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'''ラダマンテュス'''({{lang-grc-short|'''Ῥαδάμανθυς'''}}, {{ラテン翻字|el|Rhadamanthys}}, {{lang-la|Rhadamanthus}})は、[[ギリシア神話]]に登場する人物である。'''ラダマンティス'''、ラテン語で'''ラダマントゥス'''とも表記される。[[ミーノース]]<ref name=AP312>アポロドーロス、3巻1・2。</ref>、[[アイアコス]]とともに[[地獄|冥界]]の審判者を務めるとされる。また[[エーリュシオン]]の長であるとも言われる<ref name=OD4563>『オデュッセイアー』4巻563行-568行。</ref>。[[ホメーロス]]の[[叙事詩]]『[[オデュッセイアー]]』では「金髪のラダマンテュス」と呼ばれている<ref>『オデュッセイアー』4巻564行。</ref><ref>『オデュッセイアー』7巻322行。</ref>。
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'''ラダマンテュス'''('''Ῥαδάμανθυς''', Rhadamanthys, Rhadamanthus)は、ギリシア神話に登場する人物である。'''ラダマンティス'''、ラテン語で'''ラダマントゥス'''とも表記される。ミーノース<ref name=AP312>アポロドーロス、3巻1・2。</ref>、アイアコスとともに冥界の審判者を務めるとされる。またエーリュシオンの長であるとも言われる<ref name=OD4563>『オデュッセイアー』4巻563行-568行。</ref>。ホメーロスの叙事詩『オデュッセイアー』では「'''金髪の'''ラダマンテュス」と呼ばれている<ref>『オデュッセイアー』4巻564行。</ref><ref>『オデュッセイアー』7巻322行。</ref>。
  
[[ゼウス]]と[[フェニキア]]の王[[アゲーノール]]の娘[[エウローペー]]との間に生まれた子で、ミーノース、[[サルペードーン]]と兄弟<ref name=HF89>ヘーシオドス断片89(『イーリアス』12巻397行への古註D)。</ref><ref name=HF90>ヘーシオドス断片90([[オクシュリュンコス・パピュルス]]、1358 fr.1 col.I)。</ref><ref name=AP311>アポロドーロス、3巻1・1。</ref><ref name=SD4602>シケリアのディオドーロス、4巻60・2。</ref><ref name=SD5781>シケリアのディオドーロス、5巻78・1。</ref><ref name=HY178>ヒュギーヌス、178話。</ref>。ただしホメーロスはミーノースとラダマンテュスのみエウローペーの息子としている<ref>『イーリアス』14巻322行。</ref>。[[スパルタ]]の詩人{{仮リンク|キナイトン|en|Cinaethon of Sparta|label=キナイトーン}}によれば、ラダマンテュスはクーレースの子タロースの子ヘーパイストスの子であるという<ref>パウサニアース、8巻53・5。</ref>。エリュトロス<ref name=PA737>パウサニアース、7巻3・7。</ref><ref name=SD5791>シケリアのディオドーロス、5巻79・1。</ref>、ゴルテュスの父<ref name=PA8534>パウサニアース、8巻53・4。</ref>。[[アルクメーネー]]の再婚相手とされる<ref name=AP312 /><ref name=AP2411>アポロドーロス、2巻4・11。</ref>。
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== 神話 ==
 
