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[[ファイル:Typhon Staatliche Antikensammlungen 596.jpeg|thumb|500px420px|ヒュドリアに描かれた有翼型のテューポーン/紀元前540年頃~紀元前530年頃のカルキディア黒絵式壺絵。ドイツはミュンヘンの州立古代美術博物館(Staatliche Antikensammlungen)所蔵。]][[ファイル:Zeus Typhon Staatliche Antikensammlungen 596Zeus_Typhon_Staatliche_Antikensammlungen_596.jpgjpeg|thumb|280px420px|上のヒュドリアを少し角度を変えて見る。最高神[[ゼウス]](左)が怪物テューポーンに対峙しており、雷霆の一撃を加えようと右腕を振りかざしている。上のヒュドリアを少し角度を変えて見る。最高神ゼウス(左)が怪物テューポーンに対峙しており、雷霆の一撃を加えようと右腕を振りかざしている。]][[ファイル:Typhon Foot Element, about 500-480 BC, Etruscan, bronze - Cleveland Museum of Art - DSC08246.JPGjpeg|thumb|220px350px|[[エトルリア]]出土のテューポーンの[[ブロンズ像]]/[[紀元前500年]]頃~[[紀元前480年]]頃の作。[[クリーブランド美術館]]所蔵。エトルリア出土のテューポーンのブロンズ像/紀元前500年頃~紀元前480年頃の作。クリーブランド美術館所蔵。]][[ファイル:Wenceslas Hollar - The Greek gods. Tryphon.jpg|thumb|220px|{{仮リンク|ヴェンツェスラウス・ホラー|en|Wenceslaus Hollar}} "''Typhon'テューポーン'''('''Τυφών''', Tȳphōn, Typhon)、'''テューポース'''('''Τυφώς''', Tȳphōs, Typhos)、あるいは'''テュポーエウス'''('''Τυφωεύς'''" /17世紀のヨーロッパ人がイメージしたテューポーン。従えているのは[[ハルピュイア]]。]], Typhōeus, Typhoeus)は、ギリシア神話に登場する、神とも怪物ともいわれる巨人。同神話体系における最大最強の怪物で、神々の王ゼウスに比肩するほどの実力をもち、そのゼウスを破った唯一の存在でもある。
'''テューポーン'''({{small|[[古代ギリシア語]]:}}{{lang|grc|'''Τυφών'''}}〈{{small|[[ラテン文字|ラテン]][[翻字]]:}}{{lang|el|Tȳphōn}}, {{small|[[ラテン語]]:}}{{Lang|la|Typhon}}〉{{small|※以下同様}})、'''テューポース'''({{lang|grc|'''Τυφώς'''}}〈{{lang|el|Tȳphōs}}, {{Lang|la|Typhos}}〉)、あるいは'''テュポーエウス'''({{lang|grc|'''Τυφωεύς'''}}〈{{lang|el|Typhōeus}}, {{Lang|la|Typhoeus}}〉)は、[[ギリシア神話]]に登場する、[[神]]とも[[怪物]]ともいわれる[[巨人 (伝説の生物)|巨人]]。同神話体系における最大最強の怪物で、神々の王[[ゼウス]]に比肩するほどの実力をもち、そのゼウスを破った唯一の存在でもある。 [[日本語]]では、[[長母音]]を省略して「日本語では、長母音を省略して「'''テュポン'''」「'''テュポーン'''」「'''テュポエウス'''」「'''テュフォン'''」「'''ティフォン'''(※[[現代ギリシャ語]]ではこの読み方が最も近い)」などとも表記される。(※現代ギリシャ語ではこの読み方が最も近い)」などとも表記される。
== 出自 ==
