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== 私的考察 ==
 
== 私的考察 ==
アメタは狩人(戦士)であり、男性原理と思われるバナナの化身でもある。ヴェマーレ族全体がバナナの子孫といえるので、おそらく「九家族」とは男系の氏族と推察される。アメタはギリシア神話のアガメムノーンと同系統の神戸考える。ギリシア神話ではアガメムノーンが自ら娘を人身御供に捧げるが、ハイヌウェレ神話ではアメタの知らないところで娘が不特定多数の人々に殺されたこととされている。ただし、現代的な観点から見れば、アメタは村人が参加する祭りに参加していないわけで、保護者としての役割を放棄し、消極的ではあるが娘の死を招いた一因でもあるといえるのではないだろうか。
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アメタは狩人(戦士)であり、男性原理と思われるバナナの化身でもある。ヴェマーレ族全体がバナナの子孫といえるので、おそらく「九家族」とは男系の氏族と推察される。アメタはギリシア神話のアガメムノーンと同系統の神と考える。ギリシア神話ではアガメムノーンが自ら娘を人身御供に捧げるが、ハイヌウェレ神話ではアメタの知らないところで娘が不特定多数の人々に殺されたこととされている。ただし、現代的な観点から見れば、アメタは村人が参加する祭りに参加していないわけで、保護者としての役割を放棄し、消極的ではあるが娘の死を招いた一因でもあるといえるのではないだろうか。
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ギリシア神話のアガメムンーンは「非情な王」とされるだけだが、アメタには娘の死体をサトイモに変化させる、といった魔術師的な性質がある。苗族の始祖とされる[[チャンヤン]]は肉片から人を作るなど、魔術師的な性質を有しており、アメタとチャンヤンには「化生」を可能ならしめるという魔術師的性質が共通している。ギリシア神話は成立が比較的新しく、文芸的であるのでアガメムンーンは「王」としての性質のみが強調されるが、階級制発生の当初期、王(戦士)と祭祀者の区別が曖昧だった時代には、この「王」に相当する神は、戦士であり、魔術師(祭祀者)でもある、という性質を持っていたのだろう。アガメムノーンは時代の変遷による階級制の確立と共に「王」として強調されるようになっていったものだが、アメタやチャンヤンには古い時代の魔術師的な祭祀者の性質が強く残されたといえる。
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チャンヤン神話は、チャンヤンとニャンニの結婚後、九つの山から人類(おそらく9種類の人類)が発生したとされているが、ハイヌウェレ神話ではハイヌウェレの死後、九家族が発生したとされており、9という数字が共通している。
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* [[ハイヌウェレ]]
  
 
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2025年9月8日 (月) 14:16時点における最新版

インドネシアのウェマーレ族の神話に登場する半神半人といえる男性である。狩人であり、「夜」の象徴であり、ハイヌウェレ女神の養父である。

ハイヌウェレ神話[編集]

インドネシア東部のセラム島西部のヴェマーレ族(Wemale people)に次のような農耕起源神話(殺された女神の神話)が伝わる(なお、細部の異なる異伝もいくつか存在する)[1]

九家族(バナナから発祥した最初の人類)は、ヌヌサク山を下りて部族移動をはじめ、森の中の神聖な踊りの広場、タメネ・シワ(Tamene Siwa.)のある場所に来ていた。そのなかにアメタ(「黒、夜」等の意)という独身の男がいた。アメタはを連れて狩りに出かけた。犬はイノシシを池のところまで追い詰め、イノシシは池に飛び込んで溺れ死んだ。アメタがイノシシの死体を引き上げると、牙からココヤシの実が見つかった(そのとき世界にはまだココヤシの木は存在しなかった)[2]。アメタはサロン・パトラ(蛇模様の布)(Sarong patola.)で覆って実を持ち帰ったが、夢に謎の男が現れ、その実を植えよとのお告げにしたがうと、3日で木に成長し、さらに3日後に開花した。アメタはヤシ酒を作ろうと木登りしたが、花を切ろうとして指を傷つけてしまい、血が花にほとばしった。すると花と血が人間のかたちとなり、9日後には少女に育っていた。その彼女をハイヌウェレ(ハイヌヴェレ、「ココヤシの枝」の意)と名づけ、蛇柄のサロン布に包んで持ち帰った。彼女には、いろいろな高価な品物を大便として排泄するという、不思議な能力が備わっていたので、アメタは富豪となった[3][4][5]

神聖なるタメネ・シワの広場では、9夜連続のマロ踊り(Maro.)が開催された。踊り手は男性で、マロ踊りでは螺旋状をえがきながら踊るのだが、中央には女性たちが控えていて、清涼剤である「ベテルの実とシリーの葉」すなわちビンロウジとキンマの葉を配って渡す。ところがハイヌウェレは第二夜にはビンロウジのかわりにサンゴを渡し、第三夜に中国製磁器、第四夜により豪華な磁器、第五夜に大きな山刀[6]、第六夜に銅製のシリー入れ、第六夜に銅鑼、とだんだんを高価な品を配った。しかし人々はこれを気味悪がり、嫉妬心も働いて謀殺することに決め、第九夜の踊りの最中に彼女を生き埋めにし、踊りながらして穴を踏み鳴らし、悲鳴があがるのを歌声でかき消し、殺してしまった[3][7][8]

アメタは娘が帰らないことをいぶかり、占いを行って彼女が舞踏会で殺されたと知った。ココ椰子の葉肋を持って砂に突きさして回り、彼女が埋められる場所を突き止めた。そして彼女の両腕をのこし、それ以外の部分を細切れに刻んで広場のまわりの土地に埋めたが、それらのバ歩から世界に存在していなかったイモ類(ヤム芋やタロイモ)が生じ、その後の人類の主食となった[3][9][10]

