「ロスメルタ」の版間の差分
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+ | [[File:Mercurius_Rosmerta_HistMusPfalz_3513.jpeg|thumb|320px|現在のラインラント・プファルツ州にあるアイゼンベルクのロスメルタとメルクリウスのレリーフ。]] | ||
+ | ガロ・ローマ時代の宗教では、'''ロスメルタ'''(Rosmerta)は豊穣の女神であり、その属性はコルヌコピアなどの豊穣のものであった。ロスメルタは、彫像や碑文によって存在を証明されている。ガリアでは、彼女はローマの神メルクリウスとともに描かれることが多かったが、単独で描かれることもある。 | ||
− | == | + | == 語源 == |
− | + | ロスメルタという名前はガリア語で、ro-smert-aと分析される。''Smert''は「提供者」「世話役」を意味し、Ad-smerio, Smertu-litani, Smerius (Σμερο), Smertae, Smertusなど、ガリア人の名前にも見られる<ref>Delamarre, 2003, page277</ref>。''Ro-''はRo-bili(「最も良い」)やRo-cabalus(「偉大な馬」)に見られるように、「非常に」「偉大な」「最も」という意味の修飾語である<ref>Delamarre, 2003, pages261–262</ref>。語尾の''-a''は典型的なガリア語の女性単数主格である。つまり、「偉大なる供給者」という意味である。 | |
− | == | + | == 図像 == |
− | + | オータン(古代ケルト人の首都アウグストドゥヌム<ref>現在のフランスの都市</ref>)のレリーフには、ロスメルタとメルクリウスがカップルとして一緒に座っている様子が描かれている。ロスメルタはコルヌコピアを持ち、その左側にはパテラを持ったメルクリウスがいる。 | |
− | + | アイゼンベルクの浅浮彫り<ref>Deyts, 1992, page119</ref>には、同じように相対的な位置にいるカップルが描かれており、碑文によってロスメルタが明確に特定されている<ref>AE, 1905, 58</ref>。ロスメルタは右手に財布、左手にパテラを持っている。 | |
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− | + | パリにある夫婦像では、ロスメルタがコルヌコピアと果物の入ったバスケットを手にしている。 | |
− | + | ファン・ダナンシー(オート=サヴォワ県)のブロンズ像には、ロスメルタがひとりで描かれており、岩の上に座って財布を持ち、珍しく頭にはマーキュリーの翼をつけている。エスコリーヴ・サント・カミーユの石の浅浮彫り<ref>Deyts, 1992, pages120–121</ref>には、パテラとコルヌコピアを持つロスメルタの姿が描かれている。 | |
− | == | + | == 碑文 == |
+ | ジュファー(Jufer)とルギンビュール(Luginbühl)は27のロスメルタ碑文を挙げ<ref>Jufer, Luginbühl, 2001, page60</ref>、それはフランス、ドイツ、ルクセンブルクに分布し、主にローマのガリア・ベルギカとゲルマニア上州に相当する地域であった。さらに2つの碑文が知られており、1つはローマ時代のダキアのものである<ref>AE, 1998, 1100</ref>。 | ||
− | + | メッツの碑文<ref>CIL, 13, 4311</ref>は、ロスメルタとメルクリウスに共同で奉納(votum)されたものである。アイゼンベルグからのもう一つは、夫婦共同で誓約を果たすために執政官が作ったものである<ref>''Deo Mercu(rio) / et Rosmer(tae) / M(arcus) Adiuto/rius Mem/{m}or d(ecurio) c(ivitatis) St() / [po]s(uit) l(ibens) m(erito)'' ("Marcus Adiutorius Memor, a decurion of the ''civitas'' St… has deposited [this votive] willingly, as is deserved"). ケルトの共同体である''civitas''の名前は、はっきりと分かっていない。後者は、標準的な''votum solvit libens merito''の変形で、奉納する人が「当然のように、喜んで誓いを果たした」と宣言するもので、しばしばV.S.L.Mと略記される。</ref>。 | |
