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| 21世紀初期には欧米由来の食文化のグローバル化が進展し、宗教的理由から牛肉食がタブーとされている地域を除いては、牛肉食文化の世界的拡散が顕著である。特に商業畜産的要因から、現代の畜産・肥育・流通現場においては世界各地で細分化された名称が用いられる傾向がある。 | | 21世紀初期には欧米由来の食文化のグローバル化が進展し、宗教的理由から牛肉食がタブーとされている地域を除いては、牛肉食文化の世界的拡散が顕著である。特に商業畜産的要因から、現代の畜産・肥育・流通現場においては世界各地で細分化された名称が用いられる傾向がある。 |
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− | === 性別による名称 === | + | == 宗教・文化・雄牛 == |
− | * 牡の牛(牡牛、雄牛)
| + | 人間に身近で、印象的な角を持つ大型家畜である牛は、世界各地で信仰対象や動物に関連する様々な民俗・文化のテーマになってきた。農耕を助ける貴重な労働力である牛を殺して神に供える犠牲獣とし、そこから転じて牛そのものを神聖な生き物として崇敬することは、古代より永くに亘って広範な地域で続けられてきた信仰である。 |
− | : 牡(オス)の牛。日本語では、'''牡牛'''/'''雄牛'''(おうし、おすうし、古訓:『をうじ』とも)<ref name="kb_おうし">https://kotobank.jp/word/牡牛・雄牛-216949, 牡牛・雄牛 おうし, コトバンク, 小学館『精選版 日本国語大辞典』、三省堂『大辞林』第3版, 2019-08-04</ref>、'''牡牛'''(ぼぎゅう)(おうし)という。「雄牛(ゆうぎゅう)」という読みも考えられるが、用例は確認できず、しかし'''種雄牛'''(しゅゆうぎゅう、雄の種牛<sup>〈しゅぎゅう、たねうし〉</sup>)<ref name="kb_種雄牛">https://kotobank.jp/word/種雄牛, 種雄牛, コトバンク, 小学館『デジタル[大辞泉』, 2019-08-05</ref>という語形に限ってはよく用いられている。古語としては「'''男牛'''(おうし、古訓:をうじ、をうじ)」もあるものの、現代語として見ることは無い。
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− | : 英語では、"'''bull'''"、"'''ox'''"、方言で "nowt"という。
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− | : ラテン語では "'''taurus'''"(タウルス)といい、"'''bos'''"と同じく性別の問わない「牛」の意もある。
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− | * 牝の牛(牝牛|雌牛)
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− | : 牝(メス)の牛。日本語では、'''牝牛'''/'''雌牛'''(めうし、めすうし、古訓:めうじ、をなめ、をんなめ(ヒンギュウ、うなめ等)<ref name="kb_めうし">https://kotobank.jp/word/牝牛・雌牛-395640, 牝牛・雌牛 めうし , コトバンク, 小学館『精選版 日本国語大辞典』、三省堂『大辞林』第3版, 2019-08-04 </ref><ref name="kb_ヒンギュウ">https://kotobank.jp/word/牝牛-614563, 牝牛 ヒンギュウ, コトバンク, 小学館『デジタル大辞泉』、ほか , 2019-08-04</ref>、'''牝牛'''(ひんぎゅう、ヒンギュウ)という。「雌牛(しぎゅう)」という読みも考えられるが、用例は確認できず、雄と違って'''種雌牛'''も「しゅしぎゅう」ではなく「たねめすうし」と訓読みする<ref name="kb_種雌牛">https://kotobank.jp/word/種雌牛, 種雌牛, コトバンク, 小学館『デジタル大辞泉』, 2019-08-05</ref>。古語としては「'''女牛'''<ref name="kb_種牛_日国辞">https://kotobank.jp/word/種牛-528061, 種牛 シュギュウ, コトバンク, 小学館『精選版 日本国語大辞典』, 2019-08-05</ref>」「'''牸牛'''(めうし)」の表記もあるものの、現代語として見ることは無い。
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− | : 英語では'''cow'''、ラテン語では "'''vacca'''"という。
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− | なお、牡、牝はウマにも用いられる特殊な字である。
| + | === 中国 === |
| + | ロッパ族 |
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− | === 年齢による名称 ===
| + | 大地の母が三匹の神牛を生んだ。長男は'''火神牛'''、次男は'''鉄神牛'''、三男は'''土神牛'''で、お互いに争った。ある時火神牛が鉄神牛を飲み込んだ。鉄神牛が死んだ後その毛は草木に変化し、骨は石や山脈に、血液は河に、内臓は動物や昆虫になった<ref>[https://eastasian.livedoor.blog/archives/1946161.html 牛(1) 創世神牛]、神話伝説その他、eastasian、00-03-01(最終閲覧日:22-10-11)</ref>。 |
− | 日本語における年齢を基準とした呼び分けは牛においても一般的用法と変わりなく、つまり、人間や他の動植物と同じく[年少:幼牛─若牛─成牛─老牛:年長]という呼び分けがあるが、体系的に用いられるわけではない。一方、畜養・医療・加工・流通・管理・研究等々諸分野の専門用語として、通用語と全く異なる語が用いられていることもある。また、親牛・仔牛という本来は親と子の関係を表していた名称は、一般・専門ともによく用いられる。
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− | * 未成熟な牛(未成熟牛) | + | * [[盤古]]:盤牛王と牛に例えられることがある。 |
− | : 成熟していない牛全般は、'''未成熟牛'''をいう。生まれたての牛も成熟間近の牛も該当する。
| + | * [[炎帝神農|炎帝]]:'''人身牛首'''の姿をしていた、とされる。 |
− | * 幼い牛(幼牛、仔牛、子牛)
| + | * [[蚩尤]]:人の身体に'''牛の頭'''と鳥の蹄を持つなどとされる。 |
− | : '''幼牛'''(ようぎゅう)。成熟に程遠い年齢の未成熟牛、あるいは未成熟牛全般をいう。専門的には、生後およそ120日以内から360日以内までの牛を指すことが多い。先述のとおり、子供(※動物に当てる用字としては『仔』であるが、常用漢字の縛りの下では『子』で代用する)の牛という意味から発した'''仔牛'''/'''子牛'''(こうし)は、幼牛より定義の緩い語ながらむしろ多く用いられる。英語では"'''calf'''"が同義といえ、日本語でもこれが外来語化した「'''カーフ'''」がある。なお、これらの語は未成熟牛もしくは幼牛の生体を指し、屠殺後の食品とは別義である。
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− | : 肉牛の場合、この段階から業者が品質を高めて始めることになるため、ベーシックな状態の牛という意味合いで'''素牛'''(もとうし)、育て上げる牛という意味で'''育成牛'''(いくせいぎゅう)という<ref name="1SN_肉牛">肉牛の仕事, https://www.sangyo.net/contents/industry/beef_cattle.html, 株式会社 Life Lab, 第一次産業ネット(公式ウェブサイト), 2019-08-04</ref>。素牛は繁殖用育成と肥育(出荷するために肉質を高めつつ肉量を増やす飼育)のいずれかに回すことになり<ref name="畜産ZOO鑑_素牛">素牛(もとうし)の選び方, http://zookan.lin.gr.jp/kototen/nikuusi/n222_4.htm, 地域畜産総合支援体制整備事業、および、JRA(日本中央競馬会)の特別振興資金による助成事業, 畜産ZOO鑑(公式ウェブサイト), 2019-08-04</ref>、行く末が決まり次第、それぞれに'''繁殖素牛'''・'''肥育素牛'''(ひいく-)という。
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− | : 子牛肉:その肉は'''仔牛肉'''/'''子牛肉'''といい、英語では"'''veal'''"(ヴィール)、フランス語では"'''veau'''"(ヴォー)と呼ばれる。外来語形は少なくとも料理や栄養学などの分野で定着している。柔らかい食感が好まれ、さまざまな料理の食材として用いられる。特にフランス料理においては、その肉のブイヨン(出汁)がフォン・ド・ヴォーとして重用される。松阪牛等の高級和牛では「処女牛」という言い方がなされ、希少性が強調される場合がある。
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− | : 仔牛の革:生後6か月以内の仔牛の皮革(原皮となめし革)は<ref name="kb_カーフスキン_Brit">https://kotobank.jp/word/カーフスキン, カーフスキン, コトバンク, 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』 , 2019-08-04 </ref><ref name="kb_カーフレザー">https://kotobank.jp/word/カーフレザー, カーフレザー, コトバンク, 小学館『デジタル大辞泉』, 2019-08-04</ref>、「カーフ」の名で呼ばれるほか<ref name="kb_カーフ">https://kotobank.jp/word/カーフ, カーフ, コトバンク, 三省堂『大辞林』第3版、ほか, 2019-08-04</ref>、その原皮を「'''カーフスキン''' (calfskin)」、その皮革を一般に「'''カーフレザー''' (calf leather)」と呼び、前者は原義を離れて「仔牛の革」の意でも用いられる<ref name="kb_カーフスキン_林">https://kotobank.jp/word/カーフスキン, カーフスキン , コトバンク, 三省堂『大辞林』第3版, 2019-08-04</ref>。後者は牛革の中でも最高級とされ、よく馴染むしなやかさが特徴で、鞄・手帳・財布・靴など多様な革製品に好んで用いられる。
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− | * 若い牛
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− | : '''若牛'''(わかうし)。成熟が近い未成熟牛をいう。ただしあくまで古来の日本語において通用する語であって、各専門分野の用語としては、確認し得る限り、「仔牛(幼牛)」の段階を過ぎた牛は「成牛」である。
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− | * 成熟した牛 | |
− | : '''成牛'''(せいぎゅう)という。
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− | * 老いた牛 | |
− | : '''老牛'''(ろうぎゅう)という。現代都市文明社会においては、年老いて利用価値が低下した牛は、市場価値が極めて低く、ほぼ全ての老齢個体は'''廃用牛'''(はいようぎゅう)として処分される。例えば乳牛は、自然界では到底あり得ない頻度で生涯に亘って搾乳され続けるため、採算が取れないほど乳の出が悪くなった頃には、体が極度に不健康な状態になっている。
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− | === 飼育条件による名称 === | + | === エジプト === |
− | 畜産業界ないし肥育業界、ないし牛肉産品を流通・販売する業界などにおいては、さらに多様に表現されている。
| + | 古代エジプト人は[[オシリス]]、[[ハトホル]]信仰を通して'''雄牛'''([[ハピ]](水神)、ギリシャ名ではアピス)を'''聖牛'''として崇め、第一王朝時代(紀元前2900年ごろ)には「ハピの走り」と呼ばれる行事が行われていた<ref name="Fagan">ブライアン・フェイガン『人類と家畜の世界史』東郷えりか訳 河出書房新社 2016年、ISBN 9784309253398 pp.120-125.</ref>。創造神[[プタハ]]の化身としてアピス牛信仰は古代エジプトに根を下ろし、ラムセス2世の時代にはアピス牛のための地下墳墓セラペウムが建設された<ref name="Fagan"/>。聖牛の特徴とされる全身が黒く、額に白い菱形の模様を持つウシが生まれると生涯神殿で手厚い世話を受け、死んだ時には国中が喪に服した。一方、普通のウシは食肉や労働力として利用されていたことが壁画などから分かっている。 |
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− | * '''畜牛'''(ちくぎゅう、英:''cattle'')
| + | === インド === |
− | : 畜産用途に肥育されるウシ全般のこと。家畜牛。
| + | インダス文明でも牛が神聖視されていた可能性がある。主にヒンドゥー教では牛(特に[[コブウシ]])を神聖視している([[スイギュウ]]はそうではない)。牛は敬われ、食のタブーとして肉食されることはない。 |
− | * '''去勢牛'''[きょせいぎゅう]
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− | : 人工的に去勢されたウシのこと。食肉を目的として肥育されるにあたっては、雌雄とも去勢されることが多い。荷車牽引などの用務牛用途を目的として牡牛を用いる場合にも、精神的な荒さや発情を削ぐために去勢されるケースがよく見られる。英語では特にオスの去勢牛を"ox"、メスを"steer"と呼んで区別する。
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− | * '''乳牛'''(にゅうぎゅう、英:''dairy cattle'')
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− | : 搾乳目的で飼育されるウシのこと。
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− | * '''未経産牛'''(みけいさんぎゅう、英:|''heifer'')
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− | : 妊娠ないし出産を経験していない牝牛のこと。乳牛用途・肉牛用途ともに高価で取引される。
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− | * '''経産牛'''(けいさんぎゅう、英:''delivered cow'')
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− | : すでに出産経験のある牝牛のこと。肉牛として出荷する場合には、未経産牛に比較して安価で取引される。
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− | === 日本語の方言・民俗 === | + | ムガル帝国時代より続くヒンドゥー教の祭事「ゲーイ・ガウーリ」(ディーワーリーの期間中に行われる祭事の一つ)など、過激な伝統行事も世界にはある<!--<ref>[https://www.youtube.com/watch?v=4_JAMsbfgt8 Diwali Cattle Stampede | Bizarre Diwali Tradition] - YouTube, [https://news.nicovideo.jp/watch/nw4180919 【ドドドドド】インドで地面に寝そべって牛に踏まれまくる儀式が行われ今年も普通に怪我人続出!] - ニコニコニュース</ref>|※表示できる出典が無いので、実際の映像を収めた動画を裏書きで示しておきます。-->。 |
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| + | === スペイン === |
| + | 興奮した牛の群れにあえて追われるスペインなどラテン文化圏の祭事「エンシエロ」がある。 |
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| + | === 日本 === |
| 日本の東北地方では牛をべこと呼ぶ。牛の鳴き声(べー)に、「こ」をつけたことによる。地方によっては「べご」「べごっこ」とも呼ぶ。 | | 日本の東北地方では牛をべこと呼ぶ。牛の鳴き声(べー)に、「こ」をつけたことによる。地方によっては「べご」「べごっこ」とも呼ぶ。 |
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| 柳田國男によれば、日本語では牡牛が「ことひ」、牝牛が「おなめ」であった。また、九州の一部ではシシすなわち食肉とされていたらしく、「タジシ(田鹿)」と呼ばれていた<ref>柳田國男『定本 柳田國男集』第1巻 筑摩書房 258頁</ref>。 | | 柳田國男によれば、日本語では牡牛が「ことひ」、牝牛が「おなめ」であった。また、九州の一部ではシシすなわち食肉とされていたらしく、「タジシ(田鹿)」と呼ばれていた<ref>柳田國男『定本 柳田國男集』第1巻 筑摩書房 258頁</ref>。 |
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− | == 形質 ==
| + | 牛(丑)は十二支の鳥獣に入っているほか、[[牛頭天王]]のような神や、[[牛鬼]]など妖怪のモチーフになっている。また、身近にいる巨大な哺乳類であることから、その種の中で大きい体格を持つ生き物の和名に用いられることがある(ウシエビ、ウシガエル、ウシアブなど)。 |
− | ウシは'''反芻動物'''である。反芻動物とは'''反芻'''(はんすう)する動物のことであるが、そもそも「反芻」とは、一度呑み下して消化器系に送り込んだ食物を口の中に戻して咀嚼し直し、再び呑み込むことをいう。このような食物摂取の方法を取ることで栄養の吸収効率を格段に上げる方向へ進化し、その有利性から生態系の中で大成功を収めて世界中に拡散した動物群が、反芻動物であった。多様に見えて、その実、単系統群である。そのような反芻動物の中でも、ウシが属するウシ科はとりわけ進化の度合いが深まった分類群(タクソン)の一つであり、ウシの仲間(※少し範囲を広げてウシ族と言ってもよい)は勢力的にも代表格と言える。彼らは、ヒトに飼われて殖えたのも確かではあるが、もともと自然の状態で生態上(種数と生物量の両面で)の大勢力であった。反芻動物の進化がウシ科のレベルまで深まる以前に勢力を誇っていたのはウマに代表される奇蹄類であり、ウシ科は栄養吸収効率の大きな差を活かして奇蹄類を隅に押しやり分布を広めた。そのことは地質学的知見で証明可能である。家畜としても比較されることの多いウシとウマであるが、同じ質と量の餌を与えた場合、栄養面で報いが大きいのは間違いなくウシであるということもできる。