出自に関してはさまざまな異伝があるが、最も有名なのは[[地母神|大地母神]][[ガイア]]と[[タルタロス]]との間の子で、ゼウスに対するガイアの怒りから生まれたとするものである出自に関してはさまざまな異伝があるが、最も有名なのは大地母神ガイアとタルタロスとの間の子で、ゼウスに対するガイアの怒りから生まれたとするものである<ref>ヘーシオドス、820行-822行。</ref>{{Sfnp|<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第1巻 6・3}}。一説ではガイアに[[ゼウス]]の暴虐を訴えられた[[ヘーラー]]が、彼を懲らしめるために[[クロノス]]からもらった卵から生まれたとする説や</ref>。一説ではガイアにゼウスの暴虐を訴えられたヘーラーが、彼を懲らしめるためにクロノスからもらった卵から生まれたとする説や<ref>『イーリアス』2巻への古註(沓掛訳注『ホメーロスの諸神讃歌』p. 186)。</ref>、ヘーラーが1人で生んだという説もある<ref>[[ステーシコロス]]断片(『大語源書』による引用。沓掛訳注『ホメーロスの諸神讃歌』 ステーシコロス断片(『大語源書』による引用。沓掛訳注『ホメーロスの諸神讃歌』 p, 186)</ref><ref>『ホメーロス風讃歌』「アポローン讃歌」306行-352行。</ref>。後者の説では[[ピュートーン]]がヘーラーから受け取って養育したという話である。後者の説ではピュートーンがヘーラーから受け取って養育したという話である<ref>『ホメーロス風讃歌』「アポローン讃歌」304行-305行。</ref><ref>『ホメーロス風讃歌』「アポローン讃歌」353行-355行。</ref>。
== 姿形 ==
巨体は星々と頭が摩するほどで、その腕は伸ばせば世界の東西の涯にも達した。腿から上は人間と同じであるが、腿から下は巨大な毒蛇がとぐろを巻いた形をしているという{{Sfnp|<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第1巻 6・3}}</ref>。底知れぬ力を持ち、その脚は決して疲れることがない<ref>ヘーシオドス、823行-834行。</ref>。肩からは百の[[蛇]]の頭が生え。'''肩からは百の蛇の頭が生え'''<ref>ヘーシオドス、825行。</ref>{{Sfnp|<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=第1巻 , loc第1巻 6・3}}</ref>、火のように輝く目を持ち、炎を吐いた<ref>ヘーシオドス、827行-828行。</ref>{{Sfnp|<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第1巻 6・3}}</ref>。またあらゆる種類の声を発することができ、声を発するたびに山々が鳴動したという<ref>ヘーシオドス、829行-835行。</ref>。古代の壷絵では[[鳥]]の翼を持った姿が描かれている。。古代の壷絵では鳥の翼を持った姿が描かれている。
== 怪物の父 ==
テューポーンは不死の怪女[[エキドナ]]を妻とし、数多くの怪物の父親になった。[[ヘーシオドス]]の『[[神統記]]』によればテューポーンの子供は[[オルトロス]]、[[ケルベロス]]、[[ヒュドラー]]、[[キマイラ]]だが、のちに多くの怪物がテューポーンとエキドナの子供とされた。[[アポロドーロス]]では[[ネメアーの獅子]]{{Sfnp|テューポーンは不死の怪女エキドナを妻とし、数多くの怪物の父親になった。ヘーシオドスの『神統記』によればテューポーンの子供はオルトロス、ケルベロス、ヒュドラー、キマイラだが、のちに多くの怪物がテューポーンとエキドナの子供とされた。アポロドーロスではネメアーの獅子<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第2巻 5・1}}、不死の百頭竜([[ラードーン]]){{Sfnp|</ref>、不死の百頭竜(ラードーン)<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第2巻 5・11}}、[[プロメーテウス]]の肝臓を喰らう不死の[[ワシ]]{{Sfnp|</ref>、プロメーテウスの肝臓を喰らう不死のワシ<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第2巻 5・11}}、[[スフィンクス|スピンクス]]{{Sfnp|</ref>、スピンクス<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第3巻 5・8}}、[[パイア]]{{Sfnp|</ref>、パイア<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 摘要 (E) 1・2}}、[[ヒュギーヌス]]においてはさらに[[ゴルゴーン]]や[[金羊毛]]の守護竜、[[スキュラ]]をもテューポーンの子供に加えている{{Sfnp|</ref>、ヒュギーヌスにおいてはさらにゴルゴーンや金羊毛の守護竜、スキュラをもテューポーンの子供に加えている<ref>ヒュギーヌス・松田ら|, 2005|loc=, 第151話}}</ref>。テューポーンはまた、多くの荒々しい風を生んだともいわれる<ref>ヘーシオドス、869行。</ref>。