== 神話 ==
 
===誕生===
 
===誕生===
[[File:François Boucher - The Rape of Europa - WGA02897.jpg|thumb|300px|[[フランソワ・ブーシェ]]の絵画『エウロパの略奪』。[[ウォレス・コレクション]]所蔵。]]
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あるとき、ゼウスは美しいテュロス王女エウローペーに恋した。そこで白い牡牛に変身してエウローペーに接近し、彼女が警戒を解いて背中にまたがったのを見計らい、海を渡ってクレータ島に連れ去った<ref name=HF89 /><ref name=AP311 /><ref name=SD4602 /><ref name=SD5781 /><ref name=HY178 /><ref>オウィディウス『変身物語』2巻。</ref>。その地でゼウスはエウローペーとの間にミーノース、ラダマンテュス、サルペードーンをもうけた<ref name=HF89 /><ref name=AP311 /><ref name=SD4602 /><ref name=SD5781 /><ref name=HY178 />。その後、エウローペーはクレータ島の王アステリオス(Asterion (king of Crete))と結婚し、ラダマンテュスたち兄弟はアステリオス王によって養育された<ref name=AP312 /><ref name=HF89 /><ref name=SD4603>シケリアのディオドーロス、4巻60・3。</ref>。
あるとき、[[ゼウス]]は美しいテュロス王女エウローペーに恋した。そこで白い牡牛に変身してエウローペーに接近し、彼女が警戒を解いて背中にまたがったのを見計らい、海を渡って[[クレータ島]]に連れ去った<ref name=HF89 /><ref name=AP311 /><ref name=SD4602 /><ref name=SD5781 /><ref name=HY178 /><ref>オウィディウス『変身物語』2巻。</ref>。その地でゼウスはエウローペーとの間にミーノース、ラダマンテュス、サルペードーンをもうけた<ref name=HF89 /><ref name=AP311 /><ref name=SD4602 /><ref name=SD5781 /><ref name=HY178 />。その後、エウローペーはクレータ島の王{{仮リンク|アステリオス|en|Asterion (king of Crete)#Asterion I}}と結婚し、ラダマンテュスたち兄弟はアステリオス王によって養育された<ref name=AP312 /><ref name=HF89 /><ref name=SD4603>シケリアのディオドーロス、4巻60・3。</ref>。
 
  
 
===立法者===
 
===立法者===
ラダマンテュスは正義の人であったと伝えられている<ref name=HF90 /><ref name=SD5791 /><ref name=SD5792>シケリアのディオドーロス、5巻79・2。</ref>。成長するとミーノースの王権を補佐し<ref name=SD5842>シケリアのディオドーロス、5巻84・2。</ref>、立法者としてクレータ島の法を制定した<ref name=AP312 /><ref name=SD4603 />。一説によると[[正当防衛]]はラダマンテュスが定めた<ref>アポロドーロス、2巻4・9。</ref>。ラダマンテュスはいかなる裁判においても正しい判決を下し、盗賊や瀆神者のなどの罪人を厳しく罰したので、[[エーゲ海]]の島々や[[小アジア]]の沿岸地方の多くが、自ら進んでラダマンテュスの統治下に入った<ref name=SD5791 />。しかし、人々がラダマンテュスの正義の徳を驚きの目で見るようになると、ミーノースは嫉妬して、ラダマンテュスを政治の中心から遠ざけ、クレータ島の支配がおよぶ最も遠い場所に送った<ref name=SD5842 />。ラダマンテュスは小アジアと向かい合った島々に移り、息子エリュトロスにエリュトライ、甥にあたる[[オイノピオーン]]に[[キオス島]]の統治をゆだねた<ref name=SD5791 /><ref>シケリアのディオドーロス、5巻84・3。</ref>。また[[トアース]]に[[レームノス島]]、エニューエウスにキュルノス島、スタピュロスに[[ペパレートス島]]、エウアンテースにマロネイア、[[アルカイオス (ギリシア神話)|アルカイオス]]に[[パロス島]]、[[アニオス]]に[[デーロス島]]、[[アンドレウス]]に[[アンドロス島]]を与えた<ref name=SD5792 />。その後、ラダマンテュスは[[ボイオーティア]]地方の都市オーカレアイに亡命し、[[ヘーラクレース]]の養父[[アムピトリュオーン]]の死後に、その妻アルクメーネーと結婚した<ref name=AP312 /><ref name=AP2411 />。
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===死後===
 
