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、 2022年9月18日 (日) 05:01
'''ヒョウタン'''('''瓢箪'''、'''瓢{{lang|zh-tw|簞}}'''、[[学名]]:''Lagenaria siceraria'' var. ''gourda'')は、[[ウリ科]]の植物。[[漢語]]では'''瓢'''(ひょう、'''瓠'''、'''匏'''とも表記)、'''瓢瓠'''(ひょうこ)、'''胡盧'''(ころ、'''葫盧'''、'''壺盧'''とも表記)ともいい、[[和語]]では'''ひさご'''、'''ふくべ'''という<ref>{{Cite web |url= http://thesaurus.weblio.jp/content_find/text/0/Lagenaria+siceraria+var.gourda |title= Weblio シソーラス |accessdate=2016-05-04}}</ref>。
この植物の果実を加工して作られる「ひょうたん」は、「瓢」の「箪(容器)」という意味である。
== 概説 ==
最古の[[栽培植物]]の一つで、原産地の[[アフリカ]]から食用や加工材料として世界各地に広まったと考えられている。乾燥した種子は耐久性が強く、海水にさらされた場合なども高い[[発芽]]率を示す。
狭義には上下が丸く真ん中がくびれた形の品種を呼ぶが、球状から楕円形、棒状や下端の膨らんだ形など品種によって様々な実の形がある。
ヒョウタンは、[[苦味]]成分であり[[嘔吐]]・[[下痢]]等の[[食中毒]]症状を起こす[[ククルビタシン]]<ref>{{PDFlink|[http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/journal/2000/pdf/51-31.pdf 化学物質及び自然毒による食中毒等事件例(第17報)-平成11年-]}}東京都立衛生研究所『東衛研年報』2000年</ref>を含有し、[[果肉]]の摂取は食中毒の原因となる<ref>{{Cite news |title=授業でひょうたん食べ児童17人がおう吐・腹痛 |author= |newspaper=[[日本放送協会|NHK]] |date=2013-07-04 |url=http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130704/k10015804921000.html |archiveurl=https://web.archive.org/web/20130705025830/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130704/k10015804921000.html |archivedate=2013-07-05 |accessdate=2013-07-04 |deadurldate=2017-09}}</ref><ref>[http://www.asahi.com/articles/OSK201311140150.html 「ヒョウタンで体調不良 食べさせた小学校教諭、懲戒免職の処分 大阪府教委」]{{リンク切れ|date=2020年12月}}『[[朝日新聞]]』2013年11月15日</ref><ref>[http://www.asahi.com/articles/ASG7F4W0GG7FPTIL00C.html 「ひょうたん苗、食用と誤表記し販売 腹痛で入院した人も」]{{リンク切れ|date=2020年12月}}『朝日新聞』2014年7月13日</ref>。「[[#毒性]]」でも後述。
== 種類 ==
ヒョウタンには大小様々な品種があり、長さが5センチメートルくらいの極小千成から、2メートルを越える大長、また胴回りが1メートルを超えるジャンボひょうたんなどがある。
ヒョウタンと同一種の[[ユウガオ]]は、ククルビタシンの少ない品種を選別した変種で、食用となる[[かんぴょう|干瓢]]の原料として利用される。また、ヒョウタン型をした品種の中にも、ククルビタシンの少ない食用品種が存在する。
== 歴史 ==
[[ファイル:Leiden University Library - Seikei Zusetsu vol. 26, page 006 - 苦瓠, 懸瓠 - Lagenaria siceraria (Molina) Standl., 1804.jpg|サムネイル|『[[成形図説]]』より]]