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− | 反芻動物の具える胃を「'''反芻胃'''(はんすうい)」といい、[[マメジカ]]のような原始的な種を除き、ウシを含むほとんどの反芻動物が4つの胃を具える。ただし実際には、胃液を分泌する本来の意味での胃は第4胃の「'''皺胃'''(しゅうい)・ギアラ」のみであり<ref name="kb_ウシ_Nipp">https://kotobank.jp/word/ウシ, ウシ, コトバンク, 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』, 2019-08-04</ref>、それより口腔に近い「前胃(ぜんい)」と総称される消化器系、第1胃「'''瘤胃'''(りゅうい)・ミノ」・第2胃「'''蜂巣胃'''(ほうそうい)・ハチノス」・第3胃「'''重弁胃'''(じゅうべんい)・センマイ」は食道が変化したものである。ここを共生微生物の住まう植物繊維発酵槽に変えることで、反芻は極めて効果的な消化吸収システムになった。ウシの場合、この前胃に、草の繊維(セルロースなど)を分解(化学分解)する細菌類(バクテリア)および繊毛虫類(インフゾリア)を始めとする微生物を大量に常在させ、繊維を吸収可能な状態に変えさせ、収穫するようにそれを吸収するという方法で草を"食べている"。前胃の微生物を総じて胃内常在微生物叢などというが、ウシはこれら微生物の殖えすぎた分も動物性蛋白質として消化・吸収し、栄養に変えている。
| + | == 宗教・文化・雌牛 == |
| + | * [[モリガン]]:ケルト神話の女神。モリガンはクー・フーリンに傷を負わせられるが、モリガンが差し出したミルクをクー・フーリンが飲むと、彼女の傷は癒えた。 |
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− | ウシの味蕾は25,000個で味蕾が5000個のヒトの5倍を有する。ウシは毒物で反芻胃の微生物が死なないように味覚で食べる草をより分けている<ref>齋藤忠夫「チーズの科学」p180、Blue Backs、2016年11月15日 ISBN2:978-4-06-257993-3</ref>。
| + | == 慣用句 == |
− | | + | * 「牛にひかれて善光寺参り」 - 人に連れられて思いがけず行くこと。昔、老婆がさらしておいた布を牛が引っ掛けて[[善光寺]]に駆け込んだので、追いかけた老婆はそこが霊場であることを知り、以後たびたび参詣したという伝説から。 |
− | ウシの歯は、牡牛の場合は上顎に12本、下顎に20本で、上顎の切歯(前歯)は無い。そのため、草を食べる時には長い舌で巻き取って口に運ぶ。
| + | * 「牛の歩み(牛歩)」 - 進みの遅いことの譬え。 |
− | | + | ** 牛歩戦術 |
− | 鼻には、個体ごとに異なる鼻紋があり、個体の識別に利用される。
| + | * 「牛の角を蜂が刺す」 - 牛の硬い角には[[ハチ|蜂]]の毒針も刺さらないことから、何とも感じないこと。 |
| + | * 「牛の寝た程」 - 物の多くあるさまの形容。 |
| + | * 「牛は牛づれ(馬は馬づれ)」 - 同じ仲間同士は一緒になり、釣り合いが取れるということ。 |
| + | * 「牛は水を飲んで乳とし、蛇は水を飲んで毒とす」 - 同じものでも使い方によっては薬にも毒にもなることの譬え。 |
| + | * 「牛も千里、馬も千里」 - 遅いか早いかの違いはあっても、行き着くところは同じということ。 |
| + | * 「牛を売って牛にならず」 - 見通しを立てずに買い換え、損することの譬え。 |
| + | * 「牛飲馬食」 - 牛や馬のように、たくさん飲み食いすること。「鯨飲馬食」ともいう。 |
| + | * 「牛耳る(牛耳を執る)」 - 団体・集団の指導者となって指揮を執ること。 |
| + | * 「商いは牛の涎」 - 細く長く垂れる牛の涎(よだれ)のように、商売は気長に辛抱強くこつこつ続けることがコツだという譬え。 |
| + | * 「角を矯めて牛を殺す」- 些細な欠点を矯正しようとして却って全体を台無しにすること。 |
| + | * 「九牛の一毛」 - 非常に多くの中の極めて少ないもの。 |
| + | * 「暗がりから牛」 - 物の区別がはっきりしないこと。あるいはぐずぐずしていることの譬え。 |
| + | * 「鶏口となるも牛後となるなかれ(牛の尾より鶏の口、鶏口牛後)」 - 大集団の下っ端になるより小集団でも指導者になれということ。人の下に甘んじるのを戒める、もしくは、小さなことで満足するを否とする言葉。 |
| + | * 「牛なし、帽子ばっかり(all hat and no cattle)」ファッションでカウボーイの帽子をかぶっていても、牛は持っていない。見かけだおし、格好だけの人のこと。テキサス州の慣用表現。 |
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| == 家畜としてのウシ == | | == 家畜としてのウシ == |
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| 牛の皮膚すなわち'''牛皮'''(ぎゅうひ、ぎゅうかわ、うしがわ)は、鞣しの工程を経て'''牛革'''に加工され、衣服(古代人の上着・ベルト・履物などから現代人の革ジャンやレーシングスーツまで)、武具(牛革張りの盾や刀剣の鞘や兜、牛革のレザーアーマーなど)、鞄など収納道具、装飾品(豪華本の表装などを含む)、調度品(革張りのソファなど)、その他の材料になる。ここでも仔牛は特に区別されており、皮革の材料としての仔牛、および、その皮革を、仔牛と同じ語でもって「カーフ」と呼ぶ。 | | 牛の皮膚すなわち'''牛皮'''(ぎゅうひ、ぎゅうかわ、うしがわ)は、鞣しの工程を経て'''牛革'''に加工され、衣服(古代人の上着・ベルト・履物などから現代人の革ジャンやレーシングスーツまで)、武具(牛革張りの盾や刀剣の鞘や兜、牛革のレザーアーマーなど)、鞄など収納道具、装飾品(豪華本の表装などを含む)、調度品(革張りのソファなど)、その他の材料になる。ここでも仔牛は特に区別されており、皮革の材料としての仔牛、および、その皮革を、仔牛と同じ語でもって「カーフ」と呼ぶ。 |
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− | '''[[牛乳]]'''(ぎゅうにゅう)やその加工品を得ることを主目的として飼養される牛は、'''[[乳牛]]'''(にゅうぎゅう)という。 | + | '''牛乳'''(ぎゅうにゅう)やその加工品を得ることを主目的として飼養される牛は、'''乳牛'''(にゅうぎゅう)という。 |
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− | '''[[牛糞]]'''(ぎゅうふん、うしくそ)は、[[肥料]]として広く利用されるほか、[[燃料]]や[[建築材料]]として利用する地域も少なくない([[#牛糞|後述]])。 | + | '''牛糞'''(ぎゅうふん、うしくそ)は、肥料として広く利用されるほか、燃料や建築材料として利用する地域も少なくない(後述)。 |
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| === 使役 === | | === 使役 === |
| <!--※「土壌改良」に係る。--> | | <!--※「土壌改良」に係る。--> |
− | [[使役動物]]としての牛は'''役牛'''(えきぎゅう)といい、古来から、自動車に置き換わるまで先進国においても近年まで、馬とともに人類に広く利用されてきた。[[農耕]]用と、直接の乗用も含む人および物品の[[運搬]]用の、[[動力]]としての利用が主である。農耕のための牛は'''耕牛'''(こうぎゅう)という。運搬用というのは主に'''[[牛車]]'''(ぎゅうしゃ、うしぐるま)<ref group="注釈">古来日本の、牛に牽かせる屋形車である「'''牛車'''(ぎっしゃ)」はその一種。</ref>用であるが、古来[[中国]]などではそれに限らない。
| + | 使役動物としての牛は'''役牛'''(えきぎゅう)といい、古来から、自動車に置き換わるまで先進国においても近年まで、馬とともに人類に広く利用されてきた。農耕用と、直接の乗用も含む人および物品の運搬用の、動力としての利用が主である。農耕のための牛は'''耕牛'''(こうぎゅう)という。運搬用というのは主に'''牛車'''(ぎゅうしゃ、うしぐるま)<ref group="注釈">古来日本の、牛に牽かせる屋形車である「'''牛車'''(ぎっしゃ)」はその一種。</ref>用であるが、古来中国などではそれに限らない。 |
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| === 土壌改良 === | | === 土壌改良 === |
− | 痩せた土地に家畜を放し、他所から運び込んだ自然の飼料で飼養することによって[[土壌改良]]を図る方法があり、体格が大きく餌の摂取量も排泄量も多い牛は、このような目的をもった[[放牧]]に打ってつけの家畜でもある。
| + | 痩せた土地に家畜を放し、他所から運び込んだ自然の飼料で飼養することによって土壌改良を図る方法があり、体格が大きく餌の摂取量も排泄量も多い牛は、このような目的をもった放牧に打ってつけの家畜でもある。 |
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| === 娯楽 === | | === 娯楽 === |
− | [[File:Mud Cow Racing - Pacu Jawi - West Sumatra, Indonesia.jpg|thumb|インドネシアの収穫を終えた田んぼで行われる牛レース、{{ill2|パチュ・ジャウィ|id|Pacu jawi}}。画像は2019年度Wikicommons年間画像大賞作品<ref>{{Cite web |url=https://commons.wikimedia.org/wiki/Commons:Picture_of_the_Year/2019/Results/ja |title=Commons:年間画像大賞/2019/投票結果 - Wikimedia Commons |access-date=2022-11-14 |website=commons.wikimedia.org |language=en}}</ref>。同レースの写真は、2013年[[ワールド・プレス・フォト・オブ・ザ・イヤー|世界報道写真コンテスト]]「スポーツ」部門でも1位となる<ref>{{Cite web |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7609/ |title=牛レース、ベスト報道写真2013 |access-date=2022-11-14 |website=natgeo.nikkeibp.co.jp |language=ja}}</ref>など迫力のあるレースが行われる。]]
| + | 牛を娯楽に利用する文化は、世界を見渡せば散見される。牛同士を闘わせるのは、アジアの一部の国・地域(日本、朝鮮、オマーンなど)における伝統的娯楽で、これを'''闘牛'''(とうぎゅう)という。暴れ牛と剣士を闘わせるのは、西ゴート王国に始まり、イベリア半島を中心に伝統的に行われてきたブラッドスポーツの一種で、これも日本語では'''闘牛'''という。暴れ牛と闘う剣士を'''闘牛士'''というが、対等の闘いではなく、絶対的有利な立場にある剣士が華麗な身のこなしと殺しを披露する見世物である。18世紀ごろのイギリスでは、牡牛と[[イヌ|犬]]を闘わせる見世物として「'''牛いじめ'''('''ブルベイティング'''、英:bullbaiting)」が流行し、牡牛(ブル)と闘うよう品種改良された犬、すなわち「ブルドッグ」が、現在のブルドッグの原形として登場した。このブラッドスポーツは残酷だとして1835年に禁止され、姿を消している。危険な暴れ牛や暴れ馬の背に乗ってみせるのは、北アメリカで発祥した'''ロデオ'''で、競技化しており、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、および、南アメリカの幾つかの国で盛んに興行が打たれている。 |
− | 牛を[[娯楽]]に利用する[[文化]]は、世界を見渡せば散見される。牛同士を闘わせるのは、[[アジア]]の一部の国・地域([[日本]]、[[朝鮮]]、[[オマーン]]など)における伝統的娯楽で、これを'''[[闘牛]]'''(とうぎゅう)という([[闘牛#日本における闘牛]]も参照)。暴れ牛と剣士を闘わせるのは、[[西ゴート王国]]に始まり、[[イベリア半島]]を中心に伝統的に行われてきた[[ブラッド・スポーツ|ブラッドスポーツ]]の一種で、これも日本語では'''闘牛'''という(''cf.'' [[闘牛#スペイン闘牛の歴史]])。暴れ牛と闘う剣士を'''[[闘牛士]]'''というが、対等の闘いではなく、絶対的有利な立場にある剣士が華麗な身のこなしと殺しを披露する[[見世物]]である。[[18世紀]]ごろの[[イギリス]]では、牡牛と[[イヌ|犬]]を闘わせる見世物として「'''[[牛いじめ]]'''('''ブルベイティング'''、英:{{lang|en|bullbaiting}})」が流行し、牡牛(ブル)と闘うよう[[品種改良]]された犬、すなわち「[[ブルドッグ]]」が、現在のブルドッグの原形として登場した。このブラッドスポーツは残酷だとして[[1835年]]に禁止され、姿を消している。危険な暴れ牛や暴れ馬の背に乗ってみせるのは、[[北アメリカ]]で発祥した'''[[ロデオ]]'''で、[[競技]]化しており、[[アメリカ合衆国]]、[[カナダ]]、[[オーストラリア]]、および、[[南アメリカ]]の幾つかの国で盛んに興行が打たれている。
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− | === 信仰 ===
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− | 農耕を助ける貴重な労働力である牛を殺して[[神]]に供える[[犠牲]]獣とし、そこから転じて牛そのものを神聖な生き物として崇敬することは、古代より永くに亘って広範な地域で続けられてきた[[信仰]]である。現在の例として、[[インド]]の特に[[ヒンドゥー教]]徒の間で牛が神聖な生き物として敬われ、[[食のタブー]]として[[肉食]]されることの無いことは、よく知られている。[[インダス文明]]でも牛が神聖視されていた可能性があり、インド社会における係る[[概念]]の永続性は驚くべきものがある。また、興奮した牛の群れにあえて追われる[[スペイン]]などラテン文化圏の[[祭事]]「[[エンシエロ]]」、聖なる牛の群れに踏まれることでその年の[[幸運]]を得ようとする[[ムガル帝国]]時代より続くヒンドゥー教の祭事「ゲーイ・ガウーリ」([[ディーワーリー]]の期間中に行われる祭事の一つ)など、過激な伝統[[行事]]も世界にはある<!--<ref>[https://www.youtube.com/watch?v=4_JAMsbfgt8 Diwali Cattle Stampede | Bizarre Diwali Tradition] - YouTube, [https://news.nicovideo.jp/watch/nw4180919 【ドドドドド】インドで地面に寝そべって牛に踏まれまくる儀式が行われ今年も普通に怪我人続出!] - ニコニコニュース</ref>|※表示できる出典が無いので、実際の映像を収めた動画を裏書きで示しておきます。-->。
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− | <!--
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− | 牛が釘などを食べた場合、胃を保護するため、[[磁石]]を呑み込ませておくこともあるという。|※この節に記載すべき内容ではない。-->
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− | == 肉牛の一生 ==
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− | [[家畜]]としての牛は、主に肉牛と乳牛に分けられる。(ヨーロッパに多い乳肉兼用種というのもある)<ref>{{Cite web |url=http://www.tochigi-vet.or.jp/other/sangyou/sangyou_09.html |title=世界の牛の種類 |publisher=栃木県獣医師会 |accessdate=2016-06-25}}</ref>
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− | | |
− | :'''乳牛'''(ホルスタインなどの乳用種)については、[[乳牛#乳牛の一生|#乳牛の一生]]を参照。
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− | | |
− | 肉用牛には3種の区分があり、それぞれ「肉専用種(和牛)」「乳用種(乳牛から生まれた雄)」「交雑種(F1:乳牛雌に肉専用種雄を交配した種)」と呼ばれている<ref>[https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/lin/pdf/nikugyu.pdf 農林水産省『肉用牛の種類』]</ref>。
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− | | |
− | 繁殖農家で生まれた子牛は、250-300kgになる10か月齢から12か月齢まで育成され、「'''素牛'''(もとうし)」(6か月齢〜12か月齢の牛)市場に出荷され(2-4か月齢で出荷されるスモール牛市場もある)、肥育農家に競り落とされる。競り落とされた素牛は肥育農家まで運ばれる。長距離になると輸送の疲れで10kg以上やせてしまうこともある<ref>[http://mie.lin.gr.jp/index.htm 社団法人 三重県畜産協会 参照]</ref>。
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− | | |
− | その後、「'''肥育牛'''」として肥育される。飼育方法は、繋ぎ飼い方式・放牧方式などがあるが、日本では数頭ずつをまとめて牛舎に入れる(追い込み式牛舎)群飼方式が一般的である。運動不足による関節炎の予防や蹄の正常な状態を保つためには放牧又は運動場への放飼が必要であるが、国内では88%が放牧あるいや放飼を行っていない<ref name=":1" />。そのため日本の77%の農家が削蹄を行っている。削蹄は年2回が望ましいが、年に1回もしくは1回未満の農場が78%を占める<ref>{{Cite web |url=http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/h21/beef/no2/b_m5.pdf |title=肉用牛飼養実態アンケート調査(中間とりまとめ) |access-date=20220713}}</ref><ref>{{Cite book|和書|title=畜産学入門|date=20120630|year=2012|publisher=文永堂出版}}</ref>。
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− | | |