===死後===
[[File:Schwabe Carlos Elysian Fields.jpg|thumb|200px|[[スイス]]の画家[[カルロス・シュヴァーベ]]の1903年の絵画『エリュシオンの野』。ギリシア神話の冥界はアスフォデロスの花が咲き誇る世界とされる<ref>『オデュッセイアー』11巻540行。</ref><ref>『オデュッセイアー』11巻573行。</ref>。]]
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叙事詩『オデュッセイアー』によると、ラダマンテュスは神々によって世界の果てにある「エーリュシオンの野」に送られ、その地に住んでいるとされる<ref name=OD4563 />。後代の伝承によると、ラダマンテュスは生前、非常に優れた立法者、裁判官であったため、死後、ミーノースとともに'''冥府の裁判官となった'''<ref name=AP312 /><ref name=SD5792 /><ref>『オデュッセイアー』では冥府の裁判官として言及されているのはミーノースだけである。『オデュッセイアー』11巻568行-571行。</ref>。シケリアのディオドーロスによると、冥府の裁判官としてのラダマンテュスの役割は、死者が敬虔な者であるか、それとも邪悪な者であるかを判定することであった<ref name=SD5792 />。ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』によると、ラダマンテュスはタルタロスの支配者で、ラダマンテュスが罪人たちの生前の悪企みについて問いただし、復讐の女神の1人ティーシポネーが鞭で打って罰を与えるという<ref>ウェルギリウス『アエネーイス』6巻566行-572行。</ref>。
叙事詩『オデュッセイアー』によると、ラダマンテュスは神々によって世界の果てにある「エーリュシオンの野」に送られ、その地に住んでいるとされる<ref name=OD4563 />。後代の伝承によると、ラダマンテュスは生前、非常に優れた立法者、裁判官であったため、死後、ミーノースとともに冥府の裁判官となった<ref name=AP312 /><ref name=SD5792 />{{Refnest|group="注釈"|『オデュッセイアー』では冥府の裁判官として言及されているのはミーノースだけである<ref>『オデュッセイアー』11巻568行-571行。</ref>。}}。[[シケリアのディオドーロス]]によると、冥府の裁判官としてのラダマンテュスの役割は、死者が敬虔な者であるか、それとも邪悪な者であるかを判定することであった<ref name=SD5792 />。[[ウェルギリウス]]の叙事詩『[[アエネーイス]]』によると、ラダマンテュスは[[タルタロス]]の支配者で、ラダマンテュスが罪人たちの生前の悪企みについて問いただし、復讐の女神の1人[[ティーシポネー]]が鞭で打って罰を与えるという<ref>ウェルギリウス『アエネーイス』6巻566行-572行。</ref>。
 
  
[[アントーニーヌス・リーベラーリス]]の『[[変身物語集]]』では、アルクメーネーとの結婚は死後のことである。アルクメーネーが死去すると、ゼウスの命で[[ヘルメース]]神はアルクメーネーの遺体を「至福者の島」に送り、ラダマンテュスに妻として与えたという<ref name=AL33>アントーニーヌス・リーベラリース、33話。</ref>{{Refnest|group="注釈"|アントーニーヌス・リーベラーリスの注記によると、この物語は[[レーロスのペレキューデース]]に基づいている<ref name=AL33 />。}}
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アントーニーヌス・リーベラーリスの『変身物語集』では、アルクメーネーとの結婚は死後のことである。アルクメーネーが死去すると、ゼウスの命でヘルメース神はアルクメーネーの遺体を「至福者の島」に送り、ラダマンテュスに妻として与えたという<ref name=AL33>アントーニーヌス・リーベラリース、33話。アントーニーヌス・リーベラーリスの注記によると、この物語はレーロスのペレキューデースに基づいている</ref><ref name=AL33 />。
  
 
===その他の伝承===
 
===その他の伝承===
[[地理学者]][[ストラボーン]]によると、ミーノース以前にラダマンテュスと同じ名前の王がおり、クレータ島の人間を集めていくつかの都市を建設し、国制を定め、クレータ島を文明豊かな土地に変えたという<ref name=S1048>ストラボーン、10巻4・8。</ref>。ラダマンテュスはそれぞれの法をゼウスから授かったものとして布告することで世に広めたが、ミーノースもそれに倣って自身の法をゼウスのものとして布告した<ref name=S1048 /><ref name=S10419>ストラボーン、10巻4・19。</ref>。[[スパルタ]]の立法者リュクールゴスもクレータ島を訪れた際にこの手法を学んだという<ref name=S10419 />。
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地理学者ストラボーンによると、ミーノース以前にラダマンテュスと同じ名前の王がおり、クレータ島の人間を集めていくつかの都市を建設し、国制を定め、クレータ島を文明豊かな土地に変えたという<ref name=S1048>ストラボーン、10巻4・8。</ref>。ラダマンテュスはそれぞれの法をゼウスから授かったものとして布告することで世に広めたが、ミーノースもそれに倣って自身の法をゼウスのものとして布告した<ref name=S1048 /><ref name=S10419>ストラボーン、10巻4・19。</ref>。スパルタの立法者リュクールゴスもクレータ島を訪れた際にこの手法を学んだという<ref name=S10419 />。
  
『オデュッセイアー』によると、ラダマンテュスは[[エウボイア島]]の[[ティテュオス]]を訪れる際に、パイアーケス人の助けを借りたと伝えられているが、ラダマンテュスがティテュオスを訪れた理由など、伝承の詳細は不明である<ref>『オデュッセイアー』7巻322行-323行。</ref>。
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『オデュッセイアー』によると、ラダマンテュスはエウボイア島のティテュオスを訪れる際に、パイアーケス人の助けを借りたと伝えられているが、ラダマンテュスがティテュオスを訪れた理由など、伝承の詳細は不明である<ref>『オデュッセイアー』7巻322行-323行。</ref>。
  
