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'''エレクラ'''(Erecura または Aerecura、/ɛrɪ (Herecura または Eracura とも))<ref>Nicole Jufer & Thierry Luginbühl. ''Les dieux gaulois : répertoire des noms de divinités celtiques connus par l'épigraphie, les textes antiques et la toponymie.'' Paris: Editions Errance, 2001., ISBN:2-87772-200-7. pp. 18, 40, 45.</ref>は古代に崇拝された女神で、しばしばケルト人由来と考えられており、主にプロセルピナのように表され、スルツバッハの祭壇に見られるようにローマの地下世界の神ディス・ピター(Dis Pater)と関連付けられている<ref name="beck136">Beck(2009), p. 136.</ref>。エレクラはスイスのオーバーゼーバッハで発見された像や、オーストリアのいくつかの魔術書にディス・パテルとともに登場し、ケルベロスとともに、またオグミオスとともに登場することもあるようだ<ref>Egger (1962-63), I.84-85; I.276-79; II.24-33.</ref>。また、ドイツのシュトゥットガルトの近くでも、彼女への碑文が発見されている。神々の象徴のほか、豊穣の象徴であるコルヌコピアやリンゴの籠などとともに描かれることが多い<ref name="lendering"/>。エレクラはギリシャ神話のヘカテーに似ているとされ、2人の女神の名前も似ている<ref>P. Monaghan ''The Encyclopedia of Celtic Mythology and Folklore'' New York: Facts On File, Inc, 2004. ISBN:0-8160-4524-0, p. 4.</ref>。エレクラはカンシュタット<ref name="beck135"/>やスルツバッハ<ref name="beck136"/>で描かれた作品では、フルローブを着て果物の入った盆や籠を持ち、座った姿勢で描かれている。ミランダ・グリーンはエレクラを「ガリア人のヘクバ」と呼び<ref>Green (2004), p. 124.</ref>、ノエミー・ベックは彼女をディス・パテルと同じ冥界と豊穣の側面を持つ「地下世界の女神」として特徴づけている<ref>[[#green|Green]] (2004), p. 124.</ref>。 | '''エレクラ'''(Erecura または Aerecura、/ɛrɪ (Herecura または Eracura とも))<ref>Nicole Jufer & Thierry Luginbühl. ''Les dieux gaulois : répertoire des noms de divinités celtiques connus par l'épigraphie, les textes antiques et la toponymie.'' Paris: Editions Errance, 2001., ISBN:2-87772-200-7. pp. 18, 40, 45.</ref>は古代に崇拝された女神で、しばしばケルト人由来と考えられており、主にプロセルピナのように表され、スルツバッハの祭壇に見られるようにローマの地下世界の神ディス・ピター(Dis Pater)と関連付けられている<ref name="beck136">Beck(2009), p. 136.</ref>。エレクラはスイスのオーバーゼーバッハで発見された像や、オーストリアのいくつかの魔術書にディス・パテルとともに登場し、ケルベロスとともに、またオグミオスとともに登場することもあるようだ<ref>Egger (1962-63), I.84-85; I.276-79; II.24-33.</ref>。また、ドイツのシュトゥットガルトの近くでも、彼女への碑文が発見されている。神々の象徴のほか、豊穣の象徴であるコルヌコピアやリンゴの籠などとともに描かれることが多い<ref name="lendering"/>。エレクラはギリシャ神話のヘカテーに似ているとされ、2人の女神の名前も似ている<ref>P. Monaghan ''The Encyclopedia of Celtic Mythology and Folklore'' New York: Facts On File, Inc, 2004. ISBN:0-8160-4524-0, p. 4.</ref>。エレクラはカンシュタット<ref name="beck135"/>やスルツバッハ<ref name="beck136"/>で描かれた作品では、フルローブを着て果物の入った盆や籠を持ち、座った姿勢で描かれている。ミランダ・グリーンはエレクラを「ガリア人のヘクバ」と呼び<ref>Green (2004), p. 124.</ref>、ノエミー・ベックは彼女をディス・パテルと同じ冥界と豊穣の側面を持つ「地下世界の女神」として特徴づけている<ref>[[#green|Green]] (2004), p. 124.</ref>。 | ||