日本では、[[縄文時代]]草創期から前期にかけての遺跡である[[鳥浜貝塚]]から種子が出土している。文献史学上では『[[日本書紀]]』(720年成立)の中で瓢(ひさご)として初めて公式文書に登場する。その記述によると[[仁徳天皇]]11年(323年)、[[茨田堤]]を築く際、水神へ[[人身御供]]として捧げられそうになった[[茨田衫子|茨田連衫子]]という男が、ヒョウタンを使った[[頓智]]で難を逃れたという。
{{要出典範囲|date=2017-04-06|古代のヒョウタンは現在のような括れた形態ではなく通常の植物の実のような筒のような形をしていたことが分かっており、[[突然変異]]で今日知られているような特徴的な形が発現し、それが人伝に栽培されて世界中に広まった、とされる}}。
== 利用 ==
主に容器へ加工されて利用されるほか、強壮な草勢から[[スイカ]]や[[カボチャ]]の[[接ぎ木|台木]]としても利用される。
=== 容器 ===
果肉部分を除去し、乾燥させたものが容器として[[水筒]]や[[酒]]の貯蔵に利用されていた([[多孔質]]であるために内容液が少しずつしみ出し、[[蒸発熱|気化熱]]が奪われるため中身が気温より低く保たれる)。
軽くて丈夫なヒョウタンは、世界各国で様々な用途に用いられてきた。日本では上記のように水や酒を持ち運べる容器としてのほか、縦に二つに割って水などを汲んだり掬ったりする用途にも使われた。ヒョウタン(瓢箪)を指す瓢(ひさご)の読みを[[柄杓]]に当てて「ひしゃく」と呼んだとの説もある。[[朝鮮半島]]ではヒョウタンを二つ割りにして作った柄杓や食器を「パガジ」と呼び、庶民の間で広く用いられてきた。[[韓国]]では[[プラスチック]]製パガジが現代でも売られている<ref>[http://yangnyeom.jp/culture/back1604.html 韓国の食文化 4月のキーワード「パガジ」][[モランボン]]薬念研究所(2020年12月26日閲覧)</ref>。また、[[アメリカインディアン]]は[[タバコ]]の[[パイプ]]に、[[南アメリカ|南米]]の[[アルゼンチン]]、[[ウルグアイ]]、[[ブラジル]]では[[マテ茶]]の茶器に、また[[ニューギニア島]]などでは[[先住民]]によって[[コテカ|ペニスケース]]として使われている。
*[[千利休]]は花器として使った先覚者で、[[華道|花道]]家[[安達瞳子]]も利用したという<ref>湯浅[2015:89-90]</ref>。
*[[喫煙具]]としても使われる<ref>湯浅[2015:93]</ref>。名探偵[[シャーロック・ホームズ]]のトレードマークであるキャラバッシュ・パイプは、ヒョウタンを用いた[[パイプ (たばこ)|パイプ]]である。
<gallery>
Makgeolri.jpg|韓国の居酒屋で供される[[マッコリ]]([[濁酒]])。取り分け用として、ヒョウタンを二つ割にした容器「パガジ」が添えられる(写真のものは[[磁器]]製)。
Refreshing palm wine.jpg|[[ヤシ酒]]の容器として([[コンゴ共和国]]、2008年)
Vieira Camino de Santiago.jpg|[[サンティアゴ・デ・コンポステーラ]]巡礼者が水を入れる
Calabash-pipe.jpg|ヒョウタンを素材に用いたキャラバッシュ・パイプ
</gallery>
=== 楽器 ===
[[画像:Guiro.png|thumb|50px|右|[[ギロ]]]]
[[ラテン音楽]]では、ヒョウタンの内側をくりぬき外側に刻みを入れて棒でこすったり叩いたりして演奏する[[打楽器]][[ギロ]]がある。他に多くの[[弦楽器]]([[コラ (楽器)|コラ]])、[[打楽器]]、[[管楽器]]、[[笛]]、[[笙]]などに使われる<ref>湯浅[2015:117-148]</ref>。
=== 浮きと漁具 ===
[[済州島]]の[[海女]]は[[浮き]]用にヒョウタンを抱える<ref>湯浅[2015:106-107]</ref>[[漁具]]としても使われる<ref>湯浅[2015:104]</ref>。
=== 神具 ===
