、「この壺だけは決して開けるな」と言い含めていた。エピメーテウスはパンドーラーに惚れ、結婚した。パンドーラーもエピメーテウスと満足した生活を送っていたが、ふとしたときに壺のことが気になり、開けてしまった。そこからは、恨み、ねたみ、病気、猜疑心、不安、憎しみ、悪徳など負の感情が溢れ出て、世界中に広まってしまった。パンドーラーは慌ててその壺を閉めるが、既に一つを除いて全て飛び去った後であった。最後に残ったものは希望とも絶望とも、未来を全て分かってしまう災い(予兆)ともいわれる。それによって人類は希望だけは失わずにすんだと言われる。こうして、以後人類は様々な災厄に見舞われながらも希望だけは失わず(あるいは絶望することなく)生きていくことになった(パンドラの箱)。
  • 竪琴の名手オルペウスは、毒蛇に咬まれて死んだ妻エウリュディケーを生き返らせようと決意して冥界へ行き、冥王ハーデースと交渉を試みた末に「地上に戻るまでは決して後ろを振り向いてはいけない。成し遂げたら妻を返そう」と約束させることに成功した。しかし、エウリュディケーが本当に付いて来ているか不安だったオルペウスは、もう少しで地上にたどり着くという所で後ろを振り向いてしまい、エウリュディケーは冥界に引き戻されてしまった。オルペウスは絶望しながら地上を彷徨い歩いた末に、悲惨な死を遂げ、再び冥界でエウリュディケーと一緒になることができた。
  • とある小国の王女プシューケーは絶世の美女だったが、これを快く思わない美の女神アプロディーテーは、彼女が決して子孫を残さぬよう鉛の矢で撃つことを息子エロースに命じたが、彼はプシューケーの美しさに恋をしてしまった。エロースは魔神に化けてプシューケーの両親の前に現れ、彼女を生贄として捧げるよう命じた。晴れてプシューケーと同居したエロースだが、神であることを知られては禁忌に触れるため、暗闇でしかプシューケーに会おうとしなかった。姉たちに唆されたプシューケーが灯りをエロースに当てると、彼は逃げ去ってしまった。その後、エロースの端正な顔と美しい姿を見てプシューケーも恋に陥り、人間でありながら姑アプロディーテーの出す難題を解くため冥界へ行き、冥府の女王ペルセポネーに首尾よく美の箱を分けてもらうことができた。しかし、プシューケーは箱の中味が気になり、開けてしまった。その箱の中には冥府の眠り、すなわち死が入っていた。プシューケーの亡骸を見付けたエロースは、彼女に取り憑いていた冥府の眠りを箱に戻し、再び彼女を目覚めさせた。その後、二人は神々の王ゼウスの仲立で正式に結婚を認められ、プシューケーはエロースと同じく神の身分として生きることになった。

日本神話

  • 神産みの段で、亡くなったイザナミを追って黄泉の国を訪れたイザナギは、中を見るなと彼女に言われたにもかかわらず、櫛に火をつけ扉を開けて中を見てしまう。自身の朽ち果てた姿を見られたイザナミは怒り、逃げるイザナギを追いかけるが、黄泉の国の入り口で二神は離婚する。
  • 天孫降臨の段で、豊玉毘売に子を産む所を見るなと言われたにもかかわらず、[[ホオリ]](山幸彦)は産屋を覗き見てしまう。そこには八尋の和邇に姿を変えた豊玉毘売がいた。これが元で、彼女は子を産んだ後、海の中へ帰って行ってしまう。そのときに産まれた子がウガヤフキアエズで、その子が神武天皇である[2]
  • 日本書紀』の崇神天皇条において、倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそひめ)は大物主と結婚するが、彼が夜にしか現れないので、姿を見たいと言った。大物主は姿を見ても驚かないようにと言うが、翌朝、に姿を変えて櫛箱に入っていた彼を見た倭迹迹日百襲姫命が驚いてしまったので、大物主は恥をかかせたと怒って山に帰ってしまった(「見ること」自体を禁じられてはいないが、「見たこと」が原因で離別したという点で、見るなのタブーの変形と考えられる)。倭迹迹日百襲姫命は自らの行いを恥じて陰部を箸で刺して自害した[3](驚いて座り込んだ拍子にそこにあった箸が刺さって死んだとも)。

日本の民話

中国の古典

脚注

  1. メルシナ型の一部は、二人の間の子孫が王侯の始祖となったという一門の創設神話と結びついている。- 著者が「特に注目しているのは、「メリュジーヌ型」のユーラシア的展開」(訳者前書き)と紹介されているフィリップ・ヴァルテール『ユーラシアの女性神話-ユーラシア神話試論Ⅱ』(渡邉浩司・渡邉裕美子訳)中央大学出版部 2021年 ISBN 978-4-8057-5183-1、118-121頁他を参照。
  2. メリュジーヌ型の典型である(要出典, 2010年7月)
  3. ここから彼女の墓は箸墓と呼ばれるようになった。これが箸墓古墳の由来である。
  4. 自分のことを誰にも話してはいけないと雪女から命令されたにも関わらず、主人公がこれを破ったために離別を招く結果となった点において、見るなのタブーの変形と言える。

参考文献

  • 新谷尚紀監修 「『見るな』『覗くな』の伝承」『日本人の禁忌:忌み言葉、鬼門、縁起かつぎ…人は何を恐れたのか』青春出版社〈プレイブックス・インテリジェンス〉、2003年。ISBN 978-4413040792。
  • 北山修・橋本雅之『日本人の〈原罪〉』講談社講談社現代新書〉、2009年。
  • 山北修『定版 見るなの禁止:日本語臨床の深層』岩崎学術出版社、2017年。

関連項目


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