== ゼウスとの死闘 ==
[[ファイル:Jebel Aqra (Kel Dağı, Mount Casius), 2008.jpg|thumb|200px|[[トルコ]]から見た{{仮リンク|カシオス山|en|Jebel Aqra}}。ゼウスとテューポーンが戦った舞台の一つと伝えられている。]][[ファイル:Corykian Cave, exterior aspect showing cave opening and mountain slope.JPG|thumb|200px|ゼウスが幽閉されたとされる[[デルポイ]]の{{仮リンク|コーリュキオン洞窟|en|Corycian Cave}}。]][[ファイル:Haemus.jpg|thumb|200px|ハイモス山(バルカン山脈)]][[ファイル:Valle del Bove (1999552567).jpg|thumb|200px|火を噴く[[エトナ山]]]]ゼウスら[[オリュンポス]]の神々は、[[ティーターノマキアー]]と[[ギガントマキアー]]に連勝し、思い上がり始めていた。ガイアにとっては[[ティーターン]]たちも[[ギガース]]たちも、わが子である。それゆえ、これを打ち負かしたゼウスに対して激しく怒りを覚えたガイアは、末子のテューポーンを産み落とした。テューポーンはやがてオリュンポスに戦いを挑んだ。ゼウスらオリュンポスの神々は、ティーターノマキアーとギガントマキアーに連勝し、思い上がり始めていた。ガイアにとってはティーターンたちもギガースたちも、わが子である。それゆえ、これを打ち負かしたゼウスに対して激しく怒りを覚えたガイアは、末子のテューポーンを産み落とした。テューポーンはやがてオリュンポスに戦いを挑んだ。
=== ヘーシオドス(神統記) ===
ヘーシオドスはテューポーンとゼウスの戦いの激しさを詳しく描いている。テューポーンの進撃に対し、ゼウスが[[雷鳴]]を轟かせると、大地はおろか[[タルタロス]]まで鳴動し、足元の[[オリュムポス]]は揺れた。ゼウスの雷とテューポーンの火炎、両者が発する熱で大地は炎上し、天と海は煮えたぎった。さらに両者の戦いによって大地は激しく振動し、冥府を支配する[[ハーデース]]も、タルタロスに落とされたティーターンたちも恐怖したという。ヘーシオドスはテューポーンとゼウスの戦いの激しさを詳しく描いている。テューポーンの進撃に対し、ゼウスが雷鳴を轟かせると、大地はおろかタルタロスまで鳴動し、足元のオリュムポスは揺れた。ゼウスの雷とテューポーンの火炎、両者が発する熱で大地は炎上し、天と海は煮えたぎった。さらに両者の戦いによって大地は激しく振動し、冥府を支配するハーデースも、タルタロスに落とされたティーターンたちも恐怖したという。
しかしゼウスの雷霆の一撃がテューポーンの100の頭を焼き尽くすと、テューポーンはよろめいて大地に倒れ込み、身体は炎に包まれた。この炎の熱気は[[ヘーパイストス]]が熔かした鉄のように大地をことごとく熔解させ、そのままテューポーンをタルタロスへ放り込んだしかしゼウスの雷霆の一撃がテューポーンの100の頭を焼き尽くすと、テューポーンはよろめいて大地に倒れ込み、身体は炎に包まれた。この炎の熱気はヘーパイストスが熔かした鉄のように大地をことごとく熔解させ、そのままテューポーンをタルタロスへ放り込んだ<ref>ヘーシオドス、840行-868行。</ref>。
=== アポロドーロス(ビブリオテーケー) ===
対してアポロドーロスはテューポーンとゼウスの戦いの全貌を次のように語っている。テューポーンはオリュムポスに戦いを挑み、天空に向けて突進した。迫りくるテューポーンを見た神々は恐怖を感じ、動物に姿を変えて[[エジプト]]に逃げてしまったという{{Sfnp|対してアポロドーロスはテューポーンとゼウスの戦いの全貌を次のように語っている。テューポーンはオリュムポスに戦いを挑み、天空に向けて突進した。迫りくるテューポーンを見た神々は恐怖を感じ、動物に姿を変えてエジプトに逃げてしまったという<ref>アポロドーロス・高津|, 1953|loc=, 第1巻 6・3}}</ref>。それゆえ、エジプトの神々は動物の姿をしているともいわれる。