− | 肥育前期(7か月程度)は牛の内臓(特に胃)と骨格の成長に気をつけ、良質の[[粗飼料]]を給餌される。肥育中期から後期(8-20か月程度)にかけては高カロリーの[[濃厚飼料]]を給餌され、筋肉の中に脂肪をつけられる(筋肉の中の脂肪は「さし」とよばれ、さしの多いものを[[霜降り肉]]と言う)。
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− | | |
− | 肉用牛は、生後2年半から3年、体重が700kg前後で出荷され、[[屠殺]]される。
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− | | |
− | 肉牛を産むための雌牛('''繁殖用雌牛''')は、繁殖用として優れた資質・血統をもつ雌牛が選ばれる。繁殖用雌牛は、生後14か月から16か月で初めての人工授精(1950年に[[家畜改良増殖法]]が制定され、人工授精普及の基盤が確立し、今日では日本の牛の繁殖は99%が凍結精液を用いた人工授精によってなされている)<ref>[http://www.tokyo-aff.or.jp/center/toukyouto 農林綜合研究センター 参照]{{リンク切れ|date=2018-12-15}}</ref>が行われ、約10か月(285日前後)で分娩する。生産効率を上げるため、1年1産を目標に、分娩後約80日程度で次の人工授精が行われる。8産以上となると、生まれた子牛の市場価格が低くなり、また繁殖用雌牛の経産牛の肉としての価格も低くなる場合があるため<ref>[http://yamagata.lin.gr.jp/ 社団法人 山形県畜産協会 参照]</ref>、標準的には6-8産で廃用となり、[[屠殺]]される。また、受胎率が悪かったり、生まれた子牛の発育が悪かったりすると、早目に廃用となる。
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| ==外科的処置と動物福祉== | | ==外科的処置と動物福祉== |
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− | === 断角/除角 ===
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− | 牛は、飼料の確保や社会的順位の確立等のため、他の牛に対し、角を用いて争うことがある。そのため牛舎内での高密度の群飼い(狭い時で1頭当たり5m{{sup|2}}前後<ref name=":1">{{Cite web|url=http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/|title=平成 26 年度国産畜産物安心確保等支援事業(快適性に配慮した家畜の飼養管理推進事業)肉用牛の飼養実態アンケート調査報告書|accessdate=2020-4-20|publisher=公益社団法人畜産技術協会}}</ref>)ではケガが発生しやすく、肉質の低下に繋がることもある。また管理者が死傷することを防止するためにも、牛の除角(牛がまだ小さいころに、焼き鏝や刃物、薬剤などで角芽を除去すること)あるいは断角(角が成長してから切断すること)は有効な手段と考えられている。
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− | 日本では肉牛の59.5%、乳牛の85.5%が断角/除角されている<ref name=":2">{{Cite web|url=http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/|title=平成 26 年度国産畜産物安心確保等支援事業(快適性に配慮した家畜の飼養管理推進事業)乳用牛の飼養実態アンケート調査報告書|accessdate=20220107}}</ref><ref name=":1" />。断角/除角は激痛を伴い牛への負担が大きく、ショック死する例も報告されている<ref>{{Cite web|url=https://www.hopeforanimals.org/cattle/528/|title=畜産従業員の見た、除角による牛の死亡2017/04/24|accessdate=2020-4-21|publisher=認定NPO法人アニマルライツセンター}}</ref>が、麻酔を使用する農家は肉牛で17.3%、乳牛で14%と低い<ref name=":2">{{Cite web|url=http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/|title=平成 26 年度国産畜産物安心確保等支援事業(快適性に配慮した家畜の飼養管理推進事業)乳用牛の飼養実態アンケート調査報告書|accessdate=20220107}}</ref><ref name=":1" />。断角/除角の方法は、腐食性軟膏や断角器、焼きごて、のこぎり、頭蓋骨から角をえぐり取る除角スプーンなどを使う<ref>{{Cite book |和書 |author=ゲイリー・L・フランシオン |title=動物の権利入門 |date=2018 |publisher=緑風出版 |page=66 }}</ref>。
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− | [[農林水産省|農水省]]が普及に努めている「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」では肉牛、乳牛ともに「除角によるストレスが少ないと言われている焼きごてでの実施が可能な角が未発達な時期(遅くとも生後2ヵ月以内)に実施することが推奨される」。だが実際には、乳牛では45%、肉牛では85%が3ケ月齢以上で断角/除角されている<ref name=":2">{{Cite web|url=http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/|title=平成 26 年度国産畜産物安心確保等支援事業(快適性に配慮した家畜の飼養管理推進事業)乳用牛の飼養実態アンケート調査報告書|accessdate=20220107}}</ref><ref name=":1" />。
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| === 去勢 === | | === 去勢 === |
− | 雄牛を去勢しないで肥育した場合、キメが粗くて硬く、消費者に好まれない牛肉に仕上がる。また去勢しない雄牛を牛舎内で群飼すると、牛同士の闘争が激しくなり、ケガが発生しやすく肉質の低下にもつながる。こういった理由から、肉用に飼育されるオスは一般的に去勢される<ref name=":1" />。去勢の方法は、陰嚢を切開して、精索と血管を何度か捻りながら、引いてちぎる観血去勢法、皮膚の上からバルザックやゴムリングを用いて挫滅、壊死させる無血去勢法が一般的で、特別な場合を除いて、麻酔は行われない。日本も加盟する[[国際獣疫事務局|OIE]]の肉用牛の動物福祉規約<ref>{{Cite web|url=https://www.oie.int/en/what-we-do/standards/codes-and-manuals/terrestrial-code-online-access/?id=169&L=0&htmfile=chapitre_aw_beef_catthe.htm|title=CHAPTER 7.9.
| + | 雄牛を去勢しないで肥育した場合、キメが粗くて硬く、消費者に好まれない牛肉に仕上がる。また去勢しない雄牛を牛舎内で群飼すると、牛同士の闘争が激しくなり、ケガが発生しやすく肉質の低下にもつながる。こういった理由から、肉用に飼育されるオスは一般的に去勢される。去勢の方法は、陰嚢を切開して、精索と血管を何度か捻りながら、引いてちぎる観血去勢法、皮膚の上からバルザックやゴムリングを用いて挫滅、壊死させる無血去勢法が一般的で、特別な場合を除いて、麻酔は行われない。日本も加盟するOIEの肉用牛の動物福祉規約<ref>https://www.oie.int/en/what-we-do/standards/codes-and-manuals/terrestrial-code-online-access/?id=169&L=0&htmfile=chapitre_aw_beef_catthe.htm, CHAPTER 7.9. ANIMAL WELFARE AND BEEF CATTLE PRODUCTION SYSTEMS, 20220107</ref>には3ヶ月齢より前に実施することが推奨されているが、日本の肉牛の90.9%は3ヵ月以上で去勢されている。観血去勢では術中や術後の消毒不足や敷料等が傷口に入ることで化膿や肉芽腫の形成等が見られることがある<ref>千葉 暁子, 森山 友恵, 飯野 君枝, 山岸 則夫, 2020, 観血去勢後の手術部位感染により陰嚢膿瘍を形成した黒毛和種去勢牛の3 例, 産業動物臨床医学雑誌, volume11, issue2, pages82-86, 日本家畜臨床学会, 大動物臨床研究会, doi:10.4190/jjlac.11.82</ref>。 |
− | ANIMAL WELFARE AND BEEF CATTLE PRODUCTION SYSTEMS|accessdate=20220107}}</ref>には3ヶ月齢より前に実施することが推奨されているが、日本の肉牛の90.9%は3ヵ月以上で去勢されている<ref name=":1" />。観血去勢では術中や術後の消毒不足や敷料等が傷口に入ることで化膿や肉芽腫の形成等が見られることがある<ref>{{Cite journal|和書 | author = 千葉 暁子 | author2 = 森山 友恵 | author3 = 飯野 君枝 | author4 = 山岸 則夫 | year = 2020 | title = 観血去勢後の手術部位感染により陰嚢膿瘍を形成した黒毛和種去勢牛の3 例 | journal = 産業動物臨床医学雑誌 | volume = 11 | issue = 2 | pages = 82-86 | publisher = 日本家畜臨床学会 | publisher2 = 大動物臨床研究会 | doi = 10.4190/jjlac.11.82 | ref = harv }}</ref>。 | |
− | | |
− | === 鼻環(鼻ぐり) ===
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− | 鼻環による痛みを利用することで、牛の移動をスムーズにさせ、調教しやすくできる。日本の肉牛農家では76.1%で鼻環の装着が行われている<ref name=":1" />(乳牛における装着率は不明)。鼻環通しで麻酔は使用されない。農水省が普及に努めている「アニマルウェルフェアの考え方に対応した肉用牛の飼養管理指針」は鼻環の装着について「牛へのストレスを極力減らし、可能な限り苦痛を生じさせないよう、素早く適切な位置に装着すること」としている。
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− | ==ケア==
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− | [[画像:Ochsenbeschlag4.jpg|thumb|牛用の蹄鉄。奇蹄目の馬と違い偶蹄目であるため、一つの脚に左右2個の蹄鉄が必要。]]
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− | ;毛刈り
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− | ;ブラッシング
| |
− | :舌や壁などに擦り付けて[[グルーミング|セルフグルーミング]]を行う。また人間が行うことで信頼関係が構築され<ref>{{Cite web |url=https://www.izuno.ed.jp/subjects/32690 |title=【動物科学科】牛のブラッシングの様子です。 – 島根県立出雲農林高等学校 |access-date=2022-12-09 |website=www.izuno.ed.jp}}</ref>、同時に人間にもストレス軽減効果が確認される<ref>{{Cite web |url=https://www.ibaraki.ac.jp/news/2021/08/20011326.html |title=ウシのブラッシングによる学生のストレス軽減を生理データで確認―農・安江教授に聞く|茨城大学 |access-date=2022-12-09 |website=www.ibaraki.ac.jp |language=ja}}</ref>。カウブラシ(牛体ブラシ)という自分でブラッシングを行う装置もある<ref>{{Cite web |url=https://doi.org/10.20652/jabm.58.2_66 |title=カウブラシの利用制限による牛群への影響と欲求度の評価 |access-date=2022-12-09 |last=小針 |first=大助 |date=2022-06-25 |publisher=動物の行動と管理学会 |language=ja |doi=10.20652/jabm.58.2_66}}</ref><ref>{{Cite web |url=https://www.nytimes.com/2018/08/08/science/cows-brush-grooming.html |title=Give a Cow a Brush, and Watch It Scratch That Itch |access-date=2022-12-09 |last=Klein |first=JoAnna |date=2018-08-08 |website=The New York Times |language=en-US}}</ref><ref>{{Cite journal |last=堂腰 |first=顕 |date=2007 |title=24. 自動牛体ブラシに対する乳牛の利用状況と効果(日本家畜管理学会・応用動物行動学会合同2007年度春季研究発表) |url=https://doi.org/10.20652/abm.43.1_64 |publisher=動物の行動と管理学会 |language=ja |doi=10.20652/abm.43.1_64}}</ref>。
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− | ;削蹄・蹄鉄
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− | :家畜の牛は運動量が無いため人間(削蹄師)が削る作業が行われる<ref>{{Cite web |url=https://www.asahi.com/articles/ASPD56QS9PBPPITB008.html?iref=ogimage_rek |title=牛の爪を削る削蹄師 「ただの爪切り屋にはなるな」と親方に言われて:朝日新聞デジタル |access-date=2022-12-09 |date=2021-12-05 |website=朝日新聞デジタル |language=ja}}</ref>。また逆に労役を行う牛には[[蹄鉄]]が取り付けられる。
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− | ;牛舎洗浄・牛床清掃
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− | :敷料やふん尿を除去して、消毒剤で洗浄する<ref>牛肉の生産衛生管理ハンドブック 著:農林水産省 消費・安全局</ref>。
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− | ;牛体洗浄(鎧落とし)
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− | :千葉県鴨川市では、牛洗いという行事が行われる<ref>{{Cite web |url=https://www.chibanippo.co.jp/news/local/196303 |title=牛に感謝し豊作祈る 伝統の「牛洗い」行事 鴨川 |access-date=2022-12-09 |website=www.chibanippo.co.jp |language=ja}}</ref>。
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− | | |
− | == 病気 ==
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− | === 舌遊び ===
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− | 舌を口の外へ長く出したり左右に動かしたり、丸めたり、さらには柵や空の飼槽などを舐める動作を持続的に行うことを指す。粗飼料の不足、繋留、単飼(1頭のみで飼育する)などの行動抑制が要因とされており、そのストレスから逃れるためにこの行動が発現する。舌遊び行動中は心拍数が低下することが認められている。また生産サイクルをあげるために、産まれてすぐに母牛から離されることも舌遊びの要因とされている。「子牛は自然哺乳の場合1時間に6000回母牛の乳頭を吸うといわれている。その半分は単なるおしゃぶりにすぎないが、子牛の精神の安定に大きな意味をもつ。子牛は母牛の乳頭に吸い付きたいという強い欲求を持っているが、それが満たされないため、子牛は乳頭に似たものに向かっていく。成牛になっても満たされなかった欲求が葛藤行動として「舌遊び」にあらわれる」<ref> [[中洞正]] 『黒い牛乳』 幻冬舎メディアコンサルティング、2009年7月。{{要ページ番号|date=2018-12-15}}</ref>。実態調査では、種付け用黒毛和牛の雄牛の100%、同ホルスタイン種の雄牛の6%、食肉用に肥育されている去勢黒毛和牛の雄牛の76%、黒毛和牛の雌牛の89%、ホルスタイン種の17%で舌遊び行動が認められたとある<ref>東北大学大学院農学研究科 佐藤衆介教授らによる調査。{{Full citation needed |date=2018-12-15 |title=}}</ref>。
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− | | |
− | === 失明 ===
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− | [[霜降り肉]]を作るためには、筋肉繊維の中へ脂肪を交雑させる、という通常ではない状態を作り出さなければならない。そのため、脂肪細胞の増殖を抑える働きのある[[ビタミンA]]の給与制限が行われる。ビタミンAが欠乏すると、牛に様々な病気を引き起こす。ビタミンA欠乏が慢性的に続くと、光の情報を視神経に伝える[[ロドプシン]]という物質が機能しなくなり、重度になると、瞳孔が開いていき、失明に至る<ref>{{Cite web |url=http://www.nosai-yamanashi.or.jp/jigyo/hiiku_kyuyo.html |title=肥育牛のビタミンA適正給与について|archiveurl=https://web.archive.org/web/20110901090228/http://www.nosai-yamanashi.or.jp/jigyo/hiiku_kyuyo.html |archivedate=2011-09-01 |accessdate=2018-12-15 |publisher=山梨県農業共済組合}}</ref>為、ビタミンA欠乏の徴候が表れた場合カロテンを含んだ飼料やビタミン剤の投与でこれを補う必要がある。