[[パウサニアース]]によると息子エリュトロスはクレータ人を率いて[[イオニア|イオーニアー]]地方に移住し、エリュトライを創建した<ref name=PA737 />。またゴルテュスはクレータ島の都市ゴルテュンを創建した<ref name=PA8534 />。
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パウサニアースによると息子エリュトロスはクレータ人を率いてイオーニアー地方に移住し、エリュトライを創建した<ref name=PA737 />。またゴルテュスはクレータ島の都市ゴルテュンを創建した<ref name=PA8534 />。
  
== 備考 ==
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== 私的考察 ==
[[冥王星族]]の[[小惑星]][[ラダマントゥス (小惑星)|ラダマントゥス]]はラダマンテュスにちなんで名付けられた。冥王星族の天体は普通、冥府の住人の名が付けられる。
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'''ラダマンティス'''という名前は、「Rha(接頭辞)+'''d'''a'''m'''anthys」となり、北欧神話の'''ユミル'''と同起源の名前であると思う。生きている時に'''聖王'''である点はイラン神話のジャムシードと共通している。死後、'''冥界の審判者'''となる点はインド神話の'''ヤマ'''と共通している。ラダマンティスはユミルのように殺されはしないが、妬まれて追放される点に、'''不遇な生涯であった点'''が共通しているように思う。印欧語族が広く展開する以前からの神だったのではないだろうか。
 
 
== 系図 ==
 
{{ミーノースの系図}}
 
 
 
== 脚注 ==
 
===注釈===
 
{{reflist|group="注釈"}}
 
===出典===
 
{{Reflist}}
 
  
 
== 参考文献 ==
 
== 参考文献 ==
* [[アポロドーロス]]『ギリシア神話』[[高津春繁]]訳、[[岩波文庫]](1953年)
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* Wikipedia:[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%80%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%A5%E3%82%B9 ラダマンテュス](最終閲覧日:22-08-15)
* [[アントーニーヌス・リーベラーリス]]『ギリシア変身物語集』[[安村典子]]訳、[[講談社文芸文庫]](2006年)
+
* アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
* [[ウェルギリウス]]『[[アエネーイス]]』[[岡道男]]・[[高橋宏幸 (古典学者)|高橋宏幸]]訳、[[京都大学学術出版会]](2001年)
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* アントーニーヌス・リーベラーリス『ギリシア変身物語集』安村典子訳、講談社文芸文庫(2006年)
* [[オウィディウス]]『[[変身物語]](上)』[[中村善也]]訳、岩波文庫(1981年)
+
* ウェルギリウス『アエネーイス』岡道男・高橋宏幸訳、京都大学学術出版会(2001年)
* 『[[オデュッセイア]]/[[アルゴナウティカ]]』[[松平千秋]]・[[岡道男]]訳、[[講談社]](1982年)
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* オウィディウス『変身物語(上)』中村善也訳、岩波文庫(1981年)
* [[シケリアのディオドロス|ディオドロス]]『神代地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1999年)
+
* 『オデュッセイア/アルゴナウティカ』松平千秋・岡道男訳、講談社(1982年)
* [[ストラボン]]『[[地理誌|ギリシア・ローマ世界地誌]]』飯尾都人訳、龍溪書舎(1994年)
+
* ディオドロス『神代地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1999年)
* [[パウサニアス (地理学者)|パウサニアス]]『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
+
* ストラボン『ギリシア・ローマ世界地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1994年)
* [[ヒュギーヌス]]『ギリシャ神話集』[[松田治]]・青山照男訳、[[講談社学術文庫]](2005年)
+
* パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
* 『[[ヘシオドス]] 全作品』[[中務哲郎]]訳、京都大学学術出版会(2013年)
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* ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
* [[ホメロス]]『オデュッセイア(上)』松平千秋訳、岩波文庫(1994年)
+
* 『ヘシオドス 全作品』中務哲郎訳、京都大学学術出版会(2013年)
* 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』[[岩波書店]](1960年)
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* ホメロス『オデュッセイア(上)』松平千秋訳、岩波文庫(1994年)
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* 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
  