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− | + | ガリア・ベルギカの2つの碑文<ref>13, 4683 and 13, 4705.</ref>では、ロスメルタはsacra(神聖)という称号を与えられている。ガリア・ベルギカのヴァッセルビリング(Wasserbillig)の長い碑文<ref>''Deo Mercurio [et deae Ros]/mertae aedem c[um signis orna]/mentisque omn[ibus fecit] / Acceptus tabul[arius VIvir] / Augustal[is donavit?] / item hospitalia [sacror(um) cele]/brandorum gr[atia pro se libe]/risque suis ded[icavit 3] / Iulias Lupo [et Maximo co(n)s(ulibus)]''.</ref>は、神聖なカップルを神殿(aedes)の奉納と結びつけ、「歓迎する」儀式が行われるようにしたものである。 | |
− | + | == 私的解説 == | |
+ | ロスメルタがガリアの太母の一柱であって、英雄である[[スメルトリオス]]と関連するとすれば、ロスメルタの立場は「母」「養母」「上司」といったものが考えられる。半神半人の英雄神との関連からいえば、ロスメルタはギリシア神話のヘーラー(養母)、アルクメーネー(母)、オムパレー(上司)のいずれかに相当する女神と思う。オムパレーが時に男装するのは、「黄泉の国の姿(正常と逆の姿)」を思わせる。 | ||
− | + | 一方、ローマ神話では下位の女神ラールンダと名前の子音構成が一致しているように思う。 | |
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− | == | + | == 参考文献 == |
− | + | * Wikipedia:[https://en.wikipedia.org/wiki/Rosmerta Rosmerta](最終閲覧日:22-12-08) | |
+ | ** ''Année Epigraphique'' volumes 1967, 1987, 1998 | ||
+ | ** ''Corpus Inscriptionum Latinarum'' (CIL), volume 13, ''Tres Galliae'' ("The Three Gauls") | ||
+ | ** Delamarre Xavier, 2003, Dictionnaire de la Langue Gauloise, 2nd, Paris, Editions Errance, isbn=2-87772-237-6 | ||
+ | ** Deyts, Simone, 1992, Images des dieux de la Gaule, Paris, Editions Errance, isbn:2-87772-067-5 | ||
+ | ** Jufer Nicole, Thierry Luginbühl, 2001, Répertoire des dieux gaulois, Paris, Editions Errance, isbn:2-87772-200-7 | ||
− | == | + | == 関連項目 == |
− | * | + | * [[ラールンダ]]:ローマの女神。子音はラールンダと一致している思われるが。 |
− | * | + | * [[スメルトリオス]]:ガリアの神。啓型軍神。ロスメルタの息子神か? |
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2022年12月9日 (金) 23:32時点における最新版
ガロ・ローマ時代の宗教では、ロスメルタ(Rosmerta)は豊穣の女神であり、その属性はコルヌコピアなどの豊穣のものであった。ロスメルタは、彫像や碑文によって存在を証明されている。ガリアでは、彼女はローマの神メルクリウスとともに描かれることが多かったが、単独で描かれることもある。
語源[編集]
ロスメルタという名前はガリア語で、ro-smert-aと分析される。Smertは「提供者」「世話役」を意味し、Ad-smerio, Smertu-litani, Smerius (Σμερο), Smertae, Smertusなど、ガリア人の名前にも見られる[1]。Ro-はRo-bili(「最も良い」)やRo-cabalus(「偉大な馬」)に見られるように、「非常に」「偉大な」「最も」という意味の修飾語である[2]。語尾の-aは典型的なガリア語の女性単数主格である。つまり、「偉大なる供給者」という意味である。
図像[編集]
オータン(古代ケルト人の首都アウグストドゥヌム[3])のレリーフには、ロスメルタとメルクリウスがカップルとして一緒に座っている様子が描かれている。ロスメルタはコルヌコピアを持ち、その左側にはパテラを持ったメルクリウスがいる。
アイゼンベルクの浅浮彫り[4]には、同じように相対的な位置にいるカップルが描かれており、碑文によってロスメルタが明確に特定されている[5]。ロスメルタは右手に財布、左手にパテラを持っている。