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− | | |
− | === 中毒 ===
| |
− | 稀なケースであるが、牧場内に[[広葉樹]]があり[[ドングリ]]が採餌できる環境にあると、ドングリの成分である[[ポリフェノール]]を過剰摂取してしまい[[中毒]]死することがある<ref>[http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/economy/agriculture/1-0358378.html ドングリ食べ過ぎで牛が集団死 オホーツクで3年前] 北海道新聞どうしんweb(2017年1月16日)2017年1月24日閲覧</ref>。
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− | | |
− | === 乳牛特有の病気について ===
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− | {{Main|乳牛#乳牛の病気}}
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− | == 主要品種 ==
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− | {{See also|[[:en:List of cattle breeds]]|[[:Category:牛の品種]]}}
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− | === ヨーロッパ由来品種 ===
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− | [[ファイル:Texas Longhorn.jpg|thumb|米国種[[テキサスロングホーン]]]]
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− | {{div col}}
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− | * [[アバディーン・アンガス]]種([[無角牛]]、スコットランド原産、肉牛)
| |
− | * アングラー種(ドイツ原産、乳肉兼用)
| |
− | * ウェルシュブラック種(イギリス原産、乳肉兼用)
| |
− | * エアシャー種(スコットランド原産、乳牛)
| |
− | * [[ガンジー種]] (イギリス領[[ガンジー島]]原産、乳牛 )
| |
− | * キアニーナ種(イタリア原産、役肉兼用 欧州系で最大の標準体型を持つ)
| |
− | * ギャロレー種(イギリス原産、肉用)
| |
− | * グロニンゲン種(オランダ原産、乳肉兼用)
| |
− | * ケリー種(アイルランド原産、乳用)
| |
− | * ゲルプフィー種(ドイツ原産、肉用)
| |
− | * サウスデボン種(イギリス原産、乳肉兼用)
| |
− | * [[ジャージー種]](イギリス領[[ジャージー島]]原産、乳牛)
| |
− | * [[シャロレー種]](フランス原産、肉牛)
| |
− | * [[ショートホーン]]種(スコットランド原産、肉牛)
| |
− | * シンメンタール種(スイス原産、乳肉兼用)
| |
− | * スウェーデンレッドアンドホワイト種(スウェーデン原産、乳用)
| |
− | * デキスター種(イギリス原産、乳肉兼用)
| |
− | * [[デボン (牛)|デボン種]](イギリス原産、肉用)
| |
− | * デーリィショートホーン種(イギリス原産、乳肉兼用)
| |
− | * ノルウェーレッド種(ノルウェー原産、乳用)
| |
− | * [[ノルマン種 (牛)|ノルマン種]](フランス原産、乳肉兼用)
| |
− | * ハイランド種(イギリス原産、肉用)
| |
− | * パイルージュフランドル種(ベルギー原産、乳肉兼用)
| |
− | * ピンツガウエル種(オーストリア原産、肉用)
| |
− | * フィンランド種(フィンランド原産、乳用)
| |
− | * ブラウンスイス種(スイス主産、乳肉兼用)
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− | * [[ヘレフォード種]](イングランド原産、肉牛)
| |
− | * [[ホルスタイン]]種(オランダ原産、乳牛、黒と白の模様で日本でもよく知られる)
| |
− | * ホワイトベルテッドギャラウェイ種(スコットランド原産)
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− | * マルキジアーナ種(イタリア原産、役肉兼用)
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− | * マレーグレー種(オーストラリア原産、肉牛)
| |
− | * ミューズラインイーセル種(オランダ原産、乳肉兼用)
| |
− | * ムーザン種(フランス原産、肉用)
| |
− | * モンベリエール種(フランス原産、乳肉兼用)
| |
− | * リンカーンレッド種(イギリス原産、乳肉兼用)
| |
− | * レッドデーニッシュ種(アイルランド原産、乳肉兼用)
| |
− | * レッドポール種(イギリス原産、乳肉兼用)
| |
− | * ロートフィー種(ドイツ原産、肉用)
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− | * ロマニョーラ種(イタリア原産、役肉兼用)
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− | {{div col end}}
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− | === アジア由来品種 ===
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− | * [[黄牛]](中国・東南アジア産、役牛)
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− | * 草原紅牛(中国原産、乳牛)
| |
− | * [[韓牛|朝鮮牛]](韓牛)(朝鮮原産、役牛・肉牛)
| |
− | * ブラーマン種
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− | * ヒンドゥー種
| |
− | * カンペンセン種
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− | | |
− | === 日本由来品種 ===
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− | {{Anchors|日本在来品種}}<!--※国際的視野の下で編集を。在来というのは日本視点で、外国における“日本由来の”移入品種や流入品種も含めるべきです。-->
| |
− | * [[口之島牛]](鹿児島県口之島に棲息、野生化牛)
| |
− | * [[見島牛]](山口県見島産、天然記念物)
| |
− | ** [[見島牛|見蘭牛]](見島牛の雄とホルスタインの雌の交配 (F<sub>1</sub>))
| |
− | * [[和牛]](改良和種:外国種との交配)
| |
− | ** [[褐毛和種]](あかげわしゅ、熊本県・高知県主産、食肉用)
| |
− | ** [[黒毛和種]](農耕用・食肉用)
| |
− | ** [[無角和種]](山口県産、食肉用)
| |
− | ** [[日本短角種]](東北地方・北海道主産、食肉用)
| |
− | <!--
| |
− | == ウシの仲間 ==
| |
− | * [[スイギュウ]](水牛):ウシ亜科アフリカスイギュウ属・アジアスイギュウ属。
| |
− | * [[ヌー]]
| |
− | * [[ヤク]]
| |
− | * [[コブウシ]]
| |
− | * [[バイソン]]・[[バッファロー]](野牛)
| |
− | -->
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− | | |
− | == 飼育数 ==
| |
− | [[File:所得国別牛の頭数.png|thumb|高所得国、上位中所得国、下位中所得国、低所得国の飼育頭数と割合]]
| |
− | 世界に棲息する牛のうち、家畜として飼育されている頭数に関しては、[[国際連合食糧農業機関]] (FAO) による毎年の調査結果が、[[1990年]]以降公表されている<ref name="GlobalNote_世界計">{{Cite web |date=2019-01-08 |title=世界計 > 牛の飼育数 |url=https://www.globalnote.jp/p-cotime/?dno=10190&c_code=999&post_no=15229 |publisher=グローバルノート株式会社 |website=公式ウェブサイト |accessdate=2019-08-05 }}</ref>。統計には、一般的な牛のほか、[[コブウシ]]、[[ガウル]]などのアジア牛、[[ヤク]]を含む{{r|GlobalNote_世界計}}。[[スイギュウ]]や[[バイソン]]は含まない{{r|GlobalNote_世界計}}。
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− | | |
− | 牛を聖なる動物と見なす[[ヒンドゥー教]]の影響もあって[[インド]]が世界を圧倒する飼育頭数で知られ、長らく世界一の座を占めていた。しかし、[[2003年]]に[[ブラジル]]がインドに換わって世界第1位となった<ref name="FAO_LiveCattles">{{cite web|url=http://faostat3.fao.org/home/index.html#VISUALIZE|title=FAO Brouse date production-Live animals-cattles|publisher=Fao.org |date= |accessdate=2013-01-06}}{{リンク切れ|date=2018-12-15}}</ref><!--※リンク切れしているので確認できないが、有効だったと推定し得るこの出典は、出典箇所が正しく示されていなかったため、全文の信用性が低くなってしまっている。一応信用したうえで、加筆しやすい時系列に構成し直した。出典の再提示が必要。-->。これは、[[アマゾン熱帯雨林]]の破壊と[[牧場]][[開発]]が以前にも増して急速に進み、アマゾン地方の牛飼育頭数が激増してきた結果であった。
| |
− | [[2008年]]には再びインドが第1位になったものの、インド・ブラジル両国の頭数はほぼ拮抗している{{r|FAO_LiveCattles}}。
| |
− | | |
− | 牛の飼育数は新興国を中心に増え続けており2020年の推定総頭数は15億2593万9479頭である<ref name="FAOSTAT"/>。
| |
− | {| class="sortable wikitable" style="font-size:smaller"
| |
− | |+ 牛の飼育数上位国の推定頭数と推移<ref name="FAOSTAT">{{Cite web | url = https://www.fao.org/faostat/en/#data| title = FAOSTAT| publisher = FAO| accessdate = 2022-11-06}}</ref>
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− | !
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− | ! colspan="2" |2000
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− | ! colspan="2" |1990
| |
− | ! colspan="2" |1980
| |
− | ! colspan="2" |1970
| |
− | |-
| |
− | |世界
| |
− | | -
| |
− | |1525939479
| |
− | | -
| |
− | |1411583223
| |
− | | -
| |
− | |1319963140
| |
− | | -
| |
− | |1296612992
| |
− | | -
| |
− | |1216999022
| |
− | | -
| |
− | |1081612612
| |
− | |-
| |
− | |ブラジル
| |
− | |1
| |
− | |218150298
| |
− | |1
| |
− | |209541109
| |
− | |2
| |
− | |169875524
| |
− | |2
| |
− | |147102320
| |
− | |2
| |
− | |118971424
| |
− | |4
| |
− | |75446704
| |
− | |-
| |
− | |インド
| |
− | |2
| |
− | |194482355
| |
− | |2
| |
− | |194184992
| |
− | |1
| |
− | |191924000
| |
− | |1
| |
− | |202500000
| |
− | |1
| |
− | |186500000
| |
− | |1
| |
− | |177442000
| |
− | |-
| |
− | |アメリカ
| |
− | |3
| |
− | |93793300
| |
− | |3
| |
− | |94081200
| |
− | |4
| |
− | |98199000
| |
− | |4
| |
− | |95816000
| |
− | |4
| |
− | |111242000
| |
− | |2
| |
− | |112369008
| |
− | |-
| |
− | |''エチオピア''
| |
− | |4
| |
− | |70291776
| |
− | |5
| |
− | |53382192
| |
− | |7
| |
− | |33075330
| |
− | |8
| |
− | |30000000
| |
− | |9
| |
− | |26000000
| |
− | |7
| |
− | |26231504
| |
− | |-
| |
− | |中国
| |
− | |5
| |
− | |61128843
| |
− | |4
| |
− | |68871241
| |
− | |3
| |
− | |104553559
| |
− | |5
| |
− | |77909675
| |
− | |6
| |
− | |52496213
| |
− | |5
| |
− | |57616205
| |
− | |-
| |
− | |アルゼンチン
| |
− | |6
| |
− | |54460799
| |
− | |6
| |
− | |48949744
| |
− | |5
| |
− | |48674400
| |
− | |6
| |
− | |52845000
| |
− | |5
| |
− | |55760496
| |
− | |6
| |
− | |48439648
| |
− | |-
| |
− | |パキスタン
| |
− | |7
| |
− | |49624000
| |
− | |8
| |
− | |34285000
| |
− | |15
| |
− | |22004000
| |
− | |15
| |
− | |17677008
| |
− | |16
| |
− | |15038000
| |
− | |14
| |
− | |14584000
| |
− | |-
| |
− | |メキシコ
| |
− | |8
| |
− | |35639209
| |
− | |9
| |
− | |32642134
| |
− | |8
| |
− | |30523735
| |
− | |7
| |
− | |32054304
| |
− | |7
| |
− | |27742000
| |
− | |9
| |
− | |22798000
| |
− | |-
| |
− | |チャド
| |
− | |9
| |
− | |32237209
| |
− | |16
| |
− | |19221000
| |
− | |23
| |
− | |11460000
| |
− | |49
| |
− | |4297300
| |
− | |46
| |
− | |4360000
| |
− | |40
| |
− | |4500000
| |
− | |-
| |
− | |スーダン
| |
− | |10
| |
− | |31757266
| |
− | |7
| |
− | |41761000
| |
− | |6
| |
− | |37093000
| |
− | |13
| |
− | |21027800
| |
− | |14
| |
− | |18354416
| |
− | |17
| |
− | |12300000
| |
− | |-
| |
− | |コロンビア
| |
− | |12
| |
− | |28245262
| |
− | |10
| |
− | |27329066
| |
− | |12
| |
− | |24363700
| |
− | |9
| |
− | |24383504
| |
− | |10
| |
− | |23945488
| |
− | |12
| |
− | |20200000
| |
− | |-
| |
− | |バングラデシュ
| |
− | |13
| |
− | |24391000
| |
− | |12
| |
− | |23051000
| |
− | |14
| |
− | |22310000
| |
− | |10
| |
− | |23244000
| |
− | |12
| |
− | |21556000
| |
− | |8
| |
− | |25686000
| |
− | |-
| |
− | |オーストラリア
| |
− | |14
| |
− | |23503238
| |
− | |11
| |
− | |26733000
| |
− | |10
| |
− | |27588000
| |
− | |11
| |
− | |23162208
| |
− | |8
| |
− | |26202704
| |
− | |10
| |
− | |22162464
| |
− | |-
| |
− | |ロシア
| |
− | |18
| |
− | |18126003
| |
− | |13
| |
− | |20671328
| |
− | |9
| |
− | |28060323
| |
− | |3
| |
− | |118388000
| |
− | |3
| |
− | |115100000
| |
− | |3
| |
− | |95162000
| |
− | |-
| |
− | |日本
| |
− | |60
| |
− | |3907000
| |
− | |56
| |
− | |4376000
| |
− | |51
| |
− | |4588000
| |
− | |45
| |
− | |4760000
| |
− | |48
| |
− | |4248000
| |
− | |50
| |
− | |3622000
| |
− | |}
| |
| | | |
| == 利用 == | | == 利用 == |
| === 食用 === | | === 食用 === |