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+ | イングランドのノーサンバーランドにある祭壇石には、アレクリウス(Arecurius)またはアエリクルス(Aericurus)と呼ばれる男性神の名前があるが<ref>R.G. Collingwood and R.P. Wright. ''The Roman Inscriptions of Britain'' (RIB), Vol. 1: The Inscriptions on Stone. RIB 1123. See also the relevant page of [http://www.roman-britain.org/places/corstopitum.htm roman-britain.org] , https://web.archive.org/web/20060820145944/http://www.roman-britain.org/places/corstopitum.htm, August 20, 2006 .</ref>、ベックは「この碑文はかなり不確かで、メルクリオ(Mercurio)の誤読かもしれない」と注意を促している<ref name="beck135"/>。 | ||
+ | == 語源 == | ||
+ | エレクラの名称の由来は不明である。ラテン語のaes、aeris「銅、青銅、お金、富」、era「愛人」、ギリシャ神話の女神ヘーラーの名前と関係があるとされている。この女神の名前には、ラテン語化されたさまざまな形がある<ref>Egger (1962), I.84-85.</ref>。ペルージャのAeraecura、マインツ、ザンテン、アクイレイア、ロシア・モンタナのAerecura、シュルツバッハ(マルシェ)のAericura、オーストリア・マウテルンのEracura、フリエブルグのErcura、カンシュタット、アウベのベレイのErecura、シュトックシュタット・アム・ライン、カンシュタット、フラインスハイム、ネッカー・ロッテンブルクのHerequraなどである<ref name="inventaire">Lajoye, Patrice; ''Inventaire des divinités celtiques de l’Antiquité'', Caen: Société de Mythologie Française. Available at [http://www.arbre-celtique.com/approfondissements/divinites/inventaire-div/div_liste.php?nomloc=%28tous%29 L’Arbre Celtique].</ref>。 | ||
− | + | ローマ帝国の碑文で通常使用される古典ラテン語の大文字では、頭文字のHとAの形が似ており<ref>Green (2004), pp. 120–121.</ref>、特にローマ帝国の社会では識字率が低く、ある文字の音素値を誤認することがあったからであろう<ref>This is also apparent in the inscriptions to Belatucadrus. Green (2004), p. 102.</ref>。Aeraecura ~ Aerecura ~ Aericura ~ Eracura ~ Ercura ~ Erecura ~ Heracura ~ Herecura ~ Herequraの交代の背景には、*/aireˈkura/または*/(h)eːreˈkura/という形の名称があるようだ。 | |
− | + | 女神自体はケルトの女神かもしれないが、その名前がケルト語起源なのか、あるいはインド・ヨーロッパ語起源なのか、疑問の余地がある。レンダリング(Lendering)は、彼女の教団はイリュリア<ref>バルカン半島の西部地方</ref>起源で、アクイレイアから広がり、そこに配置されたローマ軍を通じてドナウとレーナの国境地帯に到達したと考えている<ref name="lendering">https://www.livius.org/religion/herecura/, Jona Lendering, Herecura, Livius.org, 2015-05-28, 2014</ref>。ベックは、この名前をゲルマン語起源とみなしている<ref name="beck135">|Beck (2009), p. 135.</ref>。 | |
− | == | + | == 私的解説 == |