これに対し、ゼウスは雷霆や[[ダイヤモンド|金剛]]の鎌を用いて応戦した。ゼウスは離れた場所からは雷霆を投じてテューポーンを撃ち、接近すると金剛の鎌で切りつけた。激闘の末、[[シリア]]の{{仮リンク|カシオス山|en|Jebel Aqra}}へ追いつめられたテューポーンはそこで反撃に転じ、ゼウスを締め上げて金剛の鎌と雷霆を取り上げ、手足の腱を切り落としたうえ、[[デルポイ]]近くの[[コーリュキオン洞窟]]これに対し、ゼウスは雷霆や金剛の鎌を用いて応戦した。ゼウスは離れた場所からは雷霆を投じてテューポーンを撃ち、接近すると金剛の鎌で切りつけた。激闘の末、シリアのカシオス山(Jebel Aqra)へ追いつめられたテューポーンはそこで反撃に転じ、'''ゼウスを締め上げて金剛の鎌と雷霆を取り上げ、手足の腱を切り落としたうえ、デルポイ近くのコーリュキオン洞窟<ref group="注">コーリュキオン洞窟({{lang-grc-short|Κωρύκιον ἄντρον}}〈Kōrykion antron;コーリュキオン・アントロン〉、[[:en:Corycian Cave]])コーリュキオン洞窟((Κωρύκιον ἄντρον)〈Kōrykion antron;コーリュキオン・アントロン〉、Corycian Cave)</ref> に閉じ込めてしまう。そしてテューポーンはゼウスの腱を熊の皮に隠し、番人として半獣の竜女[[デルピュネー]]を置き、自分は傷の治療のために母ガイアの下へ向かった。に閉じ込めてしまう'''。そしてテューポーンはゼウスの腱を熊の皮に隠し、番人として半獣の竜女デルピュネーを置き、自分は傷の治療のために母ガイアの下へ向かった。
ゼウスが囚われたことを知った[[ヘルメース]]と[[パーン]]はゼウスの救出に向かい、デルピュネーを騙して手足の腱を盗み出し、ゼウスを治療した。力を取り戻したゼウスは再びテューポーンと壮絶な戦いを繰り広げ、深手を負わせて追い詰める。テューポーンはゼウスに勝つために運命の女神[[モイラ (ギリシア神話)|モイラ]]たちを脅し、どんな願いも叶うという「勝利の果実」を手に入れたが、その実を食べた途端、テューポーンは力を失ってしまった。実は女神たちがテューポーンに与えたのは、決して望みが叶うことはないという「無常の果実」であった。ゼウスが囚われたことを知ったヘルメースとパーンはゼウスの救出に向かい、デルピュネーを騙して手足の腱を盗み出し、ゼウスを治療した。力を取り戻したゼウスは再びテューポーンと壮絶な戦いを繰り広げ、深手を負わせて追い詰める。テューポーンはゼウスに勝つために運命の女神モイラたちを脅し、どんな願いも叶うという「勝利の果実」を手に入れたが、その実を食べた途端、テューポーンは力を失ってしまった。実は女神たちがテューポーンに与えたのは、決して望みが叶うことはないという「無常の果実」であった。
敗走を続けたテューポーンは[[トラーキア]]で[[バルカン山脈|ハイモス山]](バルカン山脈)を持ち上げてゼウスに投げつけようとしたが、ゼウスは雷霆でハイモス山を撃ったので逆にテューポーンを押しつぶし、山にテューポーンの血がほとばしった。最後は[[シチリア|シケリア島]]まで追い詰められ、[[エトナ火山]]の下敷きにされた。以来、テューポーンがエトナ山の重圧を逃れようともがくたび、噴火が起こるという{{Sfnp|アポロドーロス・高津|1953|loc=第1巻 6・3}}。ゼウスはヘーパイストスにテューポーンの監視を命じ、ヘーパイストスはテューポーンの首に[[金床]]を置き、鍛冶の仕事をしているという{{Sfnp|アントーニーヌス・安村|2006|loc=第28話}}。ただし、シケリア島に封印されているのは[[エンケラドス]]とする説もある。
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
{{Reflist|<references group="注"}}/>
=== 出典 ===
{{Reflist|2|
[[Category:巨人]]
[[Category:ユミル系]]
[[Category:肩蛇系]]
[[Category:水性動物系]]
[[Category:蛇]]

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