 
== 関連項目 ==
 
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* [[エーリュシオン]]
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2022年8月16日 (火) 00:19時点における最新版

ラダマンテュスῬαδάμανθυς, Rhadamanthys, Rhadamanthus)は、ギリシア神話に登場する人物である。ラダマンティス、ラテン語でラダマントゥスとも表記される。ミーノース[1]、アイアコスとともに冥界の審判者を務めるとされる。またエーリュシオンの長であるとも言われる[2]。ホメーロスの叙事詩『オデュッセイアー』では「金髪のラダマンテュス」と呼ばれている[3][4]

ゼウスとフェニキアの王アゲーノールの娘エウローペーとの間に生まれた子で、ミーノース、サルペードーンと兄弟[5][6][7][8][9][10]。ただしホメーロスはミーノースとラダマンテュスのみエウローペーの息子としている[11]。スパルタの詩人キナイトン(Cinaethon of Sparta)によれば、ラダマンテュスはクーレースの子タロースの子ヘーパイストスの子であるという[12]。エリュトロス[13][14]、ゴルテュスの父[15]。アルクメーネーの再婚相手とされる[1][16]

神話[編集]

誕生[編集]

あるとき、ゼウスは美しいテュロス王女エウローペーに恋した。そこで白い牡牛に変身してエウローペーに接近し、彼女が警戒を解いて背中にまたがったのを見計らい、海を渡ってクレータ島に連れ去った[5][7][8][9][10][17]。その地でゼウスはエウローペーとの間にミーノース、ラダマンテュス、サルペードーンをもうけた[5][7][8][9][10]。その後、エウローペーはクレータ島の王アステリオス(Asterion (king of Crete))と結婚し、ラダマンテュスたち兄弟はアステリオス王によって養育された[1][5][18]

立法者[編集]

ラダマンテュスは正義の人であったと伝えられている[6][14][19]。成長するとミーノースの王権を補佐し[20]、立法者としてクレータ島の法を制定した[1][18]。一説によると正当防衛はラダマンテュスが定めた[21]。ラダマンテュスはいかなる裁判においても正しい判決を下し、盗賊や瀆神者のなどの罪人を厳しく罰したので、エーゲ海の島々や小アジアの沿岸地方の多くが、自ら進んでラダマンテュスの統治下に入った[14]。しかし、人々がラダマンテュスの正義の徳を驚きの目で見るようになると、ミーノースは嫉妬して、ラダマンテュスを政治の中心から遠ざけ、クレータ島の支配がおよぶ最も遠い場所に送った[20]。ラダマンテュスは小アジアと向かい合った島々に移り、息子エリュトロスにエリュトライ、甥にあたるオイノピオーンにキオス島の統治をゆだねた[14][22]。またトアースにレームノス島、エニューエウスにキュルノス島、スタピュロスにペパレートス島、エウアンテースにマロネイア、アルカイオスにパロス島、アニオスにデーロス島、アンドレウスにアンドロス島を与えた[19]。その後、ラダマンテュスはボイオーティア地方の都市オーカレアイに亡命し、ヘーラクレースの養父アムピトリュオーンの死後に、その妻アルクメーネーと結婚した[1][16]

死後[編集]

叙事詩『オデュッセイアー』によると、ラダマンテュスは神々によって世界の果てにある「エーリュシオンの野」に送られ、その地に住んでいるとされる[2]。後代の伝承によると、ラダマンテュスは生前、非常に優れた立法者、裁判官であったため、死後、ミーノースとともに冥府の裁判官となった[1][19][23]。シケリアのディオドーロスによると、冥府の裁判官としてのラダマンテュスの役割は、死者が敬虔な者であるか、それとも邪悪な者であるかを判定することであった[19]。ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』によると、ラダマンテュスはタルタロスの支配者で、ラダマンテュスが罪人たちの生前の悪企みについて問いただし、復讐の女神の1人ティーシポネーが鞭で打って罰を与えるという[24]

アントーニーヌス・リーベラーリスの『変身物語集』では、アルクメーネーとの結婚は死後のことである。アルクメーネーが死去すると、ゼウスの命でヘルメース神はアルクメーネーの遺体を「至福者の島」に送り、ラダマンテュスに妻として与えたという[25][25]

その他の伝承[編集]