− | 肉は[[牛肉]]として、また乳は[[牛乳]]として、それぞれ食用となる。食用は牛の最も重要な用途であり、肉・乳ともに人類の重要な食料供給源の一つとなってきた。牛乳も牛肉も、そのまま食用とされるだけでなく、[[乳製品]]や各種食品などに加工される原料となることも多い。
| + | 肉は牛肉として、また乳は牛乳として、それぞれ食用となる。食用は牛の最も重要な用途であり、肉・乳ともに人類の重要な食料供給源の一つとなってきた。牛乳も牛肉も、そのまま食用とされるだけでなく、乳製品や各種食品などに加工される原料となることも多い。 |
| | | |
− | 年老いて乳の出が悪くなった[[#乳牛|乳牛]]の[[#経産牛|経産牛]]は、肉質は硬くなって低下し、体も痩せ細ってしまう<ref name="食彩_20190803">{{Cite web |date=2019-08-03 |title=第791回「牛肉」 |url=https://www.tv-asahi.co.jp/syokusai/contents/toppage/cur/list.html |publisher=テレビ朝日 |website=食彩の王国(公式ウェブサイト) |accessdate=2019-08-03 }}</ref>。21世紀初期の日本の場合、こういった個体は廃用牛の扱いを受け、安値で[[ペットフード]]用など人間向けの食用以外に回されるのが一般的である{{r|食彩_20190803}}。しかし、再肥育して肉質を高めることで<ref group="注釈">番組内では「噛めば噛むほど味わい深い」と評している。</ref>{{r|食彩_20190803}}人間向けの食用牛としての市場価値を“再生”させることに成功している業者もいるにはいる{{r|食彩_20190803}}。
| + | 年老いて乳の出が悪くなった乳牛の経産牛は、肉質は硬くなって低下し、体も痩せ細ってしまう<ref name="食彩_20190803">2019-08-03, 第791回「牛肉」, https://www.tv-asahi.co.jp/syokusai/contents/toppage/cur/list.html , テレビ朝日, 食彩の王国(公式ウェブサイト), 2019-08-03</ref>。21世紀初期の日本の場合、こういった個体は廃用牛の扱いを受け、安値でペットフード用など人間向けの食用以外に回されるのが一般的である。しかし、再肥育して肉質を高めることで<ref group="注釈">番組内では「噛めば噛むほど味わい深い」と評している。</ref>人間向けの食用牛としての市場価値を“再生”させることに成功している業者もいるにはいる。 |
| | | |
| === 皮革 === | | === 皮革 === |
− | {{See also|皮革#牛}}
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− | {{節スタブ}}
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− |
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| === 生薬 === | | === 生薬 === |
− | [[胆石]]は'''牛黄'''(ごおう)という[[生薬]]で、[[漢方薬]]の薬材<ref group="注釈">日本では『[[続日本紀]]』などに記述が見られ、一例として、[[文武天皇]]2年[[1月8日 (旧暦)|正月8日]]条({{small|[[ユリウス暦]]換算:}}[[698年]][[2月23日]]の条)、「[[土佐国]]から牛黄が献上された」と記されている他、[[11月29日 (旧暦)|11月29日]]条({{small|ユリウス暦換算:}}[[699年]][[1月5日]]の条)にも、「[[下総国]]が牛黄を献上した」など、各地から献上品としての記録が見られる。</ref>。解熱、鎮痙、強心などの効能がある。救心、[[六神丸]]などの、[[動悸]]・[[息切れ]]・気付けを効能とする[[医薬品]]の主成分となっている。[[日本薬局方]]に収録されている生薬である。
| + | 胆石は'''牛黄'''(ごおう)という生薬で、漢方薬の薬材<ref group="注釈">日本では『続日本紀』などに記述が見られ、一例として、文武天皇2年正月8日条(ユリウス暦換算:698年2月23日の条)、「土佐国から牛黄が献上された」と記されている他、11月29日条(ユリウス暦換算:699年[1月5日の条)にも、「下総国が牛黄を献上した」など、各地から献上品としての記録が見られる。</ref>。解熱、鎮痙、強心などの効能がある。救心、六神丸などの、動悸・息切れ・気付けを効能とする医薬品の主成分となっている。日本薬局方に収録されている生薬である。 |
| | | |
− | 牛の胆石は、人為的ではない状態では千頭に一頭の割合でしか発見されない、と言われていたため<ref>{{Cite web |url=http://ameblo.jp/unryudo/entry-11394636056.html |title=漢方の王様 「ゴオウ(牛黄)」|website=杜の都の漢方薬局 運龍堂のブログ |archiveurl=https://web.archive.org/web/20160305124235/http://ameblo.jp/unryudo/entry-11394636056.html |archivedate=2016-03-05 |accessdate=2018-12-15}}</ref>、大規模で食肉加工する設備を有する国が牛黄の主産国となっている。オーストラリア、アメリカ、ブラジル、インドなどの国がそうである。ただし、[[牛海綿状脳症|BSE]]の問題で北米産の牛黄は事実上、使用禁止となっていることと、中国需要の高まりで、牛黄の国際価格は上げ基調である。 | + | 牛の胆石は、人為的ではない状態では千頭に一頭の割合でしか発見されない、と言われていたため<ref>http://ameblo.jp/unryudo/entry-11394636056.html, 漢方の王様 「ゴオウ(牛黄)」, 杜の都の漢方薬局 運龍堂のブログ , https://web.archive.org/web/20160305124235/http://ameblo.jp/unryudo/entry-11394636056.html, 2016-03-05, 2018-12-15</ref>、大規模で食肉加工する設備を有する国が牛黄の主産国となっている。オーストラリア、アメリカ、ブラジル、インドなどの国がそうである。ただし、BSEの問題で北米産の牛黄は事実上、使用禁止となっていることと、中国需要の高まりで、牛黄の国際価格は上げ基調である。 |
| | | |
| 現在では、牛を殺さずに胆汁を取り出して体外で結石を合成したり、外科的手法で牛の胆嚢内に結石の原因菌を注入して確実に結石を生成させる、「人工牛黄」または「培養牛黄」が安価な生薬として普及しつつある。 | | 現在では、牛を殺さずに胆汁を取り出して体外で結石を合成したり、外科的手法で牛の胆嚢内に結石の原因菌を注入して確実に結石を生成させる、「人工牛黄」または「培養牛黄」が安価な生薬として普及しつつある。 |
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| === 牛糞 === | | === 牛糞 === |
− | {{Main|牛糞}}
| + | 糞は肥料にされる。与えられた飼料により肥料成分は異なってくるが、総じて肥料成分は低い。肥料としての効果よりも、堆肥のような土壌改良の効果の方が期待できる。また、堆肥化して利用することも多い。園芸店などで普通に市販されている。 |
− | 糞は肥料にされる。与えられた飼料により肥料成分は異なってくるが、総じて肥料成分は低い。肥料としての効果よりも、[[堆肥]]のような土壌改良の効果の方が期待できる。また、堆肥化して利用することも多い。園芸店などで普通に市販されている。
| |
| | | |
− | 乾燥地域では牛糞がよく乾燥するため、燃料に使われる。森林資源に乏しい[[モンゴル]]高原では、牛糞は貴重な燃料になる。また[[エネルギー資源]]の多様化の流れから、牛糞から得られる[[メタン]]ガスによる[[バイオマス]]発電への利用などが模索されており、[[スウェーデン]]などでは実用化が進んでいる。
| + | 乾燥地域では牛糞がよく乾燥するため、燃料に使われる。森林資源に乏しいモンゴル高原では、牛糞は貴重な燃料になる。またエネルギー資源の多様化の流れから、牛糞から得られるメタンガスによるバイオマス発電への利用などが模索されており、スウェーデンなどでは実用化が進んでいる。 |
| | | |
− | また、[[インド]]などの[[発展途上国]]では牛糞を円形にして壁に貼り付け、一週間ほど乾燥させて[[牛糞ケーキ]]を作製し、[[燃料]]として用いている(匂いもなく、火力も強い)<ref>『新編 地理資料』 2014年、p.130、ISBN 978-4-80-907612-1</ref>。
| + | また、インドなどの発展途上国では牛糞を円形にして壁に貼り付け、一週間ほど乾燥させて牛糞ケーキを作製し、燃料として用いている(匂いもなく、火力も強い)<ref>『新編 地理資料』 2014年、p.130、ISBN 978-4-80-907612-1</ref>。 |
| | | |
| アフリカなどでは住居内の室温の上昇を避けるために、牛糞を住居の壁や屋根に塗ることがある。 | | アフリカなどでは住居内の室温の上昇を避けるために、牛糞を住居の壁や屋根に塗ることがある。 |
| | | |
| === 胆汁 === | | === 胆汁 === |
− | [[水彩|水彩画]]では[[胆汁]]をぼかし・にじみ用の[[界面活性剤]]として用いる。
| + | 水彩画では胆汁をぼかし・にじみ用の界面活性剤として用いる。 |
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− | [[タウリン]]({{lang|en|taurine}})は牛の胆汁から発見されたため、[[ラテン語]]で雄牛を意味する「[[タウルス]]({{lang|la|taurus}})」から命名された。
| + | タウリン(taurine)は牛の胆汁から発見されたため、ラテン語で雄牛を意味する「タウルス(taurus)」から命名された。 |
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| == 歴史 == | | == 歴史 == |
| === 世界 === | | === 世界 === |
− | ウシは[[新石器時代]]に[[西アジア]]と[[インド]]で野生の[[オーロックス]]が別個に家畜化されて生まれた。学説としては、西アジアで家畜化されたものが他地域に広がったという一元説が長く有力であった<ref>津田恒之 『牛と日本人:牛の文化史の試み』 東北大学出版会、2001年9月。ISBN 4925085409。17頁。</ref>{{sfn|松川|2010|p=29}}。ところが、1990年代になされた[[ミトコンドリアDNA]]を使った系統分析で、現生のウシがインド系のゼブ牛と北方系のタウルス牛に大きく分かれ、その分岐時期が20万年前から100万年前と推定された。これは、せいぜい1万年前とされるウシの家畜化時期よりはるかに古い。そこで、オーロックスにもとからあった二系統が、人類によって別々に家畜化された結果、今あるゼブ牛、タウルス牛となったという二元説が広く支持されている<ref>万年英之・内田宏・広岡博之 「ウシの起源と品種」『ウシの科学』 広岡博之編、朝倉書店〈シリーズ〈家畜の科学〉〉1、2013年11月、ISBN 978-4-254-45501-4。5-6頁。</ref>{{sfn|松川|2010|p=29}}。
| + | ウシは新石器時代に西アジアとインドで野生の[[オーロックス]]が別個に家畜化されて生まれた。学説としては、西アジアで家畜化されたものが他地域に広がったという一元説が長く有力であった<ref>津田恒之 『牛と日本人:牛の文化史の試み』 東北大学出版会、2001年9月。ISBN 4925085409。17頁。</ref><ref>松川, 2010, p29</ref>。ところが、1990年代になされたミトコンドリアDNAを使った系統分析で、現生のウシがインド系のゼブ牛と北方系のタウルス牛に大きく分かれ、その分岐時期が20万年前から100万年前と推定された。これは、せいぜい1万年前とされるウシの家畜化時期よりはるかに古い。そこで、オーロックスにもとからあった二系統が、人類によって別々に家畜化された結果、今あるゼブ牛、タウルス牛となったという二元説が広く支持されている<ref>万年英之・内田宏・広岡博之 「ウシの起源と品種」『ウシの科学』 広岡博之編、朝倉書店〈シリーズ〈家畜の科学〉〉1、2013年11月、ISBN 978-4-254-45501-4。5-6頁。</ref><ref>松川, 2010, p29</ref>。 |
| | | |
− | ウシは、亜種関係のゼブ牛・タウルス牛の間はもとより、原種のオーロックスとも問題なく子孫を残せるので、家畜化された後に各地で交雑が起こった。遺伝子分析によれば、ヨーロッパの牛にはその地のオーロックスの遺伝子が入り込んでいる。東南アジアとアフリカの牛は、ゼブ牛とタウルス牛の子孫である{{sfn|松川|2010|p=33}}。さらに、[[東南アジア島嶼部]]のウシには、別種だがウシとの交雑が可能なこともある[[バンテン]]の遺伝子が認められる{{sfn|松川|2010|p=33}}。 | + | ウシは、亜種関係のゼブ牛・タウルス牛の間はもとより、原種のオーロックスとも問題なく子孫を残せるので、家畜化された後に各地で交雑が起こった。遺伝子分析によれば、ヨーロッパの牛にはその地のオーロックスの遺伝子が入り込んでいる。東南アジアとアフリカの牛は、ゼブ牛とタウルス牛の子孫である<ref>松川, 2010, p33</ref>。さらに、東南アジア島嶼部のウシには、別種だがウシとの交雑が可能なこともあるバンテンの遺伝子が認められる<ref>松川, 2010, p33</ref>。 |
| | | |
− | ウシの家畜化は、[[ヤギ]]や[[ヒツジ]]と比べて遅れた。オーロックスは獰猛で巨大な生物であったので、小型の動物で飼育に習熟してはじめて家畜化に成功したと考えられている。しかしいったん家畜化されると、ウシはその有用性によって[[牧畜]]の中心的存在となった。やがて成立した[[エジプト文明]]や[[メソポタミア文明]]、[[インダス文明]]においてウシは農耕用や牽引用の動力として重要であり、また各種の祭式にも使用された。紀元前6世紀初頭にはメソポタミアにおいて[[プラウ]](犁)が発明され、その牽引力としてウシはさらに役畜としての重要度を増した。このプラウ使用はこれ以降の各地の文明にも伝播した。 | + | ウシの家畜化は、[[ヤギ]]や[[ヒツジ]]と比べて遅れた。オーロックスは獰猛で巨大な生物であったので、小型の動物で飼育に習熟してはじめて家畜化に成功したと考えられている。しかしいったん家畜化されると、ウシはその有用性によって牧畜の中心的存在となった。やがて成立したエジプト文明やメソポタミア文明、インダス文明においてウシは農耕用や牽引用の動力として重要であり、また各種の祭式にも使用された。紀元前6世紀初頭にはメソポタミアにおいてプラウ(犁)が発明され、その牽引力としてウシはさらに役畜としての重要度を増した。このプラウ使用はこれ以降の各地の文明にも伝播した。 |
| | | |
− | ウシはやがて世界の各地へと広がっていった。[[ヨーロッパ]]ではウシは珍重され、最も重要な家畜とされていた。8世紀後半ごろには車輪付きのプラウが開発され、また[[くびき]]の形に改良が加わることで牽引力としての牛はさらに重要となった<ref>ジョゼフ・ギース、フランシス・ギース 『中世ヨーロッパの農村の生活』 青島淑子訳、講談社〈講談社学術文庫〉、2008年5月。ISBN 978-4-06-159874-4。30頁。</ref>。牛肉はヨーロッパ全域で食用とされ、中世の食用肉のおよそ3分の2は牛肉で占められていた{{sfn|ロリウー|2003|p=81}}。ヨーロッパ北部では食用油脂の中心はバターであり、また牛乳も盛んに飲用された{{sfn|ロリウー|2003|p=29}}。ヨーロッパ南部では食用油脂の中心は[[オリーブオイル]]であり、牛乳の飲用もさほど盛んでなかったが、牛肉は北部と比べ盛んに食用とされた{{sfn|ロリウー|2003|p=81}}。
| + | ウシはやがて世界の各地へと広がっていった。ヨーロッパではウシは珍重され、最も重要な家畜とされていた。8世紀後半ごろには車輪付きのプラウが開発され、またくびきの形に改良が加わることで牽引力としての牛はさらに重要となった<ref>ジョゼフ・ギース、フランシス・ギース 『中世ヨーロッパの農村の生活』 青島淑子訳、講談社〈講談社学術文庫〉、2008年5月。ISBN 978-4-06-159874-4。30頁。</ref>。牛肉はヨーロッパ全域で食用とされ、中世の食用肉のおよそ3分の2は牛肉で占められていた<ref>ロリウー, 2003, p81</ref>。ヨーロッパ北部では食用油脂の中心はバターであり、また牛乳も盛んに飲用された<ref>ロリウー, 2003, p29</ref>。ヨーロッパ南部では食用油脂の中心はオリーブオイルであり、牛乳の飲用もさほど盛んでなかったが、牛肉は北部と比べ盛んに食用とされた<ref>ロリウー, 2003, p81</ref>。 |
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− | [[アフリカ]]においては[[ツェツェバエ]]の害などによって伝播が阻害されたものの、[[紀元前1500年]]ごろには[[ギニア]]の[[フータ・ジャロン]]山地でツェツェバエに耐性のある種が選抜され<ref>『新書アフリカ史』 宮本正興・松田素二編、講談社〈講談社現代新書〉、2003年2月20日、55頁。</ref>、[[西アフリカ]]から[[ヴィクトリア湖]]畔にかけては紀元前500年頃までにはウシの飼育が広がっていた<ref>サムエル・カスール 『アフリカ大陸歴史地図』 向井元子訳、東洋書林、第1版、2002年12月3日。19頁。</ref>。インドにおいては[[バラモン教]]時代はウシは食用となっていたが、[[ヒンドゥー教]]への転換が進む中でウシが神聖視されるようになり、ウシの肉を食用とすることを禁じるようになった。しかし、乳製品や農耕用としての需要からウシは飼育され続け、世界有数の飼育国であり続けることとなった。
| + | アフリカにおいてはツェツェバエの害などによって伝播が阻害されたものの、紀元前1500年ごろにはギニアのフータ・ジャロン山地でツェツェバエに耐性のある種が選抜され<ref>『新書アフリカ史』 宮本正興・松田素二編、講談社〈講談社現代新書〉、2003年2月20日、55頁。</ref>、西アフリカからヴィクトリア湖畔にかけては紀元前500年頃までにはウシの飼育が広がっていた<ref>サムエル・カスール 『アフリカ大陸歴史地図』 向井元子訳、東洋書林、第1版、2002年12月3日。19頁。</ref>。インドにおいてはバラモン教時代はウシは食用となっていたが、ヒンドゥー教への転換が進む中でウシが神聖視されるようになり、ウシの肉を食用とすることを禁じるようになった。しかし、乳製品や農耕用としての需要からウシは飼育され続け、世界有数の飼育国であり続けることとなった。 |