+ | エレクラの「エレ」は神を表す接頭語なので、この女神の名前は「クラ(cura)」であるといえる。「黄金の林檎」の所有者で、ギリシア神話のヘーラーのような母神である。ヘーラーとヘーラークレースとの関係を見る限り、彼女の分身といえる「男神」に対しては愛情を注ぐ、というよりは命を求めるタイプの女神である可能性がある。植物の育成に関わり、それに対する豊穣に[[人身御供]](特に若い男性)を求める女神で、かつ「クラ(cura)」という名から、フリギアのキュベレーが起源的には一番近い女神ではないかと思う。 | ||
− | + | 「黄金の林檎」を持つことで、「死者の再生」に関連した女神と思われる。天に住む女神であったのか、地下世界の女神であったのかは残されている資料からは分からない、と感じる。ヘーラーと同じ神とみなされてたのなら、天に住む、とされてたかもしれないと思う。 | |
− | + | キュベレーは両性具有の女神とされているが、男性形のまま凶暴性のある性質を残して広まったものが[[エスス]]ではないだろうか。 | |
− | + | == グンデストルップの大釜 == | |
+ | [[File:ChaudronDeGundestrup4.jpeg| thumb|620px|グンデストルップの大釜。女性像と車輪。]] | ||
+ | このプレートには女性の胸像が描かれており、両側に6本スポークの車輪が配置され、2頭のゾウのような生き物や2頭のグリフォンといった神話上の動物が周囲に描かれている。胸像の下には大型の猟犬が描かれている。 ガリアの女神エレクラ(Erecura)ではないだろうか。2頭の象は、天候神と関連づけられたアイラーヴァタ的な象ではないだろうか。 | ||
− | + | 「グンデルストルップの大釜」そのものは、「どこかの神」を特定して意匠が施されている、というよりは、大釜が作成された当時、ヨーロッパ(中欧)で御利益がある、と考えられていた神々が出自はあまり問わず描かれたのではないだろうか、と管理人は考える。ローマ人はガリアの神々をローマの神の名を当てて「マールス」とか「メルクリウス」と呼んでいたし、ガリアの人々もローマの神と地元の神の名を組み合わせて碑文に書いていたりして、西欧式のシンクレティズム(習合)が進んでいたものと思われる。 | |
− | + | 象はインド神話で雲を作り出す動物と考えられていた。象はインドラの乗り物である。ヒッタイトでは太陽神の飼っている羊や羊毛が雲と関連すると考えられていた(参照:[[カムルセパ]])。[[ホレのおばさん]]では鳥の羽毛が雪となる。これらの神話から「グンデルストルップの大釜」の作者は「動植物を育成させる雲の女神(天候神)」の随神として象を取り入れたのではないだろうか。作者がケルトであっても、トラキアであっても、作者自身の地元の思想というよりは「凝った意匠にして、異国的なエキゾチックさを強調するために」このようにした可能性があるように思う。ただし、「6本のスポークの車輪」は雪の結晶を思わせるので、女神の性質としては雪を降らせる[[エレクラ]]([[ホレのおばさん]])のような女神を想定していたのかもしれない、と思う。 | |
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+ | * Wikipedia:[https://en.wikipedia.org/wiki/Erecura Erecura](最終閲覧日:22-11-24) | ||
+ | ** Noémie Beck, Goddesses in Celtic Religion—Cult and Mythology: A Comparative Study of Ancient Ireland, Britain and Gaul, PhD, 2009, Université Lumière Lyon 2, University College of Dublin | ||
+ | ** Ellis, Peter Berresford, ''Dictionary of Celtic Mythology'' (Oxford Paperback Reference), Oxford University Press, (1994): ISBN:0-19-508961-8 | ||
+ | ** Egger, Rudolf. ''Römische Antike und frühes Christentum: Ausgewählte Schriften von Rudolf Egger; Zur Vollendung seines 80. Lebensjahres'', ed. Artur Betz and Gotbert Moro. 2 vols. Klagenfurt: Verlag des Geschichtsvereines für Kärnten, 1962–63. (LOC call number DB29.E29.) | ||
+ | ** Green, Miranda (2004). ''The gods of the Celts.'' Sparkford, UK: Sutton Publishing. | ||
+ | ** MacKillop, James. ''Dictionary of Celtic Mythology''. Oxford: Oxford University Press, 1998. ISBN:0-19-280120-1. | ||