地理学者ストラボーンによると、ミーノース以前にラダマンテュスと同じ名前の王がおり、クレータ島の人間を集めていくつかの都市を建設し、国制を定め、クレータ島を文明豊かな土地に変えたという[26]。ラダマンテュスはそれぞれの法をゼウスから授かったものとして布告することで世に広めたが、ミーノースもそれに倣って自身の法をゼウスのものとして布告した[26][27]。スパルタの立法者リュクールゴスもクレータ島を訪れた際にこの手法を学んだという[27]

『オデュッセイアー』によると、ラダマンテュスはエウボイア島のティテュオスを訪れる際に、パイアーケス人の助けを借りたと伝えられているが、ラダマンテュスがティテュオスを訪れた理由など、伝承の詳細は不明である[28]

パウサニアースによると息子エリュトロスはクレータ人を率いてイオーニアー地方に移住し、エリュトライを創建した[13]。またゴルテュスはクレータ島の都市ゴルテュンを創建した[15]

私的考察[編集]

ラダマンティスという名前は、「Rha(接頭辞)+damanthys」となり、北欧神話のユミルと同起源の名前であると思う。生きている時に聖王である点はイラン神話のジャムシードと共通している。死後、冥界の審判者となる点はインド神話のヤマと共通している。ラダマンティスはユミルのように殺されはしないが、妬まれて追放される点に、不遇な生涯であった点が共通しているように思う。印欧語族が広く展開する以前からの神だったのではないだろうか。

参考文献[編集]

  • Wikipedia:ラダマンテュス(最終閲覧日:22-08-15)
  • アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
  • アントーニーヌス・リーベラーリス『ギリシア変身物語集』安村典子訳、講談社文芸文庫(2006年)
  • ウェルギリウス『アエネーイス』岡道男・高橋宏幸訳、京都大学学術出版会(2001年)
  • オウィディウス『変身物語(上)』中村善也訳、岩波文庫(1981年)
  • 『オデュッセイア/アルゴナウティカ』松平千秋・岡道男訳、講談社(1982年)
  • ディオドロス『神代地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1999年)
  • ストラボン『ギリシア・ローマ世界地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1994年)
  • パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
  • ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
  • 『ヘシオドス 全作品』中務哲郎訳、京都大学学術出版会(2013年)
  • ホメロス『オデュッセイア(上)』松平千秋訳、岩波文庫(1994年)
  • 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)

関連項目[編集]

参照[編集]

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 アポロドーロス、3巻1・2。
  2. 2.0 2.1 『オデュッセイアー』4巻563行-568行。
  3. 『オデュッセイアー』4巻564行。
  4. 『オデュッセイアー』7巻322行。
  5. 5.0 5.1 5.2 5.3 ヘーシオドス断片89(『イーリアス』12巻397行への古註D)。
  6. 6.0 6.1 ヘーシオドス断片90(オクシュリュンコス・パピュルス、1358 fr.1 col.I)。
  7. 7.0 7.1 7.2 アポロドーロス、3巻1・1。
  8. 8.0 8.1 8.2 シケリアのディオドーロス、4巻60・2。
  9. 9.0 9.1 9.2 シケリアのディオドーロス、5巻78・1。
  10. 10.0 10.1 10.2 ヒュギーヌス、178話。
  11. 『イーリアス』14巻322行。
  12. パウサニアース、8巻53・5。
  13. 13.0 13.1 パウサニアース、7巻3・7。
  14. 14.0 14.1 14.2 14.3 シケリアのディオドーロス、5巻79・1。
  15. 15.0 15.1 パウサニアース、8巻53・4。
  16. 16.0 16.1 アポロドーロス、2巻4・11。
  17. オウィディウス『変身物語』2巻。
  18. 18.0 18.1 シケリアのディオドーロス、4巻60・3。
  19. 19.0 19.1 19.2 19.3 シケリアのディオドーロス、5巻79・2。
  20. 20.0 20.1 シケリアのディオドーロス、5巻84・2。
  21. アポロドーロス、2巻4・9。
  22. シケリアのディオドーロス、5巻84・3。
  23. 『オデュッセイアー』では冥府の裁判官として言及されているのはミーノースだけである。『オデュッセイアー』11巻568行-571行。
  24. ウェルギリウス『アエネーイス』6巻566行-572行。
  25. 25.0 25.1 アントーニーヌス・リーベラリース、33話。アントーニーヌス・リーベラーリスの注記によると、この物語はレーロスのペレキューデースに基づいている
  26. 26.0 26.1 ストラボーン、10巻4・8。
  27. 27.0 27.1 ストラボーン、10巻4・19。
  28. 『オデュッセイアー』7巻322行-323行。