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− | [[新大陸]]にはオーロックスが存在せず、[[1494年]]に[[クリストファー・コロンブス]]によって持ち込まれたのが始まりである。新大陸の気候風土にウシは適合し、各地で飼育されるようになった<ref name="Cambridge">『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典 2 主要食物:栽培作物と飼養動物』 Kenneth F.Kiple, Kriemhild Conee Ornelas編、石毛直道ほか監訳、朝倉書店、2004年9月10日、第2版第1刷。ISBN 4254435320。550頁。</ref>。とくに[[アルゼンチン]]の[[パンパ]]においては、持ち込まれた牛の群れが野生化し、[[19世紀]]後半には1,500万頭から2,000万頭にも達した。このウシの群れに依存する人々は[[ガウチョ]]と呼ばれ、アルゼンチンや[[ウルグアイ]]の歴史上重要な役割を果たしたが、19世紀後半にパンパ全域が牧場化し野生のウシの群れが消滅すると姿を消した。[[北アメリカ大陸]]においてもウシは急速に広がり、19世紀後半には[[大陸横断鉄道]]の開通によってウシを鉄道駅にまで移送し市場であるアメリカ東部へと送り出す姿が見られるようになった。この移送を行う牧童は[[カウボーイ]]と呼ばれ、ウシの大規模陸送がすたれたのちもその独自の文化はアメリカ文化の象徴となっている。
| + | 新大陸にはオーロックスが存在せず、1494年にクリストファー・コロンブスによって持ち込まれたのが始まりである。新大陸の気候風土にウシは適合し、各地で飼育されるようになった<ref name="Cambridge">『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典 2 主要食物:栽培作物と飼養動物』 Kenneth F.Kiple, Kriemhild Conee Ornelas編、石毛直道ほか監訳、朝倉書店、2004年9月10日、第2版第1刷。ISBN 4254435320。550頁。</ref>。とくにアルゼンチンのパンパにおいては、持ち込まれた牛の群れが野生化し、19世紀後半には1,500万頭から2,000万頭にも達した。このウシの群れに依存する人々はガウチョと呼ばれ、アルゼンチンやウルグアイの歴史上重要な役割を果たしたが、19世紀後半にパンパ全域が牧場化し野生のウシの群れが消滅すると姿を消した。北アメリカ大陸においてもウシは急速に広がり、19世紀後半には大陸横断鉄道の開通によってウシを鉄道駅にまで移送し市場であるアメリカ東部へと送り出す姿が見られるようになった。この移送を行う牧童はカウボーイと呼ばれ、ウシの大規模陸送がすたれたのちもその独自の文化はアメリカ文化の象徴となっている。 |
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− | [[1880年代]]には[[冷凍船]]が開発され、遠距離間の牛肉の輸送が可能となった。これは[[アルゼンチン]]や[[ウルグアイ]]において牧場の大規模化や効率化をもたらし、牛肉輸出は両国の基幹産業となった<ref name="Cambridge"/>。また、鉄道の発達によって牛乳を農家から大都市の市場へと迅速に大量に供給することが可能になったうえ、[[ルイ・パスツール]]によって低温殺菌法([[パスチャライゼーション]])が開発され、さらに冷蔵技術も進歩したことで、チーズやバターなどの乳製品に加工することなくそのまま牛乳を飲む習慣が一般化した<ref>南直人 『ヨーロッパの舌はどう変わったか 十九世紀食卓革命』 講談社〈講談社選書メチエ〉、1998年2月10日、第1刷。113-114頁。</ref>。こうした技術の発展によって、ウシの利用はますます増加し、頭数も増加していった。
| + | 1880年代には冷凍船が開発され、遠距離間の牛肉の輸送が可能となった。これはアルゼンチンやウルグアイにおいて牧場の大規模化や効率化をもたらし、牛肉輸出は両国の基幹産業となった<ref name="Cambridge"/>。また、鉄道の発達によって牛乳を農家から大都市の市場へと迅速に大量に供給することが可能になったうえ、ルイ・パスツールによって低温殺菌法(パスチャライゼーション)が開発され、さらに冷蔵技術も進歩したことで、チーズやバターなどの乳製品に加工することなくそのまま牛乳を飲む習慣が一般化した<ref>南直人 『ヨーロッパの舌はどう変わったか 十九世紀食卓革命』 講談社〈講談社選書メチエ〉、1998年2月10日、第1刷。113-114頁。</ref>。こうした技術の発展によって、ウシの利用はますます増加し、頭数も増加していった。 |
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| === 日本列島 === | | === 日本列島 === |
− | {{See also|日本の獣肉食の歴史}}
| + | 日本列島では東京都港区の伊皿子貝塚から弥生時代の牛骨が出土したとされるが、後代の混入の可能性も指摘される<ref name="Nishimoto">西本豊弘「ウシ」『事典 人と動物の考古学』(吉川弘文館、2010年)、p.162</ref>。日本のウシは、中国大陸から持ち込まれたと考えられている。古墳時代前期にも確実な牛骨の出土はないが、牛を形象した埴輪が存在しているため、この頃には飼育が始まっていたと考えられている。'''古墳後期(5世紀)'''には奈良県御所市の南郷遺跡から牛骨が出土しており、最古の資料とされる。 |
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− | [[日本列島]]では[[東京都]][[港区 (東京都)|港区]]の[[伊皿子貝塚]]から[[弥生時代]]の牛骨が出土したとされるが、後代の混入の可能性も指摘される<ref name="Nishimoto">西本豊弘「ウシ」『事典 人と動物の考古学』(吉川弘文館、2010年)、p.162</ref>。日本のウシは、中国大陸から持ち込まれたと考えられている。[[古墳時代]]前期にも確実な牛骨の出土はないが、牛を形象した[[埴輪]]が存在しているため、この頃には飼育が始まっていたと考えられている{{r|Nishimoto}}。古墳後期(5世紀)には[[奈良県]][[御所市]]の南郷遺跡から牛骨が出土しており、最古の資料とされる{{r|Nishimoto}}。
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− | 当初から日本では役畜や[[牛車#日本の牛車|牛車]]の牽引としての使用が主であったが、牛肉も食されていたほか、[[角|牛角]]・[[牛皮]]や[[骨髄]]の利用も行われていたと考えられている。[[675年]]に[[天武天皇]]は、牛、馬、犬、猿、鶏の肉食を禁じた。禁止令発出後もウシの肉はしばしば食されていたものの、禁止令は以後も[[鎌倉時代]]初期に至るまで繰り返して発出され<ref>『肉の科学』 沖谷明紘編、朝倉書店、1996年5月20日、初版第1刷。8頁。</ref>、やがて肉食は農耕に害をもたらす行為とみなされ、肉食そのものが[[穢れ]]であるとの考え方が広がり、牛肉食はすたれていった。[[8世紀]]から[[10世紀]]ごろにかけては酪や、[[蘇]]、[[醍醐]]といった乳製品が製造されていたが、朝廷の衰微とともに製造も途絶え、以後日本では[[明治時代]]に至るまで乳製品の製造・使用は行われなかった。
| + | 当初から日本では役畜や牛車の牽引としての使用が主であったが、牛肉も食されていたほか、牛角・牛皮や骨髄の利用も行われていたと考えられている。675年に天武天皇は、牛、馬、犬、猿、鶏の肉食を禁じた。禁止令発出後もウシの肉はしばしば食されていたものの、禁止令は以後も鎌倉時代初期に至るまで繰り返して発出され<ref>『肉の科学』 沖谷明紘編、朝倉書店、1996年5月20日、初版第1刷。8頁。</ref>、やがて肉食は農耕に害をもたらす行為とみなされ、肉食そのものが穢れであるとの考え方が広がり、牛肉食はすたれていった。8世紀から10世紀ごろにかけては酪や、蘇、醍醐といった乳製品が製造されていたが、朝廷の衰微とともに製造も途絶え、以後日本では明治時代に至るまで乳製品の製造・使用は行われなかった。 |
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− | また、広島県の[[草戸千軒町遺跡]]出土の頭骨のない牛の出土事例などから頭骨を用いた祭祀用途も想定されており、馬が特定の権力者と結びつき丁重に埋葬される事例が見られるのに対し、牛の埋葬事例は見られないことが指摘されている。
| + | また、広島県の草戸千軒町遺跡出土の頭骨のない牛の出土事例などから頭骨を用いた祭祀用途も想定されており、馬が特定の権力者と結びつき丁重に埋葬される事例が見られるのに対し、牛の埋葬事例は見られないことが指摘されている。 |
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− | 古代の日本では総じて牛より馬の数が多かった<ref>松井章 「狩猟と家畜」『暮らしと生業』 上原真人・白石太一郎・吉川真司・吉村武彦編、岩波書店〈列島の古代史〉第2巻、2005年10月。ISBN 4000280627。196頁。</ref>。平安時代の『[[延喜式]]』では、東国すべての国で蘇が貢納されており、牛の分布の地域差は大きくなかったようである{{sfn|市川|2010|pp=4-5}}。ところが中世に入ると馬は東国、牛は西国という地域差が生まれた。東国では[[武士団]]の勃興に伴い馬が主体の家畜構成になったと考えられている{{sfn|市川|2010|p=7}}。東西の地域差は明治時代のはじめまで続いており、明治初期の統計では、[[伊勢湾]]と[[若狭湾]]を結ぶ線を境として東が馬、西が牛という状況が見て取れる{{sfn|市川|2010|pp=5-6}}。 | + | 古代の日本では総じて牛より馬の数が多かった<ref>松井章 「狩猟と家畜」『暮らしと生業』 上原真人・白石太一郎・吉川真司・吉村武彦編、岩波書店〈列島の古代史〉第2巻、2005年10月。ISBN 4000280627。196頁。</ref>。平安時代の『延喜式』では、東国すべての国で蘇が貢納されており、牛の分布の地域差は大きくなかったようである<ref>市川, 2010, pp4-5</ref>。ところが中世に入ると馬は東国、牛は西国という地域差が生まれた。東国では武士団の勃興に伴い馬が主体の家畜構成になったと考えられている<ref>市川, 2010, p7</ref>。東西の地域差は明治時代のはじめまで続いており、明治初期の統計では、伊勢湾と若狭湾を結ぶ線を境として東が馬、西が牛という状況が見て取れる<ref>市川, 2010, pp5-6</ref>。 |
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− | 牛肉食は公的には禁忌となったものの、実際には細々と食べ続けられていたと考えられている。[[戦国時代 (日本)|戦国時代]]には[[ポルトガル]]の[[宣教師]]たちによって牛肉食の習慣が一部に持ち込まれ、[[キリシタン大名]]の[[高山右近]]らが牛肉を振舞ったとの記録もある<ref>本山荻舟 『飲食事典』 平凡社、1958年12月25日、160頁。</ref>ものの、禁忌であるとの思想を覆すまでにはいたらず、キリスト教が排斥されるに伴い牛肉食は再びすたれた。[[江戸時代]]には生類憐みの令によってさらに肉食の禁忌は強まったが、大都市にあった[[ももんじ屋]]と呼ばれる獣肉店ではウシも販売され、また[[彦根藩]]は幕府への献上品として牛肉を献上しているなど、まったく途絶えてしまったというわけではなかった<ref>原田信男編著 『江戸の料理と食生活:ヴィジュアル日本生活史』 小学館、2004年6月20日第1版第1刷、87頁。</ref>。しかし、日本においてウシの主要な用途はあくまでも役牛としての利用であり続けた。
| + | 牛肉食は公的には禁忌となったものの、実際には細々と食べ続けられていたと考えられている。戦国時代にはポルトガルの宣教師たちによって牛肉食の習慣が一部に持ち込まれ、キリシタン大名の高山右近らが牛肉を振舞ったとの記録もある<ref>本山荻舟 『飲食事典』 平凡社、1958年12月25日、160頁。</ref>ものの、禁忌であるとの思想を覆すまでにはいたらず、キリスト教が排斥されるに伴い牛肉食は再びすたれた。江戸時代には生類憐みの令によってさらに肉食の禁忌は強まったが、大都市にあったももんじ屋と呼ばれる獣肉店ではウシも販売され、また彦根藩は幕府への献上品として牛肉を献上しているなど、まったく途絶えてしまったというわけではなかった<ref>原田信男編著 『江戸の料理と食生活:ヴィジュアル日本生活史』 小学館、2004年6月20日第1版第1刷、87頁。</ref>。しかし、日本においてウシの主要な用途はあくまでも役牛としての利用であり続けた。 |
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| 日本においてウシが公然と食されるようになるのは[[明治時代]]である。[[文明開化]]によって欧米の文化が流入する中、欧米の重要な食文化である牛肉食もまた流れ込み、[[銀座]]において[[牛鍋]]屋が人気を博すなど、次第に牛肉食も市民権を得ていった。また、乳製品の利用・製造も復活した。 | | 日本においてウシが公然と食されるようになるのは[[明治時代]]である。[[文明開化]]によって欧米の文化が流入する中、欧米の重要な食文化である牛肉食もまた流れ込み、[[銀座]]において[[牛鍋]]屋が人気を博すなど、次第に牛肉食も市民権を得ていった。また、乳製品の利用・製造も復活した。 |
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− | == 文化と宗教 ==
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− | {{See also|en:Cattle in religion}}
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− | 人間に身近で、印象的な角を持つ大型家畜である牛は、世界各地で信仰対象や動物に関連する様々な民俗・文化のテーマになってきた。
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− | [[古代エジプト]]人は[[オシリス]]、[[ハトホル]]信仰を通して雄牛(ハピ、ギリシャ名ではアピス)を聖牛として崇め、[[エジプト初期王朝時代|第一王朝]]時代(紀元前2900年ごろ)には「ハピの走り」と呼ばれる行事が行われていた<ref name="Fagan">ブライアン・フェイガン『人類と家畜の世界史』東郷えりか訳 河出書房新社 2016年、ISBN 9784309253398 pp.120-125.</ref>。創造神[[プタハ]]の化身としてアピス牛信仰は古代エジプトに根を下ろし、[[ラムセス2世]]の時代にはアピス牛のための地下墳墓[[セラペウム]]が建設された<ref name="Fagan"/>。聖牛の特徴とされる全身が黒く、額に白い菱形の模様を持つウシが生まれると生涯神殿で手厚い世話を受け、死んだ時には国中が喪に服した。一方、普通のウシは食肉や労働力として利用されていたことが壁画などから分かっている。
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− | 主にインドで信仰されている[[ヒンドゥー教]]では牛(特に[[コブウシ]])を神聖視している([[スイギュウ]]はそうではない)。このためインドは牛の飼育頭数は多いものの、牛肉食を忌避する国民が多い。インドでは従来も州により、牛肉の扱いを規制していた。2017年5月26日にはインド連邦政府が、食肉処理を目的とした家畜市場における牛の売買を禁止する法令を出した。これに対して、[[ムスリム|イスラム教徒]]や[[世俗主義]]者から「食事の選択権に対する侵害」として反対運動や訴訟が起き<ref>{{Cite news|url=https://www.sankei.com/article/20170530-E73SSIK34RO5HARHJ6NWQQ5LKU/|title=インド政府、「牛の幸福のため」牛肉規制 家畜市場での肉牛売買禁止、一部の州やイスラム教徒は反発|work=|publisher=[[産経新聞]]ニュース|date=2017年5月30日}}</ref>、インド最高裁判所は7月11日に法令差し止めを決めた<ref>{{Cite news|url=https://www.sankei.com/article/20170711-GMXZBG6PGJPHTBSFA2RYF273SE/|title=牛売買禁止令を差し止め インド最高裁 モディ政権に打撃|work=|publisher=[[産経新聞]]ニュース|date=2017年7月11日}}</ref>。インドでは牛肉を売ったり、食べたりしたと思われた人が殺害される事件も起きている<ref>{{Cite news|url=https://www.sankei.com/article/20170706-3OWBECV5DJNXBN3ZPO2QD6EZ4Q/|title=インドで「牛肉殺人」多発 モディ首相「誰も牛の名のもとに人を殺してはならない」|work=|publisher=[[産経新聞]]ニュース|date=2017年7月6日}}</ref>。
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− | 日本でも牛(丑)は[[十二支]]の鳥獣に入っているほか、[[牛頭天王]]のような神や、[[牛鬼]]など[[妖怪]]のモチーフになっている。また、身近にいる巨大な哺乳類であることから、その種の中で大きい体格を持つ生き物の和名に用いられることがある([[ウシエビ]]、[[ウシガエル]]、ウシアブなど)。
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− | === 紋章 ===
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− | {{See also|{{lang|pl|[[:en:Ciołek coat of arms]]}}}}
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− | 牛が[[紋章]]に描かれることは一般的である。
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− | ファイル:Stemma di Torino (CoA of Turin).svg|{{center|[[トリノ]](イタリア)の紋章}}
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− | ファイル:Coat of arms of Kaunas.svg|{{center|[[カウナス]](リトアニア)の紋章}}
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− | ファイル:POL Bielsk Podlaski COA.svg|{{center|[[:en:Bielsk Podlaski|Bielsk Podlaski]](ポーランド)の紋章}}
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− | ファイル:POL Turek COA PioM.svg|{{center|[[:en:Turek, Poland|Turek]](ポーランド)の紋章}}
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− | </gallery>
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− | == 環境問題 ==