日本の[[神道]]では中に神が宿る[[縁起#転用|縁起物]]とされ、[[神社]]で[[破魔矢]]や[[絵馬]]、[[お守り]]に付けられる。[[大分県]][[宇佐市]]には専門の加工業者があり、契約農家が収穫したヒョウタンを水に2カ月漬け、腐った中身と外皮を取り除いて天日で乾燥させ、塗料と磨きで表面を加工する<ref>【活写】神様スタンバイ『[[日本農業新聞]]』2020年12月1日(1面)</ref>。
[[出雲大社]]の爪剥祭では、生のヒョウタンを胴切にし、麻茎製の柄を付けたものをヒシャクとして、御神水を供える時に使用する伝統がある。これはヒョウタンに宿る霊力を用いるという意味を含むという<ref>『出雲大社教布教師養成講習会』(出雲大社教教務本庁発行、[[平成]]元年(1989年)9月)全427頁中319頁</ref>。
=== 風水 ===
[[File:2015-03-20 Wuhua District, Yunnan, Kunming 光華街(雲南省昆明市五華区, 中国) DSCF3570.jpg|thumb|240px|right|[[中華人民共和国]][[雲南省]][[昆明市]]五華区光華街の土産物店に並ぶ縁起物のヒョウタン]]
[[風水]]では、ヒョウタンには[[邪気]]を払う力が宿るとされ、また[[中国語]]の「葫芦」(ヒョウタン)は「語録」「福禄」と同じ発音の「フールー」であるため古代より[[幸運]]を招く[[お守り]]として[[玄関]]に掛けたり、携帯することで邪霊を払うといわれ、[[縁起物]]として土産物店でよく見かける。[[中国]]の伝説には、ヒョウタンを携える人物がしばしば登場する。[[道教]]の八仙人の一人、[[李鉄拐]]も金のヒョウタンを常に肩から下げていたとされる。[[済公]]和尚、[[魯智深]]なども常にヒョウタンを携行していた<ref>{{Cite web|url=https://ja.shenyunperformingarts.org/explore/view/article/e/5T2y4NZuTpg/%E7%93%A2%E7%AE%AA.html|title=神韻芸術団 神韻百科 - 瓢箪|accessdate=2020-6-1}}</ref>。
=== 航海術 ===
[[ポリネシア人]]が航海をする際に用いたとされ「魔法のヒョウタン」と呼ばれた<ref>{{Cite book|和書 |last= |first= |author=茂在寅男 |authorlink=茂在寅男 |year=1979 |title=古代日本の航海術 |publisher=[[小学館]] |series=小学館創造選書 (25)}}</ref>。
=== 装身具 ===
ニューギニア島の先住民が股間に着用する[[コテカ]]に加工される。
=== 加工方法 ===
ヒョウタンは水筒、酒器、調味料入れなどの容器に加工されることが多い。加工には、まず、完熟したヒョウタンの実を収穫し、ヘタの部分に穴を開ける。そこから棒を突き入れ、果肉をある程度突き崩す。その状態で重石を載せ、水中に漬け込む。
1週間から1か月ほど経ってから、表皮を剥がし、腐って水状になった果肉と種子を逆さまに持って強く振り、全て掻き出して綺麗に洗う。その後に水を取り替え、再度、1週間ほど漬けて腐敗臭を抜いてから陰干しする。乾燥したヒョウタンは、表面に[[柿渋]]や[[弁柄|ベンガラ]]、[[漆]]、[[ニス]]などを塗って仕上げる。水筒や食器など、飲食関係の容器に用いる場合は、酒や[[番茶]]を内部に満たして臭みを抜く。
なお果肉の腐敗臭はかなり強烈なので、屋内や住宅密集地での作業は控え、手にはゴム手袋をするのが望ましい。手に臭いが移った場合、[[石鹸]]で洗っても臭いは容易に落ちないため、手に[[灯油]]や[[溶媒|有機溶剤]]を塗ってから石鹸で洗うと臭いがよく落ちる(ただし皮膚に灯油や有機溶剤が付着することは有害なので、あくまでも緊急時の対処とするのが望ましい)。臭気を抜く方法に、[[塩素]]系(キッチンハイター)などの溶液に漬け込むことも有効である。
現在は[[酵素]]を利用して果肉を分解する加工液も市販されており、これを利用すると腐敗による加工よりもはるかに早く、腐敗臭もなく加工できる<ref>{{Cite web |title=バイオひょうたんごっこ® |url=http://sakata-netshop.com/about/campaign/hyoutangokko/ |accessdate=2017-02-16 |work= |publisher=[[サカタのタネ]]}}</ref>。