+ | ** Wood, Juliette, ''The Celts: Life, Myth, and Art'', Thorsons Publishers (2002): {{ISBN|0-00-764059-5}} | ||
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+ | == 外部リンク == | ||
* [http://www.wales.ac.uk/documents/external/cawcs/pcl-moe.pdf Proto-Celtic — English lexicon] | * [http://www.wales.ac.uk/documents/external/cawcs/pcl-moe.pdf Proto-Celtic — English lexicon] | ||
* [http://www.kernunnos.com/deities/ogmios/ogmios.html Ogmios Ogma and Heracles (Lucian)] | * [http://www.kernunnos.com/deities/ogmios/ogmios.html Ogmios Ogma and Heracles (Lucian)] | ||
* [https://www.livius.org/ne-nn/nehalennia/herecura.html Livius.org: Herecura] | * [https://www.livius.org/ne-nn/nehalennia/herecura.html Livius.org: Herecura] | ||
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+ | * [[黄金の林檎]]:女神の持つ重要なアイテムである。 | ||
+ | * キュベレー:エレクラの起源的女神と管理人は考える。 | ||
+ | ** [[カムセルパ]]:ヒッタイト神話「KM+キュベレー」の組み合わせの名を持つ女神。 | ||
+ | * ヘーラー:ギリシア神話。エレクラに相当する女神。 | ||
+ | * [[巫山神女]]:中国神話。男性の生贄を得て、動植物の生育に必要な雲や雨水を生じる女神、といえる。 | ||
+ | * [[エスス]]:ガリア神話。狂乱による生贄の死を求める神。キュベレーの男性形といえるのではないだろうか。 | ||
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2022年11月24日 (木) 23:25時点における最新版
エレクラ(Erecura または Aerecura、/ɛrɪ (Herecura または Eracura とも))[1]は古代に崇拝された女神で、しばしばケルト人由来と考えられており、主にプロセルピナのように表され、スルツバッハの祭壇に見られるようにローマの地下世界の神ディス・ピター(Dis Pater)と関連付けられている[2]。エレクラはスイスのオーバーゼーバッハで発見された像や、オーストリアのいくつかの魔術書にディス・パテルとともに登場し、ケルベロスとともに、またオグミオスとともに登場することもあるようだ[3]。また、ドイツのシュトゥットガルトの近くでも、彼女への碑文が発見されている。神々の象徴のほか、豊穣の象徴であるコルヌコピアやリンゴの籠などとともに描かれることが多い[4]。エレクラはギリシャ神話のヘカテーに似ているとされ、2人の女神の名前も似ている[5]。エレクラはカンシュタット[6]やスルツバッハ[2]で描かれた作品では、フルローブを着て果物の入った盆や籠を持ち、座った姿勢で描かれている。ミランダ・グリーンはエレクラを「ガリア人のヘクバ」と呼び[7]、ノエミー・ベックは彼女をディス・パテルと同じ冥界と豊穣の側面を持つ「地下世界の女神」として特徴づけている[8]。
エレクラの名は、南ドイツやスロベニアのドナウ地方に多く見られるが、イタリア、イギリス、フランスにもある。彼女の碑文は、シュトゥットガルト[9]とライン川沿いに集中している。エレクラを称える石碑は、墓地やその他の葬儀の場にもいくつか見られる[10]。ヨナ・レンダリング(Jona Lendering)はエレクラの図像がゲルマニア・インフェリオールで崇拝されていたネヘレニアとの類似性を指摘し[4]、ベックは彼女の属性とマトレやマトロネとの間に大きな相違はないと見ている。地理的には、エレクラとディス・パテルが祀られていた地域は、スケッルスとナントスエルタが祀られていた地域と相補的な分布にあり、ベックは、これらの信仰は図像的には異なるが機能的には類似していたと示唆する[10]。
イングランドのノーサンバーランドにある祭壇石には、アレクリウス(Arecurius)またはアエリクルス(Aericurus)と呼ばれる男性神の名前があるが[11]、ベックは「この碑文はかなり不確かで、メルクリオ(Mercurio)の誤読かもしれない」と注意を促している[6]。