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− | ウシは[[反芻動物]]であり、反芻を繰り返すことにより、飼料を微生物が分解し[[メタンガス]]が発生する。これは[[地球温暖化]]の深刻な一因と言われており<ref>{{Cite web |url=https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202111080000142.html|title=世界に15億頭…牛のげっぷは地球温暖化の促進要因、世界が行う対策とは|publisher=日刊スポーツ|date=2021-11-08|accessdate=2021-11-08}}</ref>、[[アメリカ]]ではメタンの総発生量の26パーセントが牛のげっぷによるものである<ref name="geppu">{{Cite news |url=http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/080600217/ |title=3NOPが牛のげっぷ中のメタンを3割減らす |work= |publisher=[[ナショナルジオグラフィック (雑誌)|ナショナルジオグラフィック]] |date=2015-08-10 }}</ref>。[[3-ニトロオキシプロパノール]](3NOP)と呼ばれる成分を餌に混ぜるなどしてげっぷを少なくする研究が進んでいる{{r|geppu}}。
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− | == 慣用句 ==
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− | * 「牛にひかれて善光寺参り」 - 人に連れられて思いがけず行くこと。昔、老婆がさらしておいた[[布]]を牛が引っ掛けて[[善光寺]]に駆け込んだので、追いかけた老婆はそこが[[霊場]]であることを知り、以後たびたび[[参詣]]したという[[伝説]]から。
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− | * 「牛の歩み(牛歩)」 - 進みの遅いことの[[転義法|譬え]]。
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− | ** [[牛歩戦術]]
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− | * 「牛の角を蜂が刺す」 - 牛の硬い角には[[ハチ|蜂]]の[[ハチ#毒針|毒針]]も刺さらないことから、何とも感じないこと。
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− | * 「牛の寝た程」 - 物の多くあるさまの形容。
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− | * 「牛は牛づれ(馬は馬づれ)」 - 同じ仲間同士は一緒になり、釣り合いが取れるということ。
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− | * 「牛は水を飲んで乳とし、蛇は水を飲んで毒とす」 - 同じものでも使い方によっては薬にも毒にもなることの譬え。
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− | * 「牛も千里、馬も千里」 - 遅いか早いかの違いはあっても、行き着くところは同じということ。
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− | * 「牛を売って牛にならず」 - 見通しを立てずに買い換え、損することの譬え。
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− | * 「牛飲馬食」 - 牛や馬のように、たくさん飲み食いすること。「鯨飲馬食」ともいう。
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− | * 「牛耳る(牛耳を執る)」 - 団体・集団の指導者となって指揮を執ること。
| |
− | * 「商いは牛の涎」 - 細く長く垂れる牛の[[唾液|涎]]({{small|よだれ}})のように、商売は気長に辛抱強くこつこつ続けることがコツだという譬え。
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− | * 「[[wikt:角を矯めて牛を殺す|角を矯めて牛を殺す]]」- 些細な欠点を矯正しようとして却って全体を台無しにすること。
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− | * 「[[wikt:九牛の一毛|九牛の一毛]]」 - 非常に多くの中の極めて少ないもの。
| |
− | * 「暗がりから牛」 - 物の区別がはっきりしないこと。あるいはぐずぐずしていることの譬え。
| |
− | * 「鶏口となるも牛後となるなかれ(牛の尾より鶏の口、鶏口牛後)」 - 大集団の下っ端になるより小集団でも指導者になれということ。人の下に甘んじるのを戒める、もしくは、小さなことで満足するを否とする言葉。
| |
− | * 「牛なし、帽子ばっかり({{lang|en|all hat and no cattle}})」ファッションで[[テンガロンハット|カウボーイの帽子]]をかぶっていても、牛は持っていない。見かけだおし、格好だけの人のこと。[[テキサス州]]の慣用表現。
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− | == 符号位置 ==
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− | {| class="wikitable" style="text-align:center"
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− | !記号!![[Unicode]]!![[JIS X 0213]]!![[文字参照]]!!名称
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− | {{CharCode|128004|1F404|-|COW|font=絵文字フォント}}
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− | |}
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− | == 脚注 ==
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− | {{脚注ヘルプ}}
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− | === 注釈 ===
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− | {{Notelist}}
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− | === 出典 ===
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− | {{Reflist|2}}
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| | | |
| == 参考文献 == | | == 参考文献 == |
− | * {{Cite book |和書 |author=ブリュノ・ロリウー |date=2003-10 |title=中世ヨーロッパ食の生活史 |translator=吉田春美 |publisher=原書房 |isbn= |ref={{SfnRef|ロリウー|2003}} }} | + | * Wikipedia:ウシ(最終閲覧日:23-01-17) |
− | * {{Cite book |和書 |author=市川健夫 |author2=市川健夫先生著作集刊行会 |title=牛馬と人の文化誌 |series=日本列島の風土と文化:市川健夫著作選集 |volume=3 |publisher=第一企画 |date=2010 |isbn=978-4-90-267615-0 |ref={{SfnRef|市川|2010}} }} | + | ** ブリュノ・ロリウー, 2003-10, 中世ヨーロッパ食の生活史, 吉田春美, 原書房 |
− | *: 初出は『地理』第20巻第11号、1975年11月、「文化地理の指標としての家畜」。 | + | ** 市川健夫, 市川健夫先生著作集刊行会, 牛馬と人の文化誌, 日本列島の風土と文化:市川健夫著作選集, volume3, 第一企画, 2010, isbn:978-4-90-267615-0 |
− | * {{Cite book |和書 |title=品種改良の世界史 家畜編 |editor=正田陽一 |publisher=悠書館 |date=2010-11 |author=松川正 |isbn=978-4-90-348740-3 |ref={{SfnRef|松川|2010}} }} | + | ** 初出は『地理』第20巻第11号、1975年11月、「文化地理の指標としての家畜」。 |
| + | ** 品種改良の世界史 家畜編, 正田陽一, 悠書館, 2010-11, 松川正, isbn:978-4-90-348740-3 |
| | | |
| == 関連項目 == | | == 関連項目 == |
− | * [[役肉用牛]]
| |
− | * [[役用牛]]
| |
− | * [[米国産牛肉]]
| |
− | * [[枝肉]]
| |
− | * [[牛枝肉取引規格]]
| |
− | * [[国産牛]]
| |
− | * [[系統牛]]
| |
− | * [[牛飯]]([[牛丼]])
| |
− | * [[牛海綿状脳症]](狂牛病、BSE)
| |
− | ** [[肉骨粉]]
| |
− | ** [[化製場]]
| |
− | * [[牛痘]]
| |
− | * [[口蹄疫]]
| |
− | * [[牧場]]
| |
− | * [[牧牛]]
| |
− | * [[イベルメクチン]]
| |
− | * [[牛飼い]]
| |
− | * [[牛市]]
| |
− | * [[牛小屋]]
| |
− | * [[鼻輪]]
| |
− | * [[丑]](十二支)
| |
− | * [[おうし座]]・[[うしかい座]]
| |
− | * [[牛祭り]]
| |
− | * [[赤べこ]]
| |
| * [[牛頭天王]] | | * [[牛頭天王]] |
| * [[牛頭馬頭|牛頭鬼]](ごずき) | | * [[牛頭馬頭|牛頭鬼]](ごずき) |
| * [[ミーノータウロス|ミノタウロス]] | | * [[ミーノータウロス|ミノタウロス]] |
− | * [[件]](くだん)
| |
− | * [[牛宿]]・[[牽牛]]
| |
− | * [[木牛]]
| |
− | * [[トレーサビリティ (流通)]]
| |
− | * [[闘牛]]([[牛の角突き]])
| |
− | * [[エルム・ファーム・オーリー]]
| |
− | * [[奥州市牛の博物館]]
| |
| | | |
| == 外部リンク == | | == 外部リンク == |
| * [http://www.city.oshu.iwate.jp/htm/ushi/ 牛の博物館] | | * [http://www.city.oshu.iwate.jp/htm/ushi/ 牛の博物館] |
− | * {{ウェブアーカイブ |url=http://www.jinjahoncho.or.jp/column/000023.html |title=丑のはなし - 神社本庁 |deadlink=yes |archivedate=2014-02-26 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20140226091944/http://www.jinjahoncho.or.jp/column/000023.html}} | + | * http://www.jinjahoncho.or.jp/column/000023.html, 丑のはなし - 神社本庁, 2014-02-26, https://web.archive.org/web/20140226091944/http://www.jinjahoncho.or.jp/column/000023.html |
| + | |
| + | == 注釈 == |
| + | <references group="注釈"/> |
| + | |
| + | == 参照 == |
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ウシ(牛)は、哺乳綱鯨偶蹄目ウシ科ウシ亜科の動物である。野生のオーロックスが、人類によって家畜化されて生まれた。但し、アメリカ哺乳類学会では、ウシ、オーロックス、コブウシをそれぞれ独立した種として分類している。
「ウシ」は、狭義では特に(種レベルで)家畜種のウシ(学名:Bos taurus)を指す。一方、やや広義では、ウシ属 (genus, Bos)を指し、そこにはバンテンなどの野生牛が含まれる。さらに広義では、ウシ亜科 (subfamilia,
Bovinae) の総称である。すなわち、アフリカスイギュウ属、アジアスイギュウ属、ウシ属、バイソン属などを指す。これらは牛と認められる共通の体形と特徴を持つ。大きな胴体、短い首と一対の角、胴体と比べて短めで前後にだけしか動けない脚、軽快さの乏しい比較的鈍重な動き、などが特徴である。ウシと比較的近縁の動物としては、同じウシ亜目(反芻亜目)にキリン類やシカ類、また、同じウシ科の仲間としてヤギ、ヒツジ、レイヨウなどがあるが、これらが牛と混同されることはまずない
以下ではこのうち、上記の狭義である「家畜ウシ」について解説する。
ウシは、伝統的には牛肉食文化が存在しなかった地域においては、例えば漢字文化圏における「牛」ないし十二支の配分である「丑(うし)」のように、単一語で総称されてきた。これに対し、古くから牛肉食や酪農を目的とする家畜としての飼育文化や放牧が長く行われてきた西洋地域(例えば、主に英語圏など商業的牛肉畜産業が盛んな地域)においては、ウシの諸条件(性別、避妊・去勢の有無、食肉用、乳牛、等)によって多種多様な呼称をもつ傾向がある。
21世紀初期には欧米由来の食文化のグローバル化が進展し、宗教的理由から牛肉食がタブーとされている地域を除いては、牛肉食文化の世界的拡散が顕著である。特に商業畜産的要因から、現代の畜産・肥育・流通現場においては世界各地で細分化された名称が用いられる傾向がある。
宗教・文化・雄牛[編集]
人間に身近で、印象的な角を持つ大型家畜である牛は、世界各地で信仰対象や動物に関連する様々な民俗・文化のテーマになってきた。農耕を助ける貴重な労働力である牛を殺して神に供える犠牲獣とし、そこから転じて牛そのものを神聖な生き物として崇敬することは、古代より永くに亘って広範な地域で続けられてきた信仰である。
ロッパ族
大地の母が三匹の神牛を生んだ。長男は火神牛、次男は鉄神牛、三男は土神牛で、お互いに争った。ある時火神牛が鉄神牛を飲み込んだ。鉄神牛が死んだ後その毛は草木に変化し、骨は石や山脈に、血液は河に、内臓は動物や昆虫になった[1]。
- 盤古:盤牛王と牛に例えられることがある。
- 炎帝:人身牛首の姿をしていた、とされる。
- 蚩尤:人の身体に牛の頭と鳥の蹄を持つなどとされる。
エジプト[編集]
古代エジプト人はオシリス、ハトホル信仰を通して雄牛(ハピ(水神)、ギリシャ名ではアピス)を聖牛として崇め、第一王朝時代(紀元前2900年ごろ)には「ハピの走り」と呼ばれる行事が行われていた[2]。創造神プタハの化身としてアピス牛信仰は古代エジプトに根を下ろし、ラムセス2世の時代にはアピス牛のための地下墳墓セラペウムが建設された[2]。聖牛の特徴とされる全身が黒く、額に白い菱形の模様を持つウシが生まれると生涯神殿で手厚い世話を受け、死んだ時には国中が喪に服した。一方、普通のウシは食肉や労働力として利用されていたことが壁画などから分かっている。
インド[編集]
インダス文明でも牛が神聖視されていた可能性がある。主にヒンドゥー教では牛(特にコブウシ)を神聖視している(スイギュウはそうではない)。牛は敬われ、食のタブーとして肉食されることはない。
ムガル帝国時代より続くヒンドゥー教の祭事「ゲーイ・ガウーリ」(ディーワーリーの期間中に行われる祭事の一つ)など、過激な伝統行事も世界にはある。
スペイン[編集]
興奮した牛の群れにあえて追われるスペインなどラテン文化圏の祭事「エンシエロ」がある。
日本の東北地方では牛をべこと呼ぶ。牛の鳴き声(べー)に、「こ」をつけたことによる。地方によっては「べご」「べごっこ」とも呼ぶ。
柳田國男によれば、日本語では牡牛が「ことひ」、牝牛が「おなめ」であった。また、九州の一部ではシシすなわち食肉とされていたらしく、「タジシ(田鹿)」と呼ばれていた[3]。
牛(丑)は十二支の鳥獣に入っているほか、牛頭天王のような神や、牛鬼など妖怪のモチーフになっている。また、身近にいる巨大な哺乳類であることから、その種の中で大きい体格を持つ生き物の和名に用いられることがある(ウシエビ、ウシガエル、ウシアブなど)。
宗教・文化・雌牛[編集]
- モリガン:ケルト神話の女神。モリガンはクー・フーリンに傷を負わせられるが、モリガンが差し出したミルクをクー・フーリンが飲むと、彼女の傷は癒えた。
慣用句[編集]
- 「牛にひかれて善光寺参り」 - 人に連れられて思いがけず行くこと。昔、老婆がさらしておいた布を牛が引っ掛けて善光寺に駆け込んだので、追いかけた老婆はそこが霊場であることを知り、以後たびたび参詣したという伝説から。
- 「牛の歩み(牛歩)」 - 進みの遅いことの譬え。
- 「牛の角を蜂が刺す」 - 牛の硬い角には蜂の毒針も刺さらないことから、何とも感じないこと。
- 「牛の寝た程」 - 物の多くあるさまの形容。
- 「牛は牛づれ(馬は馬づれ)」 - 同じ仲間同士は一緒になり、釣り合いが取れるということ。
- 「牛は水を飲んで乳とし、蛇は水を飲んで毒とす」 - 同じものでも使い方によっては薬にも毒にもなることの譬え。
- 「牛も千里、馬も千里」 - 遅いか早いかの違いはあっても、行き着くところは同じということ。
- 「牛を売って牛にならず」 - 見通しを立てずに買い換え、損することの譬え。
- 「牛飲馬食」 - 牛や馬のように、たくさん飲み食いすること。「鯨飲馬食」ともいう。
- 「牛耳る(牛耳を執る)」 - 団体・集団の指導者となって指揮を執ること。
- 「商いは牛の涎」 - 細く長く垂れる牛の涎(よだれ)のように、商売は気長に辛抱強くこつこつ続けることがコツだという譬え。
- 「角を矯めて牛を殺す」- 些細な欠点を矯正しようとして却って全体を台無しにすること。
- 「九牛の一毛」 - 非常に多くの中の極めて少ないもの。
- 「暗がりから牛」 - 物の区別がはっきりしないこと。あるいはぐずぐずしていることの譬え。
- 「鶏口となるも牛後となるなかれ(牛の尾より鶏の口、鶏口牛後)」 - 大集団の下っ端になるより小集団でも指導者になれということ。人の下に甘んじるのを戒める、もしくは、小さなことで満足するを否とする言葉。
- 「牛なし、帽子ばっかり(all hat and no cattle)」ファッションでカウボーイの帽子をかぶっていても、牛は持っていない。見かけだおし、格好だけの人のこと。テキサス州の慣用表現。
家畜としてのウシ[編集]
食用等[編集]
家畜であるウシは、畜牛(ちくぎゅう)といい、その身体を食用や工業用などと多岐にわたって利用される。肉を得ることを主目的として飼養される牛を肉牛(にくぎゅう)というが、肉牛ばかりが食用になるわけでもない。牛の肉を、日本語では牛肉(ぎゅうにく)という。仔牛肉以外は外来語でビーフともいう。家畜の内臓は、畜産副産物の一つという扱いになる。日本では「もつ」あるいは「ホルモン」と呼んで食用にする。世界には食用でなくとも、内臓を様々に利用する文化がある。仔牛肉/子牛肉(こうしにく)は特に区別されていて、月齢によって「ヴィール」「カーフ」と呼び分ける。牛の脂肉を食用に精製した脂肪は牛脂(ぎゅうし)もしくはヘットという。