パリにある夫婦像では、ロスメルタがコルヌコピアと果物の入ったバスケットを手にしている。
ファン・ダナンシー(オート=サヴォワ県)のブロンズ像には、ロスメルタがひとりで描かれており、岩の上に座って財布を持ち、珍しく頭にはマーキュリーの翼をつけている。エスコリーヴ・サント・カミーユの石の浅浮彫り[6]には、パテラとコルヌコピアを持つロスメルタの姿が描かれている。
碑文[編集]
ジュファー(Jufer)とルギンビュール(Luginbühl)は27のロスメルタ碑文を挙げ[7]、それはフランス、ドイツ、ルクセンブルクに分布し、主にローマのガリア・ベルギカとゲルマニア上州に相当する地域であった。さらに2つの碑文が知られており、1つはローマ時代のダキアのものである[8]。
メッツの碑文[9]は、ロスメルタとメルクリウスに共同で奉納(votum)されたものである。アイゼンベルグからのもう一つは、夫婦共同で誓約を果たすために執政官が作ったものである[10]。
ガリア・ベルギカの2つの碑文[11]では、ロスメルタはsacra(神聖)という称号を与えられている。ガリア・ベルギカのヴァッセルビリング(Wasserbillig)の長い碑文[12]は、神聖なカップルを神殿(aedes)の奉納と結びつけ、「歓迎する」儀式が行われるようにしたものである。
私的解説[編集]
ロスメルタがガリアの太母の一柱であって、英雄であるスメルトリオスと関連するとすれば、ロスメルタの立場は「母」「養母」「上司」といったものが考えられる。半神半人の英雄神との関連からいえば、ロスメルタはギリシア神話のヘーラー(養母)、アルクメーネー(母)、オムパレー(上司)のいずれかに相当する女神と思う。オムパレーが時に男装するのは、「黄泉の国の姿(正常と逆の姿)」を思わせる。
一方、ローマ神話では下位の女神ラールンダと名前の子音構成が一致しているように思う。
参考文献[編集]
- Wikipedia:Rosmerta(最終閲覧日:22-12-08)
- Année Epigraphique volumes 1967, 1987, 1998
- Corpus Inscriptionum Latinarum (CIL), volume 13, Tres Galliae ("The Three Gauls")
- Delamarre Xavier, 2003, Dictionnaire de la Langue Gauloise, 2nd, Paris, Editions Errance, isbn=2-87772-237-6
- Deyts, Simone, 1992, Images des dieux de la Gaule, Paris, Editions Errance, isbn:2-87772-067-5
- Jufer Nicole, Thierry Luginbühl, 2001, Répertoire des dieux gaulois, Paris, Editions Errance, isbn:2-87772-200-7
関連項目[編集]
参照[編集]
- ↑ Delamarre, 2003, page277
- ↑ Delamarre, 2003, pages261–262
- ↑ 現在のフランスの都市
- ↑ Deyts, 1992, page119
- ↑ AE, 1905, 58
- ↑ Deyts, 1992, pages120–121
- ↑ Jufer, Luginbühl, 2001, page60
- ↑ AE, 1998, 1100
- ↑ CIL, 13, 4311
- ↑ Deo Mercu(rio) / et Rosmer(tae) / M(arcus) Adiuto/rius Mem/{m}or d(ecurio) c(ivitatis) St() / [po]s(uit) l(ibens) m(erito) ("Marcus Adiutorius Memor, a decurion of the civitas St… has deposited [this votive] willingly, as is deserved"). ケルトの共同体であるcivitasの名前は、はっきりと分かっていない。後者は、標準的なvotum solvit libens meritoの変形で、奉納する人が「当然のように、喜んで誓いを果たした」と宣言するもので、しばしばV.S.L.Mと略記される。
- ↑ 13, 4683 and 13, 4705.
- ↑ Deo Mercurio [et deae Ros]/mertae aedem c[um signis orna]/mentisque omn[ibus fecit] / Acceptus tabul[arius VIvir] / Augustal[is donavit?] / item hospitalia [sacror(um) cele]/brandorum gr[atia pro se libe]/risque suis ded[icavit 3] / Iulias Lupo [et Maximo co(n)s(ulibus)].