アメタは娘の両腕を抱えて、劫初より人類を支配してきたムルア・サテネという女性を訪れて[11]訴えた。彼女は憤慨して人間界にいることをやめると宣言し、踊りのように九重の螺旋からなる門を築きあげて、すべての人間にそこを通るように命じて選別を始めた。命に従わないものは人間以外の者にされると忠告され、動物や精霊になってしまった。門をくぐる者たちも、大木に座るサテネの脇を抜けようとするが、すれ違いざまにハイヌウェレの片腕で殴られた。大木の左側に抜けようとしたものは五本の木の幹(あるいは竹)を飛び越さなくてはならず「パタリマ」(五つの人たち)(Patalima .)となり、右側に抜けようとしたものは九本を飛び越して「パタシワ」(九つの人たち)(Patasiwa .)となった。セラム島のウェマーレ族やアルーネ族(Alune people)は、「九つの人たち」に数えられる[3][12][13]

これは寿命の罰が与えられたと解釈されており、すなわち、それまで世界は人間にとって死の無い楽園だったのに、ハイヌウェレ殺害後は、人類は定まった寿命を授かり、死後に門を通り、死の女神サテネに謁見しなくてはならなくなったと説明される[14]

私的考察[編集]

アメタは狩人(戦士)であり、男性原理と思われるバナナの化身でもある。ヴェマーレ族全体がバナナの子孫といえるので、おそらく「九家族」とは男系の氏族と推察される。アメタはギリシア神話のアガメムノーンと同系統の神と考える。ギリシア神話ではアガメムノーンが自ら娘を人身御供に捧げるが、ハイヌウェレ神話ではアメタの知らないところで娘が不特定多数の人々に殺されたこととされている。ただし、現代的な観点から見れば、アメタは村人が参加する祭りに参加していないわけで、保護者としての役割を放棄し、消極的ではあるが娘の死を招いた一因でもあるといえるのではないだろうか。

ギリシア神話のアガメムンーンは「非情な王」とされるだけだが、アメタには娘の死体をサトイモに変化させる、といった魔術師的な性質がある。苗族の始祖とされるチャンヤンは肉片から人を作るなど、魔術師的な性質を有しており、アメタとチャンヤンには「化生」を可能ならしめるという魔術師的性質が共通している。ギリシア神話は成立が比較的新しく、文芸的であるのでアガメムンーンは「王」としての性質のみが強調されるが、階級制発生の当初期、王(戦士)と祭祀者の区別が曖昧だった時代には、この「王」に相当する神は、戦士であり、魔術師(祭祀者)でもある、という性質を持っていたのだろう。アガメムノーンは時代の変遷による階級制の確立と共に「王」として強調されるようになっていったものだが、アメタやチャンヤンには古い時代の魔術師的な祭祀者の性質が強く残されたといえる。

チャンヤン神話は、チャンヤンとニャンニの結婚後、九つの山から人類(おそらく9種類の人類)が発生したとされているが、ハイヌウェレ神話ではハイヌウェレの死後、九家族が発生したとされており、9という数字が共通している。

関連項目[編集]

参照[編集]

  1. 大林, 19791, pp133–141; イェンゼン, 1977, pp54–59を引用。
  2. アメタとは高野山の高野御子の姿に類似しているように思う。単なる狩人ではなく、神の意をうけて人々に主食となる作物をもたらす媒介のような役割を果たしている。(管理人)
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 和書, 西村 , 朝日太郎 , 西村朝日太郎 , 第九章第七節 デマ神の神話学的背景 , 人類学的文化像 : 貫削木と聖庇の基礎的研究 , 吉川弘文館 , 1960 , https://books.google.com/books?hl=ja&id=m_5BAQAAIAAJ&q=ハイヌウェレ , pages400–402
  4. 吉田, 1986, pp37–39; 吉田, 1992, pp141–143
  5. 大林, 1979, pp133–135
  6. イェンゼンのドイツ語原文では単に"große Buschmesser"だが((Jensen, 1978, p455)、目次を見れば他所でparangという刀が出ており、Buschmesserである。
  7. 吉田, 1986, pp39–40; 吉田, 1992, pp143–144
  8. 大林, 1979, pp135–137
  9. 大林, 1979, p137
  10. 吉田, 1992, p146。 肺腑からアインテ・ラトゥ・パイテ(紫色ヤム芋); 乳房:アインテ・ババウ; 両目:アインテ・マ(生りはじめの形が目に似る); 恥部:"明るい紫色でとてもよい匂いがして美味しい、アインテ・モニという種類"; 尻:アインテ・カ・オク("外皮がかさかさ"); 両耳:アインテ・レイリエラ; 両足:アインテ・ヤサネ; 太股:アインテ・ワブブア(大型種); 頭:ウク・ヨイヨネ(タロ芋の一種)。
  11. mulua Satene、未熟バナナより発生したといわれる。
  12. 大林, 1979, pp138–140
  13. 吉田, 1992, pp160–161
  14. Antoni Klaus , Death and Transformation : The Presentation of Death in East and Southeast Asia , Asian folklore studies , volume41 , issue2 , year1982 , https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10208691_po_1172.pdf , page154 , doi:10.2307/534874 , jstor:534874, Jensen, Adolf Ellegard. Die getötete Gottheit; Weltbild einer frühen Kultur, 1966, p. 134 より(英訳で)抜粋。