と詠い、比治の里を退き村々を遍歴の果てに、舟木の里の奈具の村にやってきました。 そして「此処にして我が心なぐしく成りぬ」(わたしの心は安らかになりました)と云って、この村を安住の地としました。 此処で終焉を迎えた天女は村人たちによって、豊宇賀能売命(とようかのめのみこと)として祀られました。 これが竹野郡の奈具の社です。(境内案内板「|延喜式内奈具神社の祭神について」より)
</blockquote>
こちらは、女主人公の不満というよりも、豊穣をもたらしたにも関わらず、女主人公の方が不満を持たれて、追い出されてしまう、という物語である。「罰を受ける女神」という要素が入り込んでしまってこのように変形していまったのかもしれないと思う。酒というのは、日本では米が姿を変えたものであるので、稲作とは関連がある。米酒の醸造の起源も揚子江下流域の初期の稲作文化まで遡る。稲作文化と関連がある物語であり、かつては養蚕と同様、酒の醸造も天から伝わったもの、という神話があったのかもしれないと思う。「酒=不死の霊薬」とすれば、古代中国では
<blockquote>
西王母のものであった「不死の霊薬(酒)」を、西王母の使いである鳥仙女が地上に降り立って、人々に作り方を教えた。
</blockquote>
という神話がそもそもあったのかもしれないと思う。インド神話では神々の不死の霊薬を盗み出すのは、鳥神ガルダである。神々の霊薬とされるアムリタは結局神々の元に返されるが、経緯は不明だが地上には地上で、人間用の霊薬であるソーマがもたらされることになっている。とすれば、この「酒の作り方を人類に教えた鳥仙女」こそが、嫦娥の原型だったのではないか、と思われる。そして、その由来譚が日本に伝播する前に、すでに「罰を受ける女神」の要素が彼女の物語の中に入り込んでいることになったのだと思われる。
== 扶桑と養蚕 ==