語源[編集]
エレクラの名称の由来は不明である。ラテン語のaes、aeris「銅、青銅、お金、富」、era「愛人」、ギリシャ神話の女神ヘーラーの名前と関係があるとされている。この女神の名前には、ラテン語化されたさまざまな形がある[12]。ペルージャのAeraecura、マインツ、ザンテン、アクイレイア、ロシア・モンタナのAerecura、シュルツバッハ(マルシェ)のAericura、オーストリア・マウテルンのEracura、フリエブルグのErcura、カンシュタット、アウベのベレイのErecura、シュトックシュタット・アム・ライン、カンシュタット、フラインスハイム、ネッカー・ロッテンブルクのHerequraなどである[13]。
ローマ帝国の碑文で通常使用される古典ラテン語の大文字では、頭文字のHとAの形が似ており[14]、特にローマ帝国の社会では識字率が低く、ある文字の音素値を誤認することがあったからであろう[15]。Aeraecura ~ Aerecura ~ Aericura ~ Eracura ~ Ercura ~ Erecura ~ Heracura ~ Herecura ~ Herequraの交代の背景には、*/aireˈkura/または*/(h)eːreˈkura/という形の名称があるようだ。
女神自体はケルトの女神かもしれないが、その名前がケルト語起源なのか、あるいはインド・ヨーロッパ語起源なのか、疑問の余地がある。レンダリング(Lendering)は、彼女の教団はイリュリア[16]起源で、アクイレイアから広がり、そこに配置されたローマ軍を通じてドナウとレーナの国境地帯に到達したと考えている[4]。ベックは、この名前をゲルマン語起源とみなしている[6]。
私的解説[編集]
エレクラの「エレ」は神を表す接頭語なので、この女神の名前は「クラ(cura)」であるといえる。「黄金の林檎」の所有者で、ギリシア神話のヘーラーのような母神である。ヘーラーとヘーラークレースとの関係を見る限り、彼女の分身といえる「男神」に対しては愛情を注ぐ、というよりは命を求めるタイプの女神である可能性がある。植物の育成に関わり、それに対する豊穣に人身御供(特に若い男性)を求める女神で、かつ「クラ(cura)」という名から、フリギアのキュベレーが起源的には一番近い女神ではないかと思う。
「黄金の林檎」を持つことで、「死者の再生」に関連した女神と思われる。天に住む女神であったのか、地下世界の女神であったのかは残されている資料からは分からない、と感じる。ヘーラーと同じ神とみなされてたのなら、天に住む、とされてたかもしれないと思う。
キュベレーは両性具有の女神とされているが、男性形のまま凶暴性のある性質を残して広まったものがエススではないだろうか。
グンデストルップの大釜[編集]
このプレートには女性の胸像が描かれており、両側に6本スポークの車輪が配置され、2頭のゾウのような生き物や2頭のグリフォンといった神話上の動物が周囲に描かれている。胸像の下には大型の猟犬が描かれている。 ガリアの女神エレクラ(Erecura)ではないだろうか。2頭の象は、天候神と関連づけられたアイラーヴァタ的な象ではないだろうか。
「グンデルストルップの大釜」そのものは、「どこかの神」を特定して意匠が施されている、というよりは、大釜が作成された当時、ヨーロッパ(中欧)で御利益がある、と考えられていた神々が出自はあまり問わず描かれたのではないだろうか、と管理人は考える。ローマ人はガリアの神々をローマの神の名を当てて「マールス」とか「メルクリウス」と呼んでいたし、ガリアの人々もローマの神と地元の神の名を組み合わせて碑文に書いていたりして、西欧式のシンクレティズム(習合)が進んでいたものと思われる。
象はインド神話で雲を作り出す動物と考えられていた。象はインドラの乗り物である。ヒッタイトでは太陽神の飼っている羊や羊毛が雲と関連すると考えられていた(参照:カムルセパ)。ホレのおばさんでは鳥の羽毛が雪となる。これらの神話から「グンデルストルップの大釜」の作者は「動植物を育成させる雲の女神(天候神)」の随神として象を取り入れたのではないだろうか。作者がケルトであっても、トラキアであっても、作者自身の地元の思想というよりは「凝った意匠にして、異国的なエキゾチックさを強調するために」このようにした可能性があるように思う。ただし、「6本のスポークの車輪」は雪の結晶を思わせるので、女神の性質としては雪を降らせるエレクラ(ホレのおばさん)のような女神を想定していたのかもしれない、と思う。
参考文献[編集]
- Wikipedia:Erecura(最終閲覧日:22-11-24)
- Noémie Beck, Goddesses in Celtic Religion—Cult and Mythology: A Comparative Study of Ancient Ireland, Britain and Gaul, PhD, 2009, Université Lumière Lyon 2, University College of Dublin