== 毒性 ==
観賞用のヒョウタンの中には[[ククルビタシン]]という苦味成分のある植物毒を含有しているものがあり、嘔吐と下痢を伴う重篤な胃および腸不全を引き起こし、稀に死亡することもあるため、注意が必要である。
;中毒事例
*[[茨木市立彩都西小学校]]において、事前にヒョウタンの植物毒を認知していた校長から制止されたにもかかわらず、これを無視した教諭が児童28人にヒョウタンを食べさせ、17人が中毒症状を起こした。当該教諭は懲戒免職になった<ref>『[[読売新聞]]』2013年11月15日</ref>。
*「グリーンプラザ山長」([[奈良県]][[生駒市]])が、生産した苗に誤って「育てて楽しい、食べておいしいシリーズ」のラベルを付けて出荷し、[[ロイヤルホームセンター]](本社・[[大阪市]])で販売された。このうち、押熊店([[奈良市]]押熊町)の購入者から苗を受け取った知人の40歳代女性が実を食べ、腹痛や吐き気などの症状を訴えて2日間入院したが命に別状はなかった<ref>『朝日新聞』2014年7月13日</ref>。
*[[兵庫県]][[丹波篠山市|篠山市]]の男性が、自宅の庭で栽培したヒョウタンを素揚げにして友人と食べ、嘔吐や下痢の症状が出て救急車で搬送された<ref>[[神戸新聞]]NEXT(2016年8月2日配信)</ref>。
== 意匠 ==
瓢箪は、「三つで三拍(三瓢)子揃って縁起が良い、六つで無病(六瓢)息災」などといわれ、縁起物として掛け軸や器、染め物などの[[デザイン|意匠]]にも見られる。そのため、[[豊臣秀吉]]の「千成瓢箪」に代表されるように、多くの武将が[[馬印|旗印]]や[[馬印]]などの意匠として用いた。[[大阪府]]の府章は、この豊臣氏の千成瓢箪をイメージしたものである<ref name=osaka>[https://www.pref.osaka.lg.jp/koho/foreign/symbol.html 大阪のシンボル] 大阪府ホームページ</ref>。
== ヒョウタンにちなむ名前 ==
真ん中でくびれている、ひょうたんの独特の形(ヒョウタン型)から、それに[[エポニム|ちなんだ名]]を持つ生物や地形がある。
;植物
真ん中がくびれた実をつける。
* [[ヒョウタンカズラ]]
* [[ヒョウタンボク]]
;魚
* コロダイ(胡盧鯛) - [[イサキ科]]の[[海水魚]](学名 ''Plectorhynchus pictus''<ref>{{Cite web |date=2016-5-4 |url=http://ejje.weblio.jp/cat/nature/ndbmj |title=動物名辞典 |publisher=[[日外アソシエーツ]] |accessdate=2016-05-04}}</ref>。
;人名
* [[朴 (姓)|朴]] - [[朝鮮民族]]の[[姓]]。伝説では朴氏の祖先である[[赫居世居西干]]がひょうたん形の[[卵]]から生まれたことから、[[朝鮮語]]でひょうたんを意味する[[固有語]]の「박」と名付けられたという。
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書 |author=湯浅浩史 |authorlink=湯浅浩史 |title=ヒョウタン文化誌 |date=2015-9-18 |publisher=[[岩波書店]] |series=[[岩波新書]](新赤版)1564 |isbn=978-4-00-431564-3}}
* {{Cite book|和書 |editor=古文化財編集委員会 |year=1984 |title=古文化財の自然科学的研究 |publisher=[[同朋舎]] |page=652 |isbn=978-4810404104}}
== 関連項目 ==
* [[大井町]] - [[1970年]]に[[上大井駅]]で[[緑化|日よけにひょうたん棚を設け]]話題になったことから、ひょうたんの町として祭りなどを開催している。
* [[金角・銀角]] - 『[[西遊記]]』の登場人物。呼び掛けに答えた相手を吸い込んでしまう魔法の瓢箪(紫金紅葫蘆と琥珀浄瓶)を用いて[[三蔵法師]]一行を苦しめる場面がある。
== 参照 ==
{{DEFAULTSORT:ひようたん}}
[[Category:ヒョウタン|*]]
[[Category:中国神話]]
[[Category:朝鮮神話]]
[[Category:日本神話]]