牛の骨すなわち牛骨(ぎゅうこつ)は、加工食品の原料や料理の食材になるほか、肥料や膠にも利用できる。ただ、ヒンドゥー教では、牛の命の消費全般をタブーとしているため、牛膠もまた、その宗教圏および信仰者においては絵画を始めとする物品の一切に用いるべきでないものとされている。牛の骨油である牛骨油(ぎゅうこつゆ)は、食用と工業用に回される。工業用牛骨油の主な用途は石鹸と蝋燭である。
牛の皮膚すなわち牛皮(ぎゅうひ、ぎゅうかわ、うしがわ)は、鞣しの工程を経て牛革に加工され、衣服(古代人の上着・ベルト・履物などから現代人の革ジャンやレーシングスーツまで)、武具(牛革張りの盾や刀剣の鞘や兜、牛革のレザーアーマーなど)、鞄など収納道具、装飾品(豪華本の表装などを含む)、調度品(革張りのソファなど)、その他の材料になる。ここでも仔牛は特に区別されており、皮革の材料としての仔牛、および、その皮革を、仔牛と同じ語でもって「カーフ」と呼ぶ。
牛乳(ぎゅうにゅう)やその加工品を得ることを主目的として飼養される牛は、乳牛(にゅうぎゅう)という。
牛糞(ぎゅうふん、うしくそ)は、肥料として広く利用されるほか、燃料や建築材料として利用する地域も少なくない(後述)。
使役動物としての牛は役牛(えきぎゅう)といい、古来から、自動車に置き換わるまで先進国においても近年まで、馬とともに人類に広く利用されてきた。農耕用と、直接の乗用も含む人および物品の運搬用の、動力としての利用が主である。農耕のための牛は耕牛(こうぎゅう)という。運搬用というのは主に牛車(ぎゅうしゃ、うしぐるま)[注釈 1]用であるが、古来中国などではそれに限らない。
土壌改良[編集]
痩せた土地に家畜を放し、他所から運び込んだ自然の飼料で飼養することによって土壌改良を図る方法があり、体格が大きく餌の摂取量も排泄量も多い牛は、このような目的をもった放牧に打ってつけの家畜でもある。
牛を娯楽に利用する文化は、世界を見渡せば散見される。牛同士を闘わせるのは、アジアの一部の国・地域(日本、朝鮮、オマーンなど)における伝統的娯楽で、これを闘牛(とうぎゅう)という。暴れ牛と剣士を闘わせるのは、西ゴート王国に始まり、イベリア半島を中心に伝統的に行われてきたブラッドスポーツの一種で、これも日本語では闘牛という。暴れ牛と闘う剣士を闘牛士というが、対等の闘いではなく、絶対的有利な立場にある剣士が華麗な身のこなしと殺しを披露する見世物である。18世紀ごろのイギリスでは、牡牛と犬を闘わせる見世物として「牛いじめ(ブルベイティング、英:bullbaiting)」が流行し、牡牛(ブル)と闘うよう品種改良された犬、すなわち「ブルドッグ」が、現在のブルドッグの原形として登場した。このブラッドスポーツは残酷だとして1835年に禁止され、姿を消している。危険な暴れ牛や暴れ馬の背に乗ってみせるのは、北アメリカで発祥したロデオで、競技化しており、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、および、南アメリカの幾つかの国で盛んに興行が打たれている。
外科的処置と動物福祉[編集]
雄牛を去勢しないで肥育した場合、キメが粗くて硬く、消費者に好まれない牛肉に仕上がる。また去勢しない雄牛を牛舎内で群飼すると、牛同士の闘争が激しくなり、ケガが発生しやすく肉質の低下にもつながる。こういった理由から、肉用に飼育されるオスは一般的に去勢される。去勢の方法は、陰嚢を切開して、精索と血管を何度か捻りながら、引いてちぎる観血去勢法、皮膚の上からバルザックやゴムリングを用いて挫滅、壊死させる無血去勢法が一般的で、特別な場合を除いて、麻酔は行われない。日本も加盟するOIEの肉用牛の動物福祉規約[4]には3ヶ月齢より前に実施することが推奨されているが、日本の肉牛の90.9%は3ヵ月以上で去勢されている。観血去勢では術中や術後の消毒不足や敷料等が傷口に入ることで化膿や肉芽腫の形成等が見られることがある[5]。
肉は牛肉として、また乳は牛乳として、それぞれ食用となる。食用は牛の最も重要な用途であり、肉・乳ともに人類の重要な食料供給源の一つとなってきた。牛乳も牛肉も、そのまま食用とされるだけでなく、乳製品や各種食品などに加工される原料となることも多い。
年老いて乳の出が悪くなった乳牛の経産牛は、肉質は硬くなって低下し、体も痩せ細ってしまう[6]。21世紀初期の日本の場合、こういった個体は廃用牛の扱いを受け、安値でペットフード用など人間向けの食用以外に回されるのが一般的である。しかし、再肥育して肉質を高めることで[注釈 2]人間向けの食用牛としての市場価値を“再生”させることに成功している業者もいるにはいる。
胆石は牛黄(ごおう)という生薬で、漢方薬の薬材[注釈 3]。解熱、鎮痙、強心などの効能がある。救心、六神丸などの、動悸・息切れ・気付けを効能とする医薬品の主成分となっている。日本薬局方に収録されている生薬である。
牛の胆石は、人為的ではない状態では千頭に一頭の割合でしか発見されない、と言われていたため[7]、大規模で食肉加工する設備を有する国が牛黄の主産国となっている。オーストラリア、アメリカ、ブラジル、インドなどの国がそうである。ただし、BSEの問題で北米産の牛黄は事実上、使用禁止となっていることと、中国需要の高まりで、牛黄の国際価格は上げ基調である。
現在では、牛を殺さずに胆汁を取り出して体外で結石を合成したり、外科的手法で牛の胆嚢内に結石の原因菌を注入して確実に結石を生成させる、「人工牛黄」または「培養牛黄」が安価な生薬として普及しつつある。
糞は肥料にされる。与えられた飼料により肥料成分は異なってくるが、総じて肥料成分は低い。肥料としての効果よりも、堆肥のような土壌改良の効果の方が期待できる。また、堆肥化して利用することも多い。園芸店などで普通に市販されている。
乾燥地域では牛糞がよく乾燥するため、燃料に使われる。森林資源に乏しいモンゴル高原では、牛糞は貴重な燃料になる。またエネルギー資源の多様化の流れから、牛糞から得られるメタンガスによるバイオマス発電への利用などが模索されており、スウェーデンなどでは実用化が進んでいる。
また、インドなどの発展途上国では牛糞を円形にして壁に貼り付け、一週間ほど乾燥させて牛糞ケーキを作製し、燃料として用いている(匂いもなく、火力も強い)[8]。
アフリカなどでは住居内の室温の上昇を避けるために、牛糞を住居の壁や屋根に塗ることがある。
水彩画では胆汁をぼかし・にじみ用の界面活性剤として用いる。
タウリン(taurine)は牛の胆汁から発見されたため、ラテン語で雄牛を意味する「タウルス(taurus)」から命名された。
ウシは新石器時代に西アジアとインドで野生のオーロックスが別個に家畜化されて生まれた。学説としては、西アジアで家畜化されたものが他地域に広がったという一元説が長く有力であった[9][10]。ところが、1990年代になされたミトコンドリアDNAを使った系統分析で、現生のウシがインド系のゼブ牛と北方系のタウルス牛に大きく分かれ、その分岐時期が20万年前から100万年前と推定された。これは、せいぜい1万年前とされるウシの家畜化時期よりはるかに古い。そこで、オーロックスにもとからあった二系統が、人類によって別々に家畜化された結果、今あるゼブ牛、タウルス牛となったという二元説が広く支持されている[11][12]。
ウシは、亜種関係のゼブ牛・タウルス牛の間はもとより、原種のオーロックスとも問題なく子孫を残せるので、家畜化された後に各地で交雑が起こった。遺伝子分析によれば、ヨーロッパの牛にはその地のオーロックスの遺伝子が入り込んでいる。東南アジアとアフリカの牛は、ゼブ牛とタウルス牛の子孫である[13]。さらに、東南アジア島嶼部のウシには、別種だがウシとの交雑が可能なこともあるバンテンの遺伝子が認められる[14]。
ウシの家畜化は、ヤギやヒツジと比べて遅れた。オーロックスは獰猛で巨大な生物であったので、小型の動物で飼育に習熟してはじめて家畜化に成功したと考えられている。しかしいったん家畜化されると、ウシはその有用性によって牧畜の中心的存在となった。やがて成立したエジプト文明やメソポタミア文明、インダス文明においてウシは農耕用や牽引用の動力として重要であり、また各種の祭式にも使用された。紀元前6世紀初頭にはメソポタミアにおいてプラウ(犁)が発明され、その牽引力としてウシはさらに役畜としての重要度を増した。このプラウ使用はこれ以降の各地の文明にも伝播した。
ウシはやがて世界の各地へと広がっていった。ヨーロッパではウシは珍重され、最も重要な家畜とされていた。8世紀後半ごろには車輪付きのプラウが開発され、またくびきの形に改良が加わることで牽引力としての牛はさらに重要となった[15]。牛肉はヨーロッパ全域で食用とされ、中世の食用肉のおよそ3分の2は牛肉で占められていた[16]。ヨーロッパ北部では食用油脂の中心はバターであり、また牛乳も盛んに飲用された[17]。ヨーロッパ南部では食用油脂の中心はオリーブオイルであり、牛乳の飲用もさほど盛んでなかったが、牛肉は北部と比べ盛んに食用とされた[18]。
アフリカにおいてはツェツェバエの害などによって伝播が阻害されたものの、紀元前1500年ごろにはギニアのフータ・ジャロン山地でツェツェバエに耐性のある種が選抜され[19]、西アフリカからヴィクトリア湖畔にかけては紀元前500年頃までにはウシの飼育が広がっていた[20]。インドにおいてはバラモン教時代はウシは食用となっていたが、ヒンドゥー教への転換が進む中でウシが神聖視されるようになり、ウシの肉を食用とすることを禁じるようになった。しかし、乳製品や農耕用としての需要からウシは飼育され続け、世界有数の飼育国であり続けることとなった。
新大陸にはオーロックスが存在せず、1494年にクリストファー・コロンブスによって持ち込まれたのが始まりである。新大陸の気候風土にウシは適合し、各地で飼育されるようになった[21]。とくにアルゼンチンのパンパにおいては、持ち込まれた牛の群れが野生化し、19世紀後半には1,500万頭から2,000万頭にも達した。このウシの群れに依存する人々はガウチョと呼ばれ、アルゼンチンやウルグアイの歴史上重要な役割を果たしたが、19世紀後半にパンパ全域が牧場化し野生のウシの群れが消滅すると姿を消した。北アメリカ大陸においてもウシは急速に広がり、19世紀後半には大陸横断鉄道の開通によってウシを鉄道駅にまで移送し市場であるアメリカ東部へと送り出す姿が見られるようになった。この移送を行う牧童はカウボーイと呼ばれ、ウシの大規模陸送がすたれたのちもその独自の文化はアメリカ文化の象徴となっている。
1880年代には冷凍船が開発され、遠距離間の牛肉の輸送が可能となった。これはアルゼンチンやウルグアイにおいて牧場の大規模化や効率化をもたらし、牛肉輸出は両国の基幹産業となった[21]。また、鉄道の発達によって牛乳を農家から大都市の市場へと迅速に大量に供給することが可能になったうえ、ルイ・パスツールによって低温殺菌法(パスチャライゼーション)が開発され、さらに冷蔵技術も進歩したことで、チーズやバターなどの乳製品に加工することなくそのまま牛乳を飲む習慣が一般化した[22]。こうした技術の発展によって、ウシの利用はますます増加し、頭数も増加していった。
日本列島[編集]
日本列島では東京都港区の伊皿子貝塚から弥生時代の牛骨が出土したとされるが、後代の混入の可能性も指摘される[23]。日本のウシは、中国大陸から持ち込まれたと考えられている。古墳時代前期にも確実な牛骨の出土はないが、牛を形象した埴輪が存在しているため、この頃には飼育が始まっていたと考えられている。古墳後期(5世紀)には奈良県御所市の南郷遺跡から牛骨が出土しており、最古の資料とされる。
当初から日本では役畜や牛車の牽引としての使用が主であったが、牛肉も食されていたほか、牛角・牛皮や骨髄の利用も行われていたと考えられている。675年に天武天皇は、牛、馬、犬、猿、鶏の肉食を禁じた。禁止令発出後もウシの肉はしばしば食されていたものの、禁止令は以後も鎌倉時代初期に至るまで繰り返して発出され[24]、やがて肉食は農耕に害をもたらす行為とみなされ、肉食そのものが穢れであるとの考え方が広がり、牛肉食はすたれていった。8世紀から10世紀ごろにかけては酪や、蘇、醍醐といった乳製品が製造されていたが、朝廷の衰微とともに製造も途絶え、以後日本では明治時代に至るまで乳製品の製造・使用は行われなかった。
また、広島県の草戸千軒町遺跡出土の頭骨のない牛の出土事例などから頭骨を用いた祭祀用途も想定されており、馬が特定の権力者と結びつき丁重に埋葬される事例が見られるのに対し、牛の埋葬事例は見られないことが指摘されている。
古代の日本では総じて牛より馬の数が多かった[25]。平安時代の『延喜式』では、東国すべての国で蘇が貢納されており、牛の分布の地域差は大きくなかったようである[26]。ところが中世に入ると馬は東国、牛は西国という地域差が生まれた。東国では武士団の勃興に伴い馬が主体の家畜構成になったと考えられている[27]。東西の地域差は明治時代のはじめまで続いており、明治初期の統計では、伊勢湾と若狭湾を結ぶ線を境として東が馬、西が牛という状況が見て取れる[28]。
牛肉食は公的には禁忌となったものの、実際には細々と食べ続けられていたと考えられている。戦国時代にはポルトガルの宣教師たちによって牛肉食の習慣が一部に持ち込まれ、キリシタン大名の高山右近らが牛肉を振舞ったとの記録もある[29]ものの、禁忌であるとの思想を覆すまでにはいたらず、キリスト教が排斥されるに伴い牛肉食は再びすたれた。江戸時代には生類憐みの令によってさらに肉食の禁忌は強まったが、大都市にあったももんじ屋と呼ばれる獣肉店ではウシも販売され、また彦根藩は幕府への献上品として牛肉を献上しているなど、まったく途絶えてしまったというわけではなかった[30]。しかし、日本においてウシの主要な用途はあくまでも役牛としての利用であり続けた。
日本においてウシが公然と食されるようになるのは明治時代である。文明開化によって欧米の文化が流入する中、欧米の重要な食文化である牛肉食もまた流れ込み、銀座において牛鍋屋が人気を博すなど、次第に牛肉食も市民権を得ていった。また、乳製品の利用・製造も復活した。
参考文献[編集]
- Wikipedia:ウシ(最終閲覧日:23-01-17)
- ブリュノ・ロリウー, 2003-10, 中世ヨーロッパ食の生活史, 吉田春美, 原書房
- 市川健夫, 市川健夫先生著作集刊行会, 牛馬と人の文化誌, 日本列島の風土と文化:市川健夫著作選集, volume3, 第一企画, 2010, isbn:978-4-90-267615-0
- 初出は『地理』第20巻第11号、1975年11月、「文化地理の指標としての家畜」。
- 品種改良の世界史 家畜編, 正田陽一, 悠書館, 2010-11, 松川正, isbn:978-4-90-348740-3
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- ↑ 古来日本の、牛に牽かせる屋形車である「牛車(ぎっしゃ)」はその一種。
- ↑ 番組内では「噛めば噛むほど味わい深い」と評している。
- ↑ 日本では『続日本紀』などに記述が見られ、一例として、文武天皇2年正月8日条(ユリウス暦換算:698年2月23日の条)、「土佐国から牛黄が献上された」と記されている他、11月29日条(ユリウス暦換算:699年[1月5日の条)にも、「下総国が牛黄を献上した」など、各地から献上品としての記録が見られる。
- ↑ 牛(1) 創世神牛、神話伝説その他、eastasian、00-03-01(最終閲覧日:22-10-11)
- ↑ 2.0 2.1 ブライアン・フェイガン『人類と家畜の世界史』東郷えりか訳 河出書房新社 2016年、ISBN 9784309253398 pp.120-125.
- ↑ 柳田國男『定本 柳田國男集』第1巻 筑摩書房 258頁
- ↑ https://www.oie.int/en/what-we-do/standards/codes-and-manuals/terrestrial-code-online-access/?id=169&L=0&htmfile=chapitre_aw_beef_catthe.htm, CHAPTER 7.9. ANIMAL WELFARE AND BEEF CATTLE PRODUCTION SYSTEMS, 20220107
- ↑ 千葉 暁子, 森山 友恵, 飯野 君枝, 山岸 則夫, 2020, 観血去勢後の手術部位感染により陰嚢膿瘍を形成した黒毛和種去勢牛の3 例, 産業動物臨床医学雑誌, volume11, issue2, pages82-86, 日本家畜臨床学会, 大動物臨床研究会, doi:10.4190/jjlac.11.82
- ↑ 2019-08-03, 第791回「牛肉」, https://www.tv-asahi.co.jp/syokusai/contents/toppage/cur/list.html , テレビ朝日, 食彩の王国(公式ウェブサイト), 2019-08-03
- ↑ http://ameblo.jp/unryudo/entry-11394636056.html, 漢方の王様 「ゴオウ(牛黄)」, 杜の都の漢方薬局 運龍堂のブログ , https://web.archive.org/web/20160305124235/http://ameblo.jp/unryudo/entry-11394636056.html, 2016-03-05, 2018-12-15
- ↑ 『新編 地理資料』 2014年、p.130、ISBN 978-4-80-907612-1
- ↑ 津田恒之 『牛と日本人:牛の文化史の試み』 東北大学出版会、2001年9月。ISBN 4925085409。17頁。
- ↑ 松川, 2010, p29
- ↑ 万年英之・内田宏・広岡博之 「ウシの起源と品種」『ウシの科学』 広岡博之編、朝倉書店〈シリーズ〈家畜の科学〉〉1、2013年11月、ISBN 978-4-254-45501-4。5-6頁。
- ↑ 松川, 2010, p29
- ↑ 松川, 2010, p33
- ↑ 松川, 2010, p33
- ↑ ジョゼフ・ギース、フランシス・ギース 『中世ヨーロッパの農村の生活』 青島淑子訳、講談社〈講談社学術文庫〉、2008年5月。ISBN 978-4-06-159874-4。30頁。
- ↑ ロリウー, 2003, p81
- ↑ ロリウー, 2003, p29
- ↑ ロリウー, 2003, p81
- ↑ 『新書アフリカ史』 宮本正興・松田素二編、講談社〈講談社現代新書〉、2003年2月20日、55頁。
- ↑ サムエル・カスール 『アフリカ大陸歴史地図』 向井元子訳、東洋書林、第1版、2002年12月3日。19頁。
- ↑ 21.0 21.1 『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典 2 主要食物:栽培作物と飼養動物』 Kenneth F.Kiple, Kriemhild Conee Ornelas編、石毛直道ほか監訳、朝倉書店、2004年9月10日、第2版第1刷。ISBN 4254435320。550頁。
- ↑ 南直人 『ヨーロッパの舌はどう変わったか 十九世紀食卓革命』 講談社〈講談社選書メチエ〉、1998年2月10日、第1刷。113-114頁。
- ↑ 西本豊弘「ウシ」『事典 人と動物の考古学』(吉川弘文館、2010年)、p.162
- ↑ 『肉の科学』 沖谷明紘編、朝倉書店、1996年5月20日、初版第1刷。8頁。
- ↑ 松井章 「狩猟と家畜」『暮らしと生業』 上原真人・白石太一郎・吉川真司・吉村武彦編、岩波書店〈列島の古代史〉第2巻、2005年10月。ISBN 4000280627。196頁。
- ↑ 市川, 2010, pp4-5
- ↑ 市川, 2010, p7
- ↑ 市川, 2010, pp5-6
- ↑ 本山荻舟 『飲食事典』 平凡社、1958年12月25日、160頁。
- ↑ 原田信男編著 『江戸の料理と食生活:ヴィジュアル日本生活史』 小学館、2004年6月20日第1版第1刷、87頁。