- Ellis, Peter Berresford, Dictionary of Celtic Mythology (Oxford Paperback Reference), Oxford University Press, (1994): ISBN:0-19-508961-8
- Egger, Rudolf. Römische Antike und frühes Christentum: Ausgewählte Schriften von Rudolf Egger; Zur Vollendung seines 80. Lebensjahres, ed. Artur Betz and Gotbert Moro. 2 vols. Klagenfurt: Verlag des Geschichtsvereines für Kärnten, 1962–63. (LOC call number DB29.E29.)
- Green, Miranda (2004). The gods of the Celts. Sparkford, UK: Sutton Publishing.
- MacKillop, James. Dictionary of Celtic Mythology. Oxford: Oxford University Press, 1998. ISBN:0-19-280120-1.
- Wood, Juliette, The Celts: Life, Myth, and Art, Thorsons Publishers (2002): ISBN 0-00-764059-5
外部リンク[編集]
関連項目[編集]
- 黄金の林檎:女神の持つ重要なアイテムである。
- キュベレー:エレクラの起源的女神と管理人は考える。
- カムセルパ:ヒッタイト神話「KM+キュベレー」の組み合わせの名を持つ女神。
- ヘーラー:ギリシア神話。エレクラに相当する女神。
- 巫山神女:中国神話。男性の生贄を得て、動植物の生育に必要な雲や雨水を生じる女神、といえる。
- エスス:ガリア神話。狂乱による生贄の死を求める神。キュベレーの男性形といえるのではないだろうか。
参照[編集]
- ↑ Nicole Jufer & Thierry Luginbühl. Les dieux gaulois : répertoire des noms de divinités celtiques connus par l'épigraphie, les textes antiques et la toponymie. Paris: Editions Errance, 2001., ISBN:2-87772-200-7. pp. 18, 40, 45.
- ↑ 2.0 2.1 Beck(2009), p. 136.
- ↑ Egger (1962-63), I.84-85; I.276-79; II.24-33.
- ↑ 4.0 4.1 4.2 https://www.livius.org/religion/herecura/, Jona Lendering, Herecura, Livius.org, 2015-05-28, 2014
- ↑ P. Monaghan The Encyclopedia of Celtic Mythology and Folklore New York: Facts On File, Inc, 2004. ISBN:0-8160-4524-0, p. 4.
- ↑ 6.0 6.1 6.2 |Beck (2009), p. 135.
- ↑ Green (2004), p. 124.
- ↑ Green (2004), p. 124.
- ↑ ドイツの都市
- ↑ 10.0 10.1 Beck (2009), p. 137.
- ↑ R.G. Collingwood and R.P. Wright. The Roman Inscriptions of Britain (RIB), Vol. 1: The Inscriptions on Stone. RIB 1123. See also the relevant page of roman-britain.org , https://web.archive.org/web/20060820145944/http://www.roman-britain.org/places/corstopitum.htm, August 20, 2006 .
- ↑ Egger (1962), I.84-85.
- ↑ Lajoye, Patrice; Inventaire des divinités celtiques de l’Antiquité, Caen: Société de Mythologie Française. Available at L’Arbre Celtique.
- ↑ Green (2004), pp. 120–121.
- ↑ This is also apparent in the inscriptions to Belatucadrus. Green (2004), p. 102.
- ↑ バルカン半島の西部地方