「ヤマドリ」の版間の差分
(ページの作成:「'''ヤマドリ'''(山鳥<ref name="fn1">安部直哉 『山溪名前図鑑 野鳥の名前』、山と渓谷|山と溪谷社、2008年、330-331頁。ISBN 978-4-635-07…」) |
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ヤマドリ(山鳥[1]、Syrmaticus soemmerringii)は、鳥類|鳥綱キジ目キジ科ヤマドリ属に分類される鳥類。日本の固有種。名前は有名だが、野外で出会うのは少し困難な鳥でもある[2]。
形態
全長はオスで約125 cm [3]、翼長20.5 - 23.5 cm [4]。メスは約55 cm [1][5][4]、翼長19.2 - 22 cm [4]。体重はオス0.9 - 1.7 kg 、メスで0.7 - 1 kg [4]。尾はオスのほうがかなり長く、尾長はオスが41.5 - 95.2 cm、メスが16.4-20.5 cm[6]。尾羽の数は18 - 20枚[4]。オスの羽色は極彩色のキジと異なり、金属光沢のある赤褐色を呈す。およそ頭部の色が濃く胴体から脚にかけて薄くなる傾向があるが、その程度は亜種により様々である。よく目立つ鱗状の斑がある。目立つ冠羽はないが、興奮すると頭頂の羽毛が逆立ち冠状に見えることもある。顔面にキジ同様赤い皮膚の裸出部がある。尾は相対的にキジよりも長く、黒、白、褐色の鮮やかな模様がある。脚には蹴爪を持つ。メスの羽色は褐色でキジのメスに似るが、キジのメスより相対的に尾が短い。テンプレート:要出典
生態
和名の「ヤマドリ」は山地に生息することに由来する[1]。主に標高1,500メートル以下の山地にある森林や藪地に生息し、渓流の周辺にあるスギやヒノキからなる針葉樹林や下生えがシダ植物で繁茂した環境を好む[5]。冬季には群れを形成する[5][3]。
食性は植物食傾向の強い雑食で[7]、植物の葉、花、果実、種子、昆虫、クモ、甲殻類、陸棲の巻貝、ミミズなどを食べる[5][3][4]。
オスは鳴くことはまれだが、繁殖期になるとオスは翼を激しくはばたかせ、オートバイのエンジン音にも似た非常に大きな音を出す(ドラミング、ほろ打ち)ことで縄張り宣言をし、同時にメスの気を惹く [8]。 また、ドラミング(ほろ打ち)の多くは近づくものに対する威嚇であるともされる[2]。
木の根元などに窪みを掘り、木の葉や枯れ草、羽毛を敷いた直径20 cm 、深さ9 cm に達する巣に、4月から6月にかけて6 - 12個の卵を産む[5][4]。卵は長径4.8 cm (4.4 - 5.15 cm[6]) 、短径3.5 cm (3.3 - 3.65 cm[6]) で、殻は淡黄褐色[4]。メスのみが抱卵し、抱卵期間は24 - 25日[3]。
婚姻形態は一夫多妻であると推定されていたが、実際は一夫一妻であることが三重県津市の獣医師によって突き止められた[9]。
丸猶丸ほか(1968)によれば
48個体の飼育環境下での産卵数は 5 - 40個、産卵期間は、10 - 97日と個体差が大きかったとしている[10]。また、繁殖適齢期は、3 - 4歳。雌雛の発生は雄雛よりも多いと報告されている[10]。
分布と亜種
日本の固有種であり、本州、四国、九州に生息する[1][5][3][4]。生息する地域によって羽の色が若干異なり、後述の5亜種に分けられている。
羽色は温度や湿度によって決定し(寒冷地の個体は羽色が薄く暖地の個体は羽色が濃くなる)、同地域でも南北で変異が生じるとする報告例もある[4]。一方で尾羽の形態や腰の白色斑は遺伝的要因が影響していると考えられている[4]。なお、これらの亜種の分布域は明瞭でないため、検討が必要とされている[11]。
- 細く短い尾羽を持ち、全身の羽色は淡色[4]。
- ヤマドリ(山鳥) S. s. scintillans (Gould, 1866)
- 別名キタヤマドリ(北山鳥)。
- 本州(北緯35度20分以北および島根県北部、兵庫県北部より北)に分布する[11]。
- 細く短い尾羽を持ち、全身の羽色は淡色[4]。腰の羽毛は羽縁が白く、肩羽や翼の羽縁も白い[4]。
- 基亜種アカヤマドリに対して色彩が異なることから、1866年にアメリカのグールドにより別種として記された[2]。
- 本州(北緯35度20分より南の太平洋側、千葉県、静岡県、三重県、和歌山県、山口県)および愛媛県南部に分布するとされる[11]。
- 尾羽は細い個体も太い個体もおり、全身の羽色は赤みがかる[4]。腰に白色斑が入り、肩羽や翼の羽縁がわずかに白い[4]。
- 静岡県の採集標本から、黒田長禮により、1919年に別亜種として記された[2]。
- 兵庫県南部および中国地方(鳥取県、島根県南部、岡山県、広島県、山口県東部)と四国地方(香川県、徳島県、高知県)に分布するとされる[11]。
- 細長い尾羽を持ち、全身の羽色はやや濃色[4]。腰の羽毛は羽縁が白く、肩羽や翼の羽縁がやや白い[4]。
- 愛媛県の採集標本から、黒田長禮により1919年、別亜種として記された[2]。
- 九州北中部[4](福岡県、佐賀県、長崎県、大分県から、熊本県北部、宮崎県北部)に分布するとされる[11]。
- 太く長い尾羽を持ち、全身の羽色は濃色[4]。腰の羽毛に白色部がなく、肩羽や翼にも白色斑が入らない[4]。
- 基亜種。長崎に滞在したシーボルトの収集標本に対し、1830年、オランダのテミンクによってヤマドリとして初めて記された[2]。
- 九州中南部(熊本県南部、宮崎県南部、鹿児島県)に分布するとされる[11][a 1]。準絶滅危惧種[a 1]。
- 太く長い尾羽を持ち、全身の羽色は濃色[4]。腰の羽衣が白く、肩羽や翼に白色斑が入らない[4]。
- 東京帝国大学教授であった飯島魁の送った標本から、1902年にイギリスのドレッサーによって、飯島の名を種小名として記された[2]。
交雑
野生状態でキジとの交雑が生じる[12]が、交雑個体に対し科学的な分析を行った文献記録は少なく[13]繁殖力の有無等は明かでは無い。
人間との関係
種小名 soemmerringii は、ドイツの解剖学者、ゼンメリング (Sömmerring) への献名である[1]。
ヤマドリは雌雄が峰を隔てて寝るという伝承があり、古典文学では「ひとり寝」の例えとして用いられた[14]。またオスのヤマドリは尾羽が長い事から、「山鳥の尾」は古くは長いものを表す語として用いられており[1]、百人一首には柿本人麻呂の作として「あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む」が取られている。この歌では「山鳥の尾のしだり尾の」までが「ながながし」を導く序詞である。
ヤマドリに関する俗信としては、年老いて尾が十三節になったヤマドリは人を騙したり、また夜に人魂のように光るなどの言い伝えがあり[15][16]、長野県に伝わる「八面大王」という鬼を坂上田村麻呂が退治する物語では、「三十三節あるヤマドリの尾羽で矧いだ矢で無ければ鬼を退治出来ない」という描写がある[17]。
狩猟と保護
キジと共に狩猟対象とされている。日本では鳥獣保護法における狩猟鳥獣であるが、環境省令により2022年(令和4年)9月14日までメスヤマドリの捕獲が禁止されている[18]。
人工授精[19]による養殖技術が確立され[20]、野生個体の増加を目論んだ幼鳥や成鳥の放鳥が各地の民間団体や[20]自治体[21]により行われている[22]。放鳥に用いるのは人工授精により養殖育成した個体[23]であるが、放鳥後の寿命は10日程度と短かいと報告されている[24]、主な消耗原因として「天敵食害」[25]「衰弱死」「溺死」「射殺(狩猟)」「交通事故」があげられている[22]。
脚注
注釈
関連項目
テンプレート:Commons テンプレート:Wikispecies
